33話 悪人に目を付けられて
料理が運ばれてくるとどれも見たことのないものだった。食べようとしたがテーブルマナーを知らない僕はフォークとスプーンを持って固まってしまった。
「どうしたのリバル?」
「いや……その、食べ方が分からないというか」
「ああそういうことね。誰も見てないんだから好きに食べたらいいじゃない」
そうは言いますけどねミーシャさん。僕以外は綺麗な所作で食事を始めているのに、僕だけ汚い食べ方をするのも申し訳ないってやつですよ。
見様見真似で可能な限り綺麗な所作で食事を始めるとミーシャが口を開いた。
「そう言えば知ってる?騎士団が冒険者と合同で遠征に出るって話」
「なにそれ?」
「定期的にあるんだけれど、増えすぎた魔物の駆除っていう名目で遠征に出るのよ。冒険者だけだとどうしても数を減らしきれないほど魔物は生まれるらしいわ」
初めて聞いたな。遠征か、それも冒険者と合同だなんて割と規模が大きいみたいだ。
「遠征では六聖の一人が付き添うのが恒例なんだけど、今回は滅多に参加しないレオリックス様が行くらしいわ」
ああ、あの人か。滅多に参加しない理由なんてなんとなく想像がつく。どうせ面倒だとか思ってそう。でも相当珍しい事なのかリナも驚いた表情を見せていた。
「レオリックス様が参加するなんて珍しいね!それ誰から聞いたの?」
「臨時講師で来られてるアメリア様に聞いたのよ」
アメリアさんは行かないんだな。持ち回り制なのかな。
「となると帝都の防衛が薄くなりますね」
シンクが難しそうな表情でそんな事を言う。騎士団の遠征ともなればかなりの人数が動くだろう。
「そうよ。六聖の方々も殆ど出払ってるし、冒険者だって今回の遠征でかなりの人数が外に行ってしまうわね」
帝都の防衛力が下がるということが他国の侵攻を許してしまう、ということに直結することはない。そもそも国境には軍が置かれているし簡単には突破できないはずだ。
「こういう時って僕らみたいな半人前も駆り出されるとか有り得るのかな」
「有り得ますよ。我々はあくまで一学生に過ぎませんが国の危機ともなれば動く必要がでてきます」
国の危機か……嫌でも村での出来事を思い出してしまう。あの時僕に力があれば守れたはずの命。今度は絶対に守ってみせる。もし帝都に危険が迫るような事があっても僕以外の戦力があるしね。
「まあ滅多な事では国の危機などおきえませんよ。我々が駆り出されるほどとなれば相当な大事です。それこそ突然魔物の群れが襲ってくるなどでもなければ我々に指令は下されないでしょう」
魔物か、人間より遥かに強力で凶悪な存在だ。たった一体でも騎士一人では対処しきれない事が多い。特にミノタウロスのような戦闘に特化した魔物が大勢で襲ってこれば犠牲者の数は計り知れないだろう。
「まあ大丈夫よ。そんなに心配しなくてもこの国には六聖がいるじゃない。アメリア様が残ってくださっているし万が一はそうそう訪れないわ」
ミーシャが楽観的とは言わないが、帝都に住まう人達にとって魔物の襲撃というのは割と非現実な出来事らしい。僕のような辺境の村で育った者からすれば魔物なんてすぐそばにある脅威だったから、認識の違いかな。
食事を終えるとまた武器屋へと戻る。鞘ができているであろうちょうどいい時間だ。
「きたか。ボウズ、これでどうだ」
入店早々店主から鞘に収まった剣を手渡され、ゆっくりと引き抜く。何の違和感もなく素晴らしい抜き心地だ。鞘の手触りもよくて派手な装飾もない。
「凄いですね……こんなクオリティで仕上げてもらえるなんて」
「当たり前だ。俺は自分の仕事で手を抜いた事なんかねぇ」
シンクも自分の剣を抜いてピカピカに磨かれ研がれた刃を見ると満足そうな表情を浮かべる。
「また困ったらいつでも来い。オーダーメイドにするなら多少値は張るが他の店に比べたら安い方だぜ」
「そうします。ありがとうございました」
いい武器屋だったな。今後は利用させて貰おう。貴族御用達のお店じゃなくてよかったよ。
「ミーシャ、ありがとう。この鞘凄い使いやすいよ」
「先行投資ってやつよ」
「ん?」
「気にしないでいいわ。さてと、良い時間になってきたわね。そろそろ帰りましょう」
先行投資の意味が分からなかったが、ミーシャは答えてくれなかった。まあいいか。
辺りも薄暗くなってきて通行人もまばらになってきた頃合いで、僕らは馬車を停めている場所へと向かう。流石に店の前にずっと停めておくことはできないそうだ。
「ああ、あれよ。ロンドがいるからすぐ分かるわね」
ロンドさんよりも家紋で分かると思うけど。確かにロンドさんは普通の御者とは思えない身体つきをしてるからすぐに分かるけども。
「お待たせロンド」
「いえ。それよりもその後ろの連中はお知り合いですか?」
ロンドさんに後方を指差され振り向くと、そこには見知らぬ男が三人いた。
「いいえ、知り合いじゃないわ」
「そうですか。では俺の後ろに下がってください」
僕らを下げるとスッと前に出て三人の男に対峙するロンドさん。女性に守られるの凄い恥ずかしいけどカッコいいな……。
「貴方達何者?アタシ達を付けてきたみたいだけれど」
ミーシャが問い掛けると三人のうち一人が前に出てきて口を開く。
「いやぁお嬢ちゃん達、お金持ってそうだなぁと思ってな」
「持っていたらなんなのかしら?」
「少し恵んでもらおうと思っただけじゃないか。そう凄まないでくれよお嬢ちゃん」
お金を狙った暴漢だろうか。それにしては三人の身なりが整っているしお金目的とは思えない。何か別の目的があって近付いてきたに違いない。帯剣だってしているし、明らかに異質な雰囲気だ。
「我々が貴族だと知っての行動ですか?それならばあまりにも浅慮というやつですよ」
「兄ちゃん威勢がいいな。でも安心してくれや、オレらは別に無計画にあんたらを付けたわけじゃねぇ」
シンクが小馬鹿にしたような言葉を投げ掛けたが、あまり効果はないらしい。それどころか三人の男は余裕のニヤつき顔を見せている。
「で?何の用かしら?アタシ達早く帰りたいんだけれど」
「まあまあそう焦んなってお嬢ちゃん。それよりちょっとばかしお話に付き合ってくれねぇか?」
あーなんとなく分かったぞ。コイツらミーシャ達を攫って身代金を要求しようとする悪人だな。多分そうだ。そうと決まればやることは一つ。
「ミーシャ達はアンタラとお喋りするつもりはないってさ。もう帰ったらどうだ?」
「ほう?兄ちゃんいい根性してんなぁ」
僕が柄に手をかけると三人の男も腰の剣に手を添える。帯剣してるということは騎士崩れか冒険者といったところだ。その辺のゴロツキではないだろう。
「下がっていろ」
「え?でも」
「俺はお前達の護衛だ。護衛対象が前に出る馬鹿がどこにいる」
一歩踏み出すとロンドさんに止められた。護衛対象には僕も含まれていたのか。
「おうおう、姉ちゃん威勢いいじゃねぇか。身なりからして元冒険者ってとこか?でも一人じゃ三人を相手になんてできねぇよなぁ?」
ロンドさんが黙って剣を抜くと三人の男は身構えた。一対三では流石に分が悪すぎる。僕も加勢しようとロンドさんの横に立つと片手で後ろへと追いやられた。
「いいから下がっていろ。こんな雑魚程度に負けはしない」
「ですが相手は三人ですよ。分が悪すぎます」
「冒険者だった頃は倍以上の野盗に囲まれたこともある。いいから下がれ。何度も言わせるな」
ロンドさんが苛立った様子だった為、僕は渋々後ろへと下がった。あまりしつこいとぶん殴られそうだったし。
「まあいいか。護衛を殺ったらこいつらはガキだ。攫うぞ」
仲間の二人にそう声をかけリーダーと思わしき男が剣を抜いた。いよいよ本性を露わにしたなコイツら。
「貴様らに告げる。失せろ。二度は言わん」
「はいそうですか、って言う訳ねぇだろ姉ちゃん!」
ロンドさんの言葉にムカついたのか男は勢いよく駆け出した。
「忠告はした。死ね。雷神流・御剣」
一瞬ロンドさんの剣が光ったと思うと、次の瞬間には男の首を刎ねていた。
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