第6話 画面越しの殺人
11月下旬。
あの駐車場での安達との遭遇から数日が過ぎた。
鈴木夫婦はその後も隙間時間を使って裏仕事を重ね、手元の現金は順調に増えていた。200万の借金の全額まで、あと少し。
その日の夜。
リビングのソファで、デパ地下で買った高い惣菜をつまみながらビールを飲んでいた2人の耳に、テレビのニュースキャスターの無機質な声が飛び込んできた。
「――続いてのニュースです。昨日午後、〇〇市の自宅で、82歳の男性が首を吊って死亡しているのが発見されました」
箸を動かしていた幸子の手が、ピタリと止まった。
「男性は数日前、『お孫さんの入院費が急遽必要だ』という電話を信じ込み、現金100万円を騙し取られる特殊詐欺の被害に遭っていました。遺書には『家族の財産を失ってしまった。申し訳ない』と書かれており……」
ガタンッ!
慎二の手からビールの缶が滑り落ち、真新しいフローリングに泡と液体がぶちまけられた。だが、2人はそれを拭こうともしない。
数日前。公園。孫の入院費。100万円。
全部、自分たちがヘラヘラ笑いながら奪い取った、あの時の老人のことだ。
テレビの画面には、被害者の自宅周辺の映像が映し出され、キャスターがさらに言葉を続ける。
「警察は、事件当日に現場近くの防犯カメラに映っていた『白いコンパクトカー』の行方を追うとともに、詐欺被害と死亡の因果関係について……」
「おい……嘘だろ……」
慎二は自分の髪を力任せに掻き毟り、血の気の引いた顔で後ずさった。
「あのジジイ、死んだのかよ……!? 金なんて余ってんじゃなかったのかよ!」
「ど、どうするのよ慎二!? 白いコンパクトカーって、完全にうちらのレンタカーじゃん! 防犯カメラに映ってたって……!」
幸子の顔から、勝ち組気取りの余裕も、下品な笑顔も完全に消え失せていた。
「国に取られる金だから」という、薄っぺらで身勝手な言い訳が音を立てて崩れ去る。
自分たちはただのコソ泥じゃない。人を1人、確実に殺したのだ。
「ヤバいヤバいヤバい! 警察が来る! 捕まったらマンションも仕事も全部終わりだぞ!」
「嫌だ、刑務所なんて絶対に嫌! 人殺しなんて言われるくらいなら、死んだ方がましだわ!」
幸子は子供のように泣き喚き、慎二は部屋の中を動物のようにウロウロと歩き回る。
自首するという選択肢は、2人の頭には1ミリもなかった。
今の彼らを満たしているのは、死んだ老人への罪悪感ではなく、自分の身が破滅することへの強烈な恐怖と保身だけだ。
サイレンの幻聴に怯えながら、深夜のリビングでパニックに陥る2人。
そして、薄いベランダの仕切りを隔てた隣の302号室のベランダでは。
安達正志が、暗闇の中でスマホのニュース画面を見つめながら、声を殺してクックックとわらっていた。
「さあ、見栄っ張りのネズミたちが、いよいよ追い詰められましたよ」
続く




