30話 いい人ばかりに囲まれて
オーレリアさんの剣技は氷魔法との併用だ。素早い突きに合わせて氷塊を飛ばす中距離に対応可能な剣技。モニカちゃんはそれを大剣の腹で受け止めるつもりなのか剣を地面に突き刺して腰を落とす体勢を取った。
「金剛流……鋼刃!」
聞いたこともない技だ。モニカちゃんの野太い声と共に大剣が輝きを放ったタイミングで氷塊が直撃した。重い物をぶつけたような鈍い音を響かせ周囲には氷の破片が飛び散る。
身体に当たれば無事では済まないとは思っていたけど、これは……当たりどころが悪ければ死ぬね。
モニカちゃんが吹っ飛ぶかと思ったのに大剣を盾にして微動だにしていなかった。体重、もあるかもしれないが、何よりもあの金剛流とかいう技に秘密がありそうだ。
「ふぅ……ありがとうございますモニカ」
「いいわよぉ〜!なかなかビビッと来たわね!!」
オーレリアさんの新技はなかなか派手なものだった。ただ見て盗むのは不可能だ。何しろ僕はまだ魔法が使えないし。
「素晴らしいですねオーレリア。前回の新技も氷魔法との併用でしたが、氷属性との親和性が高いように思えます」
エリザベスさんも拍手していた。誰が見てもなかなか派手で威力も申し分なかった。そもそも新技を生み出せる時点で凄いけど。
魔法か……英雄伝説の騎士も魔法を使えたというし、やっぱり魔法が使えないとなると英雄にはなれないのだろうか。
「せっかく見学に来ていただいておりますので他の方も何か特技を披露してもらいましょう」
エリザベスさんのご厚意で他の人の剣技も見せてもらえるらしい。そこで手を上げたのがオスカーとシェリーさんだ。
「ではオスカー、シェリー、真ん中へ」
「「はい!」」
オスカーは普通の片手剣でシェリーさんは両手剣だ。僕が真似できるとすればオスカーの方だな。シェリーさんのは両手剣だし、真似をするにしても少し改良が必要だ。対するオスカーは背丈も近いし剣の種類も同じ。これならそこまで改良しなくても十分模倣できる。
オスカーとシェリーさんが向かい合うと、剣を抜いて構えを取った。オスカーは多分帝国流だな。構えがよく見るやつだ。シェリーさんのもどこかで見た覚えがある。
「よーし!オスカー覚悟しろー!」
「シェリー先輩、手加減してくださいね!?前みたいに腕が折れるとか嫌ですよ!?」
なにそれコワイ。え?前シェリーさんに腕折られたの?オスカー……可哀想に。
「魔法剣術……風の刃!」
先に動いたのはオスカーだ。駆け出したと思ったら剣を上段に掲げて勢いよく振り下ろした。
すると薄緑色の刃が凄まじい速度でシェリーさんへと迫る。オーレリアさんといいオスカーといい魔法併用の剣術は何かを飛ばすのが主流らしい。
「甘いよオスカー!魔法剣術……火炎乱舞!」
シェリーさんは両手で握った剣を振り回すが如く、その場で回転すると炎の渦を生み出し、オスカーが放った風の刃をなんなく消し飛ばした。
「またそれですか!?」
どうやらあの技はシェリーさんの十八番のようだ。回転を続けるシェリーさんは疲れを知らないのか、止まる様子もない。
「いっけぇぇぇ!」
突如足を止めたかと思うと両手で握った剣をオスカーへと振るう。炎の渦は剣に纏わりつき前方を激しく燃やした。
「うわぁぁぁ!」
オスカーの情けない叫び声を最後に、炎は掻き消えた。
「勝負あったねオスカー!まだまだ精進が足りないよ!」
やはり一年先輩というだけで経験の差が如実にでるようだ。オスカーはがっくりと肩を落としトボトボこちらへと歩いてくる。
「オスカーも凄かったよ。少なくとも僕にはあんな芸当できないし」
「でも……当たらなかったら意味がないんだよリバル」
まあそれはそう。励ましたつもりだったが気落ちしたオスカーには無意味だったようだ。
「シェリーは火属性の適正が高いようですね。これからも火属性の技を伸ばしていくといいでしょう」
「ありがとうございまーす!」
元気な人だな。さっき目が回るほど回転していたのになんともないようだ。エリザベスさんのお褒めの言葉が余程嬉しかったのかずっとニマニマしていた。
その後も代わる代わる技を見せてもらい、辺りが暗くなってきたところでクラブ活動は終了となった。
クラブルームに戻ってくると各々反省会を開いている。
「どうでしたか?魔法剣術会は」
「とても楽しませて頂きました。やっぱり魔法があるとないとで戦い方は変わりますね」
「リバルさんは魔法が得意ではないのでしょうか?」
「そうですね……今まで学べる機会もなかったので」
魔法が学べる場所なんて限られている。辺境の田舎村では魔法を使える人なんていなかった。魔法という存在はもちろん知ってはいたが、使える人がいないなら習得方法も分からない。
「どうだリバル。魔法剣術会はいい人ばかりだろう?」
「そうだね。楽しそうだしちょっと興味があるかな」
「ふむ、ならば入るといい。ほら、入会届だ」
エリクがバックから一枚の紙を取り出す。準備がいいな。ありがたいけど。
サインをしてエリザベスさんに渡すとニッコリと微笑んでくれる。
「あとで顧問の教師に渡しておきますね。改めまして、よろしくお願いしますわ」
「こちらこそよろしくお願いします」
クラブルームでみんなが拍手してくれる。なんだか恥ずかしいなこういうの。慣れてないってのもあるけど、歓迎されることなんて今までなかったから。
「そういえばお伝えしておりませんでしたが、もう一人魔法剣術会のメンバーがいるんです。一年生なんですが将来有望な剣士ですよ」
へぇ、後輩もいるってことか。どんな人だろうか。仲良くなれるといいなぁ。
クラブ入会を決めると適当に雑談して帰路につく。クラブルームからだと徒歩五分程度だ。僕はエリクと共に寮へと戻る。
「なかなか個性が強い人も多いがみんないい人ばかりだ。リバルもすぐに馴染むと思うぞ」
「そうだね。一人とんでもなく個性が強い人がいたけど」
モニカちゃんの個性は唯一無二だろう。逆にあんなのが二人も三人もいたらたまったもんではない。
「ああモニカ先輩か。あの人はああ見えて一番優しい先輩だぞ。模擬戦をする事もあるんだが、モニカ先輩だけは適度に手を抜いてくれる」
「手を抜いてくれるって、それ練習にならないんじゃないの?」
「そうでもないさ。そもそもあのクラブは先輩が多い。経験の差はそう簡単に埋まらないからな。模擬戦の時はほぼ何もできずに終わることが多いぞ」
エリクでも苦戦するのか。魔法の使えない僕なら多分まともに戦えないだろうな。
雑談もほどほどに寮が見えてくると、草藪から人影が飛び出してきた。
「誰だ!」
エリクは柄に手をかけ、僕は咄嗟に剣を抜いていた。
「お待ちください殿下。私です、ライナスです」
暗くて分からなかったが、人影はそう名乗った。なぜこのタイミングで彼が出てくる?明らかに待ち伏せだ。まさか僕を闇討ちするつもりだったのだろうか。
「ライナスか。何用だ」
「殿下、付き合いをする友人は選ぶべきです」
「はぁ……そんな事を言うためにこんな時間まで待っていたのか?」
「ええ、大切なことですから」
電灯の真下へと歩いてきたライナスの目は僕を見ていた。敵意剥き出しで隠そうともしていない。
「リバルは俺が選んだ友人だ。お前に何の権利があってそんな事を言う」
「殿下は高貴な御方です。平民のような汚い血が混じった者と交流を深めるなどあってはなりません」
「……お前は俺の友人を汚い血が混じった平民だといいたいのか?」
エリクの口調こそ変わっていないが、怒気をはらんでいた。僕の為に怒ってくれるとは、やっぱりエリクは優しいな。
「殿下、貴方は自分だけのものではありませんよ。国のための御方です。そんな御方が平民と交友を深めているなど……」
「貴様、死にたいのか?俺にそんな事を言えば侮辱罪で死ぬことになるぞ」
「なりません。あくまでオレはそこの平民に対して言っているだけですので」
ライナスは引かなかった。それどころか噛みついてくる始末。どうするつもりだろうか。エリクに真っ向から喧嘩を売るような真似をしてどうなるかなど想像できないのかな。
「……ここまで言っても諦めてもらえませんか。仕方ありませんね。ただオレは忠告しましたよ。純血派の意見を聞き入れないとは……嘆かわしい」
「純血派の筆頭はオールウィン公爵だったか。皇族に対するその無礼、後悔するぞ」
ライナスはそう言い残してエリクの言葉を最後まで聞かず去って行った。僕でも分かるよ。皇族に対する口の利き方ではないなって。
「……済まなかったな。純血派の連中はいささか我が強いんだ」
「気にしてないよ。にしても皇子であるエリクにあの態度はどうかと思うけどなぁ」
この時の出来事が、のちに国を割る大事件へと発展するなどとは夢にも思っていなかった。
ブックマーク、評価お願いいたします!
誤字脱字等あればご報告お願いします。
書き溜めが尽きたので次の投稿は少し期間が空くかもです、すみません...。




