逃走始めるキーパーソン
新暦106年 1月27日 3:04PM
〝フランケン〟、〝ミイラ男〟、|〝狼男〟《ウールネス•ジャバポット》、表象モンスター3名と、【ヒーローのモンスター】、【目潰しのモンスター】、【銃殺のモンスター】の3体の化質反応を、イーストリア東部 〝American〟フリムホーツFCにて確認。
フルフィルメントセンター───略称FC。ECセンターの注文商品の保管、ピッキング、梱包、発送まで一手に担う物流拠点。
3人と3体が転移させられたのは、保管場所である大きな倉庫であった。そして当然、そこに自らの弱点の姿はない。
「………ッ!!やっぱりパイロ達がいないわ!!」
「弱点とも討伐者とも引き離されちゃったね……………向こうはツナグらを信じて信じて、アタシらはアタシらだけでコイツらしばかないとしばかないと!!」
位置がわからず、遠くにいるということだけ確かな以上、弱点を助けに行くの現実的じゃない。
ならばそれよりも、この一際危険なレベル4モンスター3体を仕留める事が優先される筈だ。転送直後の今でも、【ヒーローのモンスター】、【目潰しのモンスター】、【銃殺のモンスター】は3体同士で戦っている。戦う前に、色々と準備を整えたいこちらにとって、それは好都合だ。
真っ先に対応しなければいけないのは、周囲から聞こえるこの悲鳴。ここで働いている従業員らしき人達の避難誘導だ。
「オイオイ!!こんな近くにも人がいんじゃねェか!!大丈夫か逃げるぞ!!」
ウールネスはすぐ後ろで尻もちをつく中年男性に気づき、すぐに抱えてモンスター同士の大規模バトルから離す。
そして、戦いの様子を振り返って警戒しているその時、ウールネスは腕の中で縮こまる男の、「ごめんなさい、ごめんなさい」という呟きを聞き取った。
「───お前……………コレに一枚噛んでやがんな?」
作業着のような服装からして、恐らくこのおっさんはここの従業員。ここにいることに違和感はなく、レベル4モンスターが三竦みの戦闘が目の前で繰り広げられれば、恐怖で震え上がるのは当たり前だ。
しかし、その恐怖はモンスターから距離をとって尚継続し、何なら彼の怯えはどんどんと強くなっているようだった。
そしてこの謝罪の言葉…………感謝は含有されてるように思えず、ひたすらに自らの非を埋め立てるような、必死さがあった。
何より、ウールネスの鋭い言及で、途端に唇を結び目をそらすこの反応、確定だ。
「何ですって!?よしじゃあそいつ安全なとこに運んで一人一発ずつ殴るわよ!!先鋒はあなたよウールネス!!」
「オレはやんねェよ…………森の狩人の流儀に反すからよォ……………」
「いいから一旦退避退避!!アタシがコイツら抑えとくから抑えとくから!!はよそいつを避難避難!!」
この転送の共犯者らしき男の今後、というかすぐ後が少し心配だが、レベル4モンスターの戦闘に巻き込まるくらいなら、マミィにしばかれる方がマシだろう。
ウールネスは引き続きおっさんを運び、マミィは追随し2人を守りつつおっさんの殴り待ち。そしてバンタンは一人モンスターの戦いの渦中に残る。
「………ッ!?逃走!!貴様は何が後ろめたい!!己がカッコ悪い事かーッ!!悪めェェェェェェェ!!」
逃げるウールネス達が、【ヒーローのモンスター】に目をつけられ、バカみたいな難癖をつけられる。
安っぽい赤のコスチュームを纏った男、【ヒーローのモンスター】が触手と弾丸の弾幕を滑り抜けながら、両腕をクロスし構える。腕は発光を始め、光の粒が集まりだす。映像で確認したレーザー攻撃の前動作。
【アルティメットジャスティスファンタスティックヒロイックレーザー】
技名を放ちながら、【ヒーローのモンスター】は両腕にチャージしたエネルギーを、指向性を持たせ射出する───
「ちょいちょい。民間人に手を出そうとしちゃって、何がヒーローよ?」
レーザーが放たれる直前、バンタンは自身の左手を投げて、【ヒーローのモンスター】の光を放つその腕を掴んだ。そして即座に引き寄せる事で、その構えを崩し、放出をすんでで妨害。光の破裂で左手での掴みが弾かれながらも、バンタンは【ヒーローのモンスター】に接近した。
「カッコいいオレはヒーローで違いないだろォォォォ!!」
地雷を踏み抜かれた【ヒーローのモンスター】は激昂し、頼りないフォームでバンタンにパンチを放つ。
放った拳が空を切った。バンタンが行った回避の動きは,少し体をズラした程度の僅かなもの。数ミリずれれば脇腹の肉を掬い取ったであろう、ギリギリの避け。しかし、服を掠める鉄拳の威力にも動じない、バンタンの様子は見たままの余裕綽々としたもの。
直感する。バンタンの実力を、些細な一手が詰みに直結するプレッシャーを。
【ヒーローのモンスター】はすぐさま腕を引いて、立て直そうとする───しかし、その判断すらもう遅かった。
バンタンの右横に位置する【ヒーローのモンスター】の腕。それが、背中から回すように伸ばされたバンタンの左手によって掴まれる。
そして捕まえた【ヒーローのモンスター】の腕に、すかさずバンタンは右腕による肘打ちを炸裂。伸び切った肘めがけたバンタンの一撃は、破壊には至らなかったが今後の動きに響く大ダメージに変貌する。
「グッ!?」
ほんの一言苦悶を引き出しただけでは終わらない。バンタンは靴投げのように足を大きく振って、靴を…………否、足首から先を上に飛ばす。
すぐさま足首の向かって自身を引き寄せて、バンタンは逆さまになりながら宙へ飛ぶ。そしてそのまま、身をよじるようにして【ヒーローのモンスター】の後頭部に回し蹴りを叩き込んだ。
「嗚呼……………可憐な動きだマドモアゼル」
【ヒーローのモンスター】を地に伏させても、休む暇はなない。今度は殺人紳士のデカブツ、【銃殺のモンスター】がバンタンに興味を持ったようで、その銃というより大砲と呼ぶべき下腹部の筒をバンタンに向け始めた。
【銃殺のモンスター】の能力は、その場の物を銃弾に変えて、己を銃身として放つこと。
殺害、という身も蓋もない願いで化けたモンスター故に威力は折り紙付き。TOP5でも直撃は避けたい破壊力を有している。
そして、今いるこの倉庫という立地は、物に事欠かない、【銃殺のモンスター】にとっての好立地。
そんな【銃殺のモンスター】の銃撃が、バンタンを襲う。
流れ弾で犠牲になる人間がでないよう、バンタンはウールネス達の方は勿論、それ以外の避難者も考慮して動く。
棚を足場に、駆け上がるように【銃殺のモンスター】の弾丸から逃れていく。ダンボールと商品が圧縮されてできた弾丸は、鋼顔負けの硬度と威力。棚をビスケットかのように安々と破壊し突き進んでいく。
ただ、肝心のエイムはお粗末。銃の反動に弄ばれ、弾丸をバンタンに向けて正確に送れていない。
苛烈な銃撃だが、狙いが正確でない以上、銃口を注視していれば回避は可能。そしてそれは、全身そのも
のが目の役割をする〝フランケン〟にとって容易な事であった。
【銃殺のモンスター】からすれば、物ばかりを蹴散らし、目をつけた女性の流血をいつまでも見れていないのは、焦らされている気分になるのか、そしてそれは彼の性癖にミートするのか、その頬が紅潮を続ける。
「焦れったいなマドモアゼル!!ボクは早くッ!!キミの内臓がみたい!!」
「どうぞどうぞぉ!!」
【銃殺のモンスター】の発言から、バンタンは即座に攻めの糸口を見つける。
内臓の投擲。種類とかどうでもいいので何を投げたかはバンタンも分からない。そして、高速で顔の間近をよぎる内臓を目で追った【銃殺のモンスター】ですら、投じられた内臓が何なのかは分からなかった。
視界の中央にそれを留め置くよりも早く、バンタンは自身をそこに引き寄せ、そのまま向かい合った【銃殺のモンスター】の顔面を殴りつけたからだ。
更に追い打ち。内臓に向かって跳ぶ前にその場に残しておいた五指を引き寄せ、沢山送ってもらった弾丸の意趣返し。バンタンの十八番、指の弾丸が【銃殺のモンスター】を貫く。
「ミぃぃいるナァァァァァアアア!!!!」
そして順番が来るのを待ってたかのように、【目潰しのモンスター】が仕掛けてくる。背中に生えた無数の触手の一つがバンタンに襲いかかり、バンタンの右腕をちぎって吹き飛ばす。
「みてンじゃエ゙ェェェェェェェェェェェェ!!!!!」
そちらからちょっかいかけてきておいて、癇癪を起こすだなんて失礼この上ないが、バンタンは優しく応対。槍のように放たれる触手の数々を蹴り飛ばし、殴りつけて凌ぐ。
自分の攻撃を片腕で、赤子の手をひねるように楽々と対処されながら、目線をずっとずっとこちらに向けてくる。
耐え難い。許し難い。蛆虫が渦巻く腹の底を、いち早く一掃したい。足に渾身の込め、跳躍。一つまみの余裕を差した、バンタン•ランジャンの瞳を潰すべく、【目潰しのモンスター】は彼女に急接近───
現実はその目論見と正反対、バンタン•ランジャンとの距離が一瞬にして遠ざかっていく。
その大移動はちぎれたバンタンの腕、正確には切離して、【目潰しのモンスター】の攻撃を利用して遠くにやった右腕の仕業。遠くに飛ばされた右腕は、そこから右手と腕に二分。そして腕はそこに残り、右手は触手を掴む事で、バンタン•ランジャンと【目潰しのモンスター】を引き離す下準備をした。
そして今度はバンタン•ランジャンが、体勢を崩した【目潰しのモンスター】に肉薄。右腕に向けた自身の引き寄せによって、急接近。そして、その勢いを乗せた肘打ちが、【目潰しのモンスター】の喉を貫く。
「ッッ!!ミんナァッッ!!」
体重と能力を掛け合わせた一撃だったが、即死させない為の手加減が裏目に出た。意識を持っていく事は叶わず、討伐に失敗。そして激痛を吐き出すような絶叫と共に、【目潰しのモンスター】は身に宿った異能を発揮する。
近くにいる者の目を潰す。射程圏内に突っ込んだバンタンの眼球も、その異能を食らって破裂した。
「痛いっ!!痛い!!」
眼球は紛れもなく臓器の一種。痛みは当然、何よりもその働きの重要性が、動きの質の低下という形で表れ出る。
「隙あり!!悪党ッ!!」
【目潰しのモンスター】の触手が、そして早くも復帰した【ヒーローのモンスター】のレーザー攻撃が、視界を奪われたバンタンを襲う。
しかし、
「…………しゃあないしゃあない…………退くか退くか」
触手は足場に使われて、レーザーは曲芸の仕込みのように平然と躱される。バンタンはその高密度な攻撃をすり抜けるように、無傷で退却していく。
目を潰されようが、そもそも目がない他のパーツは何事もなく動ける。バンタンは華麗な動きで逃げ切りつつ、【ヒーローのモンスター】と【目潰しのモンスター】を戦い合わせることに成功。避難させ終えたらしいマミィ、ウールネスと合流した。
「あっ…………まってまって…………今にも目が治るから治るから………」
2人の目の前に着地したバンタンは慌てて潰れた両目を両手で隠す。出血がないので分かりにくいが、【目潰しのモンスター】の能力はバンタンにも効くらしい。
「あのおっさん安全な場所に着くや否や逃げ出して…………私のビンタ一発しか痛い思いさせれなかったわ…………ムカつく」
「どうせ記憶辿られて捕まんだからいいじゃんいいじゃん………………」
マミィは共犯者のおっさんを満足いくほど痛めつけられなかった事に不満気だが、そのうちオリヴィア教の捜査力に絡め取られる人間にやたらと危害を加えてしまうのは、必要以上の罪を支払わせてしまうのに他ならない。
確かに現場から一目散に逃げたのはムカつくが、どうせ逃げ切れはしないのでバンタンは以後気にしない事にした。
「しっかし、うぜェ事しやがるぜェ…………レベル4モンスター3体をいち早く対処してェのに。こっちは本領を発揮できない…………が」
不運にも、呼び出された【ミイラ男】と【狼男】はTOP5の中でも特に弱点の依存度が高いモンスターチーム。即ち、表象モンスターだけでレベル4モンスターを討伐する能力は乏しいということ…………そんな中でレベル4モンスター3体を討伐しなければならないのは、無理難題というべき危機的状況だ。
しかし幸運なことに、こちらには【フランケン】が、TOP5で、ひいてはフリムホーツで唯一の、弱点に依存しない実力を持つ〝フランケン〟がいる。
「いつも通りにやれないだァ?…………ハッハッハ!!獲物ごとにやり方を変える!!狩りっつーのは元よりそういうモンだッ!!そうだろォ!?」
「ええ、その通りよ。バンタン、分かっているとは思うけど、この戦いの生命線はあなたよ!!身を挺してでも私達はあなたの動きを通してみせるわ!!」
めげる必要がどこにある?有効打があるなら、それで充分。
マミィとウールネスは自身の力を存分に振るえないにも関わらず、一抹の恐怖も無しに、レベル4モンスターと戦う心意気を築き上げた。
そしてバンタンの目が治った。悠然と肩を回しながら、その頼もしい背中達を追い抜いて、バンタンはその大怪獣バトルに再度殴り込む。
「行くぞ行くぞォォォォォォォォォ!!」
【グレートカリバースーパーヒーロースラァァァァァッシュ】
【ヒーローのモンスター】の光を灯したチョップは飛翔し、バンタンのすぐ足元を切り裂き溝を作る。
「…………………………」
その細い破壊跡を凝視して、バンタンの意気は一瞬にして散り、立ち止まった。
「…………れ、冷静になりなさいバンタン!!3体全員倒さなくても別に大丈夫よ!!1体くらいなら、私とウールネスが囮になればコントロールできるわ!!」
「そうだなァ!!一回下がって深呼吸して、再出発しようぜェ!!バンタン!!」
気取る最悪の事態。マミィとウールネスは、まず自分を落ち着かせながら、バンタンに声をかけて正気を取り戻させようとする。
「ミぃぃぃぃいるナァァァァァアアア!!」
まるで芸のないモンスターであった【目潰しのモンスター】が、ようやく新たな一面を開花させる。背中から伸ばした触手の殺傷力を上げるべく、触手の先端を刃物に変えた。
『あっ……………………』
思わず漏れてしまった、マミィとウールネスの気の抜けた声が混ざり合う。
そしてバンタンは、〝フランケンシュタイン〟は───
「は、は、は……………………刃物ォォォォォォォォ!!!!!」
顔を蒼白にして、慌てて後ろに走り去る。
「おお!!どこに行くんだい!?マドモアゼル!!」
マミィ、ウールネスと同じように、逃げるバンタンの背中を見ている者が他にもいた。
「…………なるほど……………つまるところキミ達は、メインディッシュを彩るオードブル…………ならば則ろう運命に!!手を合わせていただきまァすッ!!」
瞬く間に、独自的解釈をした【銃殺のモンスター】が、マミィとウールネスに銃口を向け、凶弾を散らした。




