9話 妹に嫌われて
朝の光が部屋に差し込み、僕は自然と目を覚ました。
ベッドから起き上がると用意されていた服に着替える。サイズもバッチリで、事前に測っていたのかと思えるほど。
「おはようございますリバル様」
扉を開けると既に爺やがいた。この人本当に寝ていたのだろうか。僕が起きるより前に扉の前に立っていたのなら、一体いつ起きたのか気になる。
「おはようございます」
「食堂に旦那様と奥様、お嬢様方も既におります」
「え、僕が一番遅かったんですか?」
「セレンシア家の方々はみな早起きなのです。リバル様が一番遅いですが、他の家と比べれば十分早起きかと思います」
食堂に向かう道中そんな話を聞いた。
僕も村で育ってきたから朝早く起きて仕事をしていたけど、そんな僕よりも早起きなんてすごいな。
というかさっき爺やがお嬢様方と言っていた。
つまり、問題の妹もいるということだ。それにミーシャの両親がいる。緊張してきたぞ……こんな緊張感、ミノタウロスと対峙した時以来かもしれない。
「大丈夫ですよ。旦那様も奥様も優しい方です」
「妹さんは……どうですか?」
「……ご自身の目でご判断ください」
おいおいおい、爺やめちゃくちゃぼかしたよ。妹ってやっぱり怖いんじゃないか?手が震えてきた……。
「では、どうぞ」
爺やが扉を開けると中にいた人たちの視線が一斉に僕へと向けられた。
一番奥に座ってるのがミーシャのお父さんだな。黒髪のイケオジだ。キリッとした目つきがちょっと怖い。
向かって右側に座っているのがお母さんか。こっちは赤の長髪、なるほど。ミーシャはお母さんに似たようだ。目元が柔らかくて、目力だけ父親譲りらしい。
向かって左がミーシャ。その手前が……妹だな。
ミーシャと同じで赤い髪だが妹の方は短い。
それと心なしか睨まれている気がする。
「おはようございます」
「ふむ、君がリバル君か。おはよう。まずは席につくといい」
お父さんに言われるがまま一番近い席につく。妹の方はずっと僕を睨んでいる。こええよ……。僕何もしてないのに。
僕が座ると同時にミーシャのお父さんが微笑んだ。
「改めて自己紹介しておこう。私はミーシャの父、オルグラン。こっちは妻のリーレだ」
目つきは割とキツめだが案外優しそうに思える。リーレさんはもはや女神だな。めちゃくちゃ優しそうに微笑んでくれていた。
「ミーシャはもう紹介の必要がないだろう。その隣にいるのが妹のアルカだ」
アルカ、ね。僕に殺意を向けてきている妹さんの名前だ。呼び間違えたりなんてしようものなら殺されてしまいそうだ。
「アルカ、挨拶しなさい」
「……アルカです」
……それだけ?若干声も低いしあまりいい印象を持たれていないようだ。
「初めましてリバルです。えっと……貴族の方々に対して失礼な言動があったらすみません」
「気にしなくていい。君が平民であること、それに山に籠もっていた事はミーシャから聞いているよ」
ミーシャが言うように、オルグランさんは理解のある貴族のようだ。
「ミーシャから聞いた話だが、もう一度リバル君の口から聞きたい。君はどうして七年も山に籠もっていたのかな?」
「それはですね……」
村が魔物の群れに襲われたこと、両親を亡くし村の半数も亡くなったこと、そして得た報奨金を元手に山奥に小屋を建ててひっそりと暮らしていたと掻い摘んで話した。
黙って聞いていたオルグランさんもリーレさんも時折相槌を打ち申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「そうか……悪いことを聞いたね」
「いえ、気にしてません!もう七年も前の事ですし」
「それでも寂しかっただろう?君の父親の代わりというわけにはいかないだろうが、何かあればいつでも力を貸そう」
なんと優しい方々だ。帝都に来て正解だったかもしれないな。
「今日は確か試験があるのだったか、ミーシャ」
「そうよ。リバルの入学試験があるわ。学園は休みだから他の学生はいないと思うけど、一応アタシが付いていくの」
「ふむ、そうした方がいいだろう。貴族の中には平民というだけで忌み嫌う馬鹿者もいるからな」
あーやっぱりそういう人達はいるんだな。貴族ってそういうイメージしかないからあんまりいいイメージってないんだよ。だからオルグランさん達が凄く珍しいのだと思う。
ただ、こうした会話をしている間ずっとアルカさんは僕を睨んでいた。
まだ貴族の食事というものに慣れていないのもあって、当たり障りない会話をしつつカトラリーの扱い方を教わりながら朝食を済ませ、僕は一旦部屋に戻った。
部屋に戻って荷物をまとめ、扉を開けると目の前に赤い短髪の女の子がいた。そう、アルカさんだ。
目つきは鋭く、今にも襲いかかってきそうな雰囲気を纏っている。
「えっと……アルカ、さん?」
「気安く呼ばないで」
いきなり喧嘩腰だ。どう反応したらいいか分からず僕がたじろいでいると、アルカさんが先に口を開いた。
「アンタ、入学試験を受けるんでしょ」
「そ、そうだよ。ミーシャからはそう聞いてるけど」
「フンッ!入学試験を受けられるのは一定の実力がある事と推薦が必要なのよ?アンタの推薦者は?同じ学年の生徒じゃ推薦はできないわよ。だからお姉様じゃないはず。誰なの!」
まくしたてられて、僕が一歩下がるとアルカさんが一歩詰め寄ってくる。
「推薦人が誰かは聞いていないよ。そもそも僕は学園に行くつもりなんてなかったんだ」
「じゃあどうして入学試験を受けようとしたのよ」
「あー説明すると長くなるから端折るけど、士郎さんとの一騎打ちで負けたらサリアさんに学園に来いって言われたんだ」
「はぁ?」
アルカは眉を顰め怪訝な表情を浮かべる。そんな顔されても本当なんだけどな。
「有り得ない。サリア様がわざわざ平民のアンタを学園にスカウトですって?作り話でももう少し信憑性のある話をしなさいよ」
「ほ、本当なんだって!」
「じゃあ私がアンタの腕を見てあげる。試験でボコボコにされてるのを笑ってやるから」
「ええ〜……」
どうしてここまで嫌われてるんだろう。
アルカさんにはなんにもしてないし初対面なのに。
「お姉様がアンタの話を嬉しそうにしてたのが気に食わない……フンッ!」
アルカは捨て台詞を吐いてその場から立ち去っていった。
ああ、なんとなく分かってしまった。アルカさんはミーシャのことが好きなんだ。シスコンってやつなのかな。僕に取られると思って焦ってるのかもしれない。
それこそ有り得ない話だ。
ミーシャは伯爵家令嬢、対して僕は平民の孤児だ。
釣り合うわけがない。
まあ平民を単に嫌っているって線も拭えないけど。
アルカさんとの一悶着の後、玄関先まで向かうと爺やが立っていた。
「既にお嬢様方は馬車に乗り込んでおります。こちらへどうぞ」
爺やに付いていくと、この屋敷に来た時と同じ馬車が停まっていた。
「来たわね。さ、早く乗りなさい」
窓から顔をだけ出しているミーシャが馬車のタラップに視線を向ける。乗り込むと中にはミーシャとアルカさん、そして見たこともない女の人がいた。
「えっと……」
「護衛だ。気にするな」
ただそれだけを告げると口を噤む。
いやいや、誰かくらい名乗ってくれよ。
全然誰か分からん。
「この人はいつもこんな感じよ。セレンシア家の護衛を努めてくれているロンドよ」
「ロンドさん、ですか。初めましてリバルです」
「知っている」
寡黙な人だ……。必要最低限の事しか喋ってくれないよ。でも多分ロンドさんって強いと思う。だって座って腕を組んでいるだけなのに隙がないんだから。
今この場で斬りかかっても防がれそうだ。
それに男の人かと見間違うほど体格が大きい。髪も黒色の短髪で、冒険者にも見える。
「ロンドは元冒険者なの。ま、元でも十分アタシ達より強いから護衛としては最高の人材ね」
「元冒険者……なんだかそんな気がしたけど当たってたよ」
ちなみにこの会話の間もアルカさんはジッと僕の一挙手一投足を見つめていた。
これだけ見られながら試験を受けるのか?
今から気が重いな……。
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