32話 同級生に奢られまして
学園に入学してからおよそ一ヶ月が過ぎた。ある程度学園生活には慣れてきたが、それでも未だに慣れないのは貴族の令嬢令息との付き合い方だ。
お茶会なんて参加したことがないし、言葉遣いにも気を遣う。話しかけられると精神をすり減らすからできるだけ話し掛けないで欲しいところである。
「リバル、アンタ今日もクラブ活動?」
「そうだよ。最近身体能力の強化魔法を学んでてさ、もう少しで身につきそうなんだよ」
と思っていると座学の授業が終わりミーシャが話しかけてきた。
魔法の事は殆ど何も知らない状態だったが、今では多少の魔法基礎が理解できる程度にはなっていた。それもこれも魔法剣術会のみなさんのお陰である。
「最近外に出てないんじゃない?アンタいつも寮の庭で剣振ってるだけでしょ。たまには学生らしく帝都を見て回るのも楽しいわよ」
「あー確かにありかも。それなら今使ってる剣の鞘がだいぶボロボロでさ。こういうのって武器屋に行けばいいの?」
「そうねぇ、じゃあ一緒に見に行く?アタシがよく行ってる店を紹介するわよ」
入学してから殆ど帝都を見て回っていないせいでどこに何の店があるか知らなかった。ミーシャの提案はとても有難い。
「聞くつもりはありませんでしたが、武器屋に行くんですか?」
「あ、シンク。そうなんだ、ほらこれ見てよ。鞘がボロボロでさ」
「あまり良くはありませんね。では私もついて行ってもいいですか?私も丁度剣の手入れをしてもらおうと思っていたので」
ミーシャとシンク、そして僕か。男がいてくれるのは助かるな。正直女の子と二人で帝都をうろつくのも気まずいと思っていた所だ。
「あ!どこか行くの!?ワタシも行く!」
「リナも行くのかしら?別に貴女は用事なんてないでしょ」
「いいじゃん!ミーちゃんとシンクだけリバル君と出掛けるなんてずーるーいー」
「ま、まあまあいいじゃないかミーシャ。人が多いほうが楽しいし」
結局いつもの三人組と僕とで帝都を見て回る事となった。彼らとは他の生徒に比べて多少なりとも交友関係は深い。初めて山で出会ったのも彼らだったし、そもそも彼らに出会っていなければ今この場にいなかった。
放課後になり僕はミーシャ達と共に学園の外へ出た。学園の敷地を出ることが殆どない僕にとって、帝都は未知の領域だ。
ミーシャの実家であるセレンシア家の家紋が入った馬車に乗り込むと帝都の中心に向けて走り出す。初めて帝都に来た際にも乗った馬車だ。
「ありがとうロンド。一応今日は彼女が護衛を務めてくれるわ」
寡黙な女性は御者席から僕らに向かって軽く頭を下げた。確か元冒険者って話だったかな。歴戦の剣士である雰囲気をまとっていて、今の僕では太刀打ちできなさそうな人だ。
「とりあえずまずは武器屋ね。鞘を新調するのも良いと思うし」
「まあだいぶ昔から使ってるやつだしなぁ。そんなに高くなければいいけど」
正直お財布の中身は心許ない。僕以外の人は貴族だからお小遣いとか貰ってるんだろうけど、僕は報奨金の残りだ。もう僅かしかないし、適当な所で仕事した方がいいかもな。
「鞘なんて安いじゃない。金貨一枚あれば十分よ」
「金貨一枚!?いやいや……僕の残りのお金が金貨一枚しかないんだから」
「えっ!?」
えって驚く事でもないんだけど。金貨一枚といえば平民が数ヶ月生きていけるだけのお金だ。そんな大金を鞘にポンッと出せるほど僕は裕福ではない。
「言っておくけど僕はみんなと違って平民だからね?貴族の価値観で店を案内されたらとんでもないことになるよ」
「そ、そうだったわね。忘れてたわ」
忘れるなよ大事なことを。これ伝えてなかったら貴族御用達のお店に連れて行かれてたんじゃないか?
「山籠りしてたもんねリバル君!」
「よくあんな場所で七年も過ごせたものです」
リナとシンクは覚えていたみたいだけど、ミーシャだけは本気で忘れていたな。
「鞘くらいなら買ってあげるわ」
「いやそれは悪いよ」
「金貨一枚もしない程度ならはした金よ」
すっげぇ言葉だ。いつか僕も言ってみたい。
「つきました」
しばらく馬車に揺られているとロンドさんから声が掛かる。どうやら目的のお店についたらしい。
馬車を降りると目の前には武器屋の看板があった。貴族御用達のような絢爛豪華な店構えではない。案外親しみを感じられる店だな。
「ここがアタシの行きつけね。さ、入るわよ」
ミーシャに続いて入店すると、無愛想なおじさんが一人カウンターで項垂れている姿が目に入った。
「おじさん、友達を連れてきたわ」
「ん?ああお嬢ちゃんか。また来たのか?俺の店は貴族様が使う店じゃねぇんだけどなぁ」
髪のない頭をポリポリかきながら起き上がると、僕らを一瞥する。言葉遣いは綺麗ではない。店主の言葉通り貴族御用達の店とは思えない態度だった。
「初めましてリバルです。今日は鞘が欲しくて来ました」
「あん?鞘?どれ見せてみろ」
僕から無造作に剣を受け取るとマジマジと見つめる。
「こりゃあだめだな。ボロボロだ。いつ壊れてもおかしくねぇ」
「この剣に合う鞘を作ってもらうことはできますか?」
「朝飯前だな。まあオーダーメイドになるから銀貨五十といったところか」
そこそこ高い。払えない額ではないが金貨一枚が全財産の僕にとっては大金だ。
「それでいいわ。どれくらいでできる?」
「ん?お嬢ちゃんが払うのか?」
「ええ。彼は苦学生なのよ」
適当に理由を作ると途端に店主の目は優しくなった。
「そうか……なら多少はまけてやる。銀貨四十だ」
「ありがとうおじさん。リバルはそのみすぼらしいお財布を仕舞いなさい」
僕がポッケから財布を取り出すとミーシャに止められた。みすぼらしいって……まあ糸が解れたりはしてるけど。
ミーシャが代わりに銀貨を支払うと店主はちゃんと数えていた。別にミーシャはちょろまかすような真似をしないと思うけどな。多分店主の性分なのだろう。
「よしちゃんと四十枚あるな。一時間後に取りに来い」
剣を預けると武器屋を出る。シンクもメンテナンスをお願いしたようで剣を渡していた。
「次はどこに?」
「そうね、少しお腹を満たしたいわ」
「ワタシもお腹すいた〜」
「いつもの場所でよろしいのでは?」
そういえば少し小腹がすいているな。ミーシャオススメのレストランがあるらしくそこへと案内してもらうことに。というかシンクが言ういつもの場所とはなんだろう。
案内されたレストランは帝都の中でも一等地に建てられてあった。人が一番行き交いする道に面していて、昼頃というのも相まってか既に長蛇の列ができていた。
「え?ここに並ぶの?一時間とかでは済まなそうだけど……」
「ああ、大丈夫よ」
そう言うとミーシャは店員に声を掛けた。
「ちょっとよろしいかしら?」
「あ、お嬢様。もしかして本日はこちらでお食事を?」
「ええそうね。友達もいるから四人席に案内してもらえるかしら?」
「支配人を呼んでまいります」
店員は即座に店内へと戻っていく。知り合いのお店なのかな。
「これで並ばなくてもいいでしょ?」
「まあそれはそうだけど。滅茶苦茶視線浴びてる……」
長蛇の列に並んでいる人達からは奇異の目で見られている。明らかなVIP対応だ。何も言ってこないのは貴族だったら下手に関わらないほうがいいと考えているのだろう。
「お待たせしました。ミーシャお嬢様、四人席にご案内させていただきます」
「ありがとう」
店内に入るとそこそこ値が張りそうな雰囲気を醸し出している。装飾品とか壁紙とかどれも高そうだ。
案内された席は一番奥の個室だった。うん、やっぱりミーシャの知り合いの店かなんかだろうね。
「ここの料理は間違いないわよ。なにせアタシの家がオーナーなんだから」
そうか、ミーシャの家の持ち物でしたか……。流石は貴族。高そうなレストランも所有していると。そりゃあ特別対応されるはずだよ。
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