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みんはアンティークディーラー  作者: そとまちきゆみ
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第二十九話 マルシェ・ド・ピュースで買い付けしてみました

午前2時が朝なのか夜なのかわからないけれど、確かに暗闇の中で人がうごめいていた。

所々に小さく懐中電灯の光が揺れている。

11月のパリは、すでに冬の寒さが身にしみる。

彼女が、どろぼうさんとか屑屋さんとかの怪しげな、と言っていた人たちは、閉まっている店先や、道路端など、好き勝手な場所にダンボールをいくつか置いて、寒さをしのぐためか、小さく足踏みして立っている。何人もの人たちがダンボールの中をあさっては、品物を取り出し、懐中電灯で照らし、値段交渉をしていた。

みんも負けずに、ダンボールをあさってみた。

いろんなものが、ごちゃまぜに入っていた。まるで、業者市場で売っている「のぞき」の箱をそのまま並べているようだ。

ゴチッと冷たくて硬いものが手にあたる。丸い。懐中電灯が小さな時計であることを教えてくれる。ちょっと振ってみるとカチコチと虫の息だが、ちゃんと動いている。

「これ、いくら?」片言のフランス語を発する。

「箱の中は、どれでも5フラン」おお、140円だ。

5センチ四方くらいの木箱、メダルのようなもの、パイプのようなものをつかみ出して、20フランを渡す。

向こうでは、新聞紙の上にガラスの皿のようなものが並べられている。真っ暗でよくわからないが、きっと素敵な皿に違いない。  触ると裏面がゴチゴチしていて、何か彫っているようだ。表面はツルツルで、この寒い中でも、氷のように冷たい。

どんな色をしているのだろう?

懐中電灯の光では、色までは見えない。

皿の周りを触ってみる。ツルツルの表面と同じようにやっぱりツルツルだ。よし、傷はなさそうだ。

でも、50フラン。1400円か、、、。ええい買っちゃえ。

「包むもの下さい」

「そんなの、ない」

せっかく50フランも出して買ったのだから、壊すわけにはいかない。首に巻いていたマフラーでそのガラスをくるんでバックにしまった。

それから、コップのようなもの、ブローチのようなもの、びんのようなもの、ホーロー缶のようなもの、いろいろなようなものを買っていたらやっと始発が動く時間が近づいてきた。バックが肩に食い込むくらいに重たくなっている。一度ホテルにもどってバックを空にして、今度はメトロに乗ってもうひとつの蚤の市バンブーに向かう。

冬のパリは夜明けが遅い。バンブーに着いてもまだ暗かった。

買いあさっていたら、カフェがオープンしていた。

カウンターでショットグラスに入った強そうな酒を立ち飲みする人や、コーヒーを飲む人がたむろしている。

みんも真似をして、ショットグラスでコニャックをグイとやったら、体がキューと熱くなった。それからコーヒーを飲んだ。

おしゃれとは程遠いが、何だかパリじゃないか。何だかかっこいいアンティークディーラーみたいじゃないか。

かなりうれしくなった。

バンブーで夜が明けてきた。明るくなったバンブー・マルシェ・ド・ピュースは、さっきまでの闇の世界とは一変して、素敵なパリの蚤の市の景色だった。

ダンボールのままの店はいつの間にか姿を消して、かわいいテントのついたスタンドの店が朝日に照らし出されている。

まるで、舞台の早業場面転換を見ているようだ。

人がうじゃうじゃ増えてくる。

「もう、買っちゃったもんね」と、たいしたものを買っているわけでもないのに、ちょっと先駆者みたいで得意な気分になる。

翌日も同じように2時から1日を始めた。

10フラン、20フラン、そして古いもの。

テーマはそれだけだった。

アンティークなんて、何も知らなかった。そんなみんが、例え百フラン千フラン出して、高価なものを買ったとしても、多分、せいぜい売れて1.5倍か2倍だろう。

高価なものに対する知識もなければ、売る自信もない。

時間をかけて、25万円を倍にしたところで、50万円。

それでは「行って来い」で何の仕事にもならない。

きのうはついつい勢いで50フランのものも買っちゃったけど・・・。

みんは歩きながら声に出してみた。

「10フラン、20フラン、そして古いものしか買わないぞ」

もちろん、西洋アンティークなんて売ったこともない。

だけど、日本にある西洋アンティークの店で、千円以下なんてものはないだろう。最低で2千円や3千円は付くはずだ。それが例えば280円、530円で買ったとしても。

もちろん、どれが高く売れるのかなんて、皆目わからないけれど、今は買うしかない。


昼ごろまでバンブーをうろついて、ホテルにとって帰すと、3日間の収穫を粗大ごみ置き場から出世した大きなスーツケースに詰め込んで、ベルギーのブラッセル行きの列車に乗った。

あの『マルシェ・ド・ピュース・マダム』が言っていた。

「ブラッセルにね、毎日開かれているマルシェ・ド・ピュースがあるのよ。ホント、同じところで毎日。朝に出して夜に片付け、朝に出して夜に片付ける、それを繰り返しているの。ガラクタばっかりなんだけどね、あら、あなた、ぴったりかもホホホ、ええっとね、何とかいう広場、あら、忘れちゃった」

ブラッセルは、ロンドンに向かう通過地点だった。

ドーバー海峡を渡るには、フランスのカレーから渡るか、もしくはベルギーのオステンドから渡るくらいしか方法はなかった。

ユーロスターなんてトンネルはない時代だ。

ベルギー周りの方が、ちょっと遠いはずなのに、旅費は少しだけ安かった。

ちょうどいい。ブラッセルで一泊してみよう。


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