27話 純血派に脅されて
「アストラ帝国流・乱撃!」
「アストラ帝国流・強撃!」
「アストラ帝国流・千牙!」
ライナス率いるクラスメイトが各々得意な技を放ってくる。全てを対処するにはまず囲われている状況を脱しなければならない。
「水神流・流し刃!」
流れるような動作で複数の攻撃を躱すと、クラスメイトの一人の首に剣を当てる。
「ウガッ——!」
これで一人。囲いは抜けられたし一人減らせたのはなかなかいい初動じゃなかろうか。
「貴様ァッ!」
吠えたライナスが突っ込んできた。
ライナスの剣は速さよりも一撃の威力に長けている。つまり当たれば確実に気絶する。その後どうなるかは想像に容易い。
「甘い!雨天流・篠突く雨!」
ライナスの剣を躱し突きを繰り出すと、ライナスは剣の腹で受け止めた。だがそれは悪手なんだよな。
「なっ!?」
衝撃を吸収しきれずにライナスは数メートル後方へと吹っ飛んだ。
「よくもライナスさんを!死ねぇ!」
二人の生徒が襲い掛かってくる。左右からの挟撃か。それならこれが有効だ。
「アストラ帝国流・乱撃!」
二人の首元に当てるとそのまま倒れた。多分気絶してると思う。あとで確認しよう。……死んでないよな?
残りはライナス含めて三人だ。どれもそこそこ腕が立ちそうな雰囲気があった。油断を許さない状況には変わりない。
「ハァハァ……ライナスと言ったな!もういいだろ!他の奴に命令しろ!これ以上怪我人を増やす訳には——」
「黙れ平民!さっきは油断しただけだ!お前達、奴を挟め!」
なんとか交渉できないかと試みたが意味がなかった。ブチギレているライナスは止まってくれない。こっちは今日だけで何連戦してると思っているんだ。くそ、疲労が溜まっている間に潰すのも作戦のうちか!
手下と思われる二人の生徒もそこそこ腕が立つ。そのせいでなかなか決め手にかけていた。
「「「アストラ帝国流・乱撃!」」」
三人同時に放たれる斬撃は避けることはできない。迎え撃つ事ができなければ確実に負傷する。僕は久しぶりに生死をかけたひりつく戦いに身を置いているなと実感していた。
「雨天流・篠突く雨……三連!」
今この場で生み出した新たなオリジナル技を放ち、打開を試みた。乱撃のような無差別な同時攻撃はもはや躱すよりも先に有効打をいれた方が手っ取り早い。
二人を狙い突き出した剣は肩を貫き、乱撃は中途半端に終わる。
「ぐあっ!」
「くっ!」
二人はうめき声と共に地面に倒れ伏した。痛みに慣れていないのだろう。たかが肩を貫かれた程度で膝を突くなんて剣士の風上にも置けないな。
ライナスだけは危険を察知したのか咄嗟に後方へ飛び突きを躱していた。
「貴族に楯突けば後からどうなるか分かっているのか!」
「今更じゃない?そもそも喧嘩を売ってきたのはそっちなんだ。僕は振りかかる火の粉を払っただけ」
「ふん!そんなもの知ったことではない。今貴様が肩を貫いた男も子爵家の嫡男だ。ただの平民がどうにかできる相手ではないぞ」
「貴族だろうが平民だろうが実力でねじ伏せればいい。僕はそう生徒会長から教えてもらったよ」
ライナスは侯爵家の人間だ。後で面倒なことになるのは間違いないけど、僕に失うものなんてない。だから家族を人質に取られたりするなんてこともないんだ。
ただその事を知らないライナスは暗にそう言っているようだった。残念だけど僕の家族は既に七年以上前に亡くなってるからな。彼女とかいるなら話は変わるけど悲しいことにいないしね。
「ライナス、もういいだろう!結果は分かりきっているし、君の手下ももう全員倒れてる。これ以上やればほんとに怪我で済まなくなるぞ」
「黙れ!貴様のような平民に愚弄されてジッとしていられるわけが無いだろう!貴様はここで殺す!」
駄目だわ。ライナスブチギレマン。もう何を言っても無駄だからさっさと終わらせよう。
「じゃあ自分の一番得意な技でも出したらどう?僕もそれに応えるから」
「いいだろう!!オレがただのボンボンだと思うなよ?あまり人に見せる技ではないが……これから死ぬ相手なら問題はない!」
意味深な発言でニヤリと笑うライナス。めちゃくちゃ悪役感出てるなぁ。
ライナスの剣が黒く染まっていく。魔法との合わせ技か。腐っても貴族か……魔法を掛け合わせた剣技は習得するのが相当難しいと聞くが、ライナスも才能に溢れた剣士だということだ。
「暗殺剣・闇討ち」
突然視界が真っ黒に染まる。ライナスはおろか自分の手元すら見えない。気配も探れない。とにかくこういう時は全周囲に攻撃を加えるべきだ。
「アストラ帝国流・強撃!」
アメリアさんの時にも使った技で地面へ強い衝撃を与える。土埃が舞うのは分かるが視界は相変わらず真っ暗のままだ。
足音でライナスが高速で近付いてくるのだけは分かる。このままだと何もできずに斬られてしまう!
衝撃波が弱かったのかもしれない。再度剣を地面に強く叩きつけると足音は止まった。耳だけが頼りだ。恐らく全周囲への攻撃を警戒して足を止めたのだろうけど、いつ懐に飛び込んでくるか分からないから怖いな。
「相手の視界を奪う魔法と剣技の併用だろ?僕は視界だけに頼っている訳じゃないんだよ」
「ほざけ平民。貴様もじきこの技の真価を理解するだろう」
会話を交わしているこの間にも隙を伺っているような、そんな足運びをしていた。
——ザリッ
足音が聞こえいよいよ飛び込んでくるかと防御の構えを取ると、完全に反対方向から声が聞こえた。
「馬鹿が!そっちはブラフだ!死ね!」
防御が間に合わない!恐らくライナスは確実に首を狙ってきているはず。当たれば斬れなかったとしても首が折れるかもしれない。
身体を反転させ剣を盾にして首を守らないと!いや、切り札を使うか?まだ時期尚早かと思ったが出し惜しみして死んだら元も子もない。そう考えていると——
「そこまでだ!!!」
突如訓練場に響き渡る男性の声。ライナスも動きを止めたのか首元に衝撃が来ることはなかった。
次第に視界が晴れていき、ようやくいつもの視界が戻ってくると、そこには首元に迫る剣を握ったまま動きを止めているライナスと見たこともない大人の男性が腕を組んでこちらを見ていた。
「何をしているライナス」
「いえ……これは……その」
ライナスが言い淀む。侯爵家の嫡男が気を遣うような相手って誰だ?めちゃくちゃイケメンだけど、少し怖そうな雰囲気がある。
「前にも言ったが……こういった事はコソコソするな。堂々と公式の場でうちのめせばいいだろう」
「ですがこの男は立場を理解しておらず——」
「何度も言わせるな。純血派は過激派だと影で噂されているのを知らんのか?お前みたいな考えなしに動く阿呆がいるから過激派などと揶揄されるのだ」
「はい……」
「分かったらさっさとそこの倒れている馬鹿共を連れて教室に戻れ」
有無を言わせぬ圧にライナスはただただ頷くばかりだった。先生の一人なのかな?
ライナスは伸びている他の生徒をたたき起こすとそのまま教室へと戻っていった。最後に一睨みしてきたのは負け犬ぽくて面白かったけど。でも、あとに残された僕はとんでもなく気まずい。
「おい」
「は、はい!」
「お前が噂の平民だな?」
「噂、というのが分かりませんが僕は平民です」
「そうか、お前が……いや何でもない」
なんだか含みを持たせる言い方だな。そもそもこの人誰なんだろうか。
「あの、貴方は一体……」
「ああ、すまない。名乗るのが遅れた。私はシグルド・オールウィン。平民ならばオールウィン公爵家を知らぬのも無理はない」
「申し訳ございません世間のことに疎くて……」
「気にしなくていい。ただ私は純血派と呼ばれる貴族主義の筆頭だ。お前の味方でもない」
ライナスに説教してる時から薄々感じていたけど、やっぱり純血派の人か。それも筆頭ってそりゃあライナスも強くはでれないよな。
「お前の味方ではないが今回のようなあまりに卑怯なやり方は好かん。だから止めてやった」
「ありがとうございます。あの時声を掛けられていなければどうなっていたか分かりませんでした」
「よく言う。隠し玉を持っていたのだろう?あのまま続ければ最悪死んでいたのはライナスの方だったかもしれん。だから私は助け舟を出してやったのだ」
うぐっ、バレているようだ。確かに切り札を使うかどうかの瀬戸際ではあった。実際には使わなかったがあのまま止められていなかったらと思うと恐ろしい。殺してしまっていたかも……。
「その顔は図星か。まあいい、お前もさっさと教室に戻れ。私はわざわざ同じ派閥の者に説教しに来たわけではないからな。これで失礼する」
それだけ言うとシグルドさんは校舎の方へと歩いて行った。そもそもなんで公爵が学園に来てんだろ?
色々と気になることはあったが、エリクに聞けば早そうだ。
ブックマーク、評価お願いいたします!
誤字脱字等あればご報告お願いします。




