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24話 皇族に気に入られて

「始め!」


アメリアさんの声が開始の合図を告げる。

エリクは帝国流、僕は模倣剣術。見慣れない構えを取っているからかエリクは迂闊に攻めてこれないようだ。


「先手は譲るよ」

「その構えは見たことがないぞ……」

「まあこれが本来の構えってわけじゃないけど、ヒントは雨天流かな」

技名に雨の文字が入る雨天流は攻守優れた流派だ。水が流れるように剣を振り、踊るように躱す。初めて雨天流を見たときはなかなか心が躍ったものだ。



「ならば俺からいかせてもらうぞリバル!アストラ帝国流・乱撃!」

聞いたこともない技だ。ただなんとなく技名から察するに連続攻撃に思える。それならこの技で迎え撃つ!


「雨天流・連雨!」

お互いに連続斬りの技を放つと、まるでエリクとダンスを踊っているかのような感覚に陥る。どちらも決定打はなし。連撃回数も同じだったのだろう。



「なるほど……乱撃に合わせてきたか。それならこれはどうだ。アストラ帝国流・閃撃!」

これは知っているぞ。帝国流剣術の中でも速さに特化した一撃必殺の技だ。だが似たような技なら僕だって使える。


「雨天流・篠突く(しのつく)雨!」

激しく上から打ち下ろす剣技でエリクの技を弾いた。

まだ雨天流はそれほど多数の技を扱えるわけではないが、数個程度なら習得している。


エリクは悔しそうに口を歪める。まさか一撃必殺すらをも弾かれるとは思っていなかったのだろう。


「閃撃は知っているんだ。だから合わせやすい。ちなみに帝国流全てを知っているわけではないけど、僕の中で帝国流は一番対策が取れているんだ」

「模倣剣術……ここまでの難敵になるとはな。だが俺はまだ諦めてはいないぞ!アストラ帝国流・強撃!」

ここに来て力技で来たか。僕の細腕では同威力の強撃を放てない。だから僕は改良した。己の身体に合うように。


「アストラ帝国流・強撃……嵐!」

強撃よりも劣る斬撃を何度も同じ箇所へと放つ。やがてエリクの技をも上回る威力を生み出し、エリクは後方へと退いた。


「それが模倣剣術の本領か。真似するだけでなく昇華させるとは、やはりリバル、お前は面白いな!」

「それはどーも!」

軽口を叩きながらお互い譲らない攻防。ああ、楽しい。同世代でこれだけ互角に打ち合える相手がいるというだけで嬉しく感じられる。


数十もの剣戟を繰り広げ、いよいよお互いに決めにかかるつもりだ。距離を取り剣を構え相手を見据える。


「まさか模擬戦がここまで白熱するとは思わなかったぞ」

「僕もだよ。村ではこれでも一番強かったからさ」

「そうか。一応俺はこれでも学年二位なのだがな……村で最強とはわけが違うんだが、まあいい。これで終わらせる」

エリクから放たれる殺気は本物だ。次の一撃は確実に切り札を使ってくる。それなら僕もオリジナルでいくしかないか。


「アストラ帝国流・彗星!」

「東方次元流・風切……落葉!」

 

エリクの技は見たことがなかったが、技の速さでいえば僕が上回る。狙う場所は手元だ。目にも留まらぬ速さで繰り出した斬撃はエリクの手元、柄に当たると剣は後方へと吹っ飛んだ。


まさか技を出す前に剣を手放すことになるとは思ってもいなかったのかエリクは呆然とした表情で自分の手を見ていた。


「ぐっ……技を出すこともできぬ、か。俺の負けだリバル」

「危なかったよ。その技って帝国流ではかなり上級の技だろ?当たればやばそうなのはヒシヒシと感じたよ」

「だがその技を出す前に封じるとは。やはりその目と動きは常人のソレではないな」


エリクが剣を拾い鞘に戻すのを見て僕も剣を仕舞う。


「勝負あり!勝者リバル!」

アメリアさんの号令で僕らは礼をする。剣士たるもの礼儀は必修科目だからな。お互い相手を尊重し合うのが騎士だ。


「学年二位に勝てるなんてね。リバル君、やっぱり君私と一緒にこない?」

「アメリアさん……僕は学園に入学する事を選んだんですよ?あの人の誘いも断って。なのにアメリアさんに付いていくことを選んだらとんでもない優柔不断男になるじゃないですか」

「いいじゃない。文句を言うやつはボコボコにしてやればいいのよ」

無茶苦茶言ってるよこの人。というかまだ諦めてなかったんだ。レオリックスさんは卒業後に、って話をしてきたのに、この人は……。


「リバル、次は私です」

エリクとの模擬戦が終わるとすぐにソニアさんが近寄ってきた。手には愛剣と思わしき細身の剣。やる気は十分なのか目がギラギラしている。


「あ、ソニア殿下。お待たせしました、では互いに距離を取ってください」

唐突なアメリアさんの敬語。確定じゃんね、ソニアさんが王族なのは。殿下とか言っちゃってるし。もしかしたら違うかも?みたいな淡い希望は消えてなくなったよ。


というか僕に休む隙はないのかな?


あれよあれよと言う間にソニアさんとの模擬戦が始まった。お互いに向かい合わせになり距離を取る。


「では……始め!」


アメリアさんの号令があってもソニアさんは動く気配がなかった。先手を譲ろうとしてくれているのか?


「リバル、先どうぞ」

「え?いや、でもいいですよ。お先にどうぞ」

「いい。私は君の技を見たいから」

それは僕もなんだけど。ソニアさんって他国の王女様だろ。ってことは僕の知らない剣技があるかもしれない。だから見せて欲しかったんだけどなぁ。


「さあどうぞ」

「じ、じゃあ……いきます」

若干気を遣いながら剣を構え駆け出すと、ソニアさんは微動だにしない。なにその不動の精神。ちょっと怖いんだけど。


「ハァッ!」

わざとらしく気合を入れて剣を振ると本当に最小限の動きだけで、僕の剣を躱した。


「今のは……?」

「それで終わりですか?私はまだ技を見せてもらっていませんよ」

「ま、まだまだ!」

何度も剣を振るうが一度もソニアさんの身体に触れることができなかった。独特な足運びで剣を躱すその様はまるで優雅な踊りを見ているようだ。


「くそ……当たらない」

「その程度ですか?リバル、本気を出して」

「まあまあ本気なんですけど……」

割と本気で剣を振ってるんだけど当たらないんだよ。徐々に気を遣うのも忘れてきたくらいだ。というか気を遣いながら剣を振っていたのがバレてる?


「本気で来てください」

「ッ!分かりました。どうなっても知りませんよ?」

「どうにかできるのならして欲しいです」

売り言葉に買い言葉。僕はソニアさんと数歩距離を取り剣を構え直した。流石にそこまで言われたら全力でいくしかない。


「アストラ帝国流・強撃……嵐!」

エリクの技を凌いだ剣技を放つと、ソニアさんはまた最低限の動きで全てを躱していく。全てが紙一重だ。同じ事をしろと言われてもできる気がしない。


「当たらないッ!?」

「避けていますから」

ソニアさんは涼しい表情だ。汗一つかいていない。王族ってこんなに強いのか?エリクといいソニアさんといい強すぎるだろ。それともなにか特別な訓練を受けているのだろうか。



「もう終わりですか?」

「まさかここまで避けることに徹するとは思いませんでした。まだ終わりじゃありませんよ」

「ではどうぞ」

また涼しい表情で手招きする。くっそ、こうなったら速さ特化の技で確実に当てるしかない。もしそれも避けられたら……いや、考えないようにしよう。



剣先を地面に向けて士郎さんのような構えを取ると、ソニアさんの眉が微かに動いた。流石にこれは澄ました顔で避けることはできないはず。


「東方次元流・風切……落葉!」

神速の刃をソニアさんの首目掛けて放つ。絶死の一撃だ。もちろん殺す気などさらさらないが、全力で剣を振るう。でなければ当たる気がしない。


そんな僕の思いなんて露知らず、ソニアさんの身体がブレた。いや、分身なのか?


「黒神流・転身」


ソニアさんのその言葉だけが聞こえ、僕の振るった剣は空を切った。

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