第13話 無言の受領と狂ったカウントダウン
慎二と幸子は、震える手で書きなぐったノートを小型エレベーターに載せ、祈るような気持ちで送り出した。
字はボロボロ、内容も「すみませんでした」を繰り返すだけの空っぽなものだ。安達から罵倒されるか、書き直しを命じられる。2人はそう身構えていた。
だが、モニターに映った安達は、ノートをパラパラとめくった後、一言も文句を言わなかった。
「はい、確かに受け取りました。お疲れ様でした」
だが、その直後モニターに『180』という数字が出てきて、カウントダウンが始まったのだ。
二人は息をのみ見つめている。
「幸子、なんだこの数字?カウントダウンしてるぞ。何が始まるんだ?」
「そんなのわかるわけないでしょ。」
そして『10・9・8・7・6・5』そこでピタリと止まったのだ
「止まったのか?また動き出すのか?」
しかし結局何も起こらなかったのだ。
「あーもう、何だったんだよ、気が狂いそうだ」
何も告げられないまま、エレベーターの扉が閉まる。
そのカウントダウンが、慎二たちの不安をより一層増大させた。
「……ねえ、何も起こらなかったね。よかったのかな?あれで」
「そんなの、わかるわけねぇだろ…。でも、とりあえず寝ねぇか?俺もう限界だ」
その直後、まるで2人の思考を読み取ったかのように、部屋の照明が前触れもなく消え、地下室は完全な漆黒に包まれた。
「夜」が来たのだ。
2人は手探りでベッドに潜り込み、ようやく訪れた静寂に身を任せようとした。
だが、その静寂はすぐに、異質な音によって破られることになった。
『カチッ』
天井のスピーカーから、乾いたメトロノームの音が1回だけ鳴った。
慎二は寝返りを打つ。……ん?何の音だ?
(……壊れてんのか?)
そう思った瞬間、忘れた頃に『カチッ……カチッ』と2回連続で鳴る。
規則的なリズムなら、いずれ慣れて眠れるだろう。
だが、この音は悪魔のように不規則だった。
3秒おきに鳴ったかと思えば、次は30秒沈黙する。
かと思えば、突然5回連続で高速に刻む。
漆黒の闇の中で、2人の脳は無意識に「次の音」を探し始めてしまった。
(くるか……? ……こない。 ……今か? ……カチッ。 ……っ、きた!)
意識がまどろみかけるたびに、不意打ちのようなリズムの乱れが2人の脳を覚醒させる。
暗闇、3度の傾斜によるめまい、そしていつ鳴るかわからないメトロノームの音。
「あああああ! もう、やめてよ! 止めてよ!!」
幸子が暗闇の中で叫び声を上げ、枕をスピーカーがあると思われる天井に投げつけた。だが、音は無情に、そして不規則に響き続ける。
「幸子、お前うっせえんだよ! 音に集中させろ! いつ鳴るか分かんねえだろ!」
慎二の声も、すでに正気のものではなかった。
安達はモニターの音声を切り、暗闇でパニックに陥る2人のシルエットを暗視カメラで眺めながら、ゆっくりと自分の指をメトロノームのリズムに合わせて動かしていた。
「さあ、おやすみなさい。…明日も、たくさん書いていただきますからね」
続く




