22話 六聖に目をつけられて
アメリアさんが自己紹介した瞬間黄色い歓声が訓練場に響き渡った。少し野太い声も響いている。
「おい……まじかあれ」
「アメリア様が臨時講師ってどういうことなの?」
「すげぇ!俺この学園に入学してよかった!」
「六聖の方が臨時講師をやるなんて初めてじゃない?」
所々聞き取れた会話から察するにアメリアさんのような六聖と言われる騎士の頂点に座する人が講師をやるのは初の試みらしい。いやなんで?ちょっとこっち見て微笑んでくるのやめて。
「アメリア様が臨時講師に来られるなんて凄いことよ!」
「そ、そんなに凄いんだ」
「そうよ!そもそも六聖であるレオリックス様が試験監督を務めてくれた事も異例中の異例なのよ?それに加えてアメリア様が臨時できてくれるなんて!」
ミーシャの興奮が止まらない。いや、ミーシャだけじゃなかった。リナも目を輝かせているしシンクも澄ました顔をしながら鼻息が荒い。
「この中からもしかすると六聖に至る騎士が生まれるかもしれません。先生、今日は私が仕切ってもよろしいでしょうか?」
「ええもちろんです。全員、アメリア先生が指導してくれるなど誉れだと思え!」
先生とアメリアさんの立場逆転してるよ。えー僕はあの筋骨隆々な先生に教えてもらいたかったのにな。
「ではまずペアを作ってください。誰でも構いませんよ」
きたきた、ミーシャが言ってたパターンだな。ま、僕はペアが決まってるから気楽でいいや。と思っていたらエリクがこちらへと歩いてきた。
「リバル、ペアを組もうではないか」
「え?」
「さっき教室で言っただろう?またあの技を見せて欲しい」
「ああー残念だけど、もうペアが決まっててさ……」
「なに?そうなのか?」
「そうそう、そこのミーシャと——」
「構いませんわエリク殿下!アタシは後からでもリバルと手合わせしますので是非お先に」
ミーシャが二倍ぐらいの声量で僕の言葉を遮った。それと同時に肘打ちを食らわされた。
「でも先に約束してたじゃん」
「バカねあんたは。エリク殿下とアタシじゃ格が違うのよ!気づけアホ!」
散々な言われよう。やっぱ忖度しちゃうもんなのかな。
「む、セレンシア嬢と先に約束していたのか。それは申し訳ない事をした」
「いいえ、殿下が先にリバルとやってもらって構いませんわ。アタシは他にペアを組む者がおりますので」
「しかしだな……」
どちらも譲らない。ぶっちゃけ先にやる方がどっちでもいいけども。
しばらくミーシャとエリクが譲り合いをしていると新たな人物が歩み寄ってきた。そう、訓練場の端で寂しそうにしていたソニアさんである。
「私もリバルと手合わせ願いたいのですが」
「ソ、ソニア様……え、ええもちろんですわ。あ、リナ!あっちでやりましょ!」
ソニアさんが来たことによりミーシャは慌ててリナの手を引っ張るとそのまま離れていった。シンクは?あ、もういつの間にかいなくなってる。
「ソニア、先にやるのは俺だ。後から来たなら二番目にリバルとやるといい」
「先に教室で約束していたのですが。エリクさん、ここはレディファーストという言葉を思い出して頂けると幸いです」
「むむ……しかしだな、それで言えば俺の方が先に声を掛けていたのではないか?そちらは教室で、俺は朝の時点で声を掛けていた」
もうどっちでもいいから早く決めてくれないかな。今も凄い注目浴びちゃってるから。
「あ、リバル君はこっちにきて頂戴ね。私と模擬戦をしましょう」
「え!?」
僕がソニアさんとエリクに挟まれて右往左往していると、唐突にアメリアさんから声が掛かった。そのせいで更に注目度が増す。
名前を呼ばれた以上無視することはできないじゃないか。仕方なく他の生徒の視線を浴びながら前まで行くとアメリアさんはにっこりと微笑んだ。
「さぁ、レオリックスと戦った時のように本気で挑んで欲しいわね。あ、もちろん私は本気でやらないから大丈夫よ。あの馬鹿とは違うから」
「あっちょっと……その事は秘密だったんですけど」
「あっ」
アメリアさん……レオリックスさんが試験監督を務めてくれたのは秘密だったのに……。こんなに沢山生徒がいる中で言っちゃったよ。やべ、みたいな顔してるけどもう遅いわ。
「えっとーレオ、そう!レオね!いけない!間違えちゃった」
「無理があるでしょう」
なんとかアメリアさんは誤魔化そうとしてるけどみんなしっかり聞いてしまったんだから今更無理だけど。
「レオリックス様……?」
「今言ったよな?」
「アイツ平民なんだろ?なんでレオリックス様と戦ったとか言われてんだ?」
「……怪しくない?あの平民」
ほらー、聞き耳立てたら色々言われちゃってるよ。アメリアさんほんと厄介な事しかしないな。
「さ!みんなバラけて!ペアになった人と模擬戦闘初めて頂戴!」
アメリアさんが手を叩くと名残惜しそうにみんな散り散りになっていく。勢いでなんとかなるもんじゃないんだぞ。これ後から質問攻めされるんだろうな。面倒くさいな……。
「ごめんなさいね。あの試験の事、あまり詳しく聞いてなかったから」
顔の前で両手を合わせてごめんって言われたけど、呆れるしかなかった。何のために生徒会長が秘密裏にやったと思ってんだ。
「と、とにかくやりましょう!まずはリバル君から来てもらえる?」
「分かりました」
ここでぶつくさ文句を垂れても仕方ない。今は切り替えてアメリアさんとの模擬戦に集中するか。
「ちょっと待ってもらえますか?」
ここで現るエリク。模擬戦を邪魔する形で僕とアメリアさんの間に立った。
「アメリア殿、先に約束していたのはこの俺です。後にしてもらえませんか?」
「あら、エリク殿下。……確かに先に約束があったのであれば仕方ありませんね。それでは私は二番目に——」
「いえ、私も予約していました。アメリア殿は三番目です」
エリクだけでなくソニアさんまで混ざってきた。流石に六聖の一人といえども王族二人を前にしてタジタジである。いいぞもっとやれ。
「ぐっ……ソニア王女殿下まで……。仕方ありません、私は三番目——」
「いや、よく考えればセレンシア嬢とも約束をしていたのだったかリバル。アメリア殿は四番目になりますね」
突如名前を挙げられたせいで少し離れた所に逃げていたミーシャの肩が跳ねた。てか今王女殿下って言ったな?聞き逃さなかったぞ。
「アタシは後でも構いませんのでお先にどうぞ……」
「あらそう?じゃあ私は三番目ね」
逃げたなミーシャ。というかこれ僕の意見なんにも聞き入れてもらえてないけど。僕と模擬戦するのは決定事項らしい。
「ではやろうかリバル」
「この状況でやるのかぁ……全然落ち着かないんだけど」
「ふっ、そう言うな。注目を浴びるというのはそれほど悪いものではないぞ」
そりゃあ王族だから慣れてるんでしょうね。僕は平民だから慣れてないんだよ。
他の生徒と距離を取り僕とエリクは剣を構えた。みんなもペアを組んでるならさっさと模擬戦始めればいいのに僕とエリクの戦いを見守るつもりらしい。
先生も何も言わないし、やりにくいったらありゃしない。そもそもエリクが皇子だからかめちゃくちゃ見られてるんだけど。
エリクは注目を浴びる事になんとも思わないようだ。僕はというと若干手が震えてる。戦いが始まれば意識は戦闘に移るから大丈夫だろうけど。
「さて、朝のリベンジといこうか。既にあの技は見たからな、今度はこっちから攻めさせてもらうぞリバル」
「どうぞどうぞ。僕もエリクの技を見てみたかったんだ」
朝は一瞬で片が付いてしまったからね。今度はエリクの技を凌げるか試したいところだ。
エリクの構えは帝国流のものだ。最初に繰り出される技はだいたい予想がつく。カウンター技は知らないから躱すか受けるか悩ましいところだな。
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