19話 謎の少女に案内されて
瞬きすら許さぬ音速の斬撃。士郎さん曰く初見で躱すことはほぼ不可能だという。実際にエリクは反応すらできていなかった。
「勝ち、でいいかな」
「な、何が起きたのだ……」
未だ目を見開いたまま首筋に当たる木剣を凝視していた。エリクは剣を抜いて正眼に構えていたが、身動き一つ取れなかったようだ。
「今のはまさか、高峰先輩の技、か?」
「そうだよ。まあそれを自分なりに改良したやつだけど」
「見えなかったぞ……」
「分かるそれ。僕も初見では躱しきれなかったから」
エリクは愕然とした表情を浮かべた。僕も失言したかもと苦笑いを浮かべる。躱しきれなかったと言ってしまったのだ。エリクは躱すどころか反応すらできなかったのに、だ。
「そうか、お前は今の斬撃を躱したのだな?」
「ま、まあ掠ったけど」
「……俺には何も見えなかった。リバル、少しでも実力を疑ってしまったことを謝罪する」
エリクは神妙な顔つきで頭を下げた。別に謝られる事はなにもしていないと思うけど。どちらかといえば相手のことを配慮した発言ができなかった僕の方が謝るべきだと思う。
「模倣剣術と聞いて、まさかこれほどのものとは思っていなかったのだ。……レオリックス殿が六聖になってから模倣剣術使いを名乗る不届きものが増えたのでな。だから申し訳なかった」
「いいよ全然気にしてないから。まあでもとりあえず僕でも同学年と十分渡り合えるだけの実力があったってことが分かったから助かったよエリク」
「俺は何もできなかったがな」
「僕はずっと独学だったからさ。それに剣を握らなくなって長かったから。ここの生徒ってみんな昔から剣を学んできたんだろ?だから不安だったんだ」
世界中から優秀な者達が集まる学園だ。誰もが剣を振り続けてきたに違いない。そんな中に僕みたいな者が紛れ込んで上手くやっていけるか不安だった。手合わせだったけど、これなら同学年ともほどほどに渡り合えそうだ。
「俺はこれでも学年では二位なのだがな。その俺が反応すらできなかったのだ。リバルはもっと誇ってもいいんだぞ」
「そうはいっても上には上がいるからさ、謙虚になるってもんだよ」
「謙虚もいきすぎれば嫌味になるぞ。まあ俺は気にしないが」
エリクとの手合わせ後、僕らは木剣を元あった場所に戻した。いい機会に巡り合えたもんだ。友達ができるか怪しかったけど、エリクと仲良くなれたから入学初日にしてはいい出だしだと思う。
木剣を戻した後は共同のシャワールームに足を運ぶとお互いに汗を洗い流す。シャワーまで完備されてるなんて凄いよ。ほんと至れりつくせりだなこの学園。
シャワーを浴び終えるとエリクと別れ自室へと戻った。いい経験になったな。エリクも貴族みたいだったけど話しやすい雰囲気だったし。
朝の食事は事前に買っておいたパンをむさぼる。お昼には食堂が使えるみたいだし、楽しみだな。
登校時間がくるまで僕は部屋の中でボケっと過ごす。やることもないし、どうせなら先に教室へ行っておこうかな。いや待てよ?どこの教室に行けばいいか聞いていないじゃないか。
そうと決まれば急がねば。僕は帯剣していることを確認して寮を飛び出した。
まだ登校時間よりも早い時間のせいで他の生徒はまばらに歩いている。先生たちがいる部屋はどこだろう。
とりあえず制服を着ている人たちに付いて校舎へと入った。
校舎の中も凄いぞ。玄関口にはでっかい絵画が飾られているし、なにより床に一つたりともゴミが落ちていない。掃除も行き届いているようだ。
「すげー……」
ついポロっと独り言が漏れてしまうくらいにはきらびやかな校舎だった。
と、そんな事言ってる場合じゃなかった。まずは先生方のいる部屋を探さないと。てか聞いたほうが早いか。
「あのーすみません」
僕はすぐそばにいた女生徒に声をかけた。本を片手に歩いていたから何となく文学少女のような雰囲気がある。
「……なんでしょうか?」
明らかに不審がっている目だ。見定めるような、なんだかそんな目つきをしている。
「先生方のいる部屋ってどこでしょうか?」
「先生方のいる部屋、ですか。職員室のことでしょうか?」
あ、多分それっぽい。僕が頷くと女生徒は後ろを振り返り指を差した。
「あっちです。このまま真っ直ぐ行ったら左手側に職員室と書かれたプレートがあるので分かると思います」
「ありがとうございます!」
「待って」
では早速、と礼をした後職員室に向かおうとするとその女生徒から待ったの声がかかった。
「その制服、二学年ですよね?私も同じ学年ですが貴方の事を見た覚えがありません」
「あ、怪しい人ではないですよ!僕今日からこの学園に通うことになりまして」
「今日から……?」
女生徒は少し考える素振りを見せたあと、アッと小さく声を上げた。
「もしかして……噂の新入生ですか?」
「その噂の人物かは分かりませんけど一応新入生、です」
「なるほど……」
また少し考える素振りを見せると、僕の手を取った。
「職員室に案内します」
「いや、一人で行けますよ」
「いいえ、迷うかもしれません」
「流石に一本道で間違えることはないですけど……」
「職員室、と書かれた別の部屋に入ってしまうかもしれませんので。さあ、こちらへ」
有無を言わさぬ勢いで僕はその子に手を取られながら職員室まで行くこととなった。
廊下を真っ直ぐ進むとすぐに職員室と書かれたプレートを見つけた。ほらな、迷うわけがないんだよ。
なんでこの子はわざわざ案内してくれたんだろう?
「……貴方の名前はなんですか?」
「リバルです」
「そうですか」
「……え?あの、そちらのお名前を教えてはくれないんですか?」
「……私を知らないのですか?てっきり知ってて声を掛けて来たのかと思いましたが」
なんかちょっとビックリした表情だなこの子。全然知らないんだけど。もしかして有名な貴族の娘とかだったか!?
「すみません、あまり世間を知らなくて……。差し支えなければお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「……内緒です」
「ええ!?」
人差し指を口に当てて小さくウィンクするその姿にはちょっとビビッときてしまった。顔立ちは整っているし、なんならお人形さんだと言われても信じてしまうかもしれない。そんな子がウィンクなんてしたら可愛いに決まってるでしょうが。
「つきました。ここが職員室です」
「え?あ、ありがとうございます」
「それではまた」
案内を終えるとその子はそそくさと立ち去ってしまった。結局名前を聞けずじまいだったな。
まあ同じ学年ならまた会う機会もあるだろう。そう思いながら職員室のドアをノックする。
「どうぞー」
中から若い男性の声が聞こえてきた。
扉を開けると長机が所狭しと並べられていて、ポツポツとまばらに教師と思わしき人達がいた。
「ん?君は……」
「失礼します。本日からこの学園に通わせていただくリバルと申します。お恥ずかしながら自分の教室が分からず……」
「ああ!君がそうか!話は聞いてるよ。こっちに来なさい」
若い男の教師が僕に手招きをする。随分と若く見えるが彼が担当の教師なのだろうか。
「初めまして、私はレウス。レウス・ガーランドだ。君のクラスの担任だよ。よろしく!」
「よろしくお願いします」
若くて元気のいい人だな。そうかこの人が担任なのか。強そうに見えないけど担任を務めるくらいだから相当腕が立つんだろう。
「リバル君のクラスは一級クラスだから、教室は三階の一番奥だね。場所は分かるかな?」
僕は首を横に振る。そもそも校舎に入ったのも初めてなんだから分かるわけがない。
「だろうね。そもそも学園長が何も伝えてなかったのが悪い。そろそろ他の生徒も続々と登校してくるからホームルームの時間になったら私と一緒に行こうか」
「はい、お願いします」
「リバル君は平民生まれだと聞いてるけど、その口調は練習したのかい?」
「いえ、住んでいた村には稀に貴族の方も来られることがあったので父親から少し教えられていました。あまり上手くはないですが……」
「十分だよ!平民の子でそこまで綺麗な敬語が使えるなら私も一安心さ」
よし、褒められたぞ。先生のお墨付きならこの学園でもうまくやっていけそうだ。
「あ、そうだ。これが教材だからね。無くさないように」
レウス先生から教材一式が入ったバッグを貰った。全部で十冊ちょっとってところか。座学も割とあるみたいだ。
「学園長から聞いてるか分からないけど、この学園では剣だけじゃなくて魔法も試験項目に入っているからこれから頑張ってな!」
レウス先生がニカッと笑う。
え?それは聞いてないよ……。
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