チェックメイト
「夜勤の日はいいですよね………………勤務時間の4、5割は睡眠で潰せますし最高です」
「ああ…………そんで眠くない時間に机使って勉強できるのがいいよな……………夜はもう眠くて眠くて一日の勉強ノルマをこなすのキツイんだ…………」
ツナグとバンタン、パイロとマミィ。【フランケン】と【ミイラ男】の4人は、空きコマに共有スペースに集まって、弱点同士で勉強、モンスター同士でチェスをしていた。
「チェックメイト………!さぁどうするかしらバンタン…………!」
「ぬぅ…………まだまだ行けるし行けるし!!」
自陣深くに切り込んできたマミィのクイーンを、バンタンは渋々ビショップを盾にして凌ぐ。しかし、そこまで踏み入られて逆転などそう簡単にできることではなく───
「再度っ………!!チェックメイトよバンタン!!果たして崩せるかしら…………!!私の攻勢ッ………!!」
マミィのクイーンは大きく横に動き、バンタンのキングの喉元に通じる直線を見出した。バンタンは非常に分かりやすい渋面を作り、ここまで来て手が尽きた己を悔やんで、机に突っ伏す。
「クソクソぉ〜…………………」
その憮然とした様子のバンタンを見て、マミィは勝利を確信し高らかに笑う。ま隣のパイロの眉根は寄ってるが、マミィは気づかないし、気づいた所で気にしない。
影に染まった机の柄を見つめるバンタンの頭に、指先でトントンと突かれる感触が来る。ツナグではない。彼はそもそも2人の勝負にあまり関心がないし、一騎討ちに水を差す無粋な男でもない。
バンタンに手を差し伸べたのは、他ならぬ自分自身。右腕が、頭に見逃している勝機を教えてくれた。
「右腕ちゃ………………ッ!?」
右腕の指差した〝それ〟を見て、バンタンは慌ててボードの横のルールブックを引っ張り出し、紙面と盤面を交互に見る。
そして意味深に、目元を左手で覆いながらクスクスと笑い。右手で指した一手にて、マミィのミスを公に晒す。
奇兵にして騎兵、バンタンのナイトが、マミィのクイーンを死角から貫いた。
「なぁッ!?にぃ〜…………ッ!??」
ナイト………………よく分からない動きをするから使い方がよく分からなくて、盤面の賑やかしとして放置されていたこの駒が、この重要局面にて大戦果をあげる。
「私のッ…………クイーンがっ!?…………くっ………こんなのズルよ!!チートよチートッ!!」
「滅茶苦茶正常なゲームの動きじゃねぇか……………」
大げさに騒いでいるが、何の言い訳も機能しない程にそれはマミィの手落ちであった。勉強中のパイロもついついツッコミを入れてしまう。
マミィは慌てて戦線を作り直す、名前が美しくて気に入っていたクイーンの、戦果を一握りも無駄にしたくなくて。
その無理矢理な動きが、バンタンのルークが躍動する起点になってしまった。
「チェックだよ………!!マミィ!!劣勢がつらいならとっとと観念観念!!」
攻守交代、今度はマミィが影に染まった机の柄を見つめる時間。あんなにも優勢だったのに、一転して劣勢。たちまちバンタンのルークが、マミィのキングを血祭りに上げる機をうかがう、この状況になってしまった。
「…………力を貸しなさいパイロ…………あなたいつだかチェスが趣味みたいな調子乗ったこと言ってたじゃない……………」
「貸すかバカ。テスト勉強とかならともかく、テスト勉強そっちのけでやりだしたチェスの手助けなんてしてられねーよ。そんなアホに労力割けるほど俺に余裕なんてない」
「あぁー!!アホって言った!!アホって言った!!バンタン!!私たち今パイロに馬鹿にされてるわよぉ!!うわァ〜ッ!!」
マミィの悪口混じりな懇願をパイロは冷たく突き放す。パイロの発言は真っ当そのものだが、受け手がまともでなければその正常性は汲み取れない。マミィは女子特有の不利な状況で周りを巻き込み、数の利をもって押し返そうとするアレをしだした。
「いやバンタンはバカにしてねぇよ。この仕事量の中、テストで平均点を維持するとか充分頑張ってるだろうが。今どころかガキの頃から一切勉強する素振りがなかったお前が一絡げにしていい奴じゃないんだよカス」
そもそバンタンが今チェスをしているのはあくまでも休憩の一環。勉強中にマミィが誘ってきたので、一ゲームだけという約束で遊んでいるに過ぎない。
絵を描くのに飽きてて尚、明日のテストよりも目先の満足を選んだマミィとは大違いだ。
「へっへ〜んドヤドヤぁ?」
バンタンは自分を称賛する流れに上手に乗ってダブルピースでマミィに向けてドヤ顔をする。
「〜ッ!!チェックメイトォォォォォォ!!」
「こらこらぁ!!あなたの王様が討ち取られ間近!!ほれほれ!!」
怒りのままにルールガン無視の一手をバンタンが指摘。自身のルークをガラ空きなマミィのキングへ繋がる道を往来させる。
突如、机の脇に置いていた無線がアラートを吐く。それもハザードレベル5の重要な案件だ。
ツナグ達は、マミィも含めて押し黙り、無線の情報を聞き逃さないよう集中する。
この事件の発端は、男性6人による銀行強盗。男達は何百万オルもの金を強奪した挙句、拳銃でその場にいた市民を遊び感覚で多数殺害したとのこと。これだけでもレベル5に指定されてもおかしくない案件なのだが、事態は更に深刻。
強盗たちの残酷非道な行いが、人質として生かされていた彼らの感情を著しく波打たせ、レベル4モンスター2体同時出現という地獄に現場は相成った。
加えて、直後に2次的モンスターとして、強盗の内の1名がレベル4モンスターに化けたという。
レベル4モンスター計3体………複数人で1体のモンスター、というわけではない。別個のモンスターとしてなら過去最多だろう。
「…………大変そう…………ですねぇ……………」
「ああ…………大変だな。担当チームは苦労するぜ」
類を見ない血なまぐさく危険な香りプンプンの司令を、ツナグとパイロは穏やかで平和的な笑顔で聞いている。
『出動要請!!出動要請!!チーム【フランケン】!!チーム【ミイラ男】!!チーム【狼男】に出動要請!!』
『…………………………』
そのしとやかな表情を解きほぐす事なく、ツナグとパイロは無線を微動だにせず見つめる。
『繰り返す!!チーム【フランケン】!!チーム【ミイラ男】!!チーム【狼男】に出動要請!!』
「………………しゃッ!!勝負が流れたわ!!」
「いいとこだったのにィ〜!!チクショウチクショウ!!」
司令を聞き終えたバンタンとマミィは、一方は悔しがり、一方はガッツポーズを取りながら、窓の方にテクテクと向かう。
ツナグとパイロは一瞬視線を交わす。そして、一学生から転じて、【フランケン】と【ミイラ男】として、バンタンとマミィに続いていった。
毎日投稿をするのなら、もっとこういう短めの話を織り交ぜて行くべきなんだろうなぁと、執筆と書き溜めの消費量の釣り合わなさを見て思う今日この頃。
けれども1話あたりの密度を、話としての面白さを下げたくないというプライドがそれとせめぎ合っている───
断言できるのは、近い内に投稿頻度が2,3日に1回になると言う事ですね。




