25話 勝てない相手と戦いまして
今何が起きた?ソニアさんの身体が二重にブレて見えたと思ったら、僕の剣は何もない場所を切っていた。
確実に当たる軌道だったはず。ずらされた?いや、違う。
「危なかった……もう少しで当たるかと思いました」
澄ました顔でそんな事を言うソニアさん。絶対余裕だっただろ。全然危機感がなかったように見える。
「今のは……なんですか?」
「黒神流です」
「その流派も初めて聞きましたけど、それより今のは何だったんですか?僕の目ではソニアさんが一瞬分身したように見えました」
「そう見えたのであればそうなのでしょう」
くっ。相変わらず話が合わないなぁ。ソニアさんって独自の世界観をもってるからなかなか話を合わせるのが難しい。
「あなたの模倣剣術は本物なんですね。過去に一度東方次元流を修めた剣士と手合わせしたことがありますが、その方と殆ど同じレベルの習熟度に見えました」
「そう言って頂けるのはとてもうれしいんですけど……当たってないので手放しに喜んでいいのかどうか……」
ほんの少しでもかすっていればまた違った気持ちだったのかもしれないが、模擬戦が始まって今まで一度たりとも当てられてないからなぁ。
「まだ続けますか?」
「あー……いえ、多分このまま続けても当てられる気がしないので」
東方次元流・風切……落葉は僕の使える技の中でも最速の一撃だ。それを躱されたとなればもはや打つ手はない。上には上がいるのだと分からされた結果になってしまった。
「勝負あり!お互い決め手がない為引き分け!」
アメリアさんが声を上げ僕らは一礼する。そういえばソニアさんはまだ余裕があったようなのに一度も攻撃に転じてこなかったな。
「あの、ソニアさ……様。なぜ一度も攻撃してこなかったんですか?」
「ソニアで結構です。一度も攻撃しなかったわけではありませんよ。できなかった、というのが正しいです」
「えっと、じゃあソニアさんで。そのできなかったというのはどういう意味ですか?」
「何度か攻撃に転じるタイミングはありました。ですが、そんな事をすれば恐らく貴方はカウンターになり得る技を放ってくるでしょう。そうなれば流石に避けきれる自信がありませんでしたので」
とかいいながら避けるんでしょう?身のこなしが常人のものではなかったしな……。文学少女のようにみえて実はめちゃくちゃ強いってギャップが凄い。
正直あれだけ動けるのなら多分攻撃に転じてもなんら問題はなかったんじゃなかろうか。
「あなたは面白いですね」
「面白い?」
ソニアさんが笑みを浮かべず真顔でまた変なことを言い出した。
「様々な技を次々に繰り出し相手の意表を突く戦い方です。簡単そうに見えてかなり訓練したのではないですか?」
「まあそこそこ頑張りました」
「あなたに興味が湧きました。これからもよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げ、スタスタとまた訓練場の隅へと移動するソニアさん。相変わらずの動きに苦笑が漏れた。
「リバル君、引き分けだったけど凄い見応えがあったわよ。まさかソニア殿下にあそこまで言わせるなんて、君もなかなかの実力者ね」
「いや……一回も当てられませんでしたよ。ソニアさんの動きは捉えているはずなのになぜか空を切ってました」
「でも攻撃しようと思えないくらいの腕はあるということじゃない。多分他の生徒なら最初の攻撃で避けられてそのまま反撃されて終わりじゃないかしら」
それはどうだろうか。案外反撃がなかったかもしれないけどな。
「リバル、やはりその剣の腕は天性のものだな」
エリクも感心しているらしく、こころなしか表情が柔らかい。いつもはキリッとしてるしあまり笑わないと有名だそうだし、見ている生徒もみんな驚いていた。
「天性、なのかな。それならソニアさんの方が才能あるんじゃない?」
「それはそうだろう。彼女は学年一位なのだからな」
「え?」
学年一位?初耳だよそれ。二年生で一番強いってことだろ。なんか納得してしまったな。あれだけ動いてまだまだ余力を残しているほどだ。やろうと思えば多分僕を負かせることだってできたはず。花を持たせてくれたのかもしれない。
「学年一位である彼女にあそこまで食らいつけたのはリバルくらいだ。一応次点の成績を持つ俺でもあれだけ長くは戦えなかった。最終的にバテたところで首元に刃を当てられて負けた」
エリクが完全に敗北した相手か。そりゃあ強いわけだ。猛攻を加えたはずなのに手応えが何一つなかったのも納得した。
「ソニアさんって前からあんなに強かったの?」
「まあそうだな……一年の頃から不動の一位だ」
これは本物だわ。ソニアさんこそ天才というべき逸材だ。僕もちょっと天狗になってたからちょうど良かったかも。
にしても学年二位と一位で差が開きすぎじゃない?エリクは確かに強かった。でも僕が余裕を持って勝てた。ソニアさんにいたっては勝てるビジョンが浮かばなかったんだから。
「さあ、二人の模擬戦も終わったから次は私ね。リバル君、準備してくれる?」
「え、あ、そうだった……」
唐突にアメリアさんからそう言われ、三番目に模擬戦を行うって言われていたことを思い出した。既に学年一位二位と戦ったんだからもう良くないかな?というかそれを理由に辞退しようかな。
「あのー実はさっきの連戦で疲労が溜まって——」
ブォン!
アメリアさんが無言で剣を振るう。ただ振っただけ。でもなぜか強烈な圧を感じた。
「何か言った?」
「……いえ、何でもありません」
有無を言わさぬ圧に僕は仕方なく構えを取った。さっきまで話していたエリクも距離を取っている。
嫌だなぁ……アメリアさんって六聖だし、絶対勝てないよ。そもそも同学年の一位に勝てないんだから帝国最強に座するアメリアさんに勝てるわけがないんだから。
やる気が出ず、渋々剣を抜いて正眼に構えると、アメリアさんが口を開いた。
「ちょっと私も本気でやっていい?」
「いやそれは困るんですが」
「でもさっきの二人とは本気でやってたじゃない」
「それはそうですが」
「じゃあいいよね私も本気でやっても」
駄目だわ。何言っても無駄そう。アメリアさん全然話聞いてくれないし。
とにかく死なないようにだけ気をつけよう。レオリックスさんの時もそうだったが、当たりどころが悪ければワンチャン死んでた可能性がある。今回は魔法使いの人もいないし、大出血なんてしようもんなら、本当に死にかねない。
なんとなくアメリアさんは手加減が下手そうだ。こっちから仕掛けずに防御かカウンターに徹した方がいい気がする。
「審判は、先生お願いします」
「光栄です!まさかこの歳になって六聖の模擬戦の審判を務められるとはッ!」
筋骨隆々な先生は感無量といった雰囲気で、目が潤んでいた。六聖って思ってるより憧れの的なんだなぁ。
「どっちから攻める?リバル君が先でもいいですよ」
「いえ、先手はアメリアさんに譲ります」
「そう?遠慮しなくていいのに」
遠慮じゃないんだよなこれが。アメリアさんの得意な流派が分からない以上、下手にこっちから仕掛けられないんだよ。
模倣剣術の弱点ってやつかな。相手の出方を知っていないと本領を発揮できない。
「あ、最初に伝えておくけれど私あまり手加減が得意じゃなくて……もし怪我をすることがあっても安心してね。私が介抱するから」
「……最大限対抗できるように善処します」
最後の言葉が不穏すぎる。この人に連れて行かれたら僕は何をされるか分かったもんではない。目がギラついてるし、絶対碌なこと考えてないよ。
美人なだけに勿体ない……。
「では先生、合図をお願いします」
「はっ!」
先生……軍人みたいな返事になってるの自覚ないんだろうな。ムキムキで怒ったら怖そうな見た目なのに今は命令に忠実な番犬みたいな雰囲気だ。
「では……始め!」
先生の合図と共にアメリアさんの姿が掻き消えた。
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