不足なき才
「本職は強盗達を拘束するであります!」
「俺はツナグの手当てだな!任せろ!」
ミリーはクレイボックスからクレイを取り出し、強盗 達の腕を包み始め、パイロは注射器と包帯を取りだしツナグに駆け寄る。
「ツナグ!まずは腕に残った弾を取り出してくれ!」
「…………あぁ…………そうですね。すみません」
相当精神力を消耗したらしいツナグは、本当に疲れ切った様子だった。パイロの声かけに反応するのにも一拍を要し、ツナグはゆったりと、右手で左腕に触れ〝解体〟。腕にめり込み、血の赤に染まった弾丸6発が宙に投げ出された。
すかさずパイロはツナグのロングコートを左腕を刺激しないよう慎重に脱がす。そして厚着したインナーの、左腕の部分を引きちぎってゆっくりと下ろし、ツナグの生々しい銃創を露わにさせた。
止血の前にまずは注射器。それは弱点の回復能力を一次的に向上させる即効性の治療薬。液体を血液に注入するわけではないので針も血管を探るも必要なく、傷口に近い素肌に押し付けるだけで、傷を回復させられる。
表象モンスター程の回復速度にはならないが、このくらいの傷なら少なくとも明日には完治するだろうし、痛みもすぐに引いていくだろう。
注射器の内容液を注入しきったら、次に止血し包帯を巻く、そしたらもうツナグの治療は完了だ。
「………………ツナグ殿。傷の具合はどうでありますか?貫通はしてないようでありますが、やはり骨が痛むのでは……………」
「………いえ、骨折はしてません。バンタンからもらっておいた化質を全て注ぎ込んで防いだので、ギリギリ筋肉で止まったみたいです」
アサルトライフルを真っ向から受け、五体満足で済んでるだけでも凄いのだが、骨すら持って行かせなかったのは天晴の一言。しかし、すぐに復帰できるような怪我で抑えれたのは果報のはずだが、何故かツナグの表情は曇ったまま、微かな笑みすら見せなかった。
「…………ごめんなツナグ。お前にばっかり、危険な目に合わせちまって…………」
包帯を巻き終えたパイロは、ツナグを見上げて、無力を噛みしめるように謝った。ひしゃげたツナグの眉が、すっと緩む。
「各々ができることを、的確にやった結果ですよ。僕がリスクを背負うのは…………仕方ありません。僕も助かりました。飛ばされてすぐにパイロがシールドを張ってくれなければ、こうも首尾よくはいきませんでした。ありがとうございます」
人と会話をして落ち着いたのか、ツナグの表情はいつもの調子に戻っていた。普段と変わらぬ笑顔で、パイロに感謝を告げる。
「…………………あぁ」
パイロの顔は浮かないままだった。一瞬言葉に迷い、重たい面持ちを改善させるのも間に合わず、呟くように返事をした。
強盗達を制圧しても、これで終わりではない。まだ、出現したレベル4モンスター3体の討伐をしなければいけない。
オペレーター曰く、どうやら表象モンスター達も転送、それもレベル4モンスター達と一緒に飛ばされたらしく、向こうの戦いは続いているらしい。
急いで向かわないといけないのだが、この小学校がウェスタルに位置するのに対して、向こうのFCはイーストリア…………即ち真反対にある。
すぐに駆けつけれるような距離に飛ばしてくれてるわけがないのは、まぁ考えずとも当然の事だ。
ただ既に向こうまで行く手筈は済んでいるらしい。オペレーターからの指示に従い、ツナグ達は拘束した強盗達を連れて廊下から出発した。
「キビキビ動けよクソ野郎共。別に足以外ならどこ撃ったって構わねぇんだぞ」
両手をクレイで包まれた強盗達は、更にクレイの首輪をつけられて5人全員を数珠つなぎに繋がれている。一成一代の大作戦が失敗し、お縄について碌でもない末路が確定した彼らの足取りは、遅くおぼつかない。
パイロが拳銃を向けて脅すことで、ようやくそれなりの速さで歩き出した。
「……………まだ、本職らを狙う刺客がいないとも限らないであります。本職が斥候として先行し、安全を確保するであります」
歩き始めてすぐに、ミリーは神妙な面持ちで言い出したのは、危険な役目を買って出る事であった。
「えっ?いや…………それなら俺がやるよ!俺は万全でミリーよりもタフだ。無理せずに俺らの間で強盗共見張ってたほうが……………」
「……………けれど、本職はこの戦いで何もできなかったであります………………本職がやったことは、ただツナグ殿の指示を受けてハッタリをかました事のみ……………ツナグ殿やパイロ殿のように、自分の力で仲間を支えれなかったあります……………」
無力を感じていたのは、ミリーも同じであった。自分だけが、役立ってない。支え合うはずの仲間の助けになれていない。
自分が、ツナグやパイロと比べて劣っている。もしかしたら、今までのその自覚は言葉だけのそれだったのかもしれない。口先だけで自省しながら、同じ〝TOP〟として…………実際以上の自負を掲げていたのではないか、その驕りが今現れたのではないか。
ミリーは実力も、それを手にする為の精神性も、何もないことをひたすらに恥じていた。
「え?あの発砲見かけ倒しだったの?」
「ウソッ!!あんなにおっかなかったのに!!」
「マジかよ〜っ!!まんまと騙されて退いちゃったァァァ!!」
「あんまりめげんな狩人ちゃん!!」
「なぁ今なんの話してんの?」
「うるせェェェェえッ!!!話に混ざってくんなアゴ割るぞ!!!」
急に話に割って入ってきた強盗達をパイロは拳銃でたしなめ、ミリーの話を続けさせる。
「せめて最後くらいは、お役に立たせて欲しいであります。大丈夫、本職も殺気の感知くらい、ちゃんとできるでありますから」
ツナグとパイロは一瞬顔を見合わせて、互いの意思が 同一である事を瞬時に悟った。そして朗らかに微笑んで、ミリーを送り出す。
「ええ!任せるであります!」
少し元気を取り戻したミリーは小走りして、すぐ近くの曲がり角に向かった。
ツナグとパイロにとって、ミリーは同僚でありながら、友である。彼女がより強くなる事を望むなら、肯定し、目標までの道程で手助けを施すのが当然の事。これからも頑張って欲しい。そんな応援の気持ちを持って2人はミリーを見送った。
そして何より───
時間短縮、そして無害化している事の証明するために、服の一切を着用させず、チンコぶらぶらで小学校の廊下を練り歩かせた、強盗達の姿を、あんまり女子に見せたくなかった。
とりわけミリーは体格も顔つきも幼くて、まるで刻々と彼女を汚してしまっているような……………見当違いは自覚しているが、そんな罪悪感のようなものを2人は感じていた。
死角、物陰、窓の奥、ミリーはあらゆる場所に視界を散りばめ、誰よりも前に出ながら、怠らず警戒を続ける。
とはいえ、奇襲をするにしても既に旬は逃しているようにも思える。気を抜く理由にはならないが、変に気にしすぎるのも無駄だろう。
場 の緊張感を少しだけ抜くように、ミリーは軽い雑談を仕掛けてみた。
「しかし、ツナグ殿はすごいでありますよね。一歩間違えれば死ぬ状況であそこまでの大立ち回りができるとは」
どうせならもう少し平和的な話題を振れればよかったのだが、年中仕事の事しか頭にないミリーに、同年代の男子に通用するようなネタは持ち合わせていなかった。蒸し直すようではあるが、先ほどの一連について聞いてみる。
「………………一人でしたら死んでいた可能性の方が高いです。色々と状況が味方してくれたから勝てただけですよ」
少しくらい鼻にかけてもいいのだが、ツナグの態度は謙虚なものだった。しかし、謙遜というのも言葉足らずであり、「一人だったら死んでいた」という発言には諦観めいた彼の見解を感じる。
「ほら、例えばご飯食べてる時に、一人で|アサルトライフルで武装した人達《この人ら》が待ち構える密室にでも転送されてたりしたら、僕に限らないですが普通に死にますよ」
そう、ツナグが言った瞬間、3人の思考にある疑念が割り込んだ。一瞬の静寂を経て、ツナグは神妙に口を開く。
「……………いや、そうできなかったと考えるべきなんですかね」
強盗を対処すべく派遣したTOP5、その弱点を狙い、強盗達諸共転送し、殺害する。【ぬらりひょん】が仕掛けてきたこの奸計の概要はこんなところだ。
ただ、冷静になってみれば、どう見たってこの作戦は無駄が多く、合理的じゃない。
人を罠にかけたいのなら、まず警戒を解くか、警戒しない状況を作るのが先決のはず。
なのに態々、凶器を見せつけて警戒を引き出した上で、強盗達と一緒に転送させるという難易度が高いやり方を実行したのは妙な話だ。
「………………本職らを転送させたのは、恐らく【雲外鏡】でありますよね?」
ミリーは冷静さを欠いて聞けてなかったようだが、ツナグは無線から状況を聞いて、あの時自分達の背後から転送を仕掛けて来た男が【雲外鏡】である事を把握していた。
ツナグはミリーの問いを首肯する。
「【雲外鏡】の能力は、自分のカメラで撮った生物を、他の写真の景色に移し、そしてその場所にテレポートさせるというものであると聞いてるであります」
【雲外鏡】はOliverが管理していた表象モンスターではない為、能力や弱点の詳細は判然としていない。
しかし、〝テレポート〟という、戦略的価値の高い能力を持つ彼は数多の戦いで戦果を上げてきた。
故にその能力の目撃情報は洗い出され、そして彼の過去、生い立ちまで手落ちなく情報は掻き集められている。
「【雲外鏡】はモンスターに化ける前から、外国に出向き写真を撮るのが趣味であったと聞くであります。だから撮った写真、誰かが撮った写真の場所にテレポートする能力が発現したと考えられているであります」
学校の勉強は既に価値を見失い、講義をサボりまくってるミリーだが、その分の余力は敵対勢力、【ぬらりひょん】の手駒である表層モンスターの情報をインプットするのに使われている。
その学習の成果が今発揮される。
「……………〝関心のある、美しい光景を見に行きたい〟が彼の望みだとして……………例えばテレポートした先が悪天候だったり、季節外れで写真通りの景色じゃなかったり……………極端でありますけど、そこがまさに今戦争の舞台になっていて、榴弾飛び交う地獄絵図になってりしたら、そこにテレポートしたとしても、その望みを十全に果たすとは言えないのでは?」
「……………つまり、能力を使用するには、転送先の現状が、撮った写真の状況に近しくなければいけない…………付近でイレギュラーが発生してたらテレポートができないと推察できるな!」
「ただそれだけだと自分達のアジトに飛ばせばいいだけでありますから、自らが関与し作りだした場所には転送できない。も、制限に付け加えていいと思うであります」
敵の非合理的に思える動きが、【雲外鏡】の能力の短所を露わにさせる。犠牲を払うことなく、厄介極まりない【雲外鏡】の情報を獲得できたのは大きな収穫に違いない。ミリーとパイロ高揚し、上がったテンションが口調に反映される。
しかし、ツナグのリアクションはその真逆、真顔を崩さずに静々と語り出した。
「……………秘匿していた能力の詳細を支払ってでも、僕らを殺したかった、ということでもありますよ」
【雲外鏡】の能力の露呈。それはツナグ達が死のうが死ななかろうが、この作戦を実行に移した時点で、確実に払う事になる、作戦の代価である。それは今後、【ぬらりひょん】陣営の首を絞めてしまう可能性もある、決して安くはない博奕だ。
それを飲んででも、【ぬらりひょん】は〝TOP5〟を殺害しようとしている。そういう見方もできるのだ。
ミリーとパイロの顔つきも、辛気臭さを取り戻す。この奇襲は、決して楽観視などできない事実を示す事に気がついたからだ。
「…………その通りでありますね。ここまでやってくるのなら、第2第3の矢はいずれ確実に来るであります」
「浮かれていらんねぇな……………次は誰が狙われるか分かんないぞ…………」
そう、きっとこれから先、【ぬらりひょん】は何度も戦いを仕掛けてくるだろう。僕ら〝TOP5〟、弱点を潰すために───確かに誰が狙われるかは分からない。けれど、きっと、その矢面に最も立つ事になるのは……………僕じゃないか。
そう、頭によぎった不平を、ツナグはそっと握りつぶす。まるで、皆の事を責めているみたいで、心地悪かったから。
パイロも、ミリーも、能力不足などでは決してない。ただ僕が、足りすぎてるだけなのだ。




