12話 剣聖と戦わされて
「行きますッ!東方次元流・風切……落葉!」
士郎さんの技を昇華させたほぼオリジナルの技を放つ。士郎さんの技自体初見では避けられないと言われているらしいし、それに手を加えた。
流石に初見では躱せないだろう――そんな甘い気持ちは一瞬でなくなった。
「おっ、東方次元流の模倣か。珍しい技を使うじゃないか。でも残念だなぁ、俺も使えるんだよなぁ!東方次元流・鎌鼬!」
レオリックスさんは剣を素早く抜き放つと不可視の刃を飛ばしてくる。既に一度見た技だ。ただ、見たことがあるといっても対処できるかは別問題である。
「クッ……」
身体をひねって躱したつもりだったが、脇腹に少し血が滲んでいた。レオリックスさんはまだ本気で剣を振るっていない。それでも躱しきれないほどの斬撃の速さ。流石は六聖と呼ばれるだけはある。
気を取り直し、今度は剣を上段で構えた。
「ほう?今度はアストラ帝国流か。その構えは……強撃だな?」
「やっぱりバレますよね。でも!これなら!アストラ帝国流・強撃……嵐!」
力技とも言われている強撃を僕がオリジナル同様の威力で放つことはできない。僕の膂力では大人を打ち負かせるほどの威力はでない。
だからこそ改良した技、嵐。
一撃、ではなく二撃三撃と同じ場所に斬撃を繰り返す。
「おおっ!やるじゃないか!ただの猿真似じゃねぇなぁ!」
軽口を叩くレオリックスさんは、その全ての斬撃を片手で受け流していた。
やはり僕とは格が違う。だからといって負けるつもりはない。出し惜しみはなしだ。もはや切り札を使うしかないだろう。
「それならこれでどうだ!アストラ帝国流・流れ星……四光!」
サリアさんの技を見て盗んだ剣技だ。まだ完全に自分のものにできたわけではないけど、威力は申し分ないはず。あのミノタウロスですら切り刻むことができたんだ。最低でもかすり傷くらい負わせられる。
「ひゅぅ~!いいねぇ!そうこなくっちゃあなぁ!!」
まるで四つの剣閃があらゆる角度から襲ってくるように見えるが、実際には無数の斬撃が同時に襲いかかり、避ける隙すら与えない必中の連撃技だ。
レオリックスさんでもこれは躱せまい!
「でもまだ甘いぜ?風神流・八咫烏」
聞いたこともない技をレオリックスさんが放った。
初見では対応できないのが僕の弱点でもあり、欠点だった。
僕の斬撃は全て撃ち落とされ、レオリックスさんの身体には一筋の傷すらついていない。それどころか斬撃の数はレオリックスさんのほうが多い。
「クソっ!雨天流・雨嵐……六花!」
僕はまだ誰にも見せたことがない技で迎え撃つ。当然練度は低く、撃ち漏らした斬撃の一つが僕の頬を斬り裂いた。
「ッッッ!」
頬に熱を感じ痛みを堪えながらもレオリックスさんの一挙手一投足を見逃すまいと視線は固定したままだ。
「反撃された時の対応もしっかりできているじゃないか。だがまだ発展途中ってところか」
「ええまぁ……」
「しかしなかなか優秀な逸材だな。これならちょっとは本気出してもいいかもなぁ」
レオリックスさんの言葉にギョッとする。今までのは確かに手を抜いていた感覚はあった。それでもなんとかついていけてる、と思ったのは自惚れだったかもしれない。
本気を出す、といった瞬間からレオリックスさんから放たれる殺意が突き刺さった。足が震える。対峙しているのも辛い。逃げ出したくなる、けど同時にレオリックスさんはどれほど高みにいるのだろうかと疑問が沸々と湧き上がってきた。
「おいおい。殺意を向けられて尚笑うか普通?」
「え?笑って……ましたか?」
「口角が上がってたぜ」
レオリックスさんに指摘されるまで自分が笑っていることに気づかなかったな。どうやら僕は本能的に殺し合いの戦いを望んでいたらしい。
「まあいい、とにかくもうちょいギアあげるぞ。そらよ!」
数メートル離れていたレオリックスさんがたった一歩踏み込むだけで僕の目前にまで迫ってきた。
「うわぁ!」
咄嗟に剣を真横に振るうが、空を切る。
「この速さについてこれるか?」
瞬きするごとにレオリックスさんのいる位置が変わっていく。それも凄まじい速度で。
目で追うことすら厳しい速さだ。これじゃあ剣を当てるなんて無理だ。
「これは縮地ってやつだぜ!剣聖なら最低限習得しておく技だな!」
「縮地……初めて聞きました」
「だろうな!そもそもこれを使えるってことはある程度腕が立つんだからよ!オラッ!」
レオリックスさんら喋りながらも手を止めることはしない。油断も隙もあったもんじゃないな。
でも縮地か。高速移動する技なんだろうけど剣技じゃないから見て覚えるのは難しいかも。
「なかなか耐えるじゃないか!やっぱり模倣剣術を使ってるだけあって目はかなりいいな!」
「そうッ!ですか!ありがとうございます!」
もう何合目か分からない剣の打ち合いもやがて拮抗が崩れる。それは僕の体力不足が原因だった。
最初の数合は完璧に合わせて弾いていたが、今となっては完全に防ぎきれず少しずつ僕の衣服が斬り刻まれていた。
既に白いシャツは血が滲み、汚くなっている。腕や足にも血が垂れていて、見る人が見れば早く治療しろって叫ぶだろうな。
「どうしたどうしたぁ!?動きが鈍ってきてんじゃないか!?」
「そりゃあ!これだけッ打ち合ってたら疲れもきますよ!」
「ヘヘッ、まだそんな口が叩けるならいけるな!東方次元流・鎌鼬!」
不可視の斬撃。もう三度目だ。流石に三度も見れば剣閃の流れを読める。
斬撃が到達する位置に剣を添えると衝撃が手に伝わってくる。防げはしたけど手の痺れだけは慣れないな。
次の攻撃に備えようと再び剣を構えるとレオリックスさんが怪訝な表情で固まっていた。
「おい、君今剣を置いたな?」
「置く、というのは?」
「今俺の放った斬撃を避けるでもなくただ剣を置いて防いだだろ。なぜだ?」
「もうその技は三度目ですから。流石に読めますよ」
僕がそう言うとレオリックスさんは一瞬目を見開いて高笑いしだした。
「ハッハッハ!おもしれぇなお前!」
「その、面白いというのはどういう意味ですか?」
「いや?気にするな。つまり君は三度も同じ技を見れば完全に見切れる、そう言いたいんだな?」
「え、ええまぁ……」
何がおかしいのか全然分からない。
剣士ってそういうものじゃないのか?
「そうかそうか……どうやら君は俺が思ってるより随分と才能に溢れた剣士らしい。そうだな、折角の機会だ。模倣剣術の本領を見せてやろうか」
「本領、ですか」
「ああそうだ。模倣剣術の長所はなんだ?あらゆる技を盗むところだ。つまり、古今東西様々な剣技が身につけられる。じゃああの技とこの技をかけ合わせたら?なんて考えた事はねぇか?」
僕は静かに頷く。アストラ帝国流と水神流をかけ合わせて完全オリジナルの技を創り出す事も可能だ。
ただ僕にはまだその技術がない。
本来剣術とは何度も何度も剣を振り型を身体に覚えさせていく必要がある。それをたった数回見ただけで真似している僕のような模倣剣術使いは練度という意味では誰よりも劣る。その練度の低い技をかけ合わせた所で無茶苦茶に剣を振り回しているだけとなってしまう。
理論上は確かに強力な技が生み出されるかもしれない。しかしあくまで理論上は、だ。
「じゃあよぅく見ておけよ〜」
レオリックスさんは剣を頭上に構え、地面と平行に傾けると突きの体勢をとった。ここから予測できるのは水神流、もしくはアストラ帝国流の技だ。僕の知らない流派の可能性は高いが、ある程度予測して動いてこそ剣士だ。
「牙城崩し」
瞬きすると既に目の前にレオリックスさんがいた。
そして、次の瞬間には僕は壁に背を預け項垂れていた。
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