表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『パンツから始まる青春とか聞いてない−−好きな子のおしっこ失敗を笑わずに助けたら、なぜか学園一ややこしい青春ラブコメが始まった−−』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/61

第40話 みずき、ついに“嫉妬してる”を隠しきれなくなる

 朝比奈みずきは、自分が嫉妬深い人間だと、できれば認めたくなかった。


 面倒くさいし、格好悪い。

 何より、そういう感情をむき出しにする女は重いと、自分で思っていたからだ。


 でも、認めたくないことほど、たいてい外からはよく見える。


 しかも最悪なことに、今のみずきの嫉妬は、本人より先に周囲に見抜かれ始めていた。


「朝比奈さん」


 昼休み、つばさが机の端に腰を引っかけて言った。


「なに」


「今日もいい感じに機嫌悪いね」


「そう見えるなら気のせい」


「いや、かなり見える」


 つばさは笑っている。

 でも、その笑い方は完全に茶化しだけじゃない。最近は、からかうついでにちゃんと本質を突いてくるから困る。


「ことりちゃんと白井くん、さっきまた話してたじゃん」


「……だから何」


「いやあ、見てると分かりやすいなって」


「誰が」


「朝比奈さんが」


 即答だった。


 みずきは思わず眉を寄せる。


「藤宮さん」


「はい」


「ほんとに一回黙ったほうがいいと思う」


「でも図星でしょ?」


 図星だった。

 だから余計に腹が立つ。


 さっき、ことりと真央は本当にどうでもいい雑談をしていた。

 現代文の先生が眠そうだったとか、昼休みが短く感じるとか、そういうレベルの話。


 たったそれだけだ。

 たったそれだけなのに、みずきは妙に胸の奥がざわついた。


 なぜなら、それが“準備の流れ”ではなく、ただの日常会話だったからだ。


 文化祭という口実がなくなったあとで、なお自然に続いている会話。

 それは、みずきにとって結構きつい。


「……わかってるし」


 ぼそっと言うと、つばさが少しだけ目を細めた。


「なにが?」


「私が、見ててムカついてるの」


「おお、今日はわりと素直」


「うるさい」


 みずきは机に頬杖をつく。


「だって、あの二人」


「うん」


「最近、自然なんだもん」


 つばさは何も言わずに聞いている。

 それが逆にしゃべりやすかった。


「文化祭のときは、まだ“イベント補正”みたいなのもあったじゃん」


「うん」


「でも今は、そういうのないのに普通に続いてる」


「うん」


「それが、なんか……ずるい」


 言ってしまってから、みずきは少しだけ顔をしかめた。

 言葉が子どもっぽい。けれど、今の気持ちには一番近かった。


 つばさはようやく口を開く。


「ことりちゃんだけがずるいわけじゃないと思うけどね」


「は?」


「白井くんも、最近ことりちゃんに対してちょっと素直だし」


 その一言が、さらに胸に刺さる。


「……それ」


「うん」


「一番聞きたくないやつ」


「でも本質」


 みずきは大きく息を吐いた。


 そうだ。

 ことりが頑張っているのも分かる。前より強くなっているのも分かる。

 でも、それだけではない。真央のほうも、ことりに対して前よりやわらかくなっている。


 それが見えるから、余計にしんどいのだ。


     ◇


 五限目のあと、教室では小テストの返却があった。


 みんなが答案を見て一喜一憂している中、ことりは真央にノートを返していた。


「これ、昨日ありがと」


「古文?」


「うん。助かった」


「役に立ったならよかった」


 それだけの会話。

 でも、その“よかった”が妙に自然で、みずきは思わず視線を逸らした。


 嫌になる。


 見なければいいのに、見てしまう。

 見てしまうから、余計に気になる。


「朝比奈さん」


 今度はレナだった。

 隣の席で答案を二つ折りにしながら、静かな声で言う。


「なに」


「今の顔、あんまり隠せてない」


「……榊さんまでそれ言うの」


「見えてるものは見えてるから」


 その言い方までつばさに似てきた気がして、みずきは少しだけ苛立つ。


「そんなに顔出てる?」


「かなり」


「最悪」


「まあ、気持ちは分かるけど」


 レナがそこまで言ったので、みずきは少しだけ驚いた。


「榊さんが“気持ちは分かる”とか言うの珍しい」


「そう?」


「うん」


 レナは小さく肩をすくめた。


「だって、今の二人は見てて分かるもの。話すのが自然になってきてる」


「……」


「羨ましいって思うのも普通でしょ」


 その言葉に、みずきは何も返せなかった。


 羨ましい。

 そうだ。たぶん、それが正しい。


 腹が立つだけじゃない。

 ただ嫌なだけでもない。

 自分もああいうふうに、理由なく話せる位置にいたいのだ。


 その気持ちを、羨ましいと言ってしまえば少し楽なのかもしれない。

 でも、口にするとあまりにも生々しい。


     ◇


 その日の放課後、みずきは一人で先に帰るつもりだった。


 こういうときは、少し距離を置いたほうがいい。

 ことりと真央が話しているのを見て、また変な気持ちになるくらいなら、自分から離れたほうがましだ。


 そう思って鞄を持ったときだった。


「みずき」


 真央に呼ばれる。


「……なに」


 なるべく普通に返したつもりだった。

 でも、少しだけ声が固い。


「ノート、昨日の続きあるなら今返すけど」


「昨日の続き?」


「数学」


 ああ、それか。

 たしかに昨日、放課後に少しだけ聞いた問題の続きがあった。


「……別に今じゃなくていい」


「そうか?」


「うん」


「じゃあ明日でも」


「真央」


 気づけば、少し強い声が出ていた。


 教室の空気がわずかに止まる。

 ことりも、つばさも、レナも、何気ない顔でいて、たぶん少しだけこちらを見ている。


 しまった。

 そう思ったけれど、もう遅かった。


「……なによ」


 真央が少しだけ困った顔をする。


「なんで、そんな普通なの」


 言ってしまった。


 みずき自身、一瞬だけ息を止める。

 でも、一度出た言葉は戻らない。


「普通って」


「そうやって、ことりちゃんとも普通に話して」


「……」


「私にも普通に声かけて」


「……」


「ひよりちゃんにも普通に優しくして」


 言葉が止まらない。

 止めたいのに、今まで飲み込んでいたぶんだけ一気に出てくる。


「それで、何も変わってないみたいな顔するの、ずるい」


 教室が静かになった。


 みずきはそこでようやく、自分がかなり危ないところまで本音を出してしまったと気づく。

 頬が熱い。逃げたい。今すぐ帰りたい。


 でも、もう引っ込められない。


「……みずき」


 真央が小さく言う。


「私、今かなりダサいこと言ってるの分かってる」


「そんなこと」


「分かってるの!」


 思わず声が大きくなる。

 すぐに自分で口を押さえた。


「……ごめん」


 小さく言う。


「でも、ほんとにそう思ったから」


 そのとき、ことりが席を立ちかけた。

 だが、レナが小さく首を振って止めた。たぶん今は、ことりが入ると余計にこじれると判断したのだろう。


 つばさも珍しく黙っていた。


 真央は少しだけ考えるような顔をして、それから言った。


「……普通にしてるつもりは、たしかにある」


 みずきが顔を上げる。


「でも、何も変わってないとは思ってない」


 その言葉に、胸が少しだけ詰まった。


「じゃあ、なんでそんな平気そうなの」


「平気そうに見えてるなら、俺の顔が悪い」


「なによそれ」


「ほんとのことだろ」


 真央は少しだけ苦笑した。


「正直、最近ずっと整理ついてない」


 教室の空気が、少しだけやわらぐ。

 みずきだけじゃなく、ことりも、つばさも、レナも、その言葉には反応した。


「ことりと話すのが自然になってきたのも本当だし」


 みずきの胸がまた少し痛む。


「みずきが前よりちゃんと本音で来るようになったのもわかる」


 今度は、痛みだけじゃない。


「ひよりが本気で来てるのも見えてる」


 その言葉を、真央はごまかさなかった。


「だから、平気なわけじゃない」


 みずきはしばらく何も言えなかった。


 自分だけが苦しいと思っていたわけじゃない。

 でも、真央の側も何も考えていないわけじゃないと、こういうふうに言われると、余計に感情の置き場がなくなる。


「……そっか」


 ようやく出たのは、それだけだった。


 真央は少しだけ息を吐く。


「みずき」


「なに」


「嫉妬してるって、さっきのことだろ」


 その一言で、みずきの顔が一気に熱くなる。


「なっ」


「違うのか」


「違わないけど!」


 教室の何人かが、さすがにちらっとこっちを見る。

 最悪だ。最悪すぎる。


 でも、みずきはもう逃げなかった。


「……そうだよ」


 小さく言う。


「嫉妬してる」


 その言葉は、思っていたよりずっと重かった。

 そして、言ってしまうと少しだけ楽だった。


「ことりちゃんと話してるの、羨ましいし」


 ことりがぴくっと反応する。


「自然なの、ずるいし」


 真央は黙って聞いている。


「ひよりちゃんみたいに、まっすぐ来られるのも羨ましい」


 つばさがわずかに目を細める。

 レナは静かに息を吐いた。


「……だから、嫉妬してる」


 言い切ったあと、教室に少しだけ重たい静けさが落ちた。


 その沈黙を破ったのは、ことりだった。


「……わかるよ」


 小さな声だった。


 みずきがそちらを見る。

 ことりは少しだけ緊張した顔をしていたが、それでも目を逸らさなかった。


「私も、してるから」


 それは、あまりにもまっすぐな共感だった。


 ことりは続ける。


「みずきちゃんが普通に真央と話してるの、羨ましいときあるし」


 今度は真央が少しだけ固まる。


「昔からの距離って、やっぱり強いもん」


 みずきは言葉を失った。


 こういうとき、ことりはずるい。

 まっすぐだ。ちゃんと本音を出す。しかも、相手を否定しない形で。


 だから余計に、腹が立たない。


「……ほんと、やりにくい」


 みずきが小さく言うと、ことりが少しだけ笑った。


「私も」


 その二人を見て、つばさがようやく息を吐いた。


「はい、今日もだいぶ青春」


「おまえは最後にそれ言わないと死ぬのか」


 俺が言うと、つばさは肩をすくめる。


「だって本質だし」


 レナも小さく頷いた。


「でも、悪くないと思うわ」


「何が」


 みずきが聞く。


「嫉妬してるって、ちゃんと言えたこと」


 レナは静かに言う。


「隠しきれなくなったなら、隠したふりのほうが痛いもの」


 その言葉に、みずきは小さく息を吐いた。


 今日はだいぶ格好悪かった。

 でも、たぶん必要な格好悪さだった。


 嫉妬してる。

 そう言ってしまった以上、もう“ただの幼なじみ”の顔には戻れない。


 それでいいのかもしれないと、少しだけ思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ