20話 一級クラスに所属して
教材を貰ったあとレウス先生と雑談を交わす。
魔法を学べるのはありがたいが正直に言って僕に魔法の才能はないと思う。しかし、英雄伝説に語られる騎士は剣も魔法も自在に使いこなした万能な人だったと言われている。
だから才能がなくとも魔法を学べる機会があるのはありがたい話だ。ただし、劣等生の烙印を押される可能性は高い。剣も魔法も学ぶということはそのどちらも評価基準があるということ。
魔法の才がない僕はどう足掻いても魔法の授業では最低点を叩き出すだろう。
「お、そろそろ時間だな。じゃあ行こうか」
雑談もほどほどにレウス先生に付いて自分の教室へと向かう。
「じゃあまず私が入るから後に続いてくれるかな?」
「分かりました」
めっちゃ緊張してきた……。こういう行事というかイベントは初めての体験だしな。
教室の扉が開くとさっきまで騒がしかったのにシンと静まり返る。どうせなら騒がしいままでいて欲しかった。
「今日は新しい仲間が来たから紹介する。さあどうぞ」
レウス先生の合図と共に教室へと足を踏み入れた。
視界に入るのは三十人近い人の視線だった。
「は、初めまして。今日からこの学園に通うことになりました、リバルと申します。よろしくお願いします」
多分全員が貴族の家系だ。丁寧すぎて困ることはないだろう。僕は腰をしっかり曲げて頭を下げる。数秒の間を作りゆっくりと頭を上げると、一人知っている顔を見つけた。
朝手合わせしたばかりのエリクだ。知っている人がいるだけでこんなにも心が軽くなるなんて。
でも名前を名乗ると少し教室内がざわついた。平民じゃね?みたいな空気感だ。気まずいなぁ……。
「リバル君は平民だが剣の腕を買われてこのクラスに入ることとなった。異例中の異例だが、学園長の推薦でもある。疑う者はあとで手合わせしてみるといい。まあ私も気になっているんだけどね」
レウスさんはニコッと微笑みかけてくる。輪に入りやすくしてあげたよ!みたいな雰囲気出してるけど、手合わせさせられんのか今から!?
「席は……ああ、ソニアさんの横が空いてるな。じゃああそこに行ってくれるかい?」
レウスさんの指差す方を見るとついさっき職員室まで案内してくれた少女がいた。ソニアって名前なのか。てかまさかの隣の席になるとは。
席につくとソニアさんは顔を僕の方に向けてジッと見つめてきた。
「あ、さっきはどうもありがとうございました」
「……」
無言を返された。案内してくれてる時はちょこちょこ話してくれてたのに。しかも眉をへの字に曲げてちょっと残念そうな表情を浮かべている。ええ……?これどんな反応なんだ?機嫌が悪い、とかかな。
「……名前がバレました」
どうやらさっき秘密にしていたのに早速名前が知られてしまった事が残念だったらしい。ホッとした。うわっ平民が横にきた、なんて感情を剥き出しにされたのかと思って焦ったよ。
「ソニアさん、って呼べばいいですか?」
「別にさん付けしなくてもいいです。その敬語もいらない」
「いや流石に……」
初対面の方にタメ口きけるほど僕は神経が図太くない。そもそもこのクラスにいる人はみな貴族令息、令嬢なのだから。
「私が構わないと言ってます。他に誰かの許可が必要ですか?」
「いや、まあその……えっと」
なんか似たような台詞どっかで聞いたな……。あ、そうだ。エリクも同じような事を言っていたっけ。
「私が王族だから気にしているのですか?別に礼儀知らずだと言って怒るような真似はしません」
「礼儀……って王族!?」
「まさか知ら、ない……?いえ、言い間違えました」
いやいや、言い逃れはできないだろ。ハッキリと王族って聞こえたぞ。あ、もしかして!僕が名前を知ってしまったから王族だと分かってしまいタメ口は躊躇ったのだと勘違いしたのではないだろうか。
平民の、それも辺境の村出身である僕が名前を聞いただけで王族かどうかなんて判断できるわけがない。
「ソニアさん……いえ、ソニア様は王族なのでしょうか?」
「聞き間違いでしょう。だからその敬称は必要ありません」
「いやいや、そういう訳にいきませんよ。ただ、あまり丁寧語は得意じゃありませんので多少は目をつぶっていただけると助かります」
「タメ口で話せばよろしいのでは?」
「いえ。だからですね……平民が王族の方にタメ口で話せるわけがないでしょう?」
「私が王族とは限りませんよ」
あー!イライラするぅ!なんていうか話が噛み合わない!王族ってみんなこんななのか?こんな、何ていうと無礼がすぎるけど。
「じゃあまずは二学年に上がった君たちに最初の課題を出そうか。リバル君は今日からだから一年生の時にも説明した内容をもう一度おさらいしておこう」
ソニアさんとコソコソ話をしていると、レウス先生の口から僕の名前が出てきてドキッとした。説明ね、説明。ちゃんと聞いておかないとダメなやつだ。
「まずこの学園では順位がある。定期的に行われる模擬戦闘授業、の成績で順位付けが行われるんだ。このクラスは一級だから基本的に上位の順位にはなるんだけどね。ちなみに各学年上位者数名は剣舞祭への出場権が与えられる。ほとんどの生徒はこの剣舞祭に出ることが目標みたいなところがあるかな。今日は二学年最初の模擬戦闘授業があるから全員頑張ってな!」
順位か。同世代の人達と技を競い合うなら最高のシステムだな。英雄伝説に語られるような騎士を目指すなら最低限剣舞祭に出られるくらいの実力はいるってことだ。
「じゃあー全員外に出ようか!」
レウス先生がそう言うと各々生徒たちは着の身着のまま教室から出ていく。僕も誰かについて行くしかないな。
どうしようかな……とりあえず隣のソニア様についていくか?いやでもなぁ、王族の可能性が高いし失礼があったらまずいしなぁ。
そうこうしてる間に教室からは続々と人が減っていく。いや、ここはエリクに付いていくのが正解か。
「なにゆっくりしてんのよリバル」
「え?」
不意に背後から掛けられた声に驚いて振り向くと、ミーシャがいた。そうだった!彼女もこのクラスにいるんだったよ。忘れてた。
「助かったよミーシャ。誰についていけばいいかなって悩んでたんだ」
「別に誰について行っても行くところは一緒よ?まあ気持ちは分からなくはないけど」
完全にアウェーにいる人の気持ちがわかってたまるもんか。周りはみな家柄のいい人達ばかりなんだから。
多分僕だけだろ平民の、それも出自のよく分からない奴は。
「ワタシもいるよー!」
「私も忘れないで頂きたいですね」
「リナさんにシンクさんもお久しぶりです!」
ミーシャとチームを組んでいた人達だな。一度顔を合わせてるから気が楽だ。でも敬語は忘れないぞ。二人だって一級クラスにいるってことは貴族令息、令嬢のはずだからね。
ミーシャ達と喋っているともう一人僕の見知ったやつが微笑みながら近づいてきた。
「リバル、まさか同じクラスだと思わなかったぞ」
「あ!エリク!朝ぶりだね」
「ああ。お前の実力ならば一級クラスに入れるのではないかと思ってはいたが本当にいるとは」
「僕もエリクだったら一級クラスにいるんじゃないかと思ってたよ。よかったー知らない人ばかりだと心細いとこだった」
知ってる人が四人もいると……凄く心が軽くなった。それにしてもみんなそそくさと外に出ていったがよほど僕には興味がないらしい。自慢じゃないけどクラス唯一の平民だったら何かと難癖つけてくる人くらいいるかと思ってたんだけどな。
「ん?ミーシャなんでそんな顔してんの?」
「あ、アンタ……」
「なに?」
「その、お知り合い、なのかしら?」
「お知り合いってなに?ああ、エリクの事?実はさ朝早く目が覚めて寮の庭で素振りしてたらエリクがやってきてさ。そこでちょっと手合わせしたんだよ」
「て、手合わせ……」
なんだかミーシャの歯切れが悪いな。もしかしてエリクとは敵対派閥だったりするのかな?
「ふむ、リバルには貴族だと伝えていたな。あれは嘘だ」
「ええ!?貴族じゃないってこと?じゃあ僕と同じ平民!?」
「いや、違う」
貴族でもなく平民でもない?あと何かあったっけ?
よく見るとリナさんとシンクさんの顔も引き攣っていた。
「リ、リバル君……この方は、いえ、殿下はこの国の皇子様だよ!」
「お?」
「リバル、改めて自己紹介しておこう。エリク・アストラ、この国の第一皇子だ。よろしく頼む」
僕は頭の中が真っ白になった。
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