18話 手合わせをさせられて
朝、とても早く目が覚めた。
慣れないフカフカのベッドだったからか眠りが浅かったらしい。
昨日は大変だったな……。レオリックスさんとの戦闘は楽しかったけど、上には上がいると分からされた。
それにこれから寮生活が始まると思うとワクワクする。同世代の友人が沢山作れるだろうか。少し不安だ。なにしろこの学園は帝国でも最高峰と謳われるほど倍率が高い。
優秀な者、ある程度格の高い家柄の者ばかりが集まると聞く。平民は少なからずいるらしいが割合でいうと一割程度だそうだ。その平民というのも殆どが商人の家系だという。つまりだ、本物の平民は僕を含めて数える程度。
イジメられないだろうか……。
そんな不安を胸に制服に着替えると、その足で寮の庭先へと向かう。やはり朝は素振りをしなければ。
昔は日課としていたが、山籠りを初めてから剣に触らなくなってしまった。最近になってまた素振りを始めたのは、少しでもブランクを消しておきたいからだ。
庭に出るとまだ日も昇り始めた時間帯で、若干薄暗い。人もいないし静かだ。さてと、まずは百回といこうか。最初から飛ばしすぎても疲れるし。
「――九十九、百」
百回目の素振りが終わった時、背後に気配を感じ振り向いた。
見たこともない男が立っている。制服を着ているし背丈は僕より高いか。多分同じ学年、のような気もするがいきなりタメ口で話しかけるのは気が引けた。
というのもその男、どう見ても貴族のご子息のようである。髪は艶があり金色の美しい輝きを放っているし帯剣している鞘も装飾が施されている。
確実にその辺で売っている量産品の剣ではない。
「えっと……おはよう、ございます」
「……」
やべ、間違えたか?無反応じゃないか。無礼だなんて言われて斬りかかられたらどうしよう。
「あの……何でしょうか?」
「……お前、見たことがないな。誰だ」
あ、そういうことね。学園内で僕を見たことがなかったから不審に思ったわけだ。
「今日から入学することになりました、リバルと申します」
「今日からだと?……編入生というやつか?」
「えっと、そういうわけではないんですけど、あのー今日から初めて学園に通うので」
「学園に通うのが初めて……?この寮の庭を使っているということは二学年だろう。去年は何をしていた」
質問に次ぐ質問に僕はその一つ一つを丁寧に答えた。
それがよかったのだろうか、男の険しい目が少しだけ緩んだ。
「山籠りしていて生徒会長にスカウトされ今年から初めて学園に通う、か。荒唐無稽な話だが、実際にその制服を着ているということは嘘ではないのだろう」
「はい。嘘みたいな話ではありますけど」
「ふっ。俺はエリクだ。お前と同じ学年だからこれから顔を合わせる機会も多いだろう」
エリクと名乗った目の前のイケメンは手を差し出してきた。これは握手を求めている、と認識していいのか?いいよな、これで反応しなかったら逆に失礼だもんな。
「よ、よろしくお願いします」
「なんだ、固いやつだな。もう少し言葉を崩したらどうだ?」
「え?でも流石にエリクさんって貴族……ですよね?」
「あ、ああ。そうか、知らないのか」
「知らない、といいますと?」
「いや、知らないなら知らないでいい。そうだ、俺は貴族だ」
ほらやっぱり。よかったぁ、敬語で話しかけておいて。理性が働いてよかった。
「俺は気にしないからいつも通りに話すといい」
「いやでもそれは……」
「貴族である俺が良いと言っているのだ。他に誰が文句を言うというのだ。俺もリバルと呼ばせてもらう」
「まあ、それもそうか。分かった、これからよろしく頼むよエリク」
「ふっ。それでいい。で、リバルはここで何をしていたのだ」
「朝早く目が覚めたから素振りしてたんだ。そういうエリクもかなり早起きだね」
「ほう……なかなか勤勉なやつだな。それなら少しばかり手合わせしないか?素振りだけするより身体を動かした方がいいだろう?」
エリクと手合わせか……どれほどの実力者か分からないから面白いかもしれないな。
それにどんな流派を使ってくるのか楽しみでもある。
「いいよ、じゃあ剣は木剣の方がいいかな」
「そうだな、朝から怪我するのも面白くない。少し待っていろ、寮のロビーに練習用の木剣があるのだ」
へぇ、そういったところまで準備されてるんだ。剣士の育成学校とは聞いていたけど寮のロビーに木剣置いてあるって普通ないんじゃないかな。
しばらく待っているとエリクが二本の木剣を携えて戻ってきた。
「これが練習用……?」
手に馴染むしっかりとした硬木が使われている。
たかが練習用といってもそれなりに高そうだ。
「どうした?」
「いや……これが練習用かと思って」
「ああ、それほど作りはよくないが練習程度なら十分だろう」
ほほー、これがそれほど作りはよくないレベルですか。流石は貴族のご子息は言うことが違いますわ。
気を取り直してエリクと対峙するように立ち、剣を構えた。
「ん?何だその構えは?帝国流ではないな」
「あ、言うの忘れてた。僕はちょっと変わっててさ、模倣剣術ってのを使うんだけどいいかな?」
「なんだと?」
エリクは構えを解くと同時に表情が険しくなった。おっと、これは言葉選びを間違えたか?もしかして模倣剣術なんて紛い物、剣術とは言わん!なんて言われちゃうのか……?
「先程の素振りを見ていた限り、リバルが腕の立つ剣士だと分かっている。模倣剣術も嘘ではないのだろう。しかし、本物の模倣剣術を知っている以上生半可な出来では満足できんぞ」
「そこは安心してくれていいよ。入学試験でレオリックス様と対戦したんだけど、そこそこの評価は貰ったから」
「ほ、本当か?……噂には聞いていたが……本当にレオリックス殿がわざわざ試験監督を務めてくれたというのか?」
あ、やべ。これ言ってよかったんだっけ?いやもう今更だけど。エリクの驚き方から、多分あまり口外しない方が良かった気がする。
「あーえっと……そのぅ」
「安心しろ。俺は言い触らしたりはしない」
「良かったぁ……言っちゃいけないのかと思って焦ったよ」
「それで話を戻すが、レオリックス様と戦ってそこそこの評価を得たということはリバルの剣術は本物のなのだろう。ふっ、楽しみになったきたな」
エリクの口角が少し上がる。あれ、もしかして意外と好戦的なのか?イケメン貴族の令息ってもっとこう、平民と剣を交えるなど虫唾が走る!なんて言うかと思ったけど。
「何だその顔は。ああもしかして俺がリバルと剣を打ち合う事が不思議か?」
「まあ、そうだね。ミーシャ、えっと僕と同じ学年の子がいるんだけど、貴族には気難しい人もいるって聞いてたからさ」
「俺はそんなしょうもない事で目くじらを立てるような真似はせん。さて、そろそろやろう。あまり遅くなると起きてくる生徒もいるからな」
エリクって話しやすいし貴族感があんまりないかも。
彼なら仲良くなれそうだ。
お互い距離を取り剣を構え直すと数秒間の静寂が訪れる。
派手な技はダメだな。できる限り静かに、それでいてアッと言わせるような技で勝ちたい。エリクの構えはアストラ帝国流のものだ。その流派ならある程度見たからどんな技がきても対処できる自信があった。
「僕から行ってもいいかな」
「ああ、先に譲ろう。それと本気で来い。手を抜かれるのは気に食わん」
よし、言質はとったぞ。そうと決まればこの技でいくか。
僕は腰を少し落とし、剣先を背後に隠すように構えた。先手を取るなら士郎さんの技が最強だ。
「東方次元流・風切……落葉!」
目に見えぬ速度で抜き放った剣閃はエリクの首元で止まった。
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