てこの原理。図解して証明
時は遡り、フリムホーツFCにて。
「ハッハッハ!!追いかけられるのも、たまになら悪くないかもなァ!!なンか策とかないかマミィ!!オレはねェ!!」
「あるわけないわよっ!!考えてる余裕がないわ!!」
「そっかァ……………どうすっかァ…………折角の楽しそうな狩りなんだが……………」
昼食に迷ってる時のようなテンションのウールネスだが、バカでかい弾丸が足元の床を砕いて散らしていくこの状況でそんなに余裕でいられるのはきっと彼の頭がおかしいからだ。
【銃殺のモンスター】の火力は目を見張るものがあるが、幸い肝心のエイムがガバガバ。銃口の向きに気を使っていれば、マミィとウールネスのフィジカルなら躱せる。
問題は、生き残ることが可能なだけで【銃殺のモンスター】、【ヒーローのモンスター】、【目潰しのモンスター】、ここで暴れるレベル4モンスター達を討伐する目処が立たないということ。
「ウールネス………………あなたの力はミリー抜きならどこまで出せるのよ」
「踏ん張って一瞬40%ってとこだなァ………………レベル4モンスターと殴り合うなら最低限50%ださねェとダメだ」
〝狼男〟の能力は強力無比の超パワーを誇るが、高出力で制御するには弱点、【猟銃】による負傷が不可欠。
今のウールネスが、一度50%以上の本能を発揮してしまえば、尻上がり的に出力が向上していき………………最終的には100%。理性を喪失しひたすらに血を追い求めるケダモノに変貌してしまう。
「つっても100%のオレは超〜バカになって動き見切りやすくなっから…………バンタンだったら多分勝てるハズだぜ?そんでオレが100%出すってことは|レベル4モンスター3体は死ぬってことだからな。したらバンタンも復帰すんだろ」
バンタンは現在【ヒーローのモンスター】の刃を飛ばすチョップと、【目潰しのモンスター】の刃物が生えた触角に怯えて遁走、戦闘を放棄している状態。
バンタンも戦闘を投げ出すのは本意じゃない。この2体がいなければ、きっと彼女は復調する。
ウールネスがした提案は、少なくともこの場のレベル4モンスター全てを制圧し、そしてその後始末まで済ませられる目算があることを意味している。…………しかし、それは3名の確実な犠牲……………場合によってはそれ以上の死者を黙認することでもある。
「………………冗談じゃないわ!!」
「!!」
その提案は、乗ってしまえばマミィの矜持を著しく傷つける事になる、彼女にとって許容できないものであった。
「あなた…………!この私に、私の友達が!!人を殺める事を容認させようっていうの!?重ねて言うけど冗談じゃないわよ!!」
「いや……………けどよォ…………」
ウールネスの懸念はマミィも理解している。それは適性年齢を過ぎた状態での、表象の獲得だ。
モンスターの力の根源であり、弱点と討伐者の要である化質は、歳を経るごとに知覚できなくなっていく。
故に優秀な戦闘員を育成するには、若いうちからの指導鞭撻が必需であり、最低限の戦力である2級討伐者になるのにも、15歳前後を迎える前に化質を知覚しなければいけないとされている。
現在活躍をしている青年中年の戦闘員も、例外なく幼少からの努力が足場になっており、彼らが現在も化質を知覚できているのは、研鑽を続け常に化質と触れ合っているからだ。
凡そ20代30代のこのモンスター達が表象を獲得したとしても、まともに能力を定着させる事もできず、殺処分請け合いだ。
そして何よりも、彼らの弱点に選ばれた人間の、人生がぐちゃぐちゃになってしまうのが大きな懸念点。
弱点は表象モンスターと同年代の人間である。これは弱点の選抜条件の一つであり、例外は数少ない。
年長の表象モンスターが化質をうまく使えないのと同様に、年長の弱点もまた化質を操るのは困難。そして、戦闘能力は表象モンスター以上に期待できない。
しかし、彼らは表象モンスターとは違い、弱点という枷は表象モンスターが討伐されれば自動的に外れる為…………用無しであっても死は免れるケースが多い。
しかし、モンスターと、化質の存在を知った人間は、思考の変化に伴い肉体の性質も変形する。
そして、一度弱点として生きた者の肉体の変化はより著しく、モンスターになる素質が、後天的に発現するケースが少なくない。
つまり、その者は生涯フリムホーツ州の虜となってしまい、弱点に目覚める前の生活は二度と手に入らなくなるのだ。
アラボネにクドいくらい言われてきた事だ。そのヤバさはよく理解している。
どうせ死ぬなら、せめて人の迷惑にならない死に方をさせてやろう。ウールネスの提案は、そういう考え方に基づく物だ。
いつ、【ぬらりひょん】が更なる一手を下してくるかも分からないのだ。最善にまっしぐらに向かう余裕もない。
「…………お前のそれは〝独善〟なんじゃねェの…………?気持ちはわかんなくねェが、やりたいこととそうでないこと、折り合いってモンをつけるべきじゃ………………」
「それでもよッ……………!!」
飛び交う銃弾の綾を見抜き、マミィは逃走から一転した攻勢。【銃殺のモンスター】の紳士的笑みに飛び蹴りを見舞う。
「エゴを押し通す為に……………私は強くなったの!!」
TOP5でも特に素の身体能力の高いマミィの一撃でも、化質の出力が伴わなければ傷すら与えられない。【銃殺のモンスター】はすぐに傾いた頭をマミィに向け直し、そして腰から生える銃身をマミィにかざす。
放つ刹那。【銃殺のモンスター】の視界が唐突に塞がれる。
敵の眼前にコピー用紙を出現させる、鍛え上げられたマミィの技。視力を奪った結果、見当違いの場所を飛んでいく銃弾とすれ違いながら、マミィは【銃殺のモンスター】に肉薄し、ガラ空きに腹に拳をぶち込む。
「勿論活路は見つけ出したわ…………!!たった今ね…………」
「はっ……………いいじゃねェか!!その意気乗ったぜ!!……………ただヤバくなったら流石にアイツら殺すからな!!」
「やってみなさいよ……………!!」
マミィの啖呵も根拠がない訳ではない。何より強さを追い求める彼女の根性に、ウールネスは胸を打たれた。
やはり、パイロ抜きのマミィでは攻撃力が足りていない。大して効いた様子もなく、マミィは目元の紙を外される前にその場を離れ姿を隠す。そしてウールネスもマミィを追うようにして棚の影に入った。
「で?具体的にこれからどうすんだァ?」
今のでマミィの攻撃が通用する相手じゃないのは分かった。ウールネスの火力もマミィよりはマシとはいえ、力押しで行くには明らかに足りていない。
レベル4モンスター……………それも3体ものそれを捌くなら、何かしらの策がないと話にならないだろう。その策を編み出したというマミィの考えを、ウールネスは声を抑えて聞いてみる。
「バンタンを戦わせるわ」
「人任せじゃねェか!!」
マミィの不遜な振る舞いに合わない、あまりに情けない提案であった為に、ウールネスはうっかり大きな声を出してしまった。
【銃殺のモンスター】に居場所がばれ、無数の弾丸が目の前の棚を引き裂かれる。
マミィとウールネスは目立ちっぱなしの人生を送ってきている。柄にもない隠密行動は、本当に6秒位で看破されてしまった。
「私はこれまでの人生!大変な事もそうでないことも全て人に頼って何とかしてきたわ!!この危機的状況でも当然そうするのよ!!」
「ェえぇ〜………………いや………つーかそれができなかったから今困ってんじゃねェのか!?」
二の句も実に頼りない発言だ。その上、挽回の策としてもかなり微妙なもの。ウールネスの疑心も当然だ。
「ちゃんと方法を思いついて言ってるわよ!!今からバンタンの所向かうから、『アイデア豊富なマミィちゃん偉くて素敵で美しい!』と言って送り出しなさい!!」
「おう!マミィはスゲェなァホントにスゲェ!!ガオオオオオオ!!時間稼いでやるから行ってこい!!」
【本能 30%】
ウールネスは出せる範囲で能力を発動。肉体が膨らみブカブカのシャツが張り上がる。髪の生え際が前進し、髭や腕毛の毛量が増してワイルドに。目つきはより鋭く、伸びる犬歯は牙と呼べる鋭利さを手に入れた。
「……………そこをどきたまえ。悪いが今はあちらののマドモアゼルと遊びたい気分なんだ。ぜひとも日を改めて来てほしい」
「狩りで選り好みたァ余裕こいてやがんな!勿論責めはしねェぜェ何せお前は今のオレより強者だ!!舐めてかかって結構だぜ」
【銃殺のモンスター】はジェンダーフリーで人を殺すタイプの紳士だが、やはりそれでも気分によって殺す相手の特徴を選ぶらしい。今、ウールネスを殺すことにはモチベーションを感じていないようで、強い殺意が向けられていないのはウールネスとしては残念な事だ。
だが、期待されないのは、期待されてない側に問題がある。それがウールネスの考え方なのだ。
「だからよォ……………オマエが!!オレをッ!!…………今すぐにでも狩りたいって思わせてやる!何せ森の中でも相思相愛は素敵な奇跡だもんなァ…………!!そうだよなァッ!!ガオオオオオオ!!」
狩りをするなら、狩られかけてみたい。死の押しつけ合い、命の奪い合い。〝森の狩人〟とはひたぶるにそれを望む生き物だ。
興味など手繰り寄せてやる。昂ぶって昂ぶらせて、最後に己が喉笛を食い千切る。
ウールネスはその理想目掛けて、疾走を始めた。
【銃殺のモンスター】は、棚の商品を大量に飲み込み弾丸に変える。そしてそれを化質によって噴出、コンクリートも粉々にする威力を孕ませて、人体の破壊を目論む。〝銃〟はウールネスの弱点の近縁。余程消耗させられていなけければ、直撃しても死にはしないが、当たればただでは済まないだろう。
しかし、ウールネスの頭にあるのは、〝実に楽しい狩りである〟それのみあった。
後ろ足2本で駆けるウールネスは、向かい来る弾丸を華麗なステップで躱し、【銃殺のモンスター】の真正面へ。
「ガオオオオオオ!!!」
咆哮し、放ったアッパーカットは銃身を思いっきり打ち上げ、【銃殺のモンスター】の体幹を崩す結果を生む。銃弾が天井を砕いて青空へと飛び込み、粉々となった天井の破片が降り落ちていく。
破片が床を鳴らすよりも早く、ウールネスは【銃殺のモンスター】の背後に回り込む。そしてしゃがみこんで、【銃殺のモンスター】の体重が我が身にやってくる瞬間を待つ。
【銃殺のモンスター】が倒れた先には、腰を落とし諸手を構えるウールネス。抗えぬ大地への誘引によってウールネスに寄りかかった【銃殺のモンスター】は、そのまま背を掴まれ、重心を掌握される。
自らの肉体を支点とし、握り込んだ【銃殺のモンスター】の肉を引き寄せて、ウールネスはその巨体を投げ飛ばした。
「てこの原理ッつーヤツだァ!!聞きかじっただけだからよくわかんねェが……………図解すると恐らくこう!!頭使って戦うってェ………ワクワクすんぜェッッ!!ガオオオオオオ!!!!」
宙空に誘われ、無防備となった【銃殺のモンスター】に、ウールネスは渾身の打撃を叩き込む。虚空を踏んでいては、力足らずの攻撃でも抵抗できない。
その威力に引きずられ吹っ飛んだ【銃殺のモンスター】は、【ヒーローのモンスター】と【目潰しのモンスター】の諍いの渦中へ飛び込む。
「グッ……………マドモアゼル……………マドモアゼルは何処に…………ッ!!」
「ハッハッハ!!そんなに落ち込むなよォ!!皆で狩り合った方が楽しいぜェ?」
まんまとバンタンとマミィと距離を離されてしまった【銃殺のモンスター】は、体を起こしながら、紳士的表情をやや崩して不満を垂れる。
そんな【銃殺のモンスター】の機嫌をダイナミックに損ねた張本人であるウールネスは、臆することなく、他2体のレベル4モンスターがいるにも関わらず、一切二の足をふむことなく、戦場にエントリーを仕掛けた。
「嗚呼…………カッコ悪い悪人がこんなにも……………跋扈しているだなんてッ…………!!世界の愛と平和!!安寧と純愛の為にッッ!!カッコいいヒーローが!!このオレが成敗してくれようッッッ!!!」
「アダッ!!ジをっっ……………ミルヤツはミナゴロシィィィィィィィィィ!!!!」
「いつになったらボクは美しい臓物を目にできるのだ…………………いい加減っせめて誰かの腹を改めさせてくれッッ!!」
「みんなモチベたっぷりで喜ばしいなァ!?この闘争…………盛り上がるぜェェェェガオオオオオオ!!!!」
そして4体のモンスターによる四つ巴の、火蓋が切られる。
***
「……………!!やっと見つけたわ!!」
戦いの激化を音に聞いて数分。ようやくマミィはバンタンを見つけた。随分時間をかけてしまったが、中々見つからないのも無理はない。数ある棚の内の一つの、3段目に登ってしゃがみ込み隠れるなど、普通想定しない。
「バンタン!!バンタン!!私よ!!あなたの親友かつあなたが知り合う人の中で最も美しいマミィちゃんよ!!辛い思いをしたのに目の前の絶景を見て心癒さずにどうするのよ!!……………聞いてるのバンタン!?」
バンタンを見つけたマミィは、離れたところにある脚立を、辞書でひっかけて引き寄せながら、バンタンに声をかけリアクションを求める。
しかし、バンタンはしくしくと、膝に顔面を密着させて泣き続けるばかり。モンスターから離れて尚、バンタンは調子を崩したまま、未だに立ち直らないようだ。
バンタンの刃物恐怖症はマミィやミリーの異常性とは違い、モンスターとしての習性である。エラが備わった生き物が水中で生きるように、翼を授かった生き物が空を進む道に選ぶように、表象モンスターには決して逆らえない、肉体と精神に課されたルールが存在する。
己の再定義でもしない限り、彼女が抱く刃物への恐れは完全に克服できない。
そうであるならば───
「お願いバンタン。顔を上げてちょうだい」
引き寄せた脚立に登ったマミィは、声を落ち着かせて、優しくバンタンに語りかける。
「あなたを怖がらせたいわけじゃないの、あなたに無理をさせようっていうわけでもないの」
巧みな話術を持つ訳でもないマミィが、人の心を解かすなら、ただひたむきに本心をゆっくりと開いて見せていくしかない。その思いやりに溢れるマミィの声色を受けて、バンタンの泣き声が止む。
「決して、あなたを傷つけたりしないわ…………約束する。だからお願い、顔を上げて」
感情をたっぷりと乗っけたマミィの訴えが、ついにバンタンの額を持ち上げる───
そこ目掛けたマミィの全力鉄拳。すんでで反応したバンタンは風のように過ぎる拳を見送り、バンタンの後ろにあった商品が殴り飛ばされる。
「ひゃぁああ!?ちょっ………………何すんの何すんのぉッ!!!」
「あなたこそ何避けてるのよ!!頭潰しそこねたじゃない!!」
しょげている時に友達から、滅茶苦茶腰の入った拳を振るわれるのはかなり心に来る。バンタンはマミィに向けて怒鳴り散らす。が、マミィも怒りを抱いたのは同じようで、握り拳を震わせながらバンタンの怒りと鍔迫り合いを始めた。
「〝頭〟のあなたは戦闘放棄するくらいの刃物恐怖症でも!他の部位はそこまで刃物怖がらないでしょう!?あなた胴体だけでも全然戦えるんだから、動けない原因の頭を潰してしまえばこの状況をどうにかできるじゃないの!!異論あるかしら!?」
怯える女の子の頭をぶん殴るという、一見無茶苦茶なように思えるマミィの蛮行であったが、その行動には筋の通った理があった。初めは憤ったバンタンも、負い目に追撃を加えられるような彼女の弁に、諌められていく。
「……………ないない………」
どう考えてもマミィの理屈の方が正しい、涙目で震えながらバンタンは呟く。
「じゃあ潰すわよ!!時間ないから3,2を飛ばして1で殴るわ!!」
「…………あいあい」
バンタンの返事を聞いたマミィは、即座に雄叫びを上げてバンタンの顔面に拳を振るう───
マミィの拳が直撃する寸前、バンタンを横合いから吹き飛ばす、衝撃が走る。
商品棚を抉り取るその威力は、道中の全てを破片に変えていき、その風圧を受けたマミィは後ろへと飛ばされた。
「ひぃ〜ッ!!刃物ぉ〜〜ッ!!」
断じて刃物ではない。今のは、【銃殺のモンスター】の攻撃………………流れ弾だ。しかし、今のバンタンにはそれを理解する冷静さはなく、頭をコロコロと転がし逃げ出す。
弾丸が視界の端を駆け抜ける中、マミィはゆっくりと、自分が、そしてバンタンがいた所の方を見渡し………………グチャグチャにひしゃげたバンタンの胴体を発見した。




