はい、チーズ
新暦106年 1月27日 3:01PM
チーム【フランケン】、チーム【ミイラ男】、チーム【狼男】、【メッサーズスケルトン】、【ウィアボーンズ】4名が、銀行内に突入。
「ッ!!…………お出ましだ!!」
強盗の一味が、正面玄関から突入してくる【フランケン】、【ミイラ男】、【狼男】を補足。牽制射撃の判断をするより早く、ウールネスは左腕を肥大化。表象モンスター3体の肉体も合わせて後ろを走る弱点を守る盾を作られてしまい、攻撃を断念する。
「撃ってこね〜なァ……………一応銃ならオレにもダメージ入るのになァ…………痛みがねェと張り合いがねェぜ」
「言ってる事頭おかしいわよあなた………………」
こんな|ほぼ裸便所女《ファッションセンスの奴》にそのような事を言われるのは、雑なウールネスといえど少々不服だが、一々相手にしてられる程気の抜ける現場でないので抗弁は諦める。
「うわぁ…………向こうヤバいねヤバいね〜……………」
「ぜってぇ3体とも進化してんだろこれ…………ダリィ……………」
目標地点であるソファーのバリケードには、全員難なくたどり着けた。そして、三つ巴の激しい戦いを繰り広げるレベル4モンスターにも、意識されてる様子はない。
作戦は順調に進んでいる。後はこのまま、気配を消しながら、【メッサーズスケルトン】達が強盗達の裏を取り、奇襲の準備が済むのを待てばいい。
「ヒーローはッ!!負けないッ!!カッコいいから負けないッ!!カッコ悪い悪者に決してひれ伏さなァいッッ!!」
「ミィぃぃぃぃぃンな"ァァァァァァァ!!!!!」
「取り乱すなマドモアゼル。君の美しい臓器に一目会いたいだけさ」
彼らが戦闘で消耗してくれてたらどれだけ楽か。何でもレベル4モンスターは化質の出力こそ並外れてるが、化質にまとまりがないなどの理由で、同レベルのモンスター相手に損傷を与えることは難しいらしい。
光線と弾丸が飛び交い、触手が縦横無尽に一帯を巡る。
モンスター達はモンスター同士の戦いに夢中であった。わざわざ息を殺さずとも、こちらに注意を向ける事はなさそうであった。
そして今まさにアラボネから、強盗の裏取りに成功し攻撃の用意ができた事を知らせるメールが送られてきた。
「よっしゃあ!!作戦開始開始〜!!」
障害はない、作戦決行に迷いはなかった。バンタンは意気揚々と自らの右手を、強盗の方へ投げる───
───その時だった。
「今だ行くぞッ!!」
強盗の一味が一斉にカウンターを乗り越え、TOP5が潜むバリケードを凝視しながら駆け出した。
そして一味の殿を務める男が、アサルトライフルの銃口を背後へ向け、討伐者達が隠れるデスクの真上を過ぎるように掃射を始める。
「は!?オイラ達気づかれてたァ!?皆様方の隠密お上手だったけどもぉ!?」
パルトコーツの動揺も当然。裏取り役に選抜された人員4名は討伐者の最高資格保持者、1級討伐者であり、その中でも隠密行動に優れた者達。
ただの一般人に見破れるような技術ではない。そしてこちらの位置を見抜いてるにしては大雑把で、的外れな射撃………………つまり。
「…………作戦行動です!総員攻撃開始!!」
アラボネの指示に真っ先に反応したのは、弟であり相棒のパルトコーツ。真横を過ぎ去る弾丸に動じる事なく、パルトコーツは自らのアサルトライフルを構える───
しかし───
「はい、チーズ」
弱点達の背を舐める悪寒、命に狙いをつけたその殺意を、3人は感じた。
パイロは振り返りながら、手に持っていた銃を背後の殺意の発生源に向け──
ミリーは後ろの敵の姿を確認しつつ、背中のシールドバッチに化質を込め───
ツナグは後ろに立つ丸眼鏡の男の頭に、弾丸を放っていた。
銃声と重なるように金属音が場を駆ける。
弱点達に向けられるいやらしい笑顔の目の前には、ノイズの走るバリアが浮かんでいた。ガラスのように後ろの光景を透かすそれであったが、強度はガラスの比でなく、ツナグの弾丸を完璧に防ぎきる。
バリアが消えると同時、男の胸元に構えられたカメラがフラッシュを放つ。
光に包まれたツナグは、パイロは、ミリーは、───そして強盗達は、さも元からその場にいなかったかのように、ボロボロの銀行から姿を消した。
「……………ひっどい写真だなぁ。構図が雑な上、フィルターや光の加減を吟味した形跡がまるでない。どこに着目しても退屈の一言に尽きるよ。やっぱり頭の悪いガキはダメだよね。ショート動画で世界と触れ合った気になってるゴミ共は、ゴミしか吐き出せないカスに育っちゃうんだよ」
弱点達と強盗達を消した男の身なりはひどく汚れていた。服のあちこちには大きな血のシミがつき、その上に瓦礫の粒がこびりついている。
ただ血を浴びたわけじゃない。服は所々破けていて、その周辺は余すとこなく血の赤で染まっている。
つまり、男は死体のふりをしていたのだ。人間ならば致命傷になる大怪我を負いながら、弱点を待ち構えていた。
『状態のいい死体には瓦礫を刺して、動きの阻害をしている』
見落としも、怠慢も、パルトコーツらしくない。種はこの男自身にある筈だ。何故?どうやって?…………いや、そんな思考はもう意味がない。
今すべきは、ただコイツをぶっ潰す。それだけだ。
バンタン、マミィ、ウールネス───即座に余計な思考を削いだ3人は、瞬く間にカメラの男との距離を詰め、そのニヤけ面に一撃を───
「んばぁあぁぁぁぁぁあぁぁあああぁぁ!!!!!!」
3人の眼前に瞬く間に広がったのは、鼻腔をえぐる腐敗臭、歪な形状に虹色の泡がこびりついた黒の塊、そしてギョロリと開く無数の眼球であった。
『ッ!?』
メガネの男の背を食い破り展開されたのは、骸の集合、人食いの悪魔………………【百目】。
弱点抜きで【百目】と真っ向勝負は分が悪い。3人は即座に後ろに跳んで距離を取る。
「にゃぁあぁっっほぉぉぉぉぉおうッッッ!!!!」
「うるさいんだよ静かにしろ」
【百目】は大きな奇声を上げて、メガネの男の苛立ちを買い、そしてレベル4モンスター達の注意を引いた。
【百目】の肉体がほつれていく、肉の崩壊が大きな穴を作り上げ、【百目】に開いた穴の向こうには、カメラを構える、丸メガネの男がいた。
「はい、チーズ」
実力者程、敵への意識を怠らない。そして不利な状況にあるならば、決して相手から目を外すことはない。
つまり実力者にこそ、この猫だましは有効的ということだ。
バンタンが、マミィが、ウールネスが……………そして3体のレベル4モンスター達が、フラッシュに飲まれて姿を消した。
「はぁ?何なのこのさっきのガキの写真と見劣りしうるこのゴミは………やっぱりこんな卑職に甘んじるカスは、ガキの感性からまるで進歩できないのかなぁ?ダッサ…………」
***
視界に焼き付くような白い光、瞳に染みる眩さは、時に基づく移ろいに逆らわず徐々に溶けていく。そして、白んだ視界は晴れ、奥の光景を曇りなく映す。
「……………?」
先程までミリーが目にしていたのは、まさしく殺風景。瓦礫とソファー、死体が雑然とした史上最悪のインテリア。
しかし、その息をするだけで気分が悪くなる。あの居心地の劣悪さが、ない。
今の空気感は平和的で、あいあいとした物。
子供の楽しげな声が遠巻きから聞こえてくる。その空間は手狭かつやや小汚い。壁の塗装ははげ、床は所々黒ずみくすんでいた。差し込んでくる陽光が肌を温めていき、全開の窓からは冬の清々しい空気が、見えてくる空の青はいつになく美しく見えた。
そして遠目のその場所では、いくつもの閃光が舞っていた。
「緊急シールド展開ッッ!!」
パイロが、腰に下げたクレイボックスを手に取り前に突き出す。そして宣言をし、ボックスの裏のスイッチを押した。
ボックスの残存クレイがとめどなく放出。それは一点に集中し、一瞬にして広がり、廊下を遮断する大きさのバリアをなす。
そしてそのバリアは、弱点達に襲いかかる、凶弾の数々を防いでいく。
クレイによる防御技術、シールドはレベル4モンスターの攻撃すらも凌ぐ、弱点と討伐者の生命線。
しかし、弱点としてシールドはその強度を優先するがために、持続力が乏しいことが挙げられる。
クレイボックス本体にて展開する【緊急シールド】であれば、その弱みはある程度改善されるが、強盗達5人によるアサルトライフルの斉射を防いで4秒………………早くもパイロはシールドによる耐久の限界を察知した。
そもそも耐えきるだけでは駄目なのだ。攻撃を凌いだうえで、遮蔽に、近くの部屋に逃げ込まなければ、生存はできない。
しかし、シールドは受けた力の全てを相殺するわけではなく、衝撃の一部はシールドを支える形で使用者が受け持つ事になる。つまりパイロは今、アサルトライフル5丁の総攻撃の威力の一部を、腰を落とし踏ん張る様にして受けているのだ。
この状態から隣の部屋に飛び込むなど、とてもでこる気がしなかった。
安全に逃げたいのなら、アサルトライフルの残弾が尽きるまで耐久するしかないが、そこまでこのシールドを維持するなど、どう考えても不可能だ。
判断のどこを間違えた?どう正せば良かった?
己のミスを悔いながら、パイロは直感する……………自らの凄惨な死を───
クレイボックスを支える手が更にもう一つ。…………否、それはクレイボックスを支える為に添えられたわけじゃない。
それを証明するかのように、ツナグはパイロのクレイボックスを〝解体〟した。
シールドの生成地点の破壊。それがもたらすのは当然、シールドの瓦解。シールドに遮られていた凶弾の波濤が、ツナグとパイロに迫りくる。
パイロのシールドに代わって、その無数の弾丸に対抗するのは、ツナグが解体したドアを材料に、クレイで補強し作り上げたタワーシールドであった。
安上がり極まれりな粗末な盾だが、天才の手にかかれば如何なる矛も防ぐ鉄壁となる。
ツナグの膂力に支えられた盾は、弾丸の荒波をしのいでいく。
すかさずパイロもツナグと一緒に盾を支える。2人分の力を受けた盾は更なる安定感を獲得し、ツナグが次の手を打つ余力を作った。
ツナグはBOMBを壁に向かって投擲した。その小さな玉は、壁の上を大きく1回バウンドし、強盗達の目の前まで到着、そして内に閉じた輝きを解き放っていく。
BOMBの閃光で怯んだ強盗達が、引き金に目一杯かけた指の力を緩めた。パッと消えた弾丸の嵐。その隙にツナグとパイロは、近くの部屋に逃げ込んだ。
そしてここでようやく、ツナグによって先んじて部屋に投げ込まれていたミリーは状況の全てを飲み込んだ。
「逃げるであります!!逃げるであります……………!!ここにいたらっ!!諸君ら死ぬでありますよ!!」
ミリーは腰をさすりながら、まだ教室に残る子供達に必死に逃げるよう叫ぶ。
そう、ツナグ、パイロ、ミリーの弱点3人は小学校に、強盗共々転送されたのだ。
時間からして、というか目の前の光景からして今は授業中らしく、教室内には沢山の子供がいた。
「心配すんなミリー。銃撃事件はタメリカのお国柄だかんな。銃声に背を向ける心構えってやつは幼いガキにも備わってんだ」
確かに、この唐突過ぎる銃の乱射の勃発を前に、子供でありながらすぐさまベランダから逃げる判断ができるのは治安が良くてはでき得ない凄技だ。
その光景は、恥じて然るべきタメリカの美徳と言えるだろう。
「ど、どうするでありますか…………ウールネスと……………仲間のモンスターと引き離されてしまったでありますよっ…………!?」
弱点とは、世界のバグである表象モンスターを修正する為に、力を授かった人間。
彼らは表象モンスターであれば例外なく定められている、弱点を突くことに長けた存在であり、その存在意義は人の身に異能をもたらし、また普通の人間とは一線を画す、身体能力と生命力を与えてくれる。
しかし、それでも彼らの枠組みはあくまでも〝人間〟。それ以上の存在ではなく、表象モンスターとは違い、通常兵器でも容易く殺せる、か弱き生物だ。
とにかく、これではっきりと分かった。強盗達の…………【ぬらりひょん】の狙いはTOP5弱点である。
相棒の表象モンスターがすぐに駆けつけれる距離に飛ばしてくれるほど敵は生易しくないだろう。そして、他のモンスターチー厶や討伐者の助けを待つには敵との距離が近すぎる。
じゃあ交戦は諦めて、一心不乱に逃げ惑うか?……………恐らく、そうすればこの小学校の子供達に、この凶弾は食いつくことになる。そういう手を使うことを想定しての、小学校への転移だろう。
「そ、そんな…………本職達…………死ぬのでありますか…………!?」
首筋をなぞるような死の気配。その存在感は確かにミリーの心を凍てつかせ、恐怖を引き出していた。パイロは慌ててミリーに駆け寄り、折れかけたメンタルの回復の臨む。
「お、落ち着け!!そんな心持ちでいたらマジで死ぬぞ!!一回深呼吸して…………」
「ダメであります!!そんなのダメであります!!」
パイロの声かけも虚しく、ミリーは更に取り乱し始めた。
「殉職なんてダメであります!!ウールネスが死んだとしたら、本職は職を失うだけでありますが……………本職が死んでもウールネスはこの職場で働き続ける……………そんなのダメであります!!大切な同僚に迷惑をかけてしまうだなんて…………そんなの社会人失格であります!!」
「…………………………」
自分とは違う常識で取り乱し始めたミリーにかける言葉を探し、パイロは黙り込む。
狼狽するミリー、その対処で頭を抱え出すパイロを横目に、ツナグは今後の動きを決めるための情報収集を始める。
こちらの能力は【解体】、【着火】、【猟銃】の3つ。ただ【着火】は能力対象が紙だけである為に扱いづらく、【猟銃】は〝狼男〟以外に使うにはただのロートルな武器。以上の2つを有効利用するには工夫の必要があるだろう。
となると主軸に置くべきはやはりツナグの【解体】。万物の繋がりに干渉する彼の能力は、今のこの状況でも抜群の応用力を発揮する。例えばドアを〝解体〟すれば盾の材料として申し分ない板を即座に調達する事ができ、強盗達に使えばその装備を全て取り上げることができる。
相手は5人にアサルトライフル5丁。こちらは3人で、飛び道具は拳銃3丁と猟銃1丁のみ。人数と装備の差は歴然であり、銃撃戦を挑むのは論外だ。
やはり、こちらの勝ち筋は、やはりツナグの【解体】で敵全員の装備を剥奪し、無力化するに限るだろう。
しかし、直接手で触れるという【解体】の発動条件を満たすには、相手の装備は分が悪い。遠距離攻撃が本領の敵に無策で肉薄するのは無謀というもの。
加えて敵は、徹底的な事にその【解体】の対策をしているらしい。
「よっしゃほら!!グズグズせず行ってこい!!」
「無事逃げ延びたら飯奢れよ!!」
「労う側はお前らでしょうが!!」
強盗達の内の一人が不機嫌そうに、残りの強盗達によって一人前に送り出される。
一人が先行し弱点への攻撃を仕掛け、残りの4人は後方で待機するという陣形。意図は間違いなく、ツナグの【解体】で全滅するのを防ぐため。その一人を倒すために廊下を出てしまえば、そいつを倒すことができても後続の4人からの集中砲火を受けてしまう。…………この動きをしながら接近して来ることはこちらに制限時間を押し付ける事にもなり、非常に厄介だ。
だがこの一連から、ツナグは打開策を構成するいくつかの情報を手にした。
まず一つはその親しげな応酬からして、彼らは【ぬらりひょん】による寄せ集めでなく、旧知の中である可能性が高いということ。
これは先行した1人への誤射を恐れ、後続の4人が発砲 をためらうかもしれない事を指している。もっとも、先行した1人が嫌そうな顔をしている辺り、彼諸共射撃する事は想定されてるので、過信はできない。
もう一つは、彼らの主目的は、TOP5を失墜させることではなく、金であること。
これは前記の内容とも一部重複することだが、彼らはTOP5を殺す事そのものにはモチベーションを感じていない。弱点を思想的な理由で殺したがっているのならば、最前線に出ている一人が消極的である理由が成り立たないのではないだろうか?
では何故、そんな危険な役回りを嫌々と行っているのか。
会話内容からして、恐らく依頼人から、その役を買ってでた人間への報酬に色をつけることを約束しているからだと考えられる。
重要なのは、彼らは金が目的ではあるが死ぬつもりは毛頭もないであろうということ。つまり、先行している1人が倒されても、すぐには同じ陣形を組む判断ができない、という目算が成立することだ。
情報はもう充分。既に作戦は立てられた。今すべきことは、すぐにでもそれを実行に移すこと。
「本職は能力にかまけ、【ENCHANT】もまともに使えない無能であります……………ツナグ殿やパイロ殿と同じ役職でありながら、お二方のように優秀でないのでありますぅぅ〜……………」
「冷静になれ!!TOP5でも1級討伐者はツナグと俺だけだろうが!!」
限界を迎えて泣き出したミリーと、意味わからない泣き方をする女子の慰め方に困るパイロに、ツナグは近づいていく。
「作戦を立てました。ただその詳細を伝えてすり合わせをする時間はありません。僕を信じて指示のすべてに従ってください」
一歩を違えばその先は死。混乱も必至のその死線に立ちながらも、ツナグは冷静に、2人への指示を行った。




