学校訪問された側。
「あ」
俺はカバンの中を覗き、声を上げた。
「どうしたの直生?」
斗亜がそんな俺を見て首を傾げる。
「べ……」
「どーせ、エロ本でも間違って持って来ちまっただけだ……ッギャアアッ‼︎暴力反対‼︎」
遼が下らないことを言い出したので脛を思いっきり蹴ってみたら、オーバーなリアクションで悶え苦しんだ。罪悪感はまったくない。
「弁当忘れただけだ」
「なーんだ。つまんねーのオオォッ‼︎⁉︎」
遼の顔が大変腹ただしかったのでもう片方の足の脛も蹴った。両足を抱えて崩れ落ちて行ったが、罪悪感はやっぱりない。
「はいはい、ヤメヤメー。直生はお弁当忘れたんなら遼が三分の二くらいはくれるだろうし、ね?」
「え、ちょ、俺半分以上あげんの?」
「すまないな、遼」
「え、決定事項なの?」
顔を青くしながら遼が問うが俺と斗亜はガン無視して話を進めた。
前から思っていたが、こいつ結構不憫なポジションにいるよな。自業自得ではあるが。
「そもそもあんな美少女の彼女がいたら、エロ本の必要なんてないよね」
「あー、斗亜は見たことあるんだっけか」
遼は羨ましいと呟く。確か斗亜にはゲーセンで目撃されたのだったか。前にも言ったかもしれないが、彼女は顔はいいけど性格がアレだから初対面の奴はそのギャップに少なからずダメージを受けると思う。
「なぁ直生!もしかしてもう彼女と……ヒィイイ‼︎‼︎まだやらしーこと言ってねぇじゃん!そして無言で蹴り入れるの怖いからやめて⁉︎」
知るかよそんなこと。そのにやけ顔がすべてを物語っているのだというのに。
俺はバキバキと手の関節を鳴らした。
「ふーん、まだ、ね?」
「ごめんなさいぃぃぃ‼︎」
こいつは本当に学習しないな。顔面殴ろうかと思ってしまったが、ギリギリのところで斗亜が『まぁまぁまぁまぁ……』と止めてくれた。やはりこいつはオカンである。
一応言っておくけど、図星だから殴ろうとしたわけではない。手を出していないというわけでもないが、一度調子に乗りすぎて止まらなくなり、アウト寄りのセーフだったと彼女に怒られたことがあるから、たぶんそのくらいである。
「いいなー、俺も彼女ちゃんに会いたい〜」
「……会う機会なんてそうそうないだろ」
「そうかー?もしかしたら、忘れた弁当届けに来てくれるかもしれないだろ?」
頭の中で想像してみる。
あいつが?弁当届けに?わざわざ?俺に?
「絶っっ対ない」
「なんで、絶対にそんなに力入れてんの?来るかもしれないじゃん」
斗亜はそう言うが、まったく想像できない。何か言われても『面倒くさーい』と断りそうだ。
そう思ってたのはフラグだったのか。莉音の後ろ姿にため息を吐いた。
顧問と数学の谷口先生と和気あいあいと話していて、俺を待つ様子もなく、そろそろ帰ろうという雰囲気が流れていたので、慌てて近寄って声をかけた。
彼女は少しだけ驚いた顔を見せたが、次の瞬間にはもういつもの無表情。
もう少し俺を探せと文句を言うと、探したと返ってきていくらか安心すると、なぜか腕を抓られた。文句を言おうとしたが、彼女の表情を見てすぐに飲み込む。普段からそういう顔してれば少しは可愛げがあるというのに。俺は思わず口元が緩むのを必死に耐えた。
そんな俺らの一部始終を部外者二人がニヤニヤ見ていたのにはイラッとしたが。
「上原。彼女さん弁当届けに来てくれたんだぞ」
「ついでに私と学校内をデートしたのよ」
顧問と谷口先生がからかうように言ったせいか莉音の顔が紅く染まり、恥ずかしそうに目線を下げた。普段からこんな風にいろんな表情見せてくれたらいいのに、なんてことは言ったらおそらく不貞腐れるので言わない。
「ふーん。弁当ごときでお前がわざわざ来てくれるとは思わなかった。また忘れて届けて貰うのも悪くないな」
「悪いわ、バカ」
今度は頰を抓られた。しかも目が怖いし、放してもらえるかと思ったら再度強く引っ張られたし、先生達がそれ見て苦笑してるし散々である。
「尻に敷かれてるなぁ、上原」
「ほっといてください」
微笑ましそうに顧問に言われて条件反射で無愛想な言葉を吐く。こんなにからかってくる人でも三年間指導してくれたから感謝はしている。だが、それとこれとは話が別だ。
顧問にどう反撃してやろうか考えていると、莉音が無意識だろうが時計をチラッと見た。そろそろ帰る算段をつけているのだろう。
「じゃあ私は帰るよ。練習頑張れよー」
「ああ、ありがとな、莉音。帰りあまり遅くならないようにするって母さんに言っといて」
「了解」
莉音は顧問に挨拶するとこちらに背を向けてさっさと谷口先生と帰って行った。
「残念そうだな、上原」
「はい」
さっき無愛想に返してしまった代わりという訳ではないが、今度は素直に返事をすると彼は意外そうに片眉を上げた。
「その割には別れを惜しんでなかったな」
「まぁ、すぐ会えますし」
「あれだけイチャイチャしてた癖にあっさりしてるなー」
「イチャイチャ……?」
「無自覚だな」
俺はそんなつもりはなかったが、顧問にはイチャイチャしているように見えたらしい。帰ったらそれ教えてからかってやろう。
「うわ、悪い顔してるぞ上原。何か企んでるのか?」
「はい」
「うーわ、彼女ちゃん可哀想……」
顧問はやれやれと言うように頭を振ると俺の背中を押して体育館に戻るよう促した。
ーーー
戻ると休憩していたらしい斗亜と遼が汗を拭きながらこちらを見た。
「あれ、直生戻ってくるの遅かったね」
「ああ、彼女が来て弁当届けてくれた」
弁当を掲げて見せると斗亜は『よかったねー』と笑顔に。そして遼は。
「ちょっ……!なんで俺を呼ばねぇんだよ⁉︎」
「逆になんでお前を呼ばなきゃならないんだよ」
「遼、よかったねー。弁当は守られたね」
「ああ、そうだな斗亜!よかったけ……ど……、やっぱ、よくねーー‼︎」
「うるせーぞ天宮‼︎」
この後遼は顧問にめちゃくちゃ怒られてた。
やはりこいつは不憫ポジだと確信したので俺はもう少し優しくしようかと努力目標を立てたのだった。




