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1話 自給自足に慣れてきて

晴天。

今日も素晴らしい一日が始まる。


ベッドに差し込む太陽の光を浴びながら僕は伸びをした。気持ちのいい朝だ。

こういう日は散歩するに限る。


服を着替え顔を洗ったあと、前日焼いておいたパンを貪る。


それにしても懐かしい夢を見たものだ。

確か七年前だったかな。

村に魔物が襲撃してきて大立ち回りをしたのは。


あの日から僕は一度も剣を握っていない。

というより剣に触れようとも思わなくなってしまった。


あの日の功績を認められて国から報奨金が出たから、そのお金を元手に山奥に小屋を建ててもらい、今ではそこで自給自足する日々。


村の人達には残るよう言われたが、両親と一番仲の良かったリンネを亡くした村に残りたくはなかった。

あれは今思い出しても辛い過去だ。


何より僕自身が殺したようなものでもある。

あの時すぐ動けなかった自分が許せなかった。



朝食を終えると外に出る。


「おっ、できてるできてる」

庭には家庭菜園がある。

小麦や野菜、果物だってあるんだ。

世捨て人になるには早すぎるって村のおじさんにも言われたなぁ。


実った果物を一つむしり、齧り付くと瑞々しい甘みが口いっぱいに広がった。



僕が住んでいるこの山は帝都から馬車で一日ほどの距離にある。魔物も当然出てくるが、僕の住まいの周りには魔物除けの魔道具を置いている。

だから剣を握らなくても生きていけるんだ。


動物を狩るのは罠猟でどうとでもなるし、捌く際にはナイフ一本あればいい。


こんな生活を続けてもう七年か。

あの頃は騎士に憧れていたけど今じゃあ何にも思わなくなってしまったな。



「ん?なんだか山の中が騒がしいな……」

いつも通り前日に仕掛けた罠を見に行こうと森に足を踏み入れると、若干の違和感を覚えた。


いつもなら静かなものなのに、今日に限って鳥が騒いでいた。


こういう時は何かある。

本能がそう忠告していて僕は足早に罠を見に行くことにした。




獣道を歩くこと十五分。

小屋からそう離れていない距離で魔物なんて出るはずもないのに、何処からともなく遠吠えが聞こえてきた。


腰に差したナイフを握り締め警戒しながら罠の下へと急ぐ。



「たす……ない……」

耳を澄ますと微かにだが人の声らしきものが聞こえてきた。こんな人里離れた山に人がいる?

いやいや、そんなバカな。


この七年間一度も人と出会うことはなかった。

人があまり出入りしない山なのだが、それには理由がある。


この山がデカすぎるからだ。

帝都がすっぽり収まるほどのデカさで、一度迷ったら出てこれないとまで言われるくらいに。


そんな山に人が入り込むとなると、冒険者の類だろうか。


「誰か……」

か細い声だ。女の子のような高い声。


助けを呼んでいる。

声の聞こえる方へと僕は一目散に駆け出した。


近づくにつれて段々と声が聞き取りやすくなってくる。


「こないでッ!」

茂みをかき分けて飛び出すと、そこには狼のような魔物が二匹、そしてへたり込んで顔を両腕で覆っている女の子がいた。歳は僕と同じくらいか。


今にも魔物が女の子に襲いかかろうとしている瞬間だった。咄嗟にナイフを投げると目に直撃し一匹の魔物が足を止める。


ギャインッ!


鳴き声も犬っぽい。

もう一匹は僕を睨みつけると標的を女の子から僕へと移したらしい。


「大丈夫!?」

「え……?」

「立てる?」

「え、ええ……」

武器はないか……何か。


辺りを見回すと女の子の物であろう剣が一本地面に落ちていた。


「これ借りるよ!」

「う、うん……」

反応が鈍いのは気になるが今はそんな事どうでもいい。


剣を拾うとすぐさま魔物と対峙する。

狼の魔物ってことは素早さに特化しているだろう。



グルルル……


唸りながらジッとこちらを睨んでくる。

流石に剣を見て飛び掛かるのは躊躇しているらしい。


しかし、七年ぶりに剣を握ったな。

あの頃みたいに上手く振れるだろうか。


「来いっ!」

ガァァッ!


僕の声を皮切りに魔物は勢いよく飛びかかってくる。


狙いを定めて、剣を水平に構えると久しぶりに技を繰り出す。


「水神流・流し刃!」

すれ違うように身体を半身ずらして、飛び掛かってる射線上に剣を添わせる。


後はそのまま流すように斬るだけ。


上下真っ二つに裂けた魔物は勢い衰えずそのまま女の子の足元へと転がっていった。


「イヤァァッ!」

女の子の金切り声が辺りに響き渡る。


まだ油断はできない。もう一匹の魔物が片目を潰されて怒り狂っているから。


涎を垂らしてジリジリと距離を詰めてくる魔物に僕は剣を向けた。


「来るなら覚悟しろよ」

グルルゥァッ!


殺意に飲み込まれた魔物というのは醜いったらありゃしないな。涎を垂らして大口を開けながら向かって来る魔物を見てると、生まれ変わってもああはなりたくないと心の中で願う。


「アストラ帝国流・強撃!」

どれだけ速かろうがお前達のような魔物が狙ってくるのは首だ。飛び込んでくるタイミングが分かっていれば対処は容易い。


頭の頂点に剣先が当たった瞬間、一気に力を込めて振り下ろした。


左右に別れた魔物の体は綺麗に地面へ落ちると、じんわり血溜まりが広がっていく。


「ふぅ……なんとかなった、かな」

腕は鈍っていないか。いや、少し反応が遅れていた。

やっぱり七年の空白はかなり大きいかもしれない。



辺りに他の魔物がいないことを確認し、女の子の下へと近寄るとその子は肩をビクッと揺らした。


「えっと……大丈夫?」

「え、ええ……。その、ありが、とう」

「いや気にしなくていい。まあでもこの山に一人で入るのは辞めたほうがいいよ」

女の子の服装は明らかに山に入るのに適していなかった。


白を基調としたパリッとした服に、赤いロングの髪。

走り回ったのか髪はボサボサになっていた。


「いえ……一人、じゃないわ」

「え?他に仲間がいるの?」

「え、ええ。二人ほど……」

仲間がいるのか。いや、それだったらどうして単独行動をしていたんだろう。どう見ても冒険者って感じでもないしな。


なんだか女の子の様子もおかしい。煮えきらない返事だ。


「あの、どうしてこの山に?」

「その……学園の行事よ」

学園、ときたか。てことはこの子は学生なのかな。

まあそれだったら魔物にビビるのも無理はない。


「他の生徒はどこにいるか分かる?」

「多分……」

「分かった。その人達と合流するまで一緒にいるよ」

「い、いいのかしら?」

かしら?この子もしかして貴族じゃないだろうな……。僕なんて田舎の平民だぞ。

敬語使った方がよかったかな。


「あの、貴方の名前教えてくれないかしら?」

「僕?いや、大した者でもないですよ」

「なんで急に敬語を使うの?」

「いやまあそれは……ほら、立場ってものがあるじゃないですか」

「立場?貴方も見たところ歳が近そうだけれど」

歳が近くても住んでる世界が違うじゃないか。

とは言えないけど、とりあえずその場は適当に濁しておいた。



「あっそういえば。これありがとう」

そういえば忘れていたと手に持っていた剣を女の子に渡す。女の子はジッと僕の手を見て受け取ろうとしなかった。


「あの?あっ!すみません!」

そうだった!

女の子は多分貴族令嬢。そして僕は平民。

上流階級の方に手渡しで物を渡すなんて失礼にも程がある。


急いで地面にソッと剣を置くと数歩下がる。


女の子も僕の動きを見て察したのか、ハッとした表情で首をブンブンと横に振る。


「ち、違うわよ!?ただ貴方の手を見ていただけだから!」

「気が利かず申し訳ないです……」

「違うわ!貴方の剣技が素晴らしいものだったから、どんな手をしてるのか気になったのよ」


話を聞けばどうやら剣タコができた汚い手を見つめていただけらしい。

無礼者!だなんて怒鳴られるかと思って焦った……。



「コホン。とにかく、助けてくれてありがとう。アタシはミーシャ・セレンシアよ。貴方の名前は?」

「僕はリバルです。えっと、ミーシャ様とお呼びすればよろしいでしょうか?」

「さっきまで敬語なんて使ってなかったじゃない。別にアタシは気にしないから普通に喋りなさいよ」

なんだなんだ?さっきまで魔物に怯えていたのとは打って変わって態度が違うぞ。


「じゃあ……ミーシャさんで」

「まあ今はそれでいいわ。アタシもリバルって呼ぶから」


ミーシャさんか。赤髪が綺麗でちゃんと手入れした状態だったら凄い美しい人なんだろうな。

顔立ちも綺麗だしさぞおモテになりそうだ。



「じゃあ行きましょう。貴方も単独行動は危ないわ」


……なんか勘違いしていそうだけど、まあ後ででもいいか。

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