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17話 期待の新入生

リバルの試験が終わった後、レオリックスは訓練場に残ったままだった。手に残る感触、今でも思い出すひりつく戦闘。リバルの剣は本物だった。


「なかなか面白い逸材を見つけてきたもんだ。久しぶりに本気出しちまったぜ」

レオリックスはリバルを高く評価していた。今まで弟子をとることなどしなかったのに、リバルは是非とも弟子に欲しいと思えたほどに。



そんな手を握ったり開いたりしているレオリックスに近づき不貞腐れたような表情でジトッとした目つきを向けるのはアメリアだ。


「おい、なんで教えてくれなかった」

「あん?何をだ?」

「こんな面白そうな……いや、私の旦那候補になり得る少年がいるなんて!」

アメリアが憤慨しているのはリバルの事についてだった。またいつもの癇癪かとレオリックスは呆れた表情を向ける。


「旦那候補って……正気か?お前とあの子じゃ十以上離れてるだろ」

「やかましい!私は……私より強くなれる可能性のある歳下の旦那を見つけるのが夢なんだ!クソ!どこにいたんだあんな逸材!」

「さあ?山籠りしてたとは聞いたけどな。それよりもなんでお前がここにいるんだよ。呼んでねぇだろ」

「お前が久しぶりに城に顔を出したと思えばすぐに出ていくからだろう!いつも帝都には寄り付かない癖に今日ばかりは顔を出した。何かあると勘ぐるに決まってる!」

レオリックスは世界中を飛び回っている事が多い。帝都に戻ってくるのも年に数回といったほどで、皇帝ですら殆どレオリックスの姿を見かけることはない。


「目ざといやつだなぁおい」

「私の旦那センサーがビビッときたぞ。それでコッソリ着いてきてみればこれだ!ずるいぞ!」

「そう言うだろうと思ったから声かけなかったんだよ。察しろ喪女」

「なっ――」

アメリアは憤慨する。言ってはならない言葉を発したと。剣を抜こうと柄に手をかけようとしたところでレオリックスが慌てたように後ずさる。


「おおい!待て待て!冗談だって!」

「私を行き遅れのばばあなどとほざきやがって……」

「そこまで言ってねぇよ!」


アメリアにこの類の話題は禁物である。二十も後半に差し掛かりもうじき三十に足を踏み入れようとしているせいで、婚期に関する話題はNGなのだ。


「それであの少年は一体どこで見つけたんだ」

「だから知らねぇって。俺もガーベラ殿から呼ばれてきただけだからよ。なにやら面白い奴がいるって聞いただけだ」

「ふむ……どこの生まれかも聞いていないのか」

「ああ。山に籠る前はどっかの村に住んでたらしいけどな。詳しくはガーベラ殿に聞いてこい」

アメリアはむむむと唸ると、黙り込む。聞けるわけがないのだ。そもそも学園の敷地内であるこの訓練場ですら無許可で入り込んでいる。ガーベラが何も言って来なかったのはアメリアが六聖の一人だからだ。


アストラ帝国において六聖の知名度は相当なものだ。

ちょっとした小国の王程度の権力すら有している六聖を無下にはできない。


ただガーベラが無許可で入り込んだことを突っ込めばアメリアは黙って立ち去ったかもしれないが、なんとなく面白そうだから、という理由で放置しているだけである。




「あの少年、リバル君だったか。あの子は是が非でも欲しい。お前から掛け合ってくれ」

「何言ってんだお前……」

アメリアが真剣な表情でそう言ったせいでレオリックスは呆れかえっていた。


「何か方法はないか?私があの子に近づける方法が!」

「ねぇだろ。学園に通える年齢でもないしよ……あ、一個だけあるわ」

「何!?早く言え!」

「リバル君はここの学園に通うんだろ?なら臨時講師として不定期で来たらいいじゃねぇか。まあでもガーベラ殿が――」

「ッッッ!天才かお前!!よし!そうと決まれば!」

アメリアは最後まで聞くことなく全力疾走でその場を立ち去った。後に残されたレオリックスは何とも言えない表情を浮かべる。


「ガーベラ殿が良いというかは分からねぇのに。ま、いいか。俺も仕込んどかないといかねぇし」


レオリックスも実のところある作戦を考えていた。


リバルは何としても弟子にしたい。

育てれば六聖に並び立つ実力者に成り得る器なのだ。


レオリックスは意味深に笑みを浮かべると音もなくその場から消えた。




――――――

サリアはリバルを寮に案内した後、自室へと戻らず学園長室へと足を運んだ。


サリアはどうしても今日のうちに話したいことがあった。リバルの今後についてだ。


学園長室をドアをノックするといつも通りガーベラの声が返ってくる。


「失礼します」

「まあ来るとは思っていたよ。あの子は寮に案内したのかい?」

「はい。寮長がいましたので彼女に任せました」

「そうかい。で、話はなんだい」

「リバルの処遇についてです。彼の実力なら一番上のクラス、一級がいいかと思いますが学園長は彼をどこのクラスにいれるつもりですか?」


スティーニア学園には一つの学年に三つのクラスがある。上から一級二級三級とあり、平民は全員三級だ。

二級は普通レベルの貴族の令嬢令息、一級は剣士として腕が立つ者か高位貴族の令嬢令息が所属している。


リバルが最初に出会った三人、ミーシャやシンク、リナは一級クラスに属していた。そうなれば既に知己の仲であるミーシャ達と同じクラスに入れたほうが良いのではないか、そう考えていたのだが貴族以外で一級クラスに属している者はいない。


つまり前例のない事だ。それが軋轢を生むであろうことは容易に想像できる。



「まあ実力だけなら一級クラスだろうねぇ。ただ出自が悩ましいところだよ」

「私は一級クラスに入れた方が良いかと思います」

「ほう?なかなかスパルタじゃないかい。その理由は?」

「確かに出自が理由で他の生徒が黙っていないでしょう。ですがここはスティーニア学園、実力至上主義の場所です。降りかかる火の粉は振り払ってこそ真の英雄かと」

「ふぅん、なるほどねぇ。まあそうだね、あたしもあの子は一級クラスに入れるつもりさ。やっかみを受けて泣き言を漏らすならその程度だったということさ」


結局ガーベラもサリアと同意見であった。これからリバルに降りかかるであろう様々な事を想像しガーベラは苦笑する。


「さあ大変だよこれから。アンタも気にかけてはやってくれ。肝は座ってるだろうから余計なお世話かもしれないがね」

「もちろんです。私がこの学園に連れてきたのですから」


剣の腕は疑っていない。ただ精神面が強いかと聞かれれば分からないのだ。ただ少なくとも目の前で自分の両親と仲の良かった友人知人を失っているリバルなら、他の生徒からの嫌がらせなど、へとも思わないだろうと考えていた。


サリアもガーベラから話を聞いて少し調べていた。

リバルの住んでいた村の事を。


死人だけで数十人、重傷を負った者もいれれば百に達する悲惨な事件だった。その当事者であるリバルは当時十歳だ。サリアはもしそれが自分であったなら、精神が無事であったか怪しいとまで考えていた。


というよりフミリス村の近辺でなぜ魔物の群れが突然現れたのかも謎である。辺境の村での出来事だったからか、殆ど資料は残っておらずサリアもそれ以上調べることができなかった。


「ま、明日からが楽しみだねぇ。一級クラスの連中が何て言うか……」

「一部の者は直訴してくるのではないでしょうか?大変なのは学園長もですよ」

「うっ……面倒事だけは起こさんで欲しいんだけどねぇ」

ガーベラは明日から起こるであろうトラブルを想像し、嫌そうに顔を顰めた。




話も終わり退室しようとしたサリアはふと足を止めて振り返った。

「そういえば話は変わりますが、なぜあの場にアメリア様がおられたのでしょうか?」

「そんなのあたしが聞きたいよ」


アメリアがなぜあの場にいたのかは二人とも分からなかった。

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