21話 友達になりまして
エリクが皇子様?……一体何の冗談だろうね。
「どうしたリバル。固まってるぞ」
エリクに肩を揺すられハッと我に返った僕は、それはもう凄い速さで土下座を敢行した。
「も、申し訳ございませんでした!!お、皇子様とは知らず……失礼な口の利き方を……」
僕、終わったな。この国の皇子に対してなんという口の利き方をしてしまったのか。それも平民が馴れ馴れしい態度で接していたなど死罪に値するだろう。
絶望しているとエリクが口を開いた。
「なんだ、俺たちは友達になれたかと思ったが。違ったのか?」
「い、いえ……流石に僕も自分の立場を弁えています」
「あれだけ親しく話しかけてくれたのはリバルだけだったのだがな……」
なんとも寂しそうな声で落胆した様子のエリク。どっちが正解なのか分からなくなってきた。ここはやはり今まで通りに接した方がいいのか、それとも立場を弁えた接し方の方がいいのか。
「リバル、俺は言ったぞ。この俺が、皇子である俺が普通でいいと。他に誰が口を挟む奴がいるというのだ」
「……」
「ふむ、俺とお前の仲だ。手合わせまでしたではないか。それも圧倒的な力を見せてくれた。俺を相手に忖度しない本気の一撃……あれは素晴らしかった。丁度これから模擬戦闘授業がある。そこでもう一度あの技を見せて欲しい」
「も、もちろんです。殿下が望まれるのでしたらいくらでも」
「リバル、お前は俺が皇子である事を知らなかった。故にあれほど気さくな態度で接してくれた。違わないか?」
「左様でございます」
「ならばこれはお願いだ。今まで通りの態度でいてくれないか?俺はお前の実力を高く買っている。この学園のモットーを忘れたか?」
「……実力至上主義、です」
「そうだ。力さえあれば権力などあとからいくらでも手に入る。有象無象がとやかく言おうがねじ伏せてしまえばよいのだ。皇子であるが故にへりくだる必要はない」
いいのか?本当にいいのか?今まで通りの口の利き方で許されるだろうか。いや、エリクは許してくれるというよりも親しい態度でいることを望んでいる。
ただ、周りがなんと言うか……正直それが恐ろしい。
皇子に対して無礼だ!なんてブチギレられた日にはもう僕は山に籠もってしまう自信がある。
覚悟を決めて立ち上がると、僕はエリクの手を取った。
「わ、分かった。エリクがそれでいいのなら僕も今まで通りに接するよ」
「ッ!そうか!改めてよろしく頼む」
「こちらこそ」
内心ドッキドキしてるけどな。今も周りで数人こっちを凝視してるし。一部の者は口をあんぐりと開けて驚いた表情で固まっている。
エリクは満面の笑みを浮かべていた。多分今まで僕みたいな馴れ馴れしく接してくれる人がいなかったんだろうな。なんか察したよ色々と。寂しかったんだろうね。
「では俺は先に行く。そこにいるのは友人だろう?彼らと共に来るといい。遅れるなよリバル」
ってそこは一緒に行くんじゃないのかよ。今の流れめちゃくちゃ一緒に行く感じだったのに。
エリクが教室を出たあとミーシャが特大のため息をついていた。
「ハァ〜ビックリしたわよもう……」
「え?なにが?」
「アンタ、エリク殿下に凄く気に入られてるじゃない。何があったってのよ」
「いや、言ったじゃないか。朝早くに——」
「そんなんであれほど仲良くなれる意味が分からない!」
そう言われましても。なんか数回言葉を交わした後には、気づけば僕もタメ口で話してたよ。
「すごいねリバル君!エリク殿下って気難しい人で有名なのに!あんな笑顔初めて見た!」
「私もエリク殿下が笑っている所を初めて目にしましたよ。どんな裏技を使ったのですか?」
リナさんとシンクさんまで詰め寄ってくる。裏技なんてないしただ偶然朝出会っただけなんだけど。
「まあ気が合った、のかもしれないですね」
「あ、リバル君。ワタシたちにも敬語はいらないよ!だって同い年でしょ?」
「私は敬語を使いますがお気になさらず。これは性分みたいなものですから。貴方からは敬称も必要ありません」
「えっと、じゃあリナとシンクって呼んでも大丈夫かな?」
二人は頷く。案外平民だからといって疎まれるようなことはないのかな。二人が特別なのかもしれないけど。
「さっさと行きましょ。模擬戦闘授業は第二訓練場でやるから少し遠いのよ」
「あ、そうなんだ。場所も全然分からないからみんながいて助かったよ」
エリクだって一人でさっさと行ってしまったしな。なんか説明的な部分が抜けてるんだよなぁこの学園。
途中から入学するやつは珍しいって聞いたから多分みんなも慣れてないのかな。初心者に優しくないというかなんというか。
第二訓練場へと足を運ぶと既に八割方の生徒が集まっていた。先生はまだ来てないようで各々仲の良い面子と固まって雑談を交わしている。
「いつも模擬戦闘ってどんな事をしてんの?」
「そうねぇ、大抵は適当にペアを組んで手合わせする感じね。たまに試合形式でやる事もあるけど多分今日は手合わせ形式だと思うわ」
「そうなのか?それって僕がいるから?」
「恐らくね。だって試合形式と言われてもルールが分からないでしょリバル」
それはそう。僕は頷くしかなかった。というか試合形式なんてあるって事を初めて知ったくらいだよ。
「模擬戦闘授業は誰とでもペアを組んでいいんだよ!だから多分リバル君の所には人が殺到すると思うなぁ」
「え?それは勘弁して欲しいな……」
リナの言うように僕と手合わせをしようと考えている人は多そうだ。現に今も離れた場所からチラチラとこっちを見てくる人がいる。
「じゃあ最初はアタシとやりましょ!その次にリナ、シンクでいいんじゃない?」
「まあそれなら……」
見知った顔ぶれと肩慣らしって感じだな。とはいえあまり油断はできないだろうけど。
聞けばミーシャは学年でも上位の成績をおさめてるらしいし、リナとシンクも恐らく上位の面子だろう。
ちなみにエリクは取り巻き数人と一緒に無言で剣を振っていた。なんか……寂しい絵面だな。取り巻きが話しかけることも無くただエリクが剣を振る様を黙って見ているだけだ。
訓練場の中でも一番端っこにはソニアさんがいた。剣を片手に無表情で佇むその様は近づき難い雰囲気を放っている。あ、目があった。
一度目が合うとチラチラ見てくる。ちょっと可愛いけど僕も王族と思わしき人とお近づきにはなりたくないからなぁ。
ソニアさんは友達がいないのかな。誰一人として彼女に近づく人がいないね。だからか知らないけど目が合ったからといって凝視してくるのはやめて欲しい。
「あの……ミーシャ。ソニアさんって王族?」
「ええそうよ。他国の王女様ね」
「やっぱり……」
「なんかずっとリバルを見てない?アンタなんかした?」
「してないよ。もしかしてあれかな……王族だと気付かなかったからムカついてんのかな」
「そんなしょうもない理由でキレるわけないじゃないの。多分あれは……気に入られたんじゃない?ソニアさんってちょっと個性的な所があるから友達がいないのよ。アンタ友達になってあげれば?」
ミーシャ、そんなハッキリと言わなくても。聞こえてないと思うけど心臓が跳ねたじゃないか。
あとそんな簡単に友達になってやれなんて言わないで。
ソニアさんはとりあえず一旦置いておいて、足を伸ばしたりストレッチをやっていると先生と思わしき人が訓練場へとやってきた。その横には見覚えのある女性を引き連れて。
「全員集まれー!」
筋骨隆々な先生が叫ぶとみな一斉に一箇所へ集まってくる。僕もミーシャ達と一緒に集合する。
ただ全員がガヤガヤと騒がしく。静まる気配はなかった。原因は明らかに先生が連れている女性だろう。
「今日から臨時講師が来てくれる事となった!では、自己紹介をお願いします」
「初めまして。アメリア・エメラルドです。本日より臨時講師を務めることになりました。よろしくねみんな」
何やってんだアメリアさん……。六聖って暇なのかな。
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