36話 大貴族に目を付けられて
ルクスの目が冗談を言っていないと分かる。ドレッドの鉱山送りは確定事項らしい。よし、じゃあ切り替えて次の質問にいこう。
「えっと、二つ目ですが僕が狙われる理由を教えて頂いてもいいですか?」
「貴族と同じ学園に通っていると聞いた。それに模擬戦でライナスをボコボコにしたらしいな」
うわ、やば。バレてるじゃないか。なんて言い訳しようかな……。
「えーそれはですね、不可抗力があったといいますか」
「不可抗力?どんな理由があれど平民が貴族の子息をボコボコにするなどあってたまるものか」
やり過ぎたのは不味かったか。いやでもあの時は手を抜いていれば大怪我していたのは僕の方だ。何も間違っていない。
「自分の命が脅かされれば誰だって迎え討ちますよ」
「平民は媚びへつらい地面に這いつくばればいい。寛大な者ならそれで許してくれるだろう」
ああ、ダメだわこれ。完全に貴族思想に染まりきってる。これは何を言っても無駄だな。となると次はこの場から安全に脱出しなければならない。
ドレッドは完全に萎縮しているし、弟と妹もあまり役に立ちそうではない。となるとこの場を一人で切り抜けなければならないが、相手は三人だ。三人をどうにかできたとしても恐らく目の前にいるルクスはそこそこ腕が立ちそうに思える。
「話はそれだけか?」
「その……じゃああと一つ聞いてもいいですか?」
「さっさと言え」
「平民をそこまで毛嫌いする理由はなんでしょうか?平民からの税収あっての貴族ではないですか?」
ルクスは少し黙った。どうだ、ぐうの音も出ないだろう?僕は次の返答をワクワクして待った。
「勘違いしているな。平民は我々貴族に生かされているだけの存在だ。貴族あっての平民だぞ。誰が平民を守っている?誰がこの国を支えている?よく考えてから発言しろ」
おっと、そうきたか。これは相容れないかもしれないな。根本的に考え方が真逆だよ。話にならないね。
「……なるほど、分かりました。やっぱり僕の想像していた通りの貴族ですよ貴方は」
「何を上から目線で……そろそろ面倒になってきたな。おい」
ルクスはため息をついたあと、僕を取り囲む三人に視線を送った。いよいよ、殺しにかかってくる。そう考え即座に動けるよう手を腰へと近づけた。
三人が無言で頷き目で合図を取り始めた。ドレッドは萎縮してしまっていて役に立たないだろう。
「最後に聞いておこう。お前はなぜスティーニア学園に来た。返答次第では生かしてやらんでもない」
あれ、殺すつもりじゃなかったのか?なんか別の思惑でもあるのかな?というかそんなの調べれば分かると思うけど。
「来る予定はありませんでした。ただ生徒会長との賭けに負けたので来ることになったと言いますか……」
「己の意思ではないと?」
「まあ、そうですね。ただ来て良かったと思っていますよ。自分より遥かに優れた剣士がゴロゴロいますから」
「平民の地位をあげるために、というわけではないのだな?」
「そんな事考えたこともありませんよ。僕はただ、英雄になってみたいってだけです」
「そうか……お前は俺の思っていた平民とは少し違うようだな。剣士として名を挙げたい、ただそれだけか」
僕は頷いた。もしかしてこの人僕が邪な考えを持って入学してきたとでも思っていたのだろうか。そうだとしたらとんだ勘違いだよ。僕にそんな野望なんてあるはずがない。
「俺は平民に権力を持たせるべきではないと考えている。過去に平民が貴族へと成り上がり革命を起こそうとした。未然に防げたから良かったものの万が一革命が成功していれば被害は計り知れなかっただろう」
なんか語りだした。とりあえず黙って聞いておこう。
「それ以来貴族から平民への当たりは一層強くなっていった。この国が他国と比べて選民思想が強いと言われているのもそれが原因だろう。ただ平民を虐げたいわけではない。平民に力を持たせれば驚異となり得ると分かっているから現体制ができあがったのだ」
「なるほど……僕は今まで山に籠りきりだったのでいまいち世の中の事が分かっていませんでしたが事情は理解しました」
「まともな平民もいる事を俺も今知った。……父上はなんとしても平民をあの学園から排除したいようだがな」
父上っていうとシグルドさんか。まあ結構キツめの性格なのかなとは思っていたけど。それにしても案外ルクスさんはまともだったとはね。
「全員剣を降ろせ。それにお前もな」
しれっと腰に手を掛けていたのがバレていたらしく僕を取り囲む三人が剣を降ろしたのと同時に僕も腰から手を離した。
ドレッドは安堵の表情だ。弟と妹も同じようにホッとした表情を浮かべている。さて帰ろうかと椅子から立ち上がるとルクスが待ったをかけた。
「一つだけ忠告しておいてやる。お前は目立ちすぎているぞ。そのせいで父上を筆頭に一部の貴族から目をつけられている」
最悪じゃないか。てことは今後も今回みたいな事が起き得るってことだろ。忠告はありがたいけど僕にはどうこうできる権力はない。降りかかる火の粉は己で振り払えってか。
その時だった。帝都に鳴り響く警鐘。明らかに日常で聞くことのない危機感を覚える音だ。
「な、なんですかこの音?」
「これは……有り得ん、おい!すぐに外を見てこい!」
ルクスは顔面蒼白で勢いよく立ち上がり、部下である三人に指示を飛ばした。
「なんなんだよこの音は」
「お前知らないのか?」
ドレッドは信じられないものでも見たかのような表情を向けてくる。知るはずがないよなこの僕が。七年間も山に籠もってて帝都に来たのだってついこないだが初めてなんだから。
そう説明するとドレッドは苦虫を噛み潰したような顔で口を開く。
「この音は帝都に何らかの危機が迫った時に鳴らされるものだ」
「つまり?」
「……今この瞬間、帝都に危険が迫っているということだ」
じゃあめっちゃヤバいじゃん。
「ど、どうしたらいいんだこんな時」
「とにかくルクス様の部下が戻ってくるのを待とう。何が起きたか知らなければならない」
ドレッドは案外こういう時に肝が座っているらしい。妹は険しい表情から一変し、おどおどしたような顔をしている。弟は言わずもがな、だ。
しばらくすると外が騒がしくなってきた。帝都に住んでいる人達が避難行動を開始したのかもしれない。
「遅いな……」
ルクスの部下はまだ戻ってこない。何かあったんじゃないだろうか。そんな事を考えること数分、突然ドアが荒々しく開き息も絶え絶えにルクスの部下が転がり込んできた。
「どうした!」
「ル、ルクス様……お逃げください!」
「何があったと言うのだ!」
「帝都に……魔物の襲撃です!」
魔物というワード、全員に緊張感が走る。僕も過去村を滅ぼされたということもあって魔物には憎しみしかない。
急いで外へと飛び出すと、帝都は大騒ぎになっていた。住居から出てきた住人はどこかへと駆けていく。そもそもどこから魔物の襲撃を受けたのかも分からないのに、無造作に逃げ出しても危険なだけだ。
「ドレッド、僕は学園に戻る」
「分かった。俺は家に戻ることにする。……死ぬなよ」
ドレッドと別れ僕は全速力で学園へと駆け出した。時刻は真夜中。街は静まり返っていたというのに今では昼間のような喧騒になっている。
魔物の襲撃なんて事前に察せたはずだ。帝都の外を見張っている兵士は一体何をしていたんだろうか。
学園まではそう遠くない。まだ魔物の襲撃からそれほど時間は経っていないし中までは入りこまれていないはずだ。そもそも今このタイミングで魔物の襲撃があったというのも不思議な話だ。ちょうど騎士団が出払っている時を狙ったかのような動き。
何かおかしなことでも起きていなければいいんだけど……。
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