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10話 入学試験が始まって

馬車はセレンシア伯爵家の屋敷を出ておよそ半刻ほど走り、止まる。降りてみると、巨大な門が目の前にあった。


「でっか……」

僕の身長でいうと三人分はあろうかという門。

馬車が余裕で通れる幅もあり、その後ろに聳え立つのは白と青を基調とした巨大な校舎だ。


「まずは生徒会室に行きましょう。会長がそこにいるはずよ」

僕は何にも分からずとりあえずミーシャに付いていくことにした。


その後ろをアルカさんが付いてくる。正直彼女に背中を見せるのは怖くて仕方がない。今にも刺されそうな……そんな気がする。


二階に上がり突き当たりまで行くと、他の教室とは違う豪勢な見た目のドアが鎮座していた。


ミーシャがノックすると聞き覚えのある声が返ってくる。


「どうぞ」

「失礼します。ミーシャ・セレンシア、アルカ・セレンシア入室します」

なるほど、入る時はそうやって言うのか。僕も真似しよう。


「し、失礼します。リバル入室します」

見様見真似だったが、先に見ておいて良かった。そのままだったら、どうも、とか言いながら入っていたところだ。


中に入ると豪華な椅子に腰掛けているサリアさんと目が合った。


「よく来てくれたリバル君。改めて自己紹介しよう。私はサリア・ライトニング。この学園の生徒会長をしている」

「リバルです」

「それとミーシャにアルカか。案内ありがとう」

サリアさんは立ち上がると窓に近づき手招きする。

どうやら外を見ろとの事らしい。


ミーシャと顔を見合わせ窓際に近づくと、一際大きな円形の建物が目に入った。


「あそこが訓練場だ。今日の試験はあそこで行われる」

話に聞くと収容人数は千を超えるらしく、相当な大きさであることがうかがえる。


「来て早々申し訳ないが既に試験監督を待たせていてね。着いてきてもらおうか」

生徒会室の滞在時間およそ三分。

到着したその足で、訓練場へと向かうこととなった。



道すがら何人かの学生とすれ違ったが、誰もがサリアさんを一目見て綺麗な礼をする。


「リバル、会長はこの学園の最強でもあるけど、人気も凄いのよ」

「なるほど。だからみんな綺麗な礼をしていくんだね」


合点がいった。

学園の中では最強であり、ファンクラブができるほどの人気を誇るサリアさん。だからみんなサリアさんが去った後顔をあげて僕を見ると怪訝な表情を浮かべていたんだな。



訓練場の入口に到着するとサリアさんが足を止めた。


「ミーシャ、アルカ。君たちもリバルの試験を見るのか?」

「もちろんです。その為に来たと言っても過言ではありません」

「私もです!……できることならこの男と手合わせもお願いしたいくらいですが」

アルカさんはそう言うとまたジロッと睨んでくる。僕が入学試験を受けるのがよほど気に食わないようだ。


「ふむ、なら一つだけ注意して欲しい。ここで見たことは誰にも言ってはならない。いいな?」

サリアさんの真剣な表情にミーシャとアルカさんは無言で首を縦に振る。別に言いふらされても僕は構わないんだけど。



「では行こうか」



訓練場の中は想像よりも広い空間だった。ぐるりと周囲を観客席が埋め尽くし、真ん中の広場で戦えるように作られている。


そのド真ん中にはまた見たことのない人がジッとこちらを見つめて突っ立っていた。



「うそ……?」

「まさか……」

ミーシャとアルカさんは驚いているが僕には全然分からない。


近づくにつれて二人の驚き様は更に増していく。


「お待たせしましたレオリックス様」

「俺を待たせるなんてなかなかいい根性してるなぁ?」

「申し訳ございません。リバル君が先ほど到着しましたのでその足でこちらへと向かったのですが……」

「ハハッ!悪い悪いちょっとからかっただけだぜ。それで?そこの少年が例のか?」

「はい。聞くより実際に見たほうが早いかと」

「ま、それもそうだな。俺の名前はレオリックス・ローレンス。アストラ帝国六聖の一人……っても分からないか」

なんか凄そうな肩書きだけど、全然分からないぞ。でもミーシャとアルカさんの様子を見る限り相当凄い人ではありそうだ。


「リバルです。よろしくお願いします」

「リバル君か。君は確か山奥で何年も過ごしていたんだっけ?そりゃあ俺を知らなくても当然だな」

「すみません……」

「良いってことよ。それよりもう初めてもいいのかいサリアちゃん」

「はい、我々は観客席から観戦させて頂きますので」

「りょーかいりょーかい。さてと、リバル君。今回君の試験を担当するレオリックスだ。お嬢ちゃん達が席に移動するまでに身体をあっためとけよ〜」


スティーニア学園の試験って凄いんだな。六聖だなんて肩書きがついてるくらいだ。流石に世間知らずの僕でも聞いたことがある。なんでも国内最高峰の剣士につけられる肩書きだったはず。そんな人をたかが平民の入学試験に充てがうなんて、これは無様な真似は晒せないな。



自前の剣を数回振って身体を温める。

いきなり激しく動けば関節を痛めてしまうからね。


「ほう……?なかなか筋はいいねぇ」

「そ、そうですか……ありがとうございます」

レオリックスさんが凝視してくるからウォームアップもやりにくいな。


それにしてもこれだけ大きな訓練場で試験か。僕の剣術は我流だ。人様に見せられるようなものではないから少し恥ずかしい。


というかサリアさん達以外にも何人か観客席にいる。

まばらだけど、柱の陰から見てたり離れた席から見ていたりと数人じゃないな。十人以上はいるぞ多分。

気配だけでも十五人。恐らく僕が読み取れていないだけで、それ以上の人がいる。


よほどレオリックスさんが有名な方なのだろう。


「よし、準備はできたか?」

「はい!身体は温まりました」

「いいぞいいぞ〜。そうだな、試験内容も俺が決めていいって言われてるから、俺が納得できる実力を示せば合格としようか」

そんなの無理だ。レオリックスさんの裁量で全て決まるなんて試験とは言えない。帝国でも有数の剣士に敵うはずがないじゃないか。

とは言えず、僕は渋々ながら頷いた。


「俺に一撃でも入れられたら問答無用で合格だが、流石にそれは無理だろうからなぁ」

「いえ、入れてみせますよ」

かなり舐められている。そう感じられる言葉にイラッとした。つい反抗的な言葉を返してしまいハッと我にかえった。


「へぇ……?なるほどなるほど。君はなかなか肝が据わっているねぇ。ま、俺が何者かを知らないんだから当然か」

レオリックスさんはかなり強い。まだ一合さえも剣を交わせていないが、雰囲気が物語っている。ほんの少しでも気を抜けば一瞬で刈り取られる。そう思えるほど、強者の雰囲気が漂っていた。



今までにも強者と呼べるような人は見てきた。それでもレオリックスさんは頭一つ……いや、二つ分は抜きん出ている。


最初から全力でいったほうがいいだろう。


「そうだ。俺は君の剣術のことを聞いてるけど君は聞いていなかっただろ?教えておこうか。俺は我流剣術、君と一緒だぜ」

「我流、ですか」

「それと君の得意としている模倣剣術ってのも同じだな」

「え?」

模倣剣術を使いこなす人は極稀にいるとは聞いていたが目の前の人がそうだとは知らなかった。

……そういう事か。

試験監督にレオリックスさんを選んだのは僕と同じ模倣剣術を使えるからだ。


「模倣剣術同士の戦いは初めてだろ?楽しませてくれよリバル君」

「……胸を借りるつもりでいきます」

僕の模倣剣術がどれだけ通用するのか試したかったところだ。今まで出会ったことのない同じ剣術の戦い。


心躍るというのはこういう事を言うんだろう。


「さて、お話はここまでにしよう。先手は譲るからいつでもかかってくるといい。ああ、言っておくけど手を抜くような真似をしたら殺すぜ?」

「……全力でいきます」

本当に一瞬だけだが、レオリックスさんから放たれた殺気は異常なほど濃密なものだった。

手を抜くような真似などするつもりはないが、僕の全力が手を抜いているように思われれば……。


いや、考えないようにしよう。

とにかく全力でぶつかってみるだけだ。


「いつでもどうぞ」

「行きますッ!東方次元流・風切……落葉!」


僕は士郎さんの技を自己流に改良した技を放った。

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