ジャンジャジャーン
新暦106年 1月26日 2:21PM
フリムホーツ州 ノースタス南部 カネモーバンク ノースタス支店
「ああああああンッ!!あンッッ!!イッちゃうゥゥゥゥゥゥッ!!キャァァァッ!!!」
「り、リーダー……………あんまり殺し過ぎると人質の抑止力が…………」
「ヤダッッ!!ボクもぉずぅぅぅゥゥッとガマンしてきたのッ!!押さえるだなんてムリムリィィィィィィィ!!あァァァァァァンッッ!!」
リーダーが強い殺人衝動を抱えて生きてきたのは、かねてより知っていた事だったが、ここまで頭どうかしていたとは思わなかった。
無抵抗の人間にアサルトライフルをワンマガジン全弾叩き込み、血が吹き出る様子に嬌声を上げるこの光景。足首までずり下ろしたパンツを履き直す事なく、滑らせるように足を運び目をつけていた別の人間の元へ向かっているそんな姿など、短くない年月を共にしていても予見は至難だっただろうが。
「や、やだっ……………やめてッ」
「やめニャァァァァァいッッ!あンあァァァァァァンッッ!!」
辛抱強さの欠片もないリーダーは、今度は頭を狙って即死させた。そして、原型がなくなって尚リーダーは弾丸を放ち続ける。水たまりに泥を投げ込むように、血飛沫は高く飛び散って、リーダーはそれを避けもせず全身で受け止めていく。そして、血肉の塊を見下ろしてニンマリと恍惚とした表情を浮かべ、空になったマガジンを噛み締めるように取り替えた。
「おーい!!金は手に入れたぞー!!………で、これからどうする?女でも2,3人剥いて残虐性アピればもっと沢山来んじゃね?」
「そんなのリーダーの一手に担わせとけばいいよ……………俺らはいつ来てもポジショニングできるように備えとかないと…………お前らは1回座って休め!!」
3人の仲間が金でパンパンのバッグを持って、こちらに来る。ただ、彼らは金の受け取り役であり運搬役。今の段階で金を持ちながら動き回られ体力を使われるのはマズい。指示させるには絶頂しすぎてるリーダーの代わりに、多分No.2の位置にいる男が指揮を取る。
彼ら銀行強盗の一味の作戦はまだ序盤も序盤、本当の難所はここからだ。
残虐極まりない悪事を恬然とこなし、その上更なる企みまで秘めている……………そんな強盗の一味の様子を、その男はまじまじと見ていた。
彼の傍らには男の妻が………………最も今表現するならば血の滴る肉塊と言うべきか、ともかくそれの隣に座りながら、腹の奥底から脳まで駆け登り、目元にまで巡った、ドス黒い感情……………怨嗟と義憤を全身で煮詰めていた。
果たして、このような暴挙が………………欲望の赴くまま人の命を弄ぶような下衆が息をし続ける、この惨たらしい惨状が存在していいのか………………?
断じてその筈がない。奴らには必要な筈だ。天誅が。奴らを裁き、相応の苦しみと後悔を与える、正義のヒーローが。
しかし、待てど待てど、ヒーローはやってこない。この場に颯爽とカッコよく現れ、皆を助けるヒーローは、やってこない。
時間ばかりが先を進み、悪人は今も尚眼前でのさばり、悪行はつらつらと重ねられ続けている。
ヒーローはやってこない。ヒーローはやってこない───
───そうだよな。………………だって、ヒーローはオレなんだから。オレが動かないから、悪は栄えて無くならない。
「なぁリーダー!!賢者タイムはまだか…………!!」
「やぁ…………おねぇえぇちゃん?おまた………………くぅ…………ううううううう………………ぅすきぃ………」
「まだ愚者だクッソォ!!」
リーダーは、もうずっと。ずぅぅぅぅぅぅっと入店したその瞬間から、彼女で遊ぶ瞬間を心待ちにしていた。美しい、自らの好みのど真ん中の美貌とスタイル。この夢にまで見て待ち望んだ時間に、上位存在が気遣いセッティングしたとしか思えない程に魅力的な彼女、自分の運命の人と踊るその時を。
今にも感受性が破裂しそうだ。そんな気持ちでいながら彼女に手を出さなかった理由は、弓の原理に近しい。ためにためて、最高到達点に達するまで耐え抜いて、そうやって思いを募らせた時間だけ、解放の瞬間はより甘美となるのだ。
「あ、あ、あ…………足からかぁあ?んっ……………じっくり………じっくり……………たべなきゃもったいなっ……………もったいないなァ!?」
今にものたうちそうな己の感慨を必死で抑え込みながら、男は食べ方をじっくりと吟味していた。
その女は、もうずっと…………彼が入店したその瞬間から、男の視線に気づいていた。欲と括るのもおぞましい、人よりも、獣よりも、ずっとずっと残酷で悪辣な物を湛えた───目の使い方。悪魔の手指に撫でられるようなその嫌悪感に女は震えていた。
逃げ出したいと思った。それは予知にも等しい危険信号、それに従わなかったから、今こうして惨たらしく殺されるハメになっているのだろう。
「い、いくよぉ……………イクよぉお…………?さん………………にぃ………………」
その悪魔は女の足に銃口を擦り付けながら、ゆっくりと女の様子を観察しながら数を数える。
悍ましい視線が絶えず浴びせられる、恐怖で動かない体に、瞳に、その視線が流し込まれていく。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い………………………
そんな目を私に向けるな。お前のような虫すら似つかない、汚らしい精神性の造形を、私に、私に…………………
「アッ、タッ………シをみィイィるなァッッ!!!!」
心の打鉄が弾かれる。喉を焼きながら駆け登る、自分の物とも思えぬ絶叫が、悪魔をつんざき───
その汚れきった両目が爆ぜさせ、血の風を生んだ。
「アッッ…………!?ぁああぁぁぁぁあぁ!?!??」
かつてない痛みが、痛みが、走り抜ける。
目を焼き切る漆黒で視界の全てが征服され、脳が衰え知らずに鳴って止まない。
「えっ!?り、リーダー!??」
アサルトライフルを床に落とし、潰された眼球を押さえながら必死に這うリーダーを残りの一味は目にする。
正確には、内1名は別の男を……………七色の爆風を背後に上げながら、ポーズを取る覆面スーツの男に釘付けになっていた。
「………………????」
この惨状に適しているようで場違いな、ヒーローのような装いの男の登場に、強盗の男は疑問符を浮かべ困惑するしかなかった。
「…………お前ら、悪事を働くだなんて、カッコ悪いと思わないか?」
「…………………は?」
その脈絡もない、コスプレ男の発言に、強盗の男はあっけらかんとする。目の前の男を会話から置いていっている事実に気づくことなく、コスプレ男は台詞を続ける。
「カッコ悪いということは…………悪いということ。すなわち良くないことだ。お前にこの意味がよくわかるか」
「えっ……………………え?」
一言一言が強盗の男を理解から遠ざける。そしてどうやら話の結論が近いのか、コスプレ男は動き始める。
足を大きく開いて腰を落とし、両手を水平に広げ、天井を真っすぐと見上げるような、奇怪なポーズ。
かける言葉も見つからぬまま、コスプレ男はまた口を開いた。
「カッコ悪いお前らは………………カッコいいこのオレがお仕置きだあああああああああああ!!!!!!」
唐突に声を張り上げ、叩きつけた本題と同時に、男はそのポーズを維持したまま、足の裏が滑走を始めてその場で回転。
その回転は徐々に風を生み、渦を巻き、竜巻を作り出す。
【スーパースピントルネードロングロングハリケーンアタァァァァァック】
自信満々に放った技名を共にして、【ヒーローのモンスター】は全てを引き裂く風を纏った突撃を放つ。
「見てンじゃエぇぇぇえエェェェェェェェ!!!!!」
そしてリーダーの目を潰した【目潰しのモンスター】も、いきり立ちノソノソと強盗の一味へ近づいていく。
「う、嘘だろ?モンスターが……………2体も…………!?」
【ヒーローのモンスター】が現れた事にも気がついた強盗の一味は、この状況に戦々恐々。身動きする心の余裕もなく立ち尽くす。人質として待機させてた者達が混乱に乗じて、いや、恐らくそのような意図なしに強盗以上の命の危険を前にして逃げ出していく。
「何見てンだオオオオオオオオン!!!??」
「格好いいヒーローが悪を見逃す筈なァいッッ!!!」
そしてお互いの高い化質に引かれ合ってか、【ヒーローのモンスター】と【目潰しのモンスター】が戦闘を始めた。
「ヤバいだろこれっ…………!!は、早く逃げねーと!!」
「バカッ!!逃げ切れるわけないだろ!!幸いモンスター同士でやり合ってる……………ポジションで隠れて待つぞ!!…………それでいいよなリーダー!!」
正気を失い、視力も失い……………役目である指示出しすら仲間に任せ、形無しなリーダー。
しかし、彼の心には失意も、恥じらいもなかった。
ただ彼が感じているのは───
「モンスター……………じゃあ……………銃じゃ殺せねーじゃん…………………」
待ちに待った晴れの日を、打ちのめされた絶望。そして、それを覆したい。そんな強い克己心であった。
「え?…………………リーダー?」
彼が求めるのは〝殺戮〟。殺める事は己の命の存在を確かめる、ただ一つの術。だからこそ彼は銃に憧れを覚えた。武器という殺すためだけに生まれた存在の頂点、殺害の理想形。
そう、銃は何よりも素晴らしく、美しい。それを追い求め続けた彼は、遂にその姿を己の肉体にて捉えた。
「………………今までのボクではアナタ達を殺せないので。アナタ達を殺せる新しいボクへと生まれ変わりました」
理性をその辺に投げ捨てたような言動とはうって変わった。知的さすら感じる振る舞い。リーダーは【銃殺のモンスター】へと化けた。
「うおおおリーダー!!すげぇ!!すっげぇ!!」
***
「というのがこの事件の大まかな概要です。質問当あれば挙手を願います」
アラボネは人質や目撃者の証言を軽くまとめた、簡単な説明を終え、質問がないか確かめる。
【フランケン】、【ミイラ男】、【狼男】、のウールネスを除く一同は何か言いたげな顔をして互いの顔を見合う。
ウールネス以外の者達には引っかかったところがあった。ただ、その妙な点は流していい情報じゃなさすぎて、それは逆にちょっと突っ込み難かった。
ただこうやって変に様子をみている程余裕のある状況ではない。パイロが一同を代表するように手を挙げ聞いた。
「えっとぉ………………俺らは確かに無線では拳銃で武装した銀行強盗って聞いたたんすけどぉ………………アラボネさん、なんでアサルトライフルなんて言葉が出てくるんです?」
「あっ!!そうじゃんそーじゃねェか!!じゃ誤報だ!!早く訂正しなきゃいけねーンじゃねーの!?」
強盗の装備が拳銃でなくアサルトライフル……………パイロの指摘を受けて、アラボネは申し訳なさ気な表情をする。そして、遅れてその間違いに気づき、騒ぎ出すウールネスにその一言を送った。
「その必要はありません。誤った司令を流したのは意図的に行った事です」
『………………………………』
これもまた予想通り。今度はウールネスも含んで一同は言葉を失う。
「貴方達TOP5であれば理由に察しがついてると思いますが、一応説明させていただきます」
鈍いウールネスも多分その意図をなんとなく理解できるているようなので、なら説明しなくていいよと全員思っているが、こういうモードに入ったアラボネは下手に動けば動くほど裏目に出る底なし沼のようなものなので諦める。
「ご存知の通りここフリムホーツ州では、拳銃よりも殺傷能力が高い武器、対象が装備しているライフルやマシンガンなどの銃が禁じられ、厳罰に対応されています。その理由は希少かつ替えの利かない人材である弱点を保全する為、ひいては非公的機関であるOliverの治安維持組織としての力関係を守るためです」
〝拳銃〟という基準は、弱点や討伐者が、一般人と同レベルの武装で戦闘した際に、概ね勝てる位の勝率に収まるラインだ。
化質の存在を知覚して駆使する弱点や討伐者は、一般人とは比べ物にならぬ身体能力を獲得しているが、それでも人の領分は抜け出せない。
認可されている拳銃ですら、油断や状況次第で容易く彼らの命を奪い去ることが可能であり、ましてやそれ以上の武器であれば、殺害は難題ではないと言える。
弱点は勿論、討伐者も鉄砲球のように安く使い潰せる人材ではない。彼らの犠牲は、そのままフリムホーツ州の崩壊………………そしてタメリカという国家の滅亡に直結する。
だからこそ、ここフリムホーツ州は一部の反対を押し切りながらも、厳重体制で銃器を取り締まっている。全ては市民の為だとうそぶいて。
それでみすみすと危険な銃器の密輸を許し、こうして一般市民に多数の死者を出してしまったら?
Oliverという組織の存亡に関わる、致命的な失態と言えるだろう。
この話はいつだかの授業で何度かアラボネに語られたもので、記憶に印象深く残っている。今まさに全く同じ話をされたので、多分彼らは死ぬまで忘れないと思う。
「繰り返すようですが、Oliverは世界的に展開されている歴史ある組織ではあるものの、国家に表立って認められている公的機関ではありません。後ろ建てとなるのは国ではなく実績。この事件は10年尾を引くような、Oliverの汚点となり、組織を破滅に導く傷になりえる……………大きな出来事なのです」
「だから……………隠蔽するんですね………………」
「────はい」
ツナグの核心を突く発言を、アラボネ少し躊躇いながら肯定する。
「オリヴィア教の【忘却と創世】の力は、隠蔽に秀でた代物です。今回の件も被害者や周辺住民に力を施し、犯人の武器はアサルトライフルでなく拳銃であるという認識に改竄しています。この【忘却】の効力を万全にする為に、オリヴィア教とは別にOliver側からも事実の隠蔽を行います」
「その最初の一手となるのが無線情報の歪曲というわけでありますか……………つまるところ、この事件の正確な全容を知るのは、作戦に参加した人員のみにしたいのでありますね……………」
「いえ、この作戦に参加していないTOP5、チーム【酒呑童子】とチーム【朱雀】にもこの事実は共有されます。逆を言えばその他の作戦に参加していないモンスターチームや、当然一般人にも、この件を匂わせる事すら許されません」
平然と……………いや、平静を装ったアラボネの発言はからは、組織の合理性から派生する残忍さを感じた。納得し難い指示ではあるが、相応の理由がある以上無視はできない。
ツナグは一瞬渋い顔を見せ、すぐさま取り繕う。ただ感情表現の豊かなバンタンは、嫌そうな顔をやめられていない。自分の判断でこの重大な指示を無視しだすような愚か者ではないが、考えてることが表情に出やすい為勘付かれたりしそうなのは少し不安だ。
ウールネスが呑気そうに自分の疑問をツナグに問うてみる。
「アサルトライフルってそんなにヤベェの?、ツナグは拳銃なら憶想具で弾けんだよなァ?だったらアサルトライフルもいけんじゃね?」
「僕を何だと思ってるんですか…………………」
「銃で撃たれても死なねェタフな奴!!」
拳銃の弾速は秒速300m~400m程、対するアサルトライフルは秒速700m~1000mとほぼ倍の弾速だ。連射性も加味すれば、それらの殺傷力の差は即物的な比較に値しない位に大きい。
ツナグは憶想具の1つとして防弾チョッキを着用しているので、胴を集中砲火されても恐らく生存はできる。ただ頭を狙われたり、隙間を抜かれたら話は別で、そうなってしまえばやはりなすすべなく即死してしまうだろう。
稀代の天才も、積み重ねられた技術の粋には敵わない。ならば、彼を下回る全ての者が、太刀打ちできる訳がないのだ。
といっても、これは真っ向勝負の正攻法での話。それにこだわらなければやりようはある。例えば───
「……………というか。話を聞けば聞くほど【酒呑童子】案件な気がしてならないのだけれど……………【酒呑童子】を使わず態々TOP5を3チームも動員してるのはなんでかしらアラボネ」
マミィの指摘は正しい。レベル4モンスターの複数出現。加えて、人間が対処するには厳しい武装集団の存在。地獄のようなシチュエーションだが、【酒呑童子】の長所が遺憾無く発揮される場面でもある。
【フランケン】か【朱雀】のどちらかが補佐に入る必要あるだろうが、それはあくまでも保険としての役割で、制圧は【酒呑童子】だけけでも可能。
兎に角、この案件は【酒呑童子】が対応するのが一番安全で軽微な被害に抑えられる筈なのだ。
だからこそ、おかしいのだ。【酒呑童子】がこの現場に配置されていない現状は。
この程度の采配もできない無能な組織が、1年前の大損害から今日まで組織を維持し続けれた筈も無い。
「二人に何か……………何かあったてこと………………?」
バンタンが不安そうにアラボネに聞く。そしてアラボネは、寄せた眉の溝を更に深くしながら
「………………シジミ•クリスプが風邪を引きました」
と、短く言った。
『ああ〜………………………』
驚きや心配よりも先に一同は納得をし、呟くような声をあげた。
モンスターチームのパトロールの業務は2交代制。
8:00AMから6:00PMまで日勤、6:00PMから7:00AMまでの夜勤に分かれている。
本来この仕事のシフトは最低でも週に3回、チームごとの予定や意思によって決められるものだが、例外的にTOP5は常に州内をパトロールできているように、ほぼ毎日働いている。
原則平日は2チーム、休日は3チームが、パトロールを行なっており、構造上平日は1チームが全休、休日は2チームが丸一日勤務する形になっている。
これだけでも相当過酷というか、仕事量と休みの比率が全く釣り合っていない頭おかしいワークライフバランスなのだが────恐ろしいのはこれに加えて平日には授業を受ける事。そして、校内のレベル4モンスター討伐を行うのは休みのチームであり、何なら校外のモンスターでも呼び出されれば討伐しにいなければいけないということ。
要するにTOP5には休日というものがないに等しい。パイロから〝週6無休〟などと皮肉られるのも当然の仕事量だなのだ。
シジミはツナグやパイロのように肉体強度が高いわけではない。
TOP5の弱点の中で、最も一般人に近しい凡人を挙げるならば、当人も含めて皆シジミというだろう。
ただガッツというか、血の気の濃さは実力以上で、骨折したり、立ってられないくらいに疲れが溜まっても、これまで一度も仕事を休むことはなかった。
だから、いつかはこうして肉体が限界を迎える日が来るのではないかとは、皆前々から思っていたのだ。
「やっぱ、【酒呑童子】とか、【フランケン】に仕事回し過ぎなんすよ……………負担かけ過ぎてるのも問題すけど。本当に必要な時に必要な人員を配置できてないのはマズいですって」
「そうよ!!本当に危険視しなければいけないのは、被害を軽微に抑えることじゃなく、私たちTOP5が欠けてしまうことじゃないかしら!?私が疲れきって、ちょっとくらい美貌が削がれた所で大したことないわ!だってそれでも充分美しいのだから!!何とかしなさいアラボネ!!」
体を労ろうとしないシジミにも問題はあるが、偏った人選こそがそもそもの原因。パイロとマミィは恐らくずっと感じてたであろう不満を口々に述べる。
「そうであります!!本職らはもっと働きたくて働きたくて仕方なく、現状の仕事量が過少に感じて不満なのであります!!司令部とアラボネ殿の業務系統が異なっているのは承知しているでありますが、口添えくらいできる立場にあるはずであります!!口添え求むであります!!」
「あァ!!ミリーのいう通りだぜェ!!オレ達はもっと沢山の獲物を追いかけたくてウズウズしている!狩りがチームプレイなのは理解してっけど、もうちょい取り分をくれねェと飢えちまうぜ!!」
ミリーとウールネスの【狼男】の2人も、【ミイラ男】とは別の観点でもっと自分達に仕事を回すよう訴える。
「……………貴方方の意見はよく分かりました。私もミサカラカ•ジャンジャジャーン、シジミ•クリスプ、チーム【酒呑童子】に負担が偏りすぎているのは、兼ねてより気にかけています」
【ミイラ男】と【狼男】の訴えを咀嚼したアラボネは、その意思を暗に肯定し、自らの意見も添える。
「ミサカラカ•ジャンジャジャーンの実力はまさに別格。成人のモンスターチームでも【酒呑童子】と渡り合えるのはほんの1握りでしょう。しかし、【酒呑童子】の力はまだまだ荒削り、欠点が目立ちます」
アラボネは手元の資料を脇に挟み、空を見あげながら語りを続ける。
「その一つがシジミ•クリスプです……………彼女も優秀な弱点に違いありませんが、肉体強度の脆弱さがやはり手痛い。まだ全盛とは程遠い成長途中の年頃なので、当たり前で仕方のないの事ですが、ミサカラカ•ジャンジャジャーンの戦闘を支えきる事ができないのもまた事実。経験を積ませる意義が大いにあるとも換言できます。しかし、それはチーム【酒呑童子】を、ミサカラカ•ジャンジャジャーンという逸材を失ってしまうリスクと秤にかけられるものでは断じてありません」
大人として、子供を支えるために身を砕く心意気で働くアラボネにとって、シジミが倒れてしまったその事実は沈痛な出来事なのだろう。その口調は感情を抑え、あくまでも彼らの上司として語りながらも、心から【酒呑童子】二人を案じていた。
そして、その目線はその場のTOP5に向き───
「しばらくの間、ミサカラカ•ジャンジャジャーン、シジミ•クリスプ、チーム【酒呑童子】の2人には療法をとらせることを貴方達にも約束します。シジミ•クリスプは無論、ミサカラカ•ジャンジャジャーンにも負担をかけすぎました。そして、間違いなく、チーム【酒呑童子】を休ませることのしわ寄せは貴方達に行くことでしょう。歳若い貴方達に重荷を背負わせてしまっている事を、改めてお詫び申し上げます。ミサカラカ•ジャンジャジャーン、シジミ•クリスプの2人にも場を設けて謝罪しましょう」
何の逡巡もなく、アラボネは【フランケン】、【ミイラ男】、【狼男】の6名に、きっちり90°腰を折って頭を下げた。
その誠意に溢れた、律儀な謝意と対応の表明に、場にいたものは圧倒される。
そしてこう思う。その真面目な様子で、ミサカラカのバカみたいなファミリーネー厶を連呼するの、ちょっと面白いからやめて欲しい……………と。
なんでなのかはよく分からないが、アラボネは人をフルネームで呼ぶことを礼儀正しいと思っている。
そして、絵に描いても中々こうはならなそうなレベルで生真面目であるアラボネは、彼の思う礼儀とやらを欠く事を許さない。
故にこそ、アラボネはいつ如何なる時でも人をフルネームで呼び、ミサカラカの─────ジャンジャジャーンなどというふざけた名前さえ、平素から当たり前のように口にしているのだ。
別に、ツナグ達は笑いをこらえている、というほど追い詰められているわけではない。彼らの口元で結ばれた真一文字は何の偽りない感情表現である。
しかし───しかしだ。ほんの少し気が緩んで、魔が差したような気分の切り替えが起こった場合、一笑が漏れ出てしまいそうな────そんな気配が口周りまとわりつき主張を止めない。
繰り返すようだが、ツナグ達は込み上げる笑いの情感を苦もなく押さえつける事ができている
ただ、あと数歩というところで、人の名前で笑うという無礼千万をかましてしまう、その起こりうる現実が恐ろしくて困るのだ。
方真面目な言葉遣いから〝ジャンジャジャーン〟だなんてフレーズを楚々として放たれる、正直言ってそれはちょっと面白い。
しかし、アラボネはその事実に理解を示すことはないだろう。故の叱責を彼らは警戒している。そして、それを気にかけて、真面目に話を聞く心持ちを堅持しなければいけない事が、結構ストレスだから勘弁して欲しいのである。
そんなこんなで、情報共有は終了し、作戦を立てる段階に状況は移行した。
この仕事量と勉学を両立させるだなんてバカなんじゃねぇの、とツッコみたくなる方もいると思うのでこの場借りてそれについて説明します。
まず第一に、何故学生のモンスターチームは、州内のモンスター討伐に加えて勉強もしなければいけないのか?について。
これはひとえに、表象モンスターは恒久的な存在ではなく、時間と共に人間に戻っていくケースが少なくないからです。感情とか願いは大概永遠には続きませんからね。
表象モンスター、弱点として生きていくのは何も難しくありません。モンスター討伐の給料はかなり良くて、それだけで生計を立てるのは楽勝だからです。しかし、それはモンスターチームの場合の話であり、討伐者がモンスター討伐だけで食っていくのはかなり厳しい(州外勤務の場合モンスター発生数が少なく、州内勤務の場合でも実力がなきゃ禄にモンスターと戦わせてもらえないため)。
討伐者というのは、大体の者にとっては副業であり───かつて表象モンスターや弱点であった者でもその例外ではありません。ですので…………全く勉強をしないと困るんですよ。まともな職につけなくなって。
ツナグらが在学しているOliverハイスクールは、オリヴィア教がうまいこと認識操作して、ちゃんと学歴として記録されるようになっているので───幼稚園を最終学歴として就活に挑むというバカみたいな事にはならないんですが、ちゃんと学生達に勉強させた上で単位取得させなければ、オリヴィア教はOliverハイスクールを学校として世間に認識させられません(というよりちょっとしたキッカケで忘却の力は瓦解してしまうので、事実と認識の綾はできる限りない方がいい)。まぁ授業内容のレベルは高くないですし、シフトと被っているのなら講義サボっても出席扱いだったりと緩くはあるんですけどね。それでもある程度、社会で適応できるくらいの学力がなければ、卒業できずにフリムホーツ州に拘束され続ける事になります。
まとめると、表象モンスターと弱点達に、モンスターチーム以外の道を作ってやらないと、彼らがめっちゃ苦労する羽目になってしまうから、勉強させてるわけです。
ただ、それはつまり、生涯のほとんどを表象モンスター、弱点として生きるのであれば勉強しなくても問題ないという事であり………………TOP5クラスの実力者なら、一生同じ願いを抱き続ける事も可能です。
というか私視点、こいつら皆絶対ずっと表象モンスターでいるだろうなぁと思っています。
ですので、TOP5が行っている学業というのは、言わば規則に則っただけのただのポーズでしかなく……………出席しなくてもテストだけ出て30点くらい取れれば単位取得というかなりの優遇措置が取られています。更に言えば、単位を一切取れず卒業できなくても、フリムホーツ州で一生働き続けるハメになることはないです(除籍って事なんですけどね……………)。とにかくTOP5は別に勉強せんでもいいよとOliver側から言われています。
実際、【酒呑童子】は2人ともフル単ですが、シジミの体調を鑑みて適度に講義をサボっていますし。
〝朱雀〟も授業には一切出ずにテストだけでて単位を漏れなく取っています。【朱雀の弱点】に関してはうっかり1,2個単位落としてたりしてそう。
【狼男】の2人はもうモンスターチーム以外の生き方なんてする気がないので………戦闘訓練だけ受けて、他の授業は履修すらしてないですね。
何が言いたいかというと、ちゃんと授業出てテストで平均以上、何なら上位を取ってる【フランケン】とパイロがおかしいんです。
趣味でやってるバンタンは分かる。付き合いでやってるツナグもまぁ理解できる。
パイロはマジで馬鹿だと思います。




