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8話 王都に連れてこられて

「起きなさいリバル。もう着くわ」

少しだけ目を瞑っていただけのつもりだったが、どうやら寝てしまっていたようでミーシャに揺り起こされた。


「ん?もう着いたのか」

伸びをして外を見ると街の灯りが煌々と光っていて、暗闇に慣れていたせいかかなりの眩しさを感じた。


徐々に目が慣れてくると、帝都の防壁が目に入った。


「でっか……」

見上げるほどの大きな壁。

それが見えなくなる地平線まで続いている。


「帝都全体を囲むように建てられた防壁よ。初めて見た人はみんなそのリアクションをするわ」

ミーシャは僕の驚いている様子を見てクスクスと笑う。


門も相当大きくて馬車が三台は真横に並んで入れるほどの広さがあった。


「すっごいな。こんな大きな門は見たことがないよ」

「でしょうね。貴方が住んでいた村で一番大きな建物はなんだったの?」

「物見櫓かな。それでもこの壁より低いよ」


唯一の高い建物でも帝都の壁と比べれば子供みたいなサイズだ。


門を抜けると更に驚かされた。


僕が住んでいた家や村の住居など掘っ建て小屋かと思えるほど、精巧な造りの建物がいくつも並んでいる。

道も舗装されていて馬車が走っても振動があまり伝わってこない。


「これが……帝都」

「そうよ。このままアタシの実家まで向かうわ」

「ミーシャの家か……ダメだ、緊張してきたんだけど」

「大丈夫よ。お父様もお母様も優しいから。……妹はまあ」

「なに?妹がなんだって?」

「あー……いえ、なんでもないわ。行けば分かるから」

言葉を濁されると余計に気になってくる。ミーシャの妹は訳アリなのだろうか。顔を合わせるのが怖いな……。ミーシャに対するような言葉遣いは避けたほうがよさそうだ。



ミーシャのお屋敷まで十分程度で到着した。

既に辺りは静まり返っていて、街が眠っているようだ。


「着いたわ。このまま玄関前までつけて頂戴」

「畏まりました」

ミーシャと御者とのやり取りを聞いて改めて彼女が令嬢なのだと思い知らされた。御者さんは僕らより遥かに歳上だ。そんな人に敬語も使わないなんてお嬢様なんだな。


玄関前に到着したようで、馬車はソッと止まる。


「ありがとうございました」

「いえ、これからの生活を応援しております」

御者の人は一つ一つの所作も綺麗だし、こんな平民の僕にも丁寧に接してくれる。



「さ、ここがアタシの実家よ。こんな夜遅く帰ってきたのは初めてだけれど」

「ご両親怒ったりしない?」

「大丈夫よ。事前にリバルの話はしてるから」


ああ、山奥に住んでる世捨て人を迎えに行くとでも言ってたのかな。


玄関へと近づくと扉が勝手に開く。


「お待ちしておりましたお嬢様。それとリバル様、ですね?」

初老の男性が綺麗な立ち姿で出迎えてくれる。黒いスーツに身を包んでいて、身なりがしっかりとしていた。こんな夜遅い時間まで待っていたのだろうか。


「あ、どうも初めまして」

「爺や、まずはリバルを風呂に案内してあげて」

「畏まりました。それではリバル様、着いてきて頂けますか?」

風呂?風呂なんて何年ぶりだろう。

山奥に住むようになってから水浴びが基本だった。

温かいお湯に浸かるのなんて久しぶりすぎて、ちょっとテンション上がるよ。



「とりあえずサッとお風呂に入ってきなさい」

「お風呂……楽しみだよ」


ミーシャと別れ爺やと呼ばれた男の人に連れられてきた場所は、今まで見たこともない広々としたお風呂だった。


「でっか……」

「こちら、着替えとなっておりますので上がった後はお使いください」

「あ、ありがとうございます」

歳上の人から敬語を使われるのは慣れないなぁ。



ボロい服を脱いで、身体を洗い湯船に浸かる。


「ああ〜……染み渡るぅ……」


年寄りくさいけど、つい声が出てしまう気持ちよさだ。貴族ってのは毎日こんなに幸せなのかと思うと腹が立つほどに。


あまり長湯するのも申し訳ないと、そそくさと着替え脱衣所を出るとまたも爺やが綺麗に立って待っていた。


「お待ちしておりました。それではこちらへ」

次に案内されたのは食堂だった。またこれが驚くほどの広さ。


たかが飯を食べるだけの部屋なのに、一体何メートルあるのか。


部屋を見渡すと部屋着姿のミーシャが席についていた。


「早かったわね」

「ミーシャも風呂に入ったのか?」

「軽くシャワーをね。それより軽食を用意させたから食べなさい」

ミーシャが合図すると、メイド姿の女性がカートを押して食堂に入ってきた。


カートの上には軽食とは思えない量の豪勢な食事が乗っている。


「け、軽食?これが?」

「ええ。なんだと思ったの?」

「いや……てっきり干し肉とかパンが出てくるのかと思ったよ」

僕がそう言うとミーシャが笑う。


「そんなわけないでしょ。客人にそんな物を出したら品性を疑われるわよ」

そうか……貴族からしたら僕がいつも食べていた物は品性を疑われるレベルの物だったか。


僕が悲しそうな顔をしたからか、ミーシャは慌てたように手を振る。


「ち、違うわよ!?別に干し肉やパンが悪いって言ってるわけじゃないわ。ただ、こういう場で出すものではないって意味よ」

「まあ分かってるけど」

それくらい理解している。

ちょっと意地悪してみただけだ。



「じゃあ……いただきます!」

少しばかりふざけた所で、出された食事にありついた。


なんと表現したらいいのか。

まず肉はジューシーで一噛みごとに肉汁が溢れ出てくる。次にシチューらしきものを口に運ぶと、これまた優しい味わいだった。そして、飾り付けられた謎のパン。これは口に入れた途端溶けたかと思えるほど柔らかい。


「う、うますぎる……貴族って毎日こんなの食べてるのか?」

「まあ、そうね。そんなに豪華な食事じゃないけれど」

これで豪華ではないときたか。村でもこのレベルの食事が出ることなんてなかった。


村の食事といえば肉はモサモサしてるし、シチューは味が薄いしパンは固い。ちょっとしたお祭りの時なら多少マシな物は出てくるけど、それでも今食べているクオリティはなかった。


あまりの美味しさにかきこむように食事を終えると、またメイドさんがどこからともなく現れて食器を片付けていく。


「凄い速さで食べるのね……」

「いや、美味すぎたからだよ。こんなに美味しい食事は初めてだ」

ミーシャに感謝だな。学園とやらへ行くことになったのもミーシャに出会ったのがきっかけだった。


もしもミーシャと出会っていなければ、僕がこの素晴らしい食事を頂ける機会は二度となかっただろう。


「満足したようでよかったわ。でも、学園の食堂はこのレベルの食事が毎日出てくるわよ」

「な、なんだって!?」


こんなに美味しいものを毎日食べられるのか!

これは……山を降りて正解だったかもしれないぞ。




腹ごしらえも済ませて、爺やに案内された部屋で眠ることとなった。僕が今日泊まるのは来客用の部屋だそうだ。あまり豪華とは言えないらしいが、僕からしたら調度品一つとっても随分と高そうに見えた。


「こちらで今日はお休みください」

「ありがとうございます。えっと……爺やさん?おやすみなさい」

「爺やで結構でございます。敬称も必要ありません。それではおやすみなさいませリバル様」


扉が閉まると僕はベッドに近づいた。シーツを手で押してみると沈んでいく。こんな柔らかいベッドで寝られるのも人生初だ。


ここは是非……。


「うおっ!」


ベッドにダイブすると身体がポヨンポヨンと跳ねた。

柔らかいのと弾力があるのとで、初めての感覚に頬が緩む。


「これはすぐに……寝てしまいそうだ」

あまりの柔らかさに僕の瞼は徐々に閉じていく。


長旅だったこともあってか、疲れが溜まっていたらしい。そこにこの柔らかいベッドとこれば、眠くなるのは必然。


そのまま僕の意識は微睡みの中へと落ちていった。

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