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5話 学園に誘われて

風が僕の頬を撫でると同時に肩には熱い痛みを感じた。


「いっ……」

見れば肩から血が流れていた。いつだ?いつ斬られた。何も見えなかったぞ……。


いや違う、士郎さんを見ればさっきまで鞘に仕舞われていた刀が抜かれている。


「これは居合……神速の一撃。初見で躱せる者はおらぬよ」

「居合……何も見えませんでした」

模倣どころではない。見えないのだから真似の仕様がない。


やっぱり日頃から剣の振りを見慣れていないと目が悪くなっていくな。昔なら士郎さんの技も見切っていたはずなのに。


僕は久しぶりに悔しいという感情に飲み込まれた。


「もう一度……お願いします」

「ふむ……今のを見てもう一度、ときたか。ハハハッ!面白い、それではもう一度お見せしよう、今度は避けられるとよいが」

士郎さんが構えると全神経を目に集中させる。


足の運び、腕の振り方、指の動き、筋肉の微細な振動、全てだ。士郎さんの一挙手一投足を見逃さないようじっくりと見つめる。



「本気になったか……嬉しいぞリバル。先ほどまでは異様なまでに闘気を感じなかったが、今では肌に刺さるような闘気を感じる」

闘気とやらが何かわからないが士郎さん曰く、闘気というのはその人から漏れ出る殺気のようなものらしい。


「では参る……東方次元流・風切」

技の名前が聞こえるや否やほんの僅かに士郎さんの指が動いた。


……来る。


剣先を地面に向け身体に沿わせるように防御の体勢を取りつつ上へ小さく跳ぶ。


視線は士郎さんの手元から離さない。筋肉の微細な動きすらも見逃すものか。


予想していた通り士郎さんが放った目に見えない斬撃は足先をかすったようで、若干靴が削れていた。



「フッフッフ……真横に一閃を放ったがまさか本当に見切るとは……やはり貴殿は面白い!」

「面白いのはここからですよ」

できればあまり手の内を晒すマネはしたくなかったが、士郎さんという強者を前に僕の心は躍っていた。


「東方次元流・風切……落葉」

ただ真似するだけではない己の身体に合わせて創り出す模倣昇華。僕の切り札ともいえる技だ。

コレばかりは父さんですら理解できなかった人智を超える妙技。


剣を鞘に仕舞い滑らせるようにして抜き身を放つとその勢いを利用し、上空へ高く舞い上がる。


あとは士郎さんのてっぺんめがけて振り落とす。


剣の重さと体重の軽さを利用した僕のためだけの技だ。


「これはっ……!?」

士郎さんが目を見開き驚きを露わにする。

技を完全に盗むだけでなく昇華させることにより、相手の意表を突く。それこそがこの特技の真骨頂だ。


「すまんッ!東方次元流・鎌鼬!」

士郎さんが目で捉えられない速さで刀を振るったと思うと僕の剣は不可視の刃に阻まれ勢いを落とした。


それだけじゃない。

気づけば胸と太ももの辺りに熱い痛みを感じた。



「ぐっ……」

体勢を崩しその場に蹲るとソッと刀の刃が僕の首に当てられた。


「拙者の勝ち、だな?」

「……負けました」

僕の技は完全に封じ込められ、カウンターまで食らってしまった。まごうことなき敗北。

久しぶりに悔しいという感情が出てきた。


やっぱり士郎さんは強いな。本物の剣士を見れた気がする。いい経験にはなったかな。


「強いですね……僕の技は全ていなされました」

「まあ拙者と貴殿では実戦経験の数が違うだろう。いやそれよりもさっきのは何なのだ?拙者の技を完全に模倣するどころか己の技に変えていたようにも見えたが」

「そこは一応……秘密ということで勘弁して頂けたら……」

「ふむ。確かに剣士にとって手の内を晒すのは不利になる。しかし貴殿の才能は埋もれさせるには勿体ないものだ。是非とも学園で互いに切磋琢磨していきたい」

士郎さんほどの剣士にそう言って貰えるのは純粋に嬉しいな。



「リバル……やはり君は天性の才がある。士郎の居合はそもそも二度や三度で見切れる技ではない。それを君は見切った。いや、それどころか技を完全に模倣していた。私の目に狂いはなかったようだ」

試合を見ていたサリアさんが拍手しながら近づいてくる。手放しの称賛付きで。

流石にそんだけ褒められたらムズムズする。


「今のは……見なかったことにしといてください」

「ふむ。それは難しいな。ほら、周りをよく見たまえ。君の戦いを見て目をまん丸にしているだろう?」

その場で観戦していた人達はみな口をポカーンと開き、呆然としていた。そんなに驚かなくてもいいのに。


「リバル……今のは……」

「ちょっと士郎さんの真似をしただけだよ」

「真似……ってレベルじゃなかったような気がするけど」

ミーシャも相当驚いているのかジッと僕の手元を見つめていた。なんなんだ?前回といい、ミーシャはよく僕の手を見てくるな。



「なかなか白熱した戦いだったがこの勝負、士郎の勝ちだ。リバル、君には学園の試験を受けて欲しい」

「……まあ約束でしたからね。でも僕お金なんてほぼ持ってないんで入学金とかその辺りが用意できませんけど」

「心配しなくていい。君は特待生として入学してもらう」

特待生って、選ばれた人しかなれないやつじゃないのか?少なくとも平民のよく分からないやつがなっていいものではないはずだ。


「リバルが心配しているのは平民の自分が、といったところだろう。スティーニア学園は実力主義、つまり君のように平民であろうと腕さえあれば特待生になり得る」

「その言い方だと既に平民の身分で特待生の人がいるように聞こえますけど」

「いるぞ。士郎がそうだ」

え!士郎さん平民だったのか。でも確かに生徒会役員執行部だとかなんとか言ってたけど。本当に身分が関係ない学園らしい。



「拙者は高峰士郎。貴族のように名字を持っているが拙者がいた国ではみな名字がある。決して高貴な身分ではないぞ」

「そうだったんですか……」

士郎さんは東の国から一人武者修行にアストラ帝国を訪れた際、サリアさんと出会ったそうだ。元々ただの武者修行だったのにサリアさんにその腕を買われ今に至る。


「つまりだ。拙者と貴殿は似た境遇を持つ。平民ごときが特待生に選ばれるなどけしからん、などという輩は殆どおらん」

「殆どって事はいるにはいるんですね」

「まあ……貴族史上主義の者達がうるさい程度だ。そんなもの己の磨いた剣技でねじ伏せてやればよい」

士郎さんって案外脳筋なんだな。そんな事をすれば後々面倒になるのが目に見えているけど。



「というわけでリバル、今から半年後の四の月に迎えをよこそう」

「あ、迎えに来てくれるんですね」

「当然だろう?リバルは学園の場所が分かるのか?」

僕は首を振る。学園の場所なんか分かるはずがない。

でも至れり尽くせりだな。そんだけ腕を買ってくれるならちょっとは頑張ろっかななんて思っちゃうよ。


「でも僕は前にも言いましたが騎士を目指すような男じゃありませんよ。悠々自適に暮らしていければそれでいいかなって思ってまして」

「ふふふ……それはどうかな。学園には士郎のような剣士が何人もいる。そんな彼らを見て君は本当に疼かないのかな?」

「士郎さんのような剣士が沢山……」

「そうだ。実際に彼と戦っていた時、君は笑っていたぞ」

まあサリアさんの言うように楽しかったのは事実だ。

幼い頃から剣を振ってきて父さんを超えるのが目標だった。


騎士を目指す者の大半が似たような理由だろう。心の奥底ではなんだかんだ僕も剣の道を捨てたくはないのかもしれないな。



「リバル、入学したらアタシもいるわ。誰一人知り合いがいないわけじゃないし、もしも貴族連中に絡まれてもアタシが守るわよ」

「その時はよろしく頼むよ。とりあえず入学までの半年間でブランクは無くさないとな」

「十分今でもアタシより強いと思うけど……」


強い、かもしれないが英雄と肩を並べられるような実力はない。


「ではまた半年後に会おう」

「ええ、そうですね。それまでには少なくとも士郎さんに一撃入れられる程度には鍛えておきます」

「少なくとも士郎以上……ハッハッハ!面白いなリバル。是非半年後を楽しみにしていよう」



サリアさんは高笑いしミーシャは苦笑い。

ガイラさんと士郎さんもニヤニヤしていた。


もしかして士郎さんって学園内では上位なんじゃないだろうか……。それだったらとんだ自信家の台詞じゃないか。恥ずかしい……。


まあとりあえず半年後までまだ時間はある。

それまでにある程度ブランクは無くしておかないとな。

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