ままならない(1)
苦肉の分割投稿………続きは明日に出します。
レベル4モンスターは危険な存在である。それはOliverが口酸っぱく発信し、特に育成する表象モンスター、弱点、討伐者には徹底的に教え込む認識だ。
しかし、市民の認識はどうなのかと言えば、実際の所そこまで危ない印象を持ってはいない。何故ならモンスターは、こちら側から機嫌を損ねるような余計な事をしなければ、基本的にこちらに危害を加えてくる事は無いからだ。
だから、レベル4モンスターが近くに発生したとしても、関知せず日常に徹する者というのは決して少なくない。
故に今、目にしている光景はそれなりに希少なものなのである。客も、店員も、人っ子一人いない、ガラガラのハンバーガーショップ。ましてや、そこを表象モンスター3人が独占しているこの状況はそう見れるものじゃないだろう。
そんな表象モンスターの1人、ぬらりひょんが肩を落としながら語り出す。
「……………なぁ雲外鏡。画蛇添足、という四字熟語を知っているかい ? 蛇足の超素敵な言い換えだ。カッコいいなぁ…………我輩は今、まさにその画蛇添足をしみじみと感じている。……………我輩の特性オリジナルバーガー───バンズ、パティ、ナゲット、エッグ、エッグ、パティ、ナゲット、トマト、ピクルス、ピクルス ! ピクルス !! マフィン───こんなにも愛おしい一品なのに……………微妙っ………… ! 」
「黙れうるさい」
生憎、雲外鏡は今気が立っている。ぬらりひょんのクソみたいなおふざけに乗っかる優しさはなかった。
「このフライドポテトもしなしなで塩気も足らんくて美味ないわぁ…………作んならマニュアル目ぇ通しとけゆーたやん。ぬらくん」
「な、何っ !? ───くっ、芋を揚げるという行為を甘く見ていた ! 認識を改める必要がある、フライドポテトを美味しく作れる者は愛おしいッッ !! 」
呆れた様子でフライドポテトを咥える一反木綿は、うなだれるぬらりひょんに追い打ちのように苦言を呈する。
手に取ったフライドポテトを喉に突っ込むように処理した一反木綿は、油で汚れた指先を、寝転ぶ布団のシーツで拭き取った。
「──はっ、だっらしなっ ! ただでさえ、常にパジャマで布団に寝っ転がるような怠惰で愚にもつかない生き方してるってのに、清潔感を装おうともしないんだね
本当に見下げちゃうよ…………頭大丈夫なの ? 」
腹の虫が収まらない雲外鏡にとって、怠惰という人として最も愚かしいの罪を守る為に化けた、一反木綿という女の振る舞いは、怒りのぶつけどころとして最適だった。
「やめたまえよ雲外鏡 ! 良いところばかりが人の魅力じゃない───弱さこそ、何よりも愛してあげなくちゃいけない人の美徳なんだ………… ! 」
「ぬらくん干渉したらアカン。こういうクズには無視が一番効くんやで ? 」
雲外鏡の無意味な罵倒をぬらりひょんは咎める。がしかし、当の本人は雲外鏡という男の底の浅さを理解していた。取り合う価値のない奴だと分かっているのだ。
そして、そんな彼の本質は、眉に引かれて細まった目つきによって実証される。更に雲外鏡は、その確証を付け足すかのように、またも意図的に人の心を踏んづけるような、皮肉めいた口調で話しだした。
「まぁ、君みたいなカスの方が存外生きやすいのかもね。見てよ、今日のおれのファッション。血と肉片で汚れるって分かってても、高い服を着こなす楽しみを断念できなかった。自分のこういう所、本当に嫌になるよね…………自分の短所を全く自覚できない、そんな君の頭が羨ましいよ」
雲外鏡が手を広げて注目を要求したのは、大量の血で汚れた自らのジャケットであった。クドクドとした半笑いの語り口は、表情を変えないという意思ごと一反木綿の顔つきを歪ませる。
「……………で、ぬらくん。TOP5 ? はどんなもん ? 」
雲外鏡の相手などしていられない。一反木綿は話題を変えて、ぬらりひょんにTOP5の実力の程を聞いてみる。ぬらりひょんは片目を閉じ、頬杖をつきながらしばらく押し黙り───
「中々どうして、強いね。当然ながら去年会った時よりも実力は伸びてる───実験を加味しても、レベル4モンスター程度じゃあとても底を拝見できないくらいに。………要望通り【玉藻の前】を出そう。2人の進言は正しいよ。ありがとう、愛している」
観察を終えたぬらりひょんは質問に答えつつ、この前雲外鏡と一反木綿にされた提案を受諾して愛の言葉を送った。
「…………………………」
「…………も〜そんなんええねんええねん!!」
一反木綿は少し顔を赤くし、間を言葉で埋める。そして何となく掛け布団を引っ張り、頭の上に乗せるようにかけた。
反対に雲外鏡の反応といえば静かなもの。言葉を返すことなくそっぽを向いて大きく息をつく。こうやって無反応でいれば、ぬらりひょんは勝手に照れてるとでも思ってくれる。内心で出している舌を覆い隠しつつ、自らの矜持を守るのに適した雲外鏡の処世術だ。
「クックック…………いやぁしかし、彼らは異質だなぁ……… ! ──んーこの言い方だと可愛らしくないな。……………そうだ、頑張ってる。彼らはとても頑張っているんだ ! 」
再度片目を閉じて、ぬらりひょんは楽しそうにTOP5の戦いを見物しだした。




