11話 六聖と少年
観客席に移動したミーシャは興奮が冷めきらない様子でサリアへと問いかける。
「会長!あれって六聖のレオリックス様ですよね!?本物ですよね!?」
「ああ、そうだ」
「凄い……六聖の方をこの目で見られるなんて!」
興奮しているのはミーシャだけではない。
アルカも目を見開いてレオリックスを凝視していた。
「おいおい、マジで六聖を呼び寄せるなんてガチであの少年の実力を測るつもりかよ」
「そんなに凄いのか彼は」
ガイラは横にいる長身の男に山の中での出来事を話す。
「それが本当ならとんでもない逸材だぞ」
「まああの流れ星すら一度見ただけで模倣してみせたらしいからなぁ。会長が嘘をつくこともねぇだろ?」
「確かにそうだが……一度見ただけで模倣だと?バカな……」
「俺らだって本気でやり合ったら勝てるか分からねぇぞ」
「ふん、お前にしてはえらく弱気な態度じゃないか。剛剣とも呼ばれたお前相手に彼は脅威足り得るのか?」
「なるかもしれねぇぜ?まだまだ磨く余地はあるだろうが、士郎の抜刀術を初見で躱したからな」
士郎の抜刀術、東方剣術はここアストラ帝国ではかなりマイナーな部類である。つまり、どんな剣技なのか知らない者ばかりだ。
ガイラも初見なら士郎の技を躱すことは難しい。
「模倣剣術……か。あのレオリックス様を呼び寄せたのだからその剣術が本物か、それとも紛い物かを判別するつもりだな」
「ま、そういう事だ。アルベルト、よぅく見ておけよ。こんな機会滅多にねぇからな」
長身の男、アルベルトはガイラの言葉に小さく頷くとリバルを見つめる。
「そういやアルベルトの仕事は終わったのか?」
「ああ。だからここにいるんだろう。そうでなければあの会長に何を言われるか分かったものではない」
「カッカッカッ!それもそうだ!」
ガイラはケラケラと笑う。
ガイラは生徒会役員ではあるが、それほど多くの仕事は任されていない。対してアルベルトは副会長であるが故に学園内外において様々な仕事をこなしている。
士郎もまた、生徒会役員執行部長として学園内の風紀を守っている。
ガイラにそのような繊細な仕事はできないのだ。
だから生徒会役員の中でも一番暇を持て余していた。
「いやぁ楽しみだぜ。ずっと退屈だったんだよなぁ……この学園には俺に歯向かってくる奴はいねぇし、張り合いがなかったところだ」
「おい……また新人を壊すなよ」
ガイラは戦闘狂だ。実力者とみれば、すぐに戦いを挑む。リバルとも剣を交えたいと考えていたが、サリアがそれを許さなかった。
「あの時無理矢理にでも少年に挑んでおけば良かったなぁ。士郎に取られちまったからよ」
「あの少年の力を測るために模擬戦をしたのだったな。お前にしては珍しい。いつもなら率先して手を挙げていただろう」
「まあそれはな……会長がいたからよ」
「クックック。流石にお前でも会長には弱いな」
「あたりめぇだろ!俺なんかとは格がちげぇよ」
サリアは憧れられているのと同じくらい恐れられてもいた。まだ学生の身でありながら帝国上級騎士ですら簡単に倒してしまう実力者だ。
ガイラもアルベルトも生徒会役員である以上、一定の実力は兼ね備えているがサリアは強さの格が違うのだ。
「それに公爵家を敵に回せねぇだろ……」
「フッ。俺も侯爵家の人間なのだがな。お前よりは家の格が上だぞ」
「公爵家と侯爵家じゃ全然ちげぇよ!あっちは事実上のトップじゃねぇか。皇族を除けば一番上だぞ」
ガイラの家はドルムント子爵家、公爵家が息を吹きかければ消し飛ぶほど権力差がある。
アルベルトもカーライム侯爵家の家格だが、昔からの付き合いでもあるガイラは敬うような態度は見せない。
「お、そろそろ始まるんじゃねぇか?」
「ああ。クッ……ここまで感じられるあの殺気……レオリックス様も手を抜くつもりはないらしい」
突如訓練場の真ん中から放たれた殺気は、観客席で見守る者たちを震えさせるほど。すぐそばにいるリバルなどよく耐えられているなとみなが感心していた。
ガイラとアルベルトから少し離れた席に座っている学園長、ガーベラ・サテライトはリバル達ではなく別の方へと視線を向けていた。
丁度ガーベラの真向かいに位置する観覧席。その柱の影に隠れるようにしてジッと訓練場中央を見つめる人物。真っ赤な長い髪が風に吹かれるとサラリと靡く。
赤い髪のせいで隠れていても目立ってしまう。
名をアメリア・エメラルド。
六聖の一人にして、紅蓮の風と呼ばれる剣聖である。
気配遮断をしているつもりのアメリアだったが、ガーベラには気づかれていた。
(どうしてアイツがここにいるのかねぇ……呼んだ覚えもないけど)
ガーベラが呼んだ六聖はただ一人。レオリックス・ローレンスだけであった。しかし、どうしてかアメリアまで来ている。
おおよそレオリックスが呼ばれた事をどこからか聞きつけたのだろうと結論付けて、ガーベラは訓練場の中央へと視線を戻した。
静寂を切り裂くようにしてリバルの声が木霊する。
「東方次元流・風切……落葉!」
リバルが放ったのは士郎の技を見て覚えた自己流の剣技。
そもそも士郎の技をたった一度見ただけで模倣するのすら至難の業なのにも関わらず、リバルはそれを自己流に改良してみせたのだ。
これには誰もが驚きを隠せなかった。
「おいおい……アイツ士郎の技使わなかったか?」
「俺にもそう見えた……が、少し違うな。アレンジを加えていたようにも思える」
ガイラとアルベルトはリバルの放った技を見て、即座に違和感に気づいた。東方次元流・風切は日頃から士郎の技を見ている二人にとって見慣れた技だ。だからこそリバルがその技をアレンジしていることに気づいたのだ。
「模倣だけじゃねぇってか?こんなワクワクさせてくれるやつがいるとはなぁ?」
「ワクワクしたからといって無闇に喧嘩を売ったりなどするなよ。あの少年はまだ成長途中だろう、お前みたいな力こそ全て、と言わんばかりの剣士とやりあえば潰されてしまう」
「潰すつもりなんかねぇよ。ただちょっとばかし遊びてぇなって思っただけだろが」
ガイラの遊びたい、というのは言葉そのまま受け取ってはならない。アルベルトは昔、ガイラの言葉通りに受け取ってしまいえらい目にあったのだ。
「はぁ……いいから黙って見ていろ」
アルベルトは呆れたようにため息を付いた。
時同じくしてサリアの周りでは小さく話し合う声が上がっていた。
「リバルのオリジナル……?いや違う……あれって高峰先輩の技、ですよね?」
「ああ、間違いないだろう。だが少しばかり手を加えているようだ」
ミーシャはリバルが士郎の技に手を加えている事など分かっていなかったがサリアはすぐに気づいていた。
腕が立つ剣士というのは総じて目もいい。リバルの剣技は自身の身体に合わせて作り変えられている。
士郎とまったく同じ技を放つことも可能だったが、それでは本来の威力は出せやしない。
自分の腕の長さ、振りの速さ、身体能力を考え完璧に自分仕様へと落とし込んだ技だ。
ただ真似るだけであれば、多少剣の心得があればできないことはないだろう。しかし、模倣した剣術を昇華させるのは並外れたセンスが必要だった。
「リバル……やはり私が見込んだ男だ。これほどの逸材を見つけられたのは僥倖だった」
「そんなに凄いんですか?」
「凄い、という言葉では片付けたくはないな。リバルのやっている模倣剣術というのは知っているだろう?」
ミーシャは頷く。模倣剣術というのは珍しい剣術であっても、使える者がいないわけではない。
ただ極端に少ないだけである。
ミーシャが頷いたのを見てサリアは続ける。
「模倣剣術自体、余程目が良くなければ習得できないが、彼は模倣した技を自身の技へと昇華させている」
「で、できるんですか?そんなの」
「実際に彼がやっている。ただ、私がやれと言われてもできる自信はない、な。時間をかければできるかもしれないがたった一度相手の技を見ただけではまず不可能だ」
ミーシャはサリアの言葉に、リバルは想像している以上の逸材なのだと改めて認識していた。
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