34話 何者かに襲われて
あまりの早業に僕らはみんな口を開いたまま呆然としていた。腕が一瞬消えたぞ?速すぎて目が追えていなかったのか。
「て、てめぇ!?何しやがる!」
三人組の一人が激昂する。いきなり首が落ちれば何が起きたか理解に苦しむだろうな。
「忠告したはずだ。失せろと。俺はお前達程度に負けることはない」
「うるせぇ!死にさらせ!アストラ帝国流・千牙!」
激昂した一人が剣を突き出してくる。それをロンドさんが躱すともう一人が高く飛び上がり上段に構えた剣を振り下ろした。
「馬鹿がッ!隙だらけなんだよ!アストラ帝国流・強撃!」
「馬鹿は貴様らだ。ここは俺の間合いだぞ。雷神流・雷轟」
ロンドさんが剣を真上に向けて振り下ろす。目が眩むほどの光と共に突如鳴り響いた轟音に僕らは目と耳を塞いだ。
何が起こったかすぐに理解はできなかったが、目を開くと黒焦げになった男が二人地面に倒れ伏していた。
「失礼しましたお嬢様。少し感情が昂ぶってしまいましたので、派手な技を使ってしまいました」
「か、構わないわ!よくやったわねロンド」
若干へっぴり腰のミーシャがロンドを褒め称える。音が凄かったからちょっとビビってるな。
「今のは……魔法と剣技の併用ですか?」
「ああ。簡単に習得できると思うなよ」
無理だろうね。そもそも魔法はまだ殆ど使えないし。でもさっきの技は習得したいな……カッコいい。
少しばかり暴れたせいか憲兵が走り寄ってきた。どう見ても死んでいる三人の男を見てロンドさんを見て、もう一度男を見てギョッとした表情だ。
「こちらの方々が襲ってきたのよ。殺さなければアタシ達が殺されていたわ」
「なるほど……それにしてもこれは……」
「やり過ぎかもしれないけれど、手を抜く余裕はなかったわ。そうでしょロンド」
ロンドさんは無言で頷く。いや全然余裕あったと思うけどね。ただ戦闘力の差が如実に出てしまっただけで。
数回のやり取りの末に、憲兵は死体となった三人の男を台車に載せてどこかへと運び去っていった。
「これって罪には問われないの?」
「問われないわ。暴漢に対しての正当防衛が適用されるから」
ミーシャ曰く、暴漢や野盗相手なら殺してしまっても何の問題もないらしい。まあ普通は襲われたら手加減できる余裕なんてないだろうから当然か。
馬車に乗り込むとさっきの興奮が収まらないのかリナの目が輝いていた。
「すっごかったねさっきの!ロンドさんの使っていた技なんて見たこともなかったよ!」
「あれほどの腕をもちながら、なぜ護衛などやっているのか……理解に苦しみます」
シンクはどうやらロンドさん程の腕があるなら帝国でもそれなりの地位に付けたのではないかと思っているようだ。
「ロンドは元冒険者だからそもそも帝国騎士団に入ろうなんて気はなかったみたいよ」
「なのにセレンシア家の護衛は引受けてくれたんだな」
「まあ色々と付き合いがあったのよ。それよりも申し訳なかったわね。アタシと一緒にいなければあんな事に巻き込まれなかったのに……」
ミーシャがしょんぼりと俯く。暴漢に襲われたのは自分のせいだとで言いたげだ。
「あれはミーシャのせいじゃないよ。貴族を狙った暴漢だろ?それならミーシャじゃなくたって狙われてたかもしれないし」
「そうだよミーちゃん!気にしなくていいよ!」
ミーシャっていつも気が強いのにこういう時はしおらしくなる。
「でもタイミングが悪かったですね。いつもならあの馬車乗り場には数人の衛兵がいるのですが」
シンク曰く、いつも三人ほどが警備してくれているらしいが今日に限っていなかった。
「多分それは遠征のせいだと思うわ。帝都の守りを固めるのに門の方へ衛兵を集めているからこっちの人員が減らされたんでしょう」
タイミング、か。本当に偶然だろうか。狙ったとしか思えない完璧なタイミングだった。騎士団の遠征で警備が薄くなることはある程度予想できていたかもしれないが、僕らがここを訪れるかどうかは分からなかったはず。学園内に悪党共と協力関係にあるやつらがいるんじゃないか?
「どうしたのリバルくん。難しい顔して」
「いや……なんか、嫌な予感がするなって思ってさ」
僕が険しい表情をしていたからかリナが問いかけてくる。ここで話すようなことでもないし、僕の考え過ぎって事もある。もう少し慎重に動いた方が良いだろうと思いその場は濁しておいた。
寮に戻って来ると各自部屋へと戻って行った。ミーシャは最後にもう一度謝罪してくれたが僕自身あまり気にしていないからと伝えておいた。帝都巡りは楽しかったしね。
「ん?」
部屋に足を踏み入れると自分の部屋のはずなのにどうしてか違和感があった。何か盗られた訳でもない。なんだろうか、位置が少しズレている?いや、違うな……。
「あっ」
思い出した。自分の部屋に入った瞬間なぜか電気がついていた。出る時は確実に切って出たはず。なのにどうしてか電気がついている。
部屋に何者かが侵入したのか?盗れる物もなくてそのまま出て行った、とかかな。
窓の鍵は……開いてるな。てことは侵入経路は窓だな。外を覗くと暗闇が続いている。いつ逃げたのかも分からないし、追えないか。
念の為にと外に出て周辺を散策する。足跡の一つくらい残ってるかもしれないし。山だと簡単に見つけられるけど、ここは都会だからな。足跡なんてそう簡単に見つからないか……。
帯剣はしているが、暗闇から襲われれば危険だ。気配だけが頼り。神経を研ぎ澄まして散策を続ける。
寮の周りを一周してみたが怪しい所はなかった。無駄骨か。自分の部屋に戻ろうと寮の玄関口に足を踏み入れると同時に何者かの足音が急速に近付いてくるのが聞こえた。
「誰だ!」
柄に手を添え周りに聞こえるよう声を出したが、反応はない。すると突然どこからともなく矢が射掛けられた。
「くっ!」
剣を抜き矢を払い落とすと、それを合図に三方向から剣を構えた黒装束が飛び掛かってきた。
「な、なんだ!?」
こっちも剣を構え周りに牽制するが黒装束は止まらない。構えは帝国流のものだ。
横薙ぎに振るわれた剣を自前の剣で受け止めるともう一人が上段から振り下ろしてくる。咄嗟に飛び退き躱すと三人目が突きを繰り出してきた。
「クソっ!なんなんだよ!」
身体をひねってギリギリ躱すと間合いを取りつつ牽制する。
黒装束達は身元がバレると不味いのか一切言葉を発さない。しかし帝国流を使っているということは当然帝国民だ。それにこの場は学園の敷地内。少なくとも学園内部に密告者がいるというのは分かった。
数度目の剣を交えた後、なかなか決めきれない事に苛ついたのか黒装束の一人が仲間に手振りで何か合図を送る。
対複数人の戦いはあまり慣れていないから大声でも出して誰かに助太刀してもらうか?いや、他の人に迷惑は掛けられないか。
「僕を亡き者にしようとする理由はなんだ?あんたらに指示を出した奴は誰だ」
僕がそう問いかけると黒装束はピタッと足を止める。つい声を発しそうになったのか若干マスクの辺りがモゴモゴと動いた。
仕方ない……こうなったら力づくで答えてもらうしかないな。
「腕の一本くらいは覚悟してくれよ!雨天流・連雨!」
三人のうち一人に絞って技を繰り出すと、防ごうと剣を盾にする動作を見せた。甘いな、これはブラフ。本命は右奥の奴なんだよ。
そのまま防御体勢を取っていた黒装束を通り過ぎると後ろにいた奴の肩を突き刺した。
「うぐぅ!」
マスクの奥からくぐもった声が聞こえる。どうやら声を発さないよう痛みを我慢しているようだ。
「ッ!」
一番離れていた黒装束が勢いよく駆け出し僕が繰り出した技と似たような突きを放つ。
「水神流・流し刃」
背中側に腕を回して突きを止めるとそのまま流れるようにして相手の肩を斬り裂いた。
「ぐあぁっ!」
黒装束の男の肩から血が流れ落ち、剣の柄を真っ赤に染めた。僕が肩ばかり狙うのはわざとだ。相手に攻撃させない状況を作ること。そして相手が何者か分からない以上殺すわけにはいかないからだ。
「さてと、答えてもらおうか。あんたらが何者なのか」
僕は防御体勢を取っていた黒装束の首元に剣の刃を当てるとそう問いかけた。
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