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4話 刀術に魅せられて

七年ぶりに人に会えて少し楽しかったな。

小屋に戻ってくると一抹の寂しさを覚える。


長らく人と会話すらしていなかったから、緊張したのは内緒だ。それにしてもサリア・ライトニングさんか……。めちゃくちゃ綺麗だったな。

あんな人が騎士を目指すのか。

ああいう人こそ英雄に相応しいんだろうな。


それにミーシャもまだまだ伸び代のある騎士見習いだった。ガイラさんも本気の剣技を見せてもらいたかったな。


ああ、やっぱり剣を触り……いやいや、僕はもう騎士を目指すのを辞めたんだ。今の悠々自適な生活が性に合っている。


さてと、明日からいつもの生活が戻ってくるな。

また罠を仕掛けに行くとしますか。



――――――

一ヶ月後。

今日も晴天。

気持ちのいい朝日を浴びて、山の中に木霊する鳥のさえずりが一日の始まりを告げる。


罠を仕掛けに行こうと扉を開けると玄関横に置いてある魔導石が光った。これは魔物除けの範囲内に何者かが侵入したことを示している。


まさか魔物が入り込んだのか?いや、そんなはずはない。念の為と物置に行き昔使っていた剣を腰に差した。


野盗だろうか?今まで一度も来なかったのに?


物置の影に隠れてソッと様子を伺う。


小屋へと続く小道に複数人の人影が見えた。

やはり野盗かもしれない。


遠くてよく分からないが全員帯剣しているようにも見える。流石に対人間相手の戦闘はやったことがないぞ……。


しかしそれは杞憂に終わった。


その集団の中には一月前に見た、あの女神がいたからだ。


「あれ?サリアさんですか?」

「リバル、また来たぞ」


やっぱり美しい。スラリと伸びた髪、整った顔立ち。

立ち居振る舞いすらも格好いい。


「えーと……そちらの方々は?」

よく見ればガイラさんもそこにいた。他は見たことがない人ばかりだ。


「あっ!ミーシャ!」

赤髪だから後ろにいたミーシャの姿はすぐに分かった。


「ひ、久しぶりねリバル」

「久しぶり。で、こんなに人を連れてきてどうしたの?」

「それはね……サリアさんから説明があるわ」

なるほど?ミーシャ、サリアさん、ガイラさん、あと二人が知らない人だ。何の話があるんだろうか。

……まあ何となく想像はつくけど。


「リバル、単刀直入に言う。是非スティーニア学園に来て欲しい」

「その話は前にもお断りしたかと思いますが……」

「まあ待て。順を追って話そう。私はスティーニア学園の生徒会長を務めている。君とは初対面の二人とガイラは生徒会のメンバーだ。後は君と初めて出会ったミーシャ君も連れてきたのだ」

生徒会ときたか。結構本気で勧誘してきているみたいだ。あれだろ?生徒の中でも先生達と同等の権力を持つとかいう。


「それで私はミーシャからも話を聞いた。何より私自身が君の剣を見ている。あれはただ模倣しただけではない。独自の剣術に改良した特技と言えるだろう。あれを見せられては君を捨て置いてはいけないな」

「そう言って頂けるのは有り難い話ですが、前にもお伝えした通り僕はもう騎士を目指してはいませんよ」

「まあ待て。話は最後まで聞くといい。そこでだ、ただ君を勧誘すると言ってもリバル自身の意思もある。一度手合わせ願いたい」

無茶苦茶言い出したよこの人。七年もブランクがあるのにサリアさんに勝てるビジョンが見えない。

何より僕が手合わせに付き合う理由もなかった。


「当然だがもし君が勝てたら、望むものを用意しよう。例えば帝都にしか売っていない魔道具だとか小屋を建て直すとかでもいい。見た感じ割と劣化してきているだろう?」

サリアさんの視線が小屋へと向く。確かに七年も経っているせいか小屋は色んなところが傷んできていた。

魔物除けの魔道具もそろそろ交換時期だろう。


昔もらった報奨金はもう殆ど残っていないし、魔物除けの魔道具は欲しいかもしれないな。


「ただし、私が勝てば君は学園に来てほしい」

「大変魅力的な話ですが、サリアさんには多分勝てませんよ」

「確かにブランクが大きいならそれもそうか……じゃあ、彼とならどうかな?」

サリアさんの紹介で一歩前に出た男は見たこともない服に身を包んでいた。黒髪で短髪、爽やかな感じの人だ。


「拙者の名は士郎。この服が珍しいか?」

「はい。その服だと動きにくそうですけど」

「ふむ……まあそれは戦ってみれば分かること。この服は着物と言って東の国ではごく一般的な服装だ。この国ではあまり見ないが」

裾とか長いし戦闘には不向きに見えるけど本当に大丈夫かな。僕なら裾を踏んづけて転けそうな服だ。


「分かりました。では士郎さんに勝てば魔物除けの魔道具を貰えますか?」

「それだけか?あまり欲がないのだな」

「じゃあ甘味とかもお願いします」

「ああ、この山では手に入らないであろうスイーツも用意しよう」

じゃあやる気も出てきた。

といってもなぁ、士郎さんもかなり腕が立ちそうだ。

それに士郎さんの持っている剣が見たことのないものだぞ。




お互いに距離を取ると剣を構えた。

負けたら学園入学か……悪くはないけど僕みたいな向上心のないやつが入った所で迷惑でしかないと思うけどな。ま、退学になるならそれはそれで構わないし。



「拙者の武器は刀と言う。リバル、手加減は無用だ」

「刀……初めて聞きました。細身の剣、とも違うんですね」

士郎さんは腰を低くして独特の構えを取っていた。

鞘から抜いていないけど、本当にいいのだろうか。


「む、拙者の構えが気になるか?」

「ええまあ……」

「これは居合の構えだ。抜刀こそ至高。抜いていないからといって油断すると痛い目に合うぞ」

居合か、それも初めて聞いたな。油断するつもりなんて毛頭ないが、初見では対応が難しそうだ。



「改めて名乗ろう。生徒会執行部、高峰士郎、参る」

「執行部……強そうな肩書きですね。僕はリバル、ただのリバルです」

士郎さんの眼力が凄く怖い。一定の距離に近づけば死ぬ、そんなイメージが脳裏をよぎる。


いつまでも睨み合っていてもきりが無いから仕掛けるか……。


「アストラ帝国流・強撃!」

「ほう……帝国剣術を知っているか。しかしながらそれは幾度となく見た技だ」

士郎さんはそう呟きながら身体を半身にずらして躱す。身のこなしといいこれは生半可な攻撃じゃあ当たりそうもない。


「まだまだッ!水神流・流し刃!」

「ムッ!水神流まで使うか!」

帝国剣術で攻めてくると思わせといて別の流派を使い翻弄する。つもりだったが、士郎さんはニッと笑い凄まじい足運びで斬撃を躱した。


速い……速すぎて捉えられない。

士郎さんはまだ刀すら抜いていないのに。こうまで圧倒的な実力さを見せつけられれば嫌でも思い知らされる。


七年間毎日剣を振っていればこうはならなかっただろう。


「貴殿の実力はその程度か?」

「いいや?手の内を見せていないだけですよっ!アストラ帝国流・流れ星、改!」

「何ッ!?」

サリアさんの剣技を自分なりに改良した模倣技。

これは躱せないはず!


激しい剣戟の音が辺りを埋め尽くすと、お互いに静止する。


士郎さんの手には抜かれた刀があった。


「抜きましたね?」

「いやはや驚いた……まさかサリア殿の技を不完全とはいえ模倣してみせるとは」

周りを見ればミーシャやガンツさんらも目を見開いていた。ここで見せるつもりはなかったんだけどな。

まだまだ拙い模倣剣術だ。

恥ずかしかったが、士郎さんに刀を抜かせるにはこうでもしなければ無理だった。


「簡単に真似できる技ではないはずだがなリバル」

「僕は人の技を盗むのが得意なんですよ」

「盗む……そんな簡単なことではないのだが……」

士郎さんに一太刀いれたかったけど流石にそうやすやすと斬られてはくれない。


「これは拙者も手を抜くわけにはいかなくなった」

「いやいや、若輩者に花を持たせて下さいよ」

「何を言うか。まだ手の内は隠しているのだろう?クハハッ!楽しませてくれるではないかリバル!ならば見せよう、我が極めし刀術を」

士郎さんの目が狩る者へと、雰囲気がガラッと変わる。


これは不味いぞ……士郎さんを本気にさせてしまったらしい。


「ゆくぞ、リバル。防いでみせよ」

「ちょ、ちょっとちょっと……それヤバそうなんですけど」

士郎さんは抜き身の刀を一度鞘に戻し腰を低く落とす。



「東方次元流・風切」

小さな呟きと共に突風が僕の頬を撫でた。

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