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7話 自宅にさよならをして

サリアさんに学園へと誘われてからおよそ半年が過ぎた。僕の鈍った感もだいぶ取り戻したと思う。

半年間毎日ずっと剣を振り続けていたんだから、昔よりも剣の腕前は冴え渡っているようにも思える。

まああくまで自負だけど。


迎えに来るとの事だったが、多分今日がその日のはず。長く生活したこの家ともおさらばかと思うと若干寂しさが残るな。


年季の入った玄関、軋みが気になるリビングの椅子。

汚れがこびりついた台所に、柔らかさを失ってしまったベッド。


荷物は持ったし忘れ物はない。

後は迎えが来るのを待つだけ。


僕は玄関先に腰を下ろしその時を待つ事にした。



しばらくすると馬車の音が聞こえてくる。


御者席に座っている人は見たことがない人だったが、窓から顔を出し手を振る女の子の事はすぐに分かった。


長く赤い髪が風に揺られている。

ミーシャだ。僕が初めて出会った学園の生徒。


馬車が止まると同時に飛び降りて来たミーシャの顔は満面の笑みが零れていた。


「リバルっ!」

「久しぶりだねミーシャ」

抱きついて来るのかと思えるような勢いで走ってきた。


「さぁ学園に行きましょ。みんな待ってるわ。あなたが来るのを」

「ここから一日くらいだっけ?」

「この馬車なら半日と少しかしらね。とにかく、さ、乗った乗った」

ミーシャに背中を押され馬車へと乗り込む。

中はそれほど広くはないが、座席にはクッションが敷かれてあり長い時間座っていても疲れなさそうだ。


「馬車に乗るのも七年ぶりかなぁ」

「まあこんな山の中で暮らしていたらそうなるでしょうね。あ、御者さん、行って頂戴」

ミーシャの声に反応した御者が頭をペコリと下げる。

馬車の中からだとシルエットしか見えないが学園の生徒を送り届けたりする専属の御者さんなのだろう。



「どう?半年間で勘は取り戻せたの?」

「たぶんね。昔よりもかなり上達したかも」

「へぇ……楽しみね。最初に実技試験があるからアタシも見に行くわ」

「え……見に来るの?恥ずかしいな」

同年代に見られながらの試験ってなんだか恥ずかしい。僕だけだろうか。


「良いじゃないの。顔見知りがいた方がリラックスして試験に臨めるでしょ?」

「まあ確かにそう言われたら何も言えないけど」

「それとも手の内を見せたくない、的な感じ?」

ミーシャには見せてるしなぁ。というかそもそも人様に見せられるものなのかな、模倣剣術って。

結局のところ人の真似をしてるだけだから、自分のものって感じでもないし。


「それよりさ、学園のこと教えてくれよ。学園ってのがどういうものか分からなくて」

「そっか。リバルは学校に通ったことがないんだっけ?」

僕は平民生まれだ。文字の読み書きや最低限の学術は父さんと母さんから教えてもらった。学校というものに通えるだけの財力はうちにはなかったから仕方がない。


ミーシャに教えてもらったのは学園での生活、授業、人間関係についてだ。


「学園って言い換えてみれば小さな国みたいなものなのよ。だから貴族だっているし商人の子供だっているし、リバルみたいな平民の子だっているの。当然いがみ合いなんてしょっちゅうよ」

「平民ってだけで馬鹿にされたりするんだろ?」

「一部の貴族がね。でも全員じゃないわ。ほら、アタシだってリバルの味方をするし前に一度会ったシンクとかリナだって貴族主義ではないし平民蔑視なんてしないわ」

「その貴族主義の人達ってどんな感じ?」

「そうね……平民の事なんて視界入れたくない、とか」

よし、決めた。貴族主義の人達には絶対近づかないようにしよ。面倒事は勘弁願いたい。


「リバルは貴族が嫌いかしら」

「嫌い、ってわけでもないよ。僕のいた村にもたまに貴族の人が寄る時あったしね」

そう、僕の住んでいた村には冒険者だったり騎士だったり商人だったりと様々な人が寄っていくことがあった。中には貴族としか思えないような服装の人だっていた。なぜかは知らないけど、多分ちょっとした旅行気分だったりするんじゃないかな。


「貴族が立ち寄る村……?リバルの住んでいた村の名前って聞いてもいいかしら」

「フミリスだよ」

僕が名前を伝えるとミーシャは少し考える素振りを見せた。


「知ってるのか?」

「いえ……なんとなく聞いた事のある名前だと思って。多分思い違いかしら」

まあ似たような名前の村は多いからね。


その後もミーシャに色々と教えて貰った。

中でも興味を持ったのは実力主義だという話だ。


学園内では貴族であろうが平民であろうが、実力が全てらしい。つまり、僕のようなどこの誰かも分からないような奴でも実力さえあれば学園での発言力や権力は高まる。


剣の腕だけなら自信はあるけど問題は魔法だな。


僕はいままで剣のことだけを学んできた。魔法なんて一度たりとも使った事はない。というより多分使えないと思う。


「ミーシャは魔法も使える?」

「もちろんよ。これでも一応伯爵家の令嬢なのよ?貴族のくせに魔法が使えなかったら馬鹿にされるじゃない」

そういうものなのか。貴族って生きにくそうだな……。


「じゃあさ、僕にも教えてもらえないか?」

「え?リバル魔法は使えないの?あれだけ剣の腕が立つのに?」

「だからだよ。剣ばっかり振ってたから魔法を学ぶ時間なんてなかったんだ。そもそも魔法を教えられる人なんて村にいなかったし」

英雄伝説で語られる騎士は魔法も剣もどちらも凄腕だったと聞く。だから英雄を目指すなら僕も魔法が使えなければならない。


「教えるのは全然構わないけどそもそもリバルは魔法の事をどれだけ知っているの?」

「あれだろ?手から火とか雷をぶわって出したり、水が飲みたくなったら空中から生み出したり」

僕の言葉を聞いてミーシャは溜息をついた。


「そのレベルなのね……それだったら普通に教師から学んだ方がいいわよ。魔法の基礎が多分理解できていないだろうから」

なるほど、僕の知らない魔法の基礎というものがあるらしい。


「剣みたいにずっと振ってりゃいいってもんでもないのかな?」

「いいえ、そうでもないわ。反復練習は魔法でもよくやるから。でも剣を振るのと違って魔法は魔力を消費するのよ。いわば体力みたいなものね」

「あーそれは知ってるよ。僕にどれだけ魔力があるのか分からないけど」

生物全てに魔力は宿っているらしいが、僕の魔力がどれだけあるのかなんて測った事もないから一切分かっていない。


魔法の才能がなかったらどうしよう。


「あら、話し込んでたらもう辺りは真っ暗ね……。このまま走り続けるから日が変わるまでには帝都につくと思うわよ」

ミーシャに言われて窓の外を見ると既に山を下りていた。街道といっていいか分からない道を走っている。


日は落ちていて辺りは真っ暗だ。

魔物が襲ってきそうな雰囲気がある。


「この辺りは街灯もないから真っ暗だな。帝都って案外遠いんだなぁ」

「そうよ。リバルってほぼ世捨て人みたいな生活送ってたんだから。自覚はないでしょうけど」

自覚がないわけじゃあないんだけどね。


七年も村から離れて生活していたから世の中の動きとか全然分からないけど。


「あと三時間ほどかしら?帝都が見えてくると思うわ」

「へぇ……ちょっと楽しみだな。帝都なんて行ったことないし」

「案内は任せなさい。まあ着いた時には夜中だから一旦アタシの家に来てもらう事になるけど」

「え!?」

ミーシャの家に、だと?ミーシャって伯爵家の令嬢じゃないか。てことは伯爵のお屋敷に今日は泊まるのか?冗談じゃない!礼儀も作法も知らない僕が伯爵相手に失礼な事をしてしまうに決まってる。

それに手土産だって用意してない。


「いやいや……僕は野宿でいいよ。幸い剣もあるから野盗に襲われても自分でなんとかできるし」

「馬鹿なの?帝都で野宿なんて聞いたこともないわよ。そんな事をしたら衛兵にしょっ引かれるわ」

「そ、そうなのか……帝都って怖いな」

野宿しただけで捕まるなんて恐ろしい。


なんだか気軽に学園に入るなんて言ったの、間違いだったかもしれないな……。

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