骨頭が飴をしがむ
「ニャハハ!!今日もお疲れ様だぜぇお子様方!!キャンディ欲しいお子様は手を挙げなぁ0!!」
クレイで作りあげた土嚢の裏、様々な物資や機械が置かれ、万全の体制が整えられたその場所に彼はいた。
「ハイ!!オレ食いたい食いたい!!3個くれ!!」
「本職は遠慮しとくであります突入までに舐めきれないと思うので」
「確かになァ!!やっぱオレも止めとくぜェ!!」
【狼男】の会話を見てケラケラ笑いながら、彼は懐からキャンディを4つ取り出し口に放り込む。
底抜けに明るい口調、明らかにキャラを立たせに来てる独特の言い回し、他にも境遇やらアラボネやら変わった所の多い彼だが、最も印象的な特徴を挙げろと聞いて回れば、それは肉の張っていない頭蓋骨だけの頭であると、誰もがそういうであろう。
「あら、パルトコーツさんじゃない。現場監督がアラボネだったから、ああ今日の運勢は最悪ねと嘆いていた所だったわ。2人が一緒だなんて珍しいわね」
「オイラと兄様をくじ扱いするなよ〜マミィのお子様…………ま〜なんだ、今回の事件はとりわけヤベーからなぁ、【メッサーズスケルトン】集結もやむなしだわな!!だってぜってー関わってんよ【ぬらりひょん】!!」
その明るい調子を崩すことなく、パルトコーツはキャンディをバキバキと噛み砕く。何度も大きく口を開けて咀嚼して、歯の端からキャンディの破片をこぼしながらも、キャンディの単純な甘みを体内へと溶け込ませていく。
頬の存在意義を分かりやすく教えてくるようなパルトコーツの食事シーンだが、この奇妙な光景への関心すらも告げられたその嫌な名のプレッシャーには負ける。バンタンは少し萎縮してそれについて聞いてみる。
「やっぱやっぱぁ………【ぬらりひょん】関わってるんですかね〜……………」
「消去法に近いけどほぼ確定だな〜。他に銃の密輸なんて芸当できんのは、オリヴィア教の連中くらいなもんだけど…………修道女達でもフリムホーツの結界を痕跡を残さずこじ開けるのはムズいし、中と外で通信が断絶されている以上大まかな連携しか取れないから作戦に粗もでやすい……………とにかく小遣い欲しさで手を出すにはリスクでかすぎるんだな。余程の入り用だとしたって、商品がアサルトライフルってのはないよ〜。麻薬のが存在を別の物とか街の暗部に紛れ込ませるしで都合がい〜じゃん?」
パルトコーツの説明に納得しながら、バンタンはけたたましく戦闘音が鳴る銀行の方に視線を向ける。
──リアクションの意図としては、バンタンだけでなく、マミィもウールネスも、理解しているもので。戦いの中で、死のリスクをベットしているのは自分達でなく、自らの弱点である事実を、今しがた握り直した。
「この密輸の意図って奴で一番しっくりくるんは、やっぱ君等様方……………TOP5様方をおびき寄せる罠なんだな。じゃ、作戦を説明するから耳かっぽじって謹聴なぁ〜」
そして、3対のレベル4モンスター、そして5名の銀行強盗を討伐し制圧する。その作戦会議が始まった。
最初に説明を受けたのはレベル4モンスター3体、【ヒーローのモンスター】、【目潰しのモンスター】、【銃殺のモンスター】。
【ヒーローのモンスター】は凄惨な虐殺を目の当たりにし、膨れ上がった義憤から化けたモンスター。能力はシンプルで、身体能力の向上と、予備動作の大きいレーザーの2種類。迫撃戦で優位に立てる【狼男】が担当することを推奨。
【目潰しのモンスター】は虐殺に性的興奮を覚える変態への忌避感から化けたモンスター。その能力は一定距離間にいる生物の目を遠隔で潰すこと。背中から鞭のようにしなる触手も生えており、その射程も長い。多彩な中遠距離攻撃を持つ【ミイラ男】が討伐を担うこと。
【銃殺のモンスター】は上記2体のモンスターに対抗し、そして殺害すべく化けたモンスター。その能力は、辺りの物を弾丸に変え、放つこと。威力も高く、そのモチベーションや身体能力の高さから、最も死亡リスクの高い相手。生存力の高い【フランケン】に対処してもらいたい。
「と言っても、レベル4モンスターなんてTOP5のお子様方は何百体も倒して来てるわけだし、3チームも派遣してんなら、いつも通りやれば確実に討伐できる。…………だから、そのいつも通りを発揮できるよう、優先して対処すべきは強盗様方だなぁ〜」
ざっとモンスターの能力を解説したパルトコーツは、続いて他の討伐者が持ってきたデバイス、懇虫【プロペラ】が銀行内を俯瞰する映像を見せてきた。
「ちょ~ざっくり説明すると、今モンスター様方は三つ巴の大怪獣バトルを繰り広げてて、怯えた強盗様方は、カウンターの奥で身を寄せてプルプルしてる感じだ!」
【プロペラ】が映す銀行内の状況は酷い有様であった。【ヒーローのモンスター】、【目潰しのモンスター】、【銃殺のモンスター】が、各々技を繰り出し、躱し、相殺し、辺りを瓦礫へと、死体を肉の欠片へと、よりカオスに凄惨に場を変えていっている。
そして強盗は、カウンターの裏で身を隠し、気配を消している様子。…………ただチラチラと抜かりなく外確認している辺り、ただ怯えてるだけじゃなく、何かを待ってるようにも見える。
多分、到着からこの場所まで、遮蔽を扱って姿を隠すように移動してきたのは、この素振りに気づいての事だろう。
「勝負はモンスター様方がお子様方に関心を持つ前に速攻で決める。表から入ったバンタンのお子様率いるTOP5モンスターと、裏口からオイラ達討伐者部隊による挟撃で、強盗様方を皆殺しにすんぞぉ」
パルトコーツが立てた作戦はこうだ。まず表からバンタン、マミィ、ウールネスが銀行内に突入し、入ってすぐにあるソファーの残骸を中継地点として隠れる。そこからすかさずバンタンが手を強盗のいるカウンターに投げて、〝戻る力〟にて接近し注意を引きつけ、そしてバンタンに意識が向かったところで、裏から回った【メッサーズスケルトン】先導する部隊が斉射し制圧……………という流れ。
「うっへぇ〜……………間近で人が死ぬのぉ‥‥‥‥?やだやだ〜……………………」
「バンタンのお子様の役目はあくまで囮だから、肉薄できたら目を瞑ってていいぜぇ〜!!皆殺しは大人達に任せとけぇ!!…………んで、マミィとウールネスのお子様方は、強盗様方を片付ける間にはモンスターに邪魔されないよう備えていてくれよな!!」
流血沙汰が目の前で起こることが確定したバンタンは機嫌が悪そうだ。ただその役割は自分が最も適していると理解しているので、込み上げる嫌悪を我慢して臨む覚悟を決めた。そしてマミィとウールネスと一緒に、【プロペラ】の映像を映したデバイスを覗き込んで構造を先んじて確認する。
「…………あン?ウィリアムじゃねーか。いや確かに【メドゥーサ】呼ばれれてたけどよォ…………なんで死んでんだ?」
そのウールネスの発言を聞いて、弱点陣もデバイスに殺到する。
画面の奥には、レベル4モンスターの三つ巴大バトルの渦中で血を流しぐったりとしている〝メドゥーサ〟……………ウィリアムの姿があった。
『……………………………』
一同は絶句した。自分の実力も、役割も理解できず特攻し無様にやられるような間抜けなど普段想像だにしないものだからだ。
確かに、現場の端っこの方でフィリップが肩身狭そうに突っ立ってるなとツナグは思っていたが………………てっきりウィリアムはとうに見放されていて一級討伐者の頭数としてフィリップだけ必要とされていたのだと考えていた。…………どうやら見放されるのはこの後のことだったらしい。
「……………多分こいつ、討伐の円滑化と、マミィらがやる強盗制圧までの時間稼ぎを役割として呼ばれたんじゃねぇの…………?」
「自らの分もわきまえられぬ無能…………本当に辟易であります……………」
ウィリアムが与えられた役目をキチンとこなせる表象モンスターであったら、一体どれだけの事件を安全に解決させられたのだろうか?
パイロとミリーの悪態も当然の、カス過ぎる仕事ぶりだ。
「ウィリアム•サラグリルの事は放っておきましょう。本当の問題はここからの筈です」
閑話休題を促すアラボネの声色には呆れた様子がなかった。多分とうに後でブチギレる予定を立てているから既に切り替えてるのだろう。
一同がウィリアムの事を一回流したのを見計らい、パルトコーツが説明を再開する。
「でだ、ホントここが一番重要なんだが…………弱点のお子様方を中と外、どこで待機させるのかを決めあぐねてるんだよ、オイラ達」
「………………奇襲の警戒の仕方に迷ってる、という事ですか」
「|That's right 《ザッツラ〜イ》………………」
ツナグの換言を、パルトコーツが困った様子で肯定する。
「ハイッ!!イマイチピンとこねェから説明頼むぜ!!」
「正直で偉いッ!!ガチ重要な判断だから皆しっかり理解して熟考してくれな」
話に置いてかれた事を敏感に察知したウールネスは挙手して具体説明を求める。パルトコーツはそんなウールネスを褒めてから仔細を語った。
「まずこの強盗事件を、【ぬらりひょん】の策謀と仮定して、それがただアサルトライフルを持ったパンピーをぶち込むってだけとは考えにくい。多分このアサルトライフルってのは弱点を殺す為の用意であり、銀行内のどっかに潜伏してる敵性表象モンスターを通す為の起点なんじゃねーかと思う」
外に伏兵がいるなら、作戦会議中が好奇の筈だし、狙撃手がいるにしては誰も殺意を感じとっていない。
となれば、敵が罠を仕込んでるとしたら、それは銀行内と考えるのが妥当だ。
「勿論銀行内は【プロペラ】ウン十体飛ばして隈無く探しきったぜ?部屋も物陰も死体の裏までキッチリと。なんも異常がなかったからオイラ達逆に困っちゃってるけど…………」
「───死体のフリをしている可能性は潰しているのでありますか?」
「あぁ〜……………まぁな。それに関してはホントに心苦しかったが、状態のいい仏さん方にはその辺の瓦礫を体にぶっ刺しといたから……………警戒さえしてればそんなに怖がる必要はねーぜ」
倫理的にヤバい処置について考えることをやめながら、一同は情報を元に思考の深化を続ける。
「───これだけ捜索して敵様方の存在の糸口が見えないってのなら、なんかしらの能力で隠密してる可能性が高い。………ま、いずれにしろ問題なのは、相手が表象モンスター狙いなのか、それとも弱点狙いなのかがわかんねーってこと」
奇襲を警戒し、後手に回って立ち回ろうというならば、相手の狙いをあらかじめできうる限り正確に予測しなければならない。それもなしに敵の罠にかかるというのは間抜け以下の愚策だ。
「……………あ〜…………確かに確かに、〝解体〟はともかくとして、〝着火〟や〝猟銃〟の弱点は事前準備してれば奇襲でつくことできるよね………………」
「けど〝酒呑童子〟と〝朱雀〟はバンタン程じゃないけど準備とか意味ないわよ?来るかも分からない標的への備えよりも、弱点一点狙いの方が合理的なんじゃないかしら?」
「マミィとウールネスを討伐する装備と人間を殺す装備は兼ねられなくもないし、そもそも弱点なら表象モンスター能力でも殺せる。お前らの弱点をつく準備がない根拠としては不足してるんじゃねぇかな?」
会話のボルテージが上がっていく。当たり前だが、出せる意見を出し尽くす勢いで作戦を建てねば、この場の誰かが作戦終了後には死んでるかもしれない。空気が徐々に張り付めていく。
「えー…………要するに、表象モンスターを庇う動きがしたいなら弱点をより近く、つまり銀行内に配置したくて。逆に弱点を庇いたいなら、安全と目される銀行の外で様子を伺いたい、という感じでありますかね」
ミリーは議題の目的、要点を簡潔にまとめて、混乱し始めた状況を一回纏める。そしてそのタイミングでアラボネは口を開き、TOP5にこう求めた。
「この問題の結論は出なかったのではなく、出さなかったものです。何故なら、この判断は他でもない貴方達の命に関わる判断。己の実力を熟知する貴方達の意見を取り入れ作戦立案することが万全の用意であると考えました。───責任転嫁をするわけではありません。最終決定は大人が担います。だからどうか、意見が固まり次第、恐れずに教えてください」
そう真っ直ぐと言い放ったアラボネの思いに、真っ先に応えたのはツナグであった。
「………………頭を撃たれなければ。例えば弱点の誰かが臓器を潰されたとしても、パイロは目を開ければある程度【ミイラ男】の火力を扱えますし、ミリーは横になりながらもがらでも正確にウールネスを狙えるので【狼男】のパワーをそれなりに維持できる筈です。───僕に関しては、内臓が潰れたくらいならそこそこ動けます」
最初に語ったのは弱点が狙われ、負傷した時を想定した話。言いながら無理やり噛み締めるように自覚していく、言葉に責任を持つなら、本当に臓器を潰されても激痛の中走らなければいけないことを。
表情が強ばる。警鐘のように心臓が早鐘を打ち、気がつけば汗が背中をグッショリと濡らしていた。
しかし、一度口から走らせた言葉は簡単に後戻りさせられない。そのような行動は決して正しくない。脅されているように、自身が自分に向けた脅迫に従って、ツナグは続きを話す。
「ただ、マミィとウールネスが弱点を突かれてしまったら、絶命を避けれても戦闘不能は確実です。だから、僕は2人を庇える動きをした方がリスクが低いと考えています。………何より僕らは、表象モンスターと弱点は、一緒にいた方が強いです。万が一の時は、僕がパイロとミリーを守りますよ」
パイロが、マミィが、ミリーが、ウールネスが、……………そしてバンタンが、ツナグの意見を首肯し、それを自らの意見で軽く飾り立てて、総意として押し上げる。
話は断片的にしか覚えてない。ただ、僕ら弱点も銀行の中に、バンタン達に随伴する形で突入する運びになったのは理解できている。
とっくに分かっていた。自分が後悔してしまうことくらい。分かっていたけど、そうする判断を僕はした。
パイロとマミィがいつものように、何故かよく分からないが罵り合いながら歩き始めた。
ミリーがツナグの横を過ぎていき、背中を叩かれるの後、ウールネスの横顔が視界によぎる。
「ツナグー!!はよ行くよ行くよ〜!!」
ボーッとしていると思ったらしいバンタンが、目の前で手を振って声をかえ、それから前に出て手招きをする。
「…………はい、行きましょう」
ツナグの前を行く仲間たちに背中を押されて、ツナグはその戦場へと足を踏み出した。




