戦火の始まり
全国では混乱が広がっていた。
突然、街中にけたたましい警報が鳴り響く。
ウゥゥゥゥゥゥ――――!!
今まで聞いたことのない音だった。
商店街。住宅街。駅前。
街中のスピーカーから機械音声が流れる。
『緊急警報』
『市民の皆様は速やかに地下シェルターへ避難してください』
『繰り返します』
『市民の皆様は速やかに地下シェルターへ避難してください』
人々は立ち止まり、空を見上げた。
何が起きたのか理解できない。
スマートフォンには政府からの緊急通知。
街頭ビジョンやテレビには緊急速報。
「政府は市民の皆様に避難を呼びかけています」
「落ち着いて地下シェルターへ避難してください」
繰り返し流れるアナウンサーの声。
いつも賑わう街は一瞬で騒然となった。
「何があったんだ?」
「避難ってどういうこと!?」
「事故じゃないのか!?」
「まさか本当に戦争なのか……?」
人々が我先にと走り出している。
泣き叫ぶ子ども。
家族とはぐれないよう手を強く握る親。
荷物を抱え、避難所へ向かう人々。
普段は人で賑わう商店街も混乱に包まれていた。
「早く!急いで!」
「南市にミサイルが落ちたって……」
「そんなの映画の話だろ……?」
誰も信じられなかった。
昨日まで、いつもと変わらない日常だった。
学校へ行き。仕事へ行き。家族と食卓を囲む。
そんな当たり前の日々が、これからも続くと思っていた。
それなのに。
空からミサイルが降ってくる。
街が攻撃される。
そんな現実を受け入れられる者はいなかった。
「国が何とかしてくれるんだろ!?」
「避難すれば助かるんだよな!?」
「次はどこが狙われるんだ!?」
不安と恐怖が人から人へ伝染していく。
誰も答えを持っていなかった。
ただ一つ確かなことは――
平和だった世界が終わろうとしていることだけだった。
――――――――――
中央都市。
「敵影確認!」監視部隊の声が響く。
巨大なモニターに赤い点が次々と表示された。
「中央都市上空へ接近中!」
「予測到達時間、8分!」
ざわめきが広がる。
マリアは静かに立ち上がった。
「後方支援部隊は国防部隊と一緒に基地にて待機」
「防衛部隊は迎撃を開始」
「守護神直属部隊は結界を強固に」
その声に全員が動き出す。
「結界展開!」
マリアの号令とともに、何百人ものイハが能力を解放する。
1073番も両手を掲げた。
体内のエネルギーが一気に放出される。
無数の光が空へ伸びていく。
一本。
十本。
百本。
光は空の高みで重なり合い、巨大な結界を形成した。
中央都市全体を包み込む防御壁。
まるで第二の空が生まれたようだった。
その直後だった。
ドォォォォォン!!
轟音が響く。
最初のミサイルが結界へ激突した。
衝撃が全身を揺らす。
「「うっ……!」」
全員が歯を食いしばる。
一発だけではない。
二発。
三発。
十発。
次々とミサイルが襲いかかる。
結界が悲鳴を上げるように震えた。
その様子を、基地にいた国防部隊の隊員たちも見つめていた。
「なんだ……あれ……」若い隊員が呆然と呟く。
彼らはイハの存在を知っている。
だが実際に能力を見る機会はほとんどなかった。
極秘事項だったからだ。
モニターの向こうでは、無数のミサイルが光の壁によって防がれている。
常識ではありえない光景だった。
「もしあの結界がなかったら……」
別の隊員が顔を青ざめさせる。
今飛来しているミサイルだけでも、中央都市は壊滅的な被害を受ける。
数十万人の命が失われてもおかしくない。
「俺たちは……」隊員は震える声で呟いた。
「今までずっと守られていたんだな……」
誰も反論しなかった。
彼らは初めて知った。
表舞台に立つこともなく。
感謝されることもなく。
名前さえ与えられず、番号で呼ばれる者たち。
【イハ】
彼らが、人知れずこの国を守り続けてきたことを。
生まれた瞬間に家族と引き離され。
自由な人生も。当たり前の日常さえも与えられず。
ただ国を守るためだけに育てられてきたことを。
隊員たちは黙って空を見上げた。
今もなお、無数のミサイルを受け止め続ける光の結界。
あの向こう側には、自分たちと同じ人間がいる。
痛みを感じ。
恐怖を感じ。
それでも逃げることなく戦っている。
その事実が、胸に重く突き刺さった。
――――――――――
一方その頃。
北市にいる1069番は、防衛部隊として前線にいた。
海の向こうから輸送機が接近している。
敵兵だ。
「来るぞ!」
防衛部隊の隊長が叫ぶ。
輸送機の扉が開く。
次々と武装兵が降下してくる。
銃声。
爆発音。
悲鳴。
本物の戦場だった。
1069番は拳を握る。
「うおおおおお!」
能力を発動。
敵兵へ突撃する。
衝撃波が炸裂した。
数人の兵士が吹き飛ぶ。
しかし。
敵の数は減らない。
次から次へと現れる。
「くそっ!」
汗が流れる。
息が切れる。
それでも戦い続けるしかなかった。
頭に浮かぶのは仲間たちの顔ばかりだった。
もう一度。
中等部の頃のように5人そろって笑い合いたい。
訓練の合間にくだらない話をして。
授業を聞いてなくて、教官に怒られて。
そんな当たり前の日々を、もう一度。
真実を知っていたのに。
ちゃんと守ってあげれなくてごめんな…
1068番、1070番、1073番…そして1074番。
みんなどうか無事でいてくれ。
――――――――――
一方、1068番がいる西市。
飛来するミサイルの数は他の都市ほど多くはなかった。
しかし、その代わりに戦闘員による地上からの攻撃が激しさを増していた。
西市の各地で戦闘が発生し、負傷者が次々と運び込まれてくる。
1068番は後方支援部隊として基地に待機していた。
休む暇などない。
担架が運び込まれるたびに駆け寄り、治癒能力を使う。
銃弾を抜き、出血を止め、傷を塞ぐ。
一人を治療し終える頃には、また次の負傷者が運ばれてくる。
終わりが見えなかった。
周囲では初等部や中等部の子どもたちも必死に治療を続けている。
まだ幼い彼らは震える手を必死に押さえながら能力を使っていた。
涙を流している子もいる。
目を真っ赤に腫らした子もいる。
まだ幼い彼らにとって、目の前の光景はあまりにも過酷だった。
自分の治療が間に合わなければ。
自分の力が足りなければ。
目の前の誰かが死ぬかもしれない。
その恐怖が小さな肩に重くのしかかる。
それでも誰一人として逃げ出さなかった。
「次の負傷者です!」
「こちら重傷です!」
「治療班、急いでください!」
怒号と悲鳴が飛び交う。
基地の中は戦場そのものだった。
1068番は歯を食いしばる。
泣いている暇などない。
自分が立ち止まれば、助かる命も助からなくなる。
だから能力を使い続ける。
仲間を助けるために。
そして、大切な仲間たちが帰ってくる場所を守るために。




