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2話 魔物に襲われて

ミーシャさんと共に歩くこと三十分。

ほんとだったらもっと速く歩けたんだけど、ミーシャさんが思った以上に体力がなかった。


彼女に合わせて歩いていたらいつの間にか時間がかかっていた、という感じだ。


「ハァ……ハァ……リバル、あの先の、広場みたいになってるところにアタシの仲間がいるわ」

「大丈夫ミーシャ?息切れしてるけど」

「だ、大丈夫よ……ハァ……ハァ」


いつの間にか僕も呼び捨てになっていたのは、三十分も二人きりだったからだ。

道中、敬称はいらないと何度も言われてしまいそのまま流れるように呼び捨て、といった具合に。



ひらけた場所に到着するとミーシャと同じような服を着た男女が木陰でしゃがんでいるのが見えた。



「あ!ミーちゃん遅いよぉ〜」

「単独行動は禁止されていたはずですが?」

女の方は明るい雰囲気のあるオレンジ色の髪で小柄。

男の方はメガネをかけた黒髪の長身。

なかなか個性が強そうな二人だ。



「ごめんなさいね……ちょっと魔物に襲われてたのよ」

「ええ!?ミーちゃん大丈夫だったの!?」

小柄な女の子がミーシャに駆け寄り心配そうな目で見つめる。本気で心配しているようだ。


「ハァ……だから単独行動は禁止とされているのです。なぜ一緒に動かないのですか?」

男の方はなんともまあ真面目そうな……少なくとも仲良くはなれないであろう雰囲気が漂っている。


「ちょっとくらいいいでしょう。それよりもこの辺りは魔物が出ないんじゃなかったのかしら?」

「あくまで予想ですよ。先生方のね。絶対ではないのですから勝手な行動は控えて頂きたいものですねセレンシア嬢」

「わ、分かってるわよ」

ふむふむ、どうやらミーシャが勝手な行動を取ったせいであんな目にあっていたわけだ。これは自業自得だな。


「それで?そちらの男性は誰なんですか?」

男の方が僕をチラッと見た。


「僕はリバル、です」

「平民……ですか。なるほど。なぜセレンシア嬢と一緒に?」

「そのですね……ミーシャが魔物に襲われていて――」

さっきあった出来事を説明すると男の方が怪訝な表情を見せた。


「ふむ……セレンシア嬢が二匹の魔物に襲われていてそこを助けた、と。失礼ですがリバルさん、貴方はどこのクラスの者ですか?」

「く、クラス?」

「はい。服もボロボロ、それに剣も持っていない貴方の所属しているクラスなど何となく想像は付きますが」

いやいや、クラスってなんだよ。学園の事を言ってるのかな。まあ服も制服ぽいし、多分学園のクラスの事だろうな。なんなら、そもそも僕はその学園の生徒ですらないよ。


僕が何かを言う前にミーシャが先に口を開いた。


「ちょっと待って。何か嫌な予感がするわ」

「え?ミーちゃん何か感じたの?」

「ええ……リナ、シンク警戒して頂戴」

ミーシャの言うように、何か嫌な予感は僕もあった。

ただ、気の所為だと思っていたのだがどうやら当たっていたらしい。


木をなぎ倒す音が聞こえてくると同時に地面を強く踏み締める振動が伝わってきた。


「ちょ、ちょっと!何が近づいて来ているの!?」

「分かりませんが……とにかく陣形を崩さないようにしましょう」

「ワタシは右側にいくよ!」


学生といえどもそれなりに訓練は受けているのか三人の動きは機敏だった。

僕はどうしようかな……武器もないし。


「リバルは下がっていて。今度はアタシが守るわ」

「わ、分かった!」


ミーシャの言葉に従い三人の後方へと移動する。

お荷物みたいで申し訳ないな。まあでも剣がないから仕方がない。


次第に音が近づいてきて木をへし折る音と共に姿を現したのは、七年前村を襲撃してきた魔物、ミノタウロスだった。



「なっ!?ミノタウロス……!か、勝てないわ!」

「なぜこんな所にA級指定の魔物がいるの!?」

「不味いですね……私達だけでは役不足です」

ミノタウロスはやはり脅威のようだ。

三人の足元を見ると少しばかり震えている。


対するミノタウロスは唸りながらこっちを見て一歩ずつ近づいてきていた。



「こんなの生徒が倒せる相手じゃないわ!逃げましょう!」

「どこに逃げると言うんですかセレンシア嬢。相手は確実にこっちを狙っています。今動けばアレも動くでしょう」

「シンク!アタシが時間を稼ぐわ!貴方は急いで上級生を呼んできて頂戴!」

「馬鹿な真似を……時間を稼ぐといっても一体どれだけの時間を稼がなければならないのか。それに……近くに上級生はいません。我々で相手をしなければならないんですよ」


何やら小声で言い合いが始まっていた。僕から見ても三人は弱いわけではない。でもミノタウロスと比べれば天と地ほどの差がある。


足運びや構え方で分かる。彼らだけでは恐らく……死ぬ。それだけミノタウロスは人間にとって脅威なんだ。


「クソッ!なんなんだよ今日は……ミーシャ!剣を貸して!」

僕は後方から前に出ていくとミーシャに手を差し出した。


「リバル?無理よ……貴方でもミノタウロスには敵わないわ」

「でも誰かが時間を稼がないと」

「なるほど……リバル、と言いましたね。ここは任せてもよいと?」

「何を言っているのシンク!」

正直シンクと呼ばれた男は気に食わないが、今だけは冷たい態度なのが助かる。三人共守りながら戦うのはなかなか骨が折れるからな。


「リバル君、ミノタウロス相手にどれだけ時間を稼げますか?」

「随分と長く剣を握ってませんでしたからね……まあ、十分、いや十五分はもたせますよ」

「ふむ……それだけもたせられるなら大丈夫でしょう。行きましょうセレンシア嬢、リナ君」

シンクはスッと後ろに下がると二人にも下がるよう伝えた。


「私の剣を使ってください。セレンシア嬢の物より少し重いのでミノタウロスの一撃にも耐えうるはずです」

「助かります」

シンクから受け取った剣は昔使っていた剣と近い重量のものだった。ミーシャの剣も使いにくいわけではなかったが、少しだけ軽く感じていたんだ。


「ちょっと!?リバル一人では無理よ!」

「大丈夫。さっき魔物を倒したのを見てただろ?少しだけブランクはあるけど、時間稼ぎくらいやってみせるさ」

ミーシャは心配そうにしてくれるが、早く行ってくれると助かるんだけどな。こうしてる間にもミノタウロスはじわりじわりと近づいてきているんだから。


「リバル君だっけ?本当に大丈夫なの?」

「あーリナ、さんでしたっけ?大丈夫ですよ。それよりも急ぎ目で救援を呼んできてくれると助かります」

「分かったよ!!行こうミーちゃん!」


ブモォォォッ!


三人が走り出すとミノタウロスが吠えた。

僕より三人に目がいってしまったようだ。


「おい牛野郎!お前の相手はこっちだ!」

僕は似合わない啖呵を切り剣を構える。



ブモォブモォォ……


鼻息が荒いな。

威圧感も凄い。怖くない、といえば嘘になるけど、ここで逃げればまたあの時の二の舞いになる。


ブモォォォッッッ!


一際大きな咆哮をするとミノタウロスが背中の斧を構えて走り出した。巨大な身体で突進してくると流石に怖いな。壁が迫ってきているような感覚に陥るよ。



「アストラ帝国流・千牙!」

突進に合わせてカウンターの突きを繰り出すと、浅かったのかほんの少しの傷をつけるだけに終わった。


「クソッ!」

腕が鈍っている。流石に七年も剣に触れていなければ、こうまでも腕が落ちるのか。

昔は神童などと持て囃されたというのに、なんという体たらくだ。自分が嫌になる。



大振りの斧を避けては剣を振り、左右に躱す。

何度目かの攻防で遂に僕の足がもつれた。


「しまっ――」

前方にコケかけた瞬間、ミノタウロスの背後に一筋の光が差した。



「アストラ帝国流・流れ星」

透き通った声が聞こえ、凄まじい剣速でミノタウロスは細切れにされていく。もはや何が起きたのか分からない。


呆然と地面に膝を突いてバラバラに刻まれたミノタウロスを見ることしかできなかった。



「少年、大丈夫か」

現れたのはミーシャ達と同じく白を基調とした制服に身を包み紺色の美しい長い髪をかきあげる美少女だった。


「え、あ、はい」

「それは良かった。済まない……助けるのが遅れてしまった」

いいや、そんな事どうでもいい。

こんな美しい人がこの世には存在したのか。


あまりの美しさに目を奪われていると、その美少女はクスッと笑う。


「フフッ何を見惚れているのかな」

「あ!いや……その……」


微笑む姿はまさに女神だ。


僕はこの日女神に出会った。

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