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6話 模倣剣術

――スティーニア学園。

学長室にノックの音が響き渡る。


「開いてるよ」

学長である妙齢の女性が声をかけるとそっと扉が開かれた。


「失礼します」

入ってきたのはサリア・ライトニング現生徒会長だ。

その顔つきは真剣そのもので、こういった時には大体相談事が持ち込まれる。


「なんだい、そんな顔して」

「学園長、折入っての相談が」

「だろうね。アンタのその顔は相談しかないだろう。で?今度は何だってんだい?剣闘会の延期かい?それとも生徒会の役員でも増やしたいのかい?」

「いえ、実は一人入学させたい者がおります」


入学とあっては流石に生徒会長が独断で進められる話ではない。なるほどと、学長は姿勢を正す。


「途中入学の試験は本来の入学時よりも厳しいよ。それはサリアも分かっているんだろう?それでも入学させたい者がいると言うのかい?」

「はい。その者ならば途中入学でも難なくクリアできるかと」

「ほう……大した自信じゃないか。そいつは一体どこで見つけたんだい?」

サリアは先月あった校外実習の話を口にする。


校外実習の話は学長も知っていた。

本来出るはずのない場所にミノタウロスが現れたと。

その時はサリアが間に合った為、被害は一つもなかったと報告が上がってきていたのを覚えている。


「ミノタウロスが出たって話だろう?それはもう聞いたよ」

「その時に出くわした少年が例の者です」

「……もう少し詳しく話しな」


サリアの口からは学長にとっても信じ難い話がいくつも出てきた。曰くミノタウロスを倒した、サリアの剣技を模倣した、生徒会執行部長の高峰士郎の技すらも見切って己の技にしていた、などなど。


笑い飛ばしても可笑しくない話だ。

しかしサリアの表情は真剣で、嘘を言っているような雰囲気でもない。


「模倣剣術……確かに存在はしているよ。でもそれは類まれなる才能があってこそ、だ。その少年がそうだと言うのかい?」

「紛れもなく天才です。彼は山に住んで長く久しぶりに剣を握ったそうですが、その動きはまさしく騎士そのもの。彼のような才ある少年を野放しにするのは勿体ないかと」

「ふむ……確かにサリアの話が本当ならソイツはいずれ英雄伝説に語られる騎士に成り得るだろうさ」

「私の剣技は簡単に真似できるようなものではありません。それを真似るだけではなく自身の技へと変化させたのです」

サリアの得意とする技、アストラ帝国流・流れ星は習得するのに長い修練を必要とする。

それをたった一度や二度見ただけで完全にモノにするのは本当に一握りの天才だけだ。


それだけではない。

士郎の使う刀術は帝国ではマイナーな部類に入る。

特に神速で放たれる抜刀術は何が起きたかすら理解できず敗北するだろう。


それすらも見切るなど並大抵の動体視力では不可能だ。


「その少年の名は?」

「リバル、と」

「ふむ、名字ないのであれば平民の子か。しかし模倣剣術ときたかね……そういえばアイツも真似るのが上手かったねぇ。その少年の親の名前は分かるかい?」

「いえ、そこまでは聞いておりませんでした」

「そうかい。まあいい、許可してやろう。ただし試験は受けてもらうよ。特別待遇はできないからね」

「心得ております。スティーニア学園は実力史上主義、力ある者こそ正義ですから」


学長はその少年に興味を持った。模倣剣術は決して不可能な技術ではない。しかし相当な動体視力、反射神経、そして記憶力と全てが揃って初めて可能になる。


「入学試験はそうさねぇ……アイツに頼もうか」

「アイツ、と言うのは?」

「この帝国でもアイツの名前を知らない奴はいないだろう?我流剣術のアイツを、ね」

「まさか……レオリックス様、ですか?」

「そうさ。その少年の模倣剣術ってのが本物なのかそれとも紛い物なのか、判別するにはアイツが適任さ」


レオリックス・ローレンス。

この名を知らぬ帝国民はいない。


アストラ帝国六聖と呼ばれる者達がいる。

何千万人いると言われている帝国の中でも最高峰の剣の腕を持つ者達の呼称である。


その中の一人、レオリックスは異色の剣聖だ。


アストラ帝国流や水神流、火の神流、雨天流、東方次元流、風神流といった数ある流派のどれにも当てはまらない完全なる我流を使うのだ。


剣聖の一人が彼をこう揶揄した。

"枠に当てはまらない初見殺し"と。


彼こそがこの国一番の模倣剣術を扱う剣聖なのだ。


「ですがレオリックス様は六聖ですし、お忙しいのでは?」

「それでも必ず来るさ。模倣剣術を使う騎士見習いが現れたぞ、と言えばね」

レオリックスは弟子が欲しいと常日頃から言っている。


当然六聖の一人なのだから、弟子入りで訪れる者は後を絶たない。しかしそのどれも断っているのだ。


理由は明白、模倣剣術ではないから。


ただそれだけの理由で弟子入りを頼んでくる将来有望な者たちを一蹴していた。


「楽しみだね……本物の模倣剣術を扱う子を見てアイツが何て言うか」

「多分弟子にするのではないでしょうか?」

「そうだろうねぇ。今まで本物の模倣剣術を使える奴なんて殆どいなかったんだから」


希少価値の高い才能。

その才を持った少年が入学するための試験監督を請け負ってほしいと伝えれば二つ返事で飛んでくる。それが分かっている学園長はニヤリと笑みを浮かべた。


「年齢はどうなんだい?」

「今の一年生と同じくらいかと」

「となると入学するのは二年生になるタイミングだね。案外ハインツの子供だったりしてね……」

「ハインツ?それは誰でしょうか?」

「ああ、サリアは知らないだろうさ。昔アタシと一緒に冒険者をやっていた時の古い友人さ。そいつも相当目が良くてね。人の剣技を真似るのが上手かったのさ」

「なるほど……となるとその方のお子さんかもしれませんね」

「どうだかねぇ。確か七年前にハインツが住んでいた村が魔物に襲われて殆どの住民は死んだと聞いてるよ」

「その時にハインツという方も亡くなったのですか?」

「ああ、そう聞いてるよ。いくらアイツが強くても魔物の襲撃はミノタウロスが複数体いたらしいからね」

ミノタウロスという言葉にサリアはふと考える。


リバルが類まれなる剣才を持つと分かったのもミノタウロスが現れたからだ。偶然、かもしれないがミノタウロスに縁のある少年というのも不思議な話だ。


「そういえばその子は平民の子なんだろう?入学金はどうするつもりだい?」

「私が出します」

「なかなか入れ込んでるじゃないか。そんなにもサリアが肩入れする少年……半年後が楽しみだね」


半年後にはブランクを無くしておくと言っていたのを思い出したサリアは期待に胸を踊らせる。


「ただし、平民の子が特待生ともなればそれを面白くないと捉える者もいる。守ってあげないと潰されるよ」

「いえ、それには及びません。この学園は良くも悪くも実力主義。降りかかる火の粉くらい自分で払いのけられる実力があればいいだけでしょう」

「ハハッなるほどねぇ?なかなかスパルタじゃないか。ま、聞いてる限りだとその子の実力は相当のものさ。上級生が相手でも引けを取らないだろうねぇ」

「そう思います。条件さえ整えば私も危ないかと」

サリアですら危ないと表現したことに学園長は驚愕した。


サリア・ライトニングはスティーニア学園の生徒会長だ。実力の伴わない者が生徒会長になれるはずがない。彼女は自他共に認める学園最強の剣士だ。


そんな彼女ですら条件すら整えば負ける可能性があると言っている。学園長もリバルという少年が気になって仕方がなくなっていた。


「ああ、半年後が待ち遠しいよ。この学園の勢力図を書き換えるほどの実力者だったら……クククッ、次期生徒会長が平民の子というのも面白いかもしれないねぇ」


学園長のクツクツと笑う声がいつまでも部屋の中に木霊していた。

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