26話 頂点の実力を見せられまして
「どこを見ているのかしらね。よそ見はだめよリバル君」
開始の合図と共に視界から消えたアメリアさんの声がすぐ耳元で聞こえた。咄嗟に剣を盾にしながら横へと飛ぶ。
速すぎる……何も見えなかったし聞こえなかった。気づけば横にいる。足運びなのかそれともなんらかの剣技なのか。
「反応速度は……そこそこね」
僕を見定めるような言葉を投げ掛けてくる。こっちは対処に必死だってのに!
「くっ!雨天流・雨嵐……六花!」
とにかく当たれば何でもいい。体勢を整えるつもりで放った技は自分を中心に全周囲に及ぶ。
「ここでそれは悪手よ。せめて相手を捉えてからでないと無駄に疲弊するわ」
全て躱され追撃がくる。辛うじて防げているのはまだアメリアさんが本気を出していないからだろう。
「だいぶ目が慣れてきたんじゃない?ギアを一つあげるから頑張ってね」
「えっ……ちょっと!」
更に速くなったアメリアさんはもはや手が付けられなくなっていた。たまに風が頬を撫で、風を感じた方へ向かって剣を振るうが既にその場にはいない。高速で移動し縦横無尽に攻撃してくる速さが尋常ではなく、徐々に僕の衣服が刻まれていく。
このままだと細切れにされる。なんとか打開を図らないと!
「アストラ帝国流・強撃!」
アメリアさんに向かって、ではなく僕は地面に向けて技を放った。激しく打ち付けられた剣により地面が爆ぜ平らな地面ではなくなり、土埃が舞う。
「へぇ、頭も回るのね。確かに今の状況を変えるならそれが最善手かも」
「ありがとう……ございますッ!」
声がした方向に剣を突き出してもアメリアさんの姿はなかった。土埃が舞っているお陰で素早く動くアメリアさんの軌跡が見えた。
それでも目で追えないくらい速くて、剣が当たらない。
「私、一応これでも通り名は紅蓮の風って言われてるのよ。だから風のように動くのは予想できたんじゃない?」
「予想はできても反応できないんですよ!」
目はいい方だ。それでも捉えられないのは流石は六聖といったところか。帝国の頂点に立つ騎士というのはやはり別格のようだ。
それも執拗に両腕を狙ってきている。戦意を削ぐためなのかそれとも単純に模擬戦後の介抱の事を考えているのか。どちらにせよ直撃すれば骨折は免れないだろう。
「そろそろ私も技を使わせてもらうわね」
「いつでもどうぞ!」
こうなったら最大限抗わせてもらおう。六聖との戦闘なんて今後できるか分からないし、これもいい経験だ。
「炎神流・焔斬り」
「アストラ帝国流・流れ星……四光!」
アメリアさんの剣に炎が纏わりつき、そのまま斬り掛かってくる。まだ未完成だが対抗できる技はこれしかない。
視界が激しく明滅し僕が放った四つの斬撃はアメリアさんの剣によって全て阻まれた。だがまだ炎を纏った剣は勢いが衰えていない。
——死ぬ、そう感じて目を閉じると静寂が訪れた。
「はい、リバル君の負けね」
アメリアさんの声が聞こえ恐る恐る目を開けると、炎は消えており首元には剣が当てられていた。
「……負けました」
完全なる敗北。全力で抗っても傷一つ付けられないとは。ソニアさんと戦った時にも感じた無力感がまた襲ってくる。
「勝負あり!勝者アメリア様!」
審判が勝利宣言を行い、模擬戦は終了した。とりあえず当初の目的は達せられたといえるか。
戦いには負けたけどボコボコにされなかっただけ良しとしよう。
「まさかリバル君があんな技を使うなんてね。流れ星の改良版かー、もうちょっと練度が高かったら私も危なかったかも」
「あの炎の剣は死ぬかと思いましたよ……」
ほんとにマジで。殺す気だったのかな?いや、ボコボコに痛めつけて介抱するつもりだったのかも。
僕とアメリアさんの模擬戦はちょっとした見世物レベルで訓練場は大盛り上がりだった。やっとこれで解放される……。
「リバル君、私も模擬戦したいんだけど!」
「俺ともやろうぜ!」
「いや、私が先です」
「僕ともやってくれると嬉しいなぁ」
終わると同時に僕のところへと他の生徒達が詰め寄せてくる。さっきまで若干遠巻きに見ていた人もいるな。あれか?平民だからどうせ……みたいな感じで思ってたけど、案外やるじゃん、みたいな掌返しか?
「すみません、三連戦もしたら疲れてしまって」
「次はアタシよ!約束したでしょリバル!」
うまい具合に残り時間は休もうと思っているとミーシャが僕の前に現れた。さてはタイミングをうかがってたな。
「ミーシャ……さっきも言ったけど僕結構疲れてるんだけど」
「嘘言わないで。ちゃんと立ってるじゃない。立てないほど疲労が溜まっている訳じゃないみたいだし大丈夫でしょ」
立ってたら大丈夫の精神が怖いよ。へたり込んでいた方がよかったのか……。
結局その後時間が許す限りミーシャを始め、クラスメイトと模擬戦をやらされた。授業が終わった時には疲労困憊だったのは言うまでもない。
みなが教室へと戻っていく中僕は少し休んでから戻る事にした。この後は昼休みだそうでゆっくりしてから戻っても問題はない。
「じゃあまた次の機会に会いましょうリバル君」
「また?また来るんですか?」
「もちろんよ。だって臨時講師だから」
アメリアさんはまた来るらしい。臨時講師になったからって自由だなこの人。
でも相当人気のある人のはずだが、一級クラスの面々はアメリアさんの周りに集まるどころか澄ました顔で教室に戻って行った。礼儀を弁えているのか、それとも畏れ多くて近づけないのか分からなかったが。
アメリアさんと先生も訓練場から立ち去ると残っているのは数名の生徒だけ。ミーシャやエリクも既に訓練場から出ていて、この場にいる人で僕が知っている人はいなかった。
なんか……気まずいな。もう少しだけ休んだら僕も立ち去ろう。そう考えていると一人の男子生徒が僕に近付いてきた。
「おい」
「え?なんでしょうか?」
その男子生徒はまだ一度も模擬戦をやっていない人だ。やばい、名前が分からないぞ。
「お前……平民なのだろう。立場を弁えろ」
あー、なるほどね。嫌な貴族って感じがする。目つきも明らかに僕を嫌っているような、家畜を見る目だ。
さて、どう立ち回るのが正解かな。あまり派手に動いては友人に迷惑をかけるだろうし。
「すみませんでした」
「多少腕に覚えがあるからといって調子に乗るな」
「調子に乗った覚えはないんだけどな……」
「……なんだと?」
やべ、いらんこと言ってしまった気がする。目の前の貴族令息らしき人の顔が険しいものに変わった。
「六聖に目をかけられているのは評価しよう。だが立場というものがある。この学園では実力至上主義を謳っているが、外に出ればお前はただの平民に過ぎん」
「心得ております」
「殿下の覚えがめでたいのもただ運良く気に入られているだけだぞ」
「分かっています」
ここはイエスマンになろう。とりあえず相手に同調しておけばちょっかいを掛けられることも減るだろう。
「本来殿下は貴様ごとき平民が話してよい方ではない。あろうことか貴様……本気でエリク殿下に剣を振るったな?」
「それは……」
言い淀んでしまう。確かに言われてみれば皇族と模擬戦をしたからといって本気でやるのはいけないことだ。でもなぁ、本人が本気で来いって言うんだもんなぁ。この場合どっちが正解だったんだろうか。
「これ以上調子に乗るようであれば我々純血派が黙っていないぞ」
「純血派、ですか」
貴族の血が、高貴な血筋が、とかいうやつかな。
「たとえお前の剣の実力が高かったとしても個の力など所詮数の力に劣る」
「理解しています」
「ならば今後殿下に近寄るなよ」
「いやぁそれは無理かもなぁ……」
おっと、また声に出してしまった。不味いぞ、目の前の人、まあまあブチギレ寸前の顔だ。
「数に劣る事をこの場で証明してやる。おい、囲め」
目の前のリーダーっぽい人が声をかけると訓練場に残っていた純血派と思われるクラスメイトが数人僕を囲うようにして剣を構えた。
貴族連中とは一悶着あるだろうと思っていたけどまさか入学初日からか。まあでも仕方ないな。僕も喧嘩を売るような事を言ってしまったし。
僕が剣を構えると、ひりついた空気が漂う。お互いに模造剣とはいえ当たればひとたまりもない。当たりどころが悪ければ最悪死ぬ可能性だってある。
「平民、覚えておけ。オレの名前はライナス・キンブリー。キンブリー侯爵家の嫡男とはオレの事だ」
「そうですか。家名を名乗るなんて自分の力だけでは勝てないと、そう言っているように聞こえますけどね」
なんだかイライラしてきて売り言葉に買い言葉を投げ掛けてしまった。
殺意がこもった目で僕を睨みつけてくるライナス。あーあ、これは本気で怒らせたかも。
「もういい。死ね!」
ライナスの号令と共に純血派との戦闘が始まった。
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