29話 オリジナル技を見せられて
魔法剣術会とは魔法と剣術の併用による技を学び、磨き、生み出す事を目的としたクラブらしい。なかなか意識が高いタイプしか加入しなさそうな内容だ。
「このクラブには貴族以外にも商家生まれの平民もいますわ。ですのでリバルさんも肩肘張る必要はありませんのでご安心ください」
だそうだ。貴族に関しては寛容派に属する者しかおらず、ライナスのような、下賤な者め!なんて言うやつはいない。結構居心地いいかもしれないな。
「早速我々の訓練場に向かいましょうか。今日は副会長が新たな技を披露してくれることになっています。殿下も楽しみにしておられたでしょう?」
「あの方の新技ですか!リバル、運が良かったな」
あの方、とやらがどんな人か知らないが新技を見せてくれるというなら是非とも見たい。可能であればそれを我がモノとしてみたい。
「その前に自己紹介だけ軽く済ませおきましょう」
エリザベスさんがそう言うと一人が椅子から立ち上がり手を差し出してきた。
「ボクはビーハイム商会の跡取り、オスカーだよ。あ、ビーハイム商会って知ってるかな?」
ビーハイム商会は聞いたことがある。なんでも帝国では最大規模を誇る商会だとも言われていて全国展開している商会だ。たまに僕の生まれ育った村にも来ていた商人も確かビーハイム商会の方だった気がする。
そこの跡取りともなれば相当裕福な暮らしぶりが予想できる。つまり、平民とは名ばかりの御子息だ。
「初めましてリバルです。ビーハイム商会といえばどんな物でも取り扱っているかなり大きな商会ですよね?」
「良かった〜知っててくれて!あ、ボクは二級クラスだから授業で会うことはほぼないだろうけど、仲良くしてくれたら嬉しいよ。それとボクは貴族じゃないから畏まらなくていいよ」
「分かった。じゃあオスカーって呼んでもいいかな?」
「もちろん!ボクもリバルって呼ばせてもらうよ」
聞けばオスカーも同学年だそうで、同じクラスじゃないことが悔やまれる。彼となら仲良くできそうなのに。
「次ウチね。ルクア・メルボルン、メルボルン男爵家は小さい家だから知らなくても怒らないよ」
ルクアさんの背丈は僕と変わらないが、学年は一つ上らしい。それに貴族だ。態度には気を付けておこう。
「最後は俺だ。ギアース・ドレイク。四年だ」
ギアースさんは今まで見た誰よりも背が高かった。若干見上げないといけないくらいだから二メートルはあるんじゃないだろうか。
「他にもメンバーはいるんですけれど、今はこの人数しかいないんです。訓練場に行けば他のメンバーとも会えますので」
五人ほどしかいないのかと思っているとまだ他にもいるようだ。エリザベスさんの言う通り、訓練場に向かうと二人の男女と性別不明が一人、剣を振って練習していた。
「みなさん、お待たせしましたわ。こちらに集まってください」
エリザベスさんを筆頭にゾロゾロと訓練場に入るや否や、気付いた三人が練習をやめて走り寄ってきた。
一人が女性で一人男性、もう一人は謎か。副会長とやらは誰だろう。
「本日はエリク殿下のご友人が見学に来ておりますわ。くれぐれもみなさん失礼のないようにお願いしますね」
僕に失礼なことなんてなにもないけどね。エリザベスさんがそんな事を言ったせいで三人の間には少しピリッとした緊張感が漂っていた。
「まずは私からご挨拶を。魔法剣術会の副会長を務めていますオーレリア・ステンブルクです」
スッと差し出してきた手には白い手袋がはめてあった。珍しいな、手袋を付けたまま剣を振るなんて。それにしても真面目そうなかっこいい女性だ。
「初めまして、リバルと申します。最初に言っておきますが僕は平民なのでエリクの友人だからと畏まらないでください」
「そ、そうなのですか?また御冗談を」
フフフと上品に笑うオーレリアさん。いや冗談じゃねぇよ。もしかして貴族ジョークだと思われてる?
「あの、本当に平民です……」
「え?」
オーレリアさんは僕とエリクを交互に見て、エリクが頷くのを見ると更に驚きを露わにする。皇子に平民の友人がいるなんて想像もできないよな。
「殿下にご友人ができたというのも寝耳に水でしたが、まさか平民の方とは……いえ、失礼しました。平民の方々を下に見ているわけではなく、殿下のような御方が平民の方と知り合える機会はほぼないかと思っておりましたので」
「僕がこの学園に来なかったらエリクと知り合う機会はなかったですからね」
エリクってそんなに友達いないんだな……なんか、こっちが悲しくなってくるよ。
「オーレリア先輩、俺に敬語はいらないと何度も——」
「そういう訳にはいきません。たとえ学園内といえども殿下に軽々しく接する事は両親から禁じられておりますので」
オーレリアさんにそう言われてエリクは残念そうに肩を落とす。エリク、諦めろよ。皇族なんだからどう足掻いても馴れ馴れしくは接してくれないって。僕は平民だし失うものなんて何もないからいいけど、オーレリアさんやエリザベスさんは貴族なんだから。
「じゃあ次ワタシー!リバル君、ワタシはこの中で一番貧乏なんだよ!三年のシェリー・ライアード、ライアード男爵家の次女だからね!」
男爵でも貴族は貴族じゃない?そう思っているとシェリーさんが補足で説明してくれる。
「なんと!商人の跡取りであるオスカーの方がワタシよりお金持ち!」
「オスカー、貴族にも勝てるほどの財があるって凄いんだな」
オスカーは照れくさそうに顔を背けるが、商人ってやっぱり凄い稼ぐんだろうなぁ。少なくともシェリーさんの家は領地持ちだ。てことは税収を少なからず得ている。なのにも関わらずオスカーの方がお金持ちって事は、やっぱり商いは凄い。
「最後はア・タ・シ。四年、モニカ・サンドリアよ。一応サンドリア家の長女だから覚えておいて欲しいわ」
めちゃくちゃ男性の身体つきなんだけど……。口調は確かに女性のものだが声も見た目も何もかもが漢なんだよ。制服が女子のものだけど、おっさんが女装してるようにしか見えない。
「えっと……、モニカさん、とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「やぁねぇ!リバルちゃん!モニカちゃん、って呼んで頂戴!」
キッツー。ムキムキの男がウィンクするのは流石に目に毒すぎる。というか先輩にちゃん付けはできないなぁ。
「いやぁ、でもモニカさんは先輩ですし……」
「リバルちゃん!アタシがいいって言ってるんだから!!」
「じゃ、じゃあ……モ、モニカちゃん……」
「いいわね!!今後はそれで呼んで頂戴!」
有無を言わせぬ謎の圧に負けた僕は結局ちゃん付けすることになった。頼りになりそうな見た目ではあるけど、ベタベタされたら嫌だなぁ。
「では挨拶も終えたところで早速見せていただきましょう。オーレリア、準備はできていますか?」
「ええもちろんです。既に身体は温まっておりますのでいつでも」
いよいよオーレリアさんの新技お披露目がやってきた。僕らは端のほうへと移動し、オーレリアさんとモニカちゃんだけが中央で待機する。
相手役を務めるモニカちゃんは背丈に見合った巨大な剣だ。大剣と呼ばれる類の武器で、両手で持つことを推奨されている。
なのにも関わらずモニカちゃんは片手で軽々と振り回し、構えていた。人間じゃないナニカではないだろうか。
「モニカ、しっかり受け止めてください。直撃すれば無事では済みませんから」
「もちろんよぉ!だからアタシが最適なんじゃないの!」
どうやらモニカちゃんは防御に特化した流派を使うらしい。攻撃特化でもおかしくはないんだけどな。あんなゴツい大剣を振り下ろされたら剣ごと真っ二つにされそうだ。
対するオーレリアさんは細身の剣だ。モニカちゃんの剣と差がありすぎる。普通に打ち合えば折れるんじゃなかろうか。
お互いに構えて数秒の静寂が訪れる。
「魔法剣術……氷瀑一閃!」
オーレリアさんが突きを放つと同時に氷塊が飛んでいく。その速さはまるで矢のようだった。
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