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15話 岐路に立たされて

「え?」


僕のとぼけた声だけが訓練場に木霊する。その場にいた者はおろか観客席にいた人達も呆気にとられた表情だ。


「まちな。レオリックス、それ本気で言ってんのかい?」

先んじて声を発したのはガーベラさんだった。

その顔には怒りが滲み出ていた。


「先程の戦い、我々も見守らせて頂いておりましたが彼が不合格というのは納得できません」

次に声を発したのはサリアさんだ。観客席から飛び降りると走ってこちらへと向かってきた。


僕も当然納得できていないが、何よりも自身が連れてきた者が不合格を言い渡されるとは思ってなかったのだろう。サリアさんもガーベラさん同様少し怒りを含んだ声色だった。


「まあそりゃあ不合格にするだろうよ。分かんないか?」

「分からないね。誰が見ても彼は学園に入学できるレベルを遥かに超えていたじゃないか。それを不合格だって?確かにリバルの合否をアンタに一任したが流石に納得できるわけがないね」


もしや一撃も有効打をいれることができなかったからだろうか。いや、でも相手は剣聖だ。いくらなんでも現時点でそこまでの実力を求められるのは厳しいものがある。


「レオリックス、何か隠しているだろう。正直に言いな。この子を不合格にする理由を」

「……」

ガーベラさんは何かを察したのか呆れた表情で再度問いかけた。仏頂面だったレオリックスさんは数秒無言を貫いた後、大きくため息をついた。


「ハァ〜バレてるってんならしゃあねぇ。そうさ、ガーベラ殿の思っている通りだぜ」

「やっぱりね。そんな事だろうと思ったよ」

ガーベラさんとレオリックスさんだけで話が通じているようで、僕を含めた他の人達も首を傾げていた。


「リバル、アンタは間違いなく合格だよ。ただこの阿呆が自分の感情を優先しただけさ」

「ご、合格なんですか?じゃあなんでレオリックスさんは……」

「コイツはアンタを弟子にしたいんだよ。そうだろレオリックス」

レオリックスさんの弟子?それが不合格と何か関係があるのだろうか。


「ああそうだ。リバル君の模倣剣術は本物だった。鍛え上げれば間違いなく剣聖に至れる才能がある。それを学園程度の箱に押し込めるなんて酷じゃないか」

「それはアンタが勝手にそう思っているだけだよ。この学園は様々な流派を修めた者たちが通う。模倣剣術使いならこれほど良い環境はないと思うけどねぇ?」

「違うな。もっと世界を知るべきだ。模倣剣術は相手の技を見て盗む。たかが学園に通う生徒程度の技を覚えた所で剣聖には至れないぞ」


「あの……」


「いいや十分なれるさ。スティーニア学園が今まで何人の有望な剣士を生んだか知らないわけじゃないだろう?」

「スティーニア学園の卒業生で剣聖になったのはたった一人だぜ?それなら俺と一緒に世界を見て回り全ての剣術を覚えたほうがいいだろ」

「この子にはまだ早いと言っているんだよ。剣聖に付いていくのは生半可な実力では無理じゃないか。アンタがどこに連れて行くつもりか知らないが、下手すりゃこの子が剣聖に至る前に死んでしまうよ」


ガーベラさんとレオリックスさんの言い合いは止まらない。もはや当人である僕のことなんて無視してやがる。話しかけても全然止まってくれなかった。


「模倣剣術は全ての剣術を見て盗む。それが極めるということだ。俺は十年の月日をかけて今この立ち位置にいる。今が最適なんだよ」

「この子はまだ二十にもなっていない子供だよ。世界を見て回るなら卒業してからでも遅くはないさ」

「最年少で剣聖になれるかもしれないんだぜ?今から育てるべきだ」

「だからウチで育てると言ってるじゃないか。アンタもなかなかしぶといやつだねぇ」


徐々に二人が苛立ってきているのが分かった。ガーベラさんは眉間にシワが寄ってきたし、レオリックスさんも指を鳴らし始めている。



二人の話を聞くにレオリックスさんは是が非でも僕を弟子にしたいらしい。ガーベラさんは僕を学園に入れるべきだと言い張っている。どちらの言い分も間違ってはいなさそうだけど、とりあえず誰か止めてくれないかな……。



一触即発、と思っていたらどこからともなく透き通る声が響いた。


「ガーベラ学園長、話は聞かせて貰いました」


神に祈る気持ちで二人の言い合いを止めてくれるよう願っていると、観客席の一番端、それも柱の影に隠れていた赤髪の女性がいつの間にか訓練場中央に現れていた。


「……お前何してんだよ」

「うるさいぞレオリックス!それにガーベラ学園長、二人で言い合うよりもまず何より先に!その子の意思を確認するべきでしょう」

おおっ!素晴らしいぞ!ようやく二人を止めてくれた!サリアさんも観客席で見ていた人達もガーベラさん達の言い合いを止める勇気はなかったのか誰も動こうとはしなかった。


「……まあ間違ってはいないね。じゃあリバル、レオリックスと共に世界を見て回り模倣剣術を磨く道を選ぶか、それともスティーニア学園で同年代と切磋琢磨し成長する道を選ぶか。どちらがいいんだい?」


ガーベラさんに問いかけられ僕は沈黙した。どちらも剣士として成長できるだろう。レオリックスさんのような剣聖から直接学べる機会なんてそうそうない。

ただ学園で腕を磨くというのも捨てがたい。


僕が悩んでいると赤髪の女性が近付いてきて肩に手を置いてきた。


「よく考えなさい。あの男は悔しいけれど剣聖として腕は立つ。でもあの男と四六時中ずっと一緒にいられる?学園なら同世代の剣士見習い達と共に成長していける。青春というのは二度と手に入らないのよ?そう、二度と、ね」

意味深な言葉尻だ。なんだか体験してきたかのような口ぶりだけど、そもそも僕この人の事全然知らないんだけど。


いやでもこの人の言っている事は理解できる。学生らしく学園生活を謳歌するのも悪いものではないと言いたいんだろう。


僕は山籠りをしていたせいで友達がいない。村には数人同世代の子供達はいたが、僕が村を出て以降会っていないから多分忘れられていると思う。


「もしかすると学園で一生涯を共にするパートナーが見つかるかもしれないわ。……まあ私と共に来たいと言うのなら第三の選択肢としてアリだと思うけれど……私も一応そこそこ腕が立つから」

「あの……そもそもあなたの事を知らないんですけど」

僕がそう言うと赤髪に緑のメッシュが入った特徴的な見た目をしている女性はカッと目を見開いてヨロヨロとわざとらしく膝を突いた。


「わ、私を……知らない……?そんな、馬鹿なことがあるなんて……」

「すみません。僕七年山籠りしていたのであまり著名人の方々を知らないんです」

なんならレオリックスさんだって今日初めて知ったしね。六聖って呼ばれる剣聖がいることくらいは知ってたけど。



「その女も俺と同じ六聖だぜリバル君。行き遅れの赤い閃光っていやぁアメリアしかいない」

「貴様ァッ!その名で呼ぶなと何度言えば分かるんだァァ!」

そうか、アメリアさんっていうのか。てか六聖ってそんなどこにでも現れるもんなのかね……。


レオリックスさんが紹介してくれたが、アメリアさんが烈火の如くブチ切れた。さっきまで優しそうなお姉さんだったのに、ちょっと意外だな……。人は見かけによらないのかも。



「おいおい、いいのかアメリア。リバル君、引いてるぜ?」

「ッッ!?」

ハッとした表情でこっちを振り向くとアメリアさんは咳払いを一つして姿勢を正した。


「ごめんなさいねリバル君。少しばかり感情が昂ってしまっただけなの」

いや、無理だよ取り繕うのは。ブチ切れた所見ちゃったから。とは言えず、僕はハハッと苦笑いを浮かべておいた。



「まあこの女の言っている事も理解はできる。第三の選択肢とかいう訳わからんのは無視して、俺の下で剣を学ぶかそれとも同世代と切磋琢磨する道を選ぶか。どちらがいいんだ?」

「そうですね……」


どちらも選び難い。第三の選択肢はまあちょっと置いておくとして。


でも僕はやっぱりこっちの方が性に合ってる気がする。


「僕は学園に入学して青春ってやつを謳歌しながら英雄になる道を選びます」

僕がそう言うとレオリックスさんは優しく微笑んだ。


「まあそう言うと思ったさ。リバル君、文句なしの合格だ。ただし、卒業後は俺のもとに来い。模倣剣術の極みを教え込んでやるから」

「いえ、リバル君。卒業後は私のもとに来なさい?こんなくたびれたおっさんより綺麗なお姉さんから剣を学んだ方が君も嬉しいでしょう?」


あ、自分で言うんだねアメリアさん。

まあ綺麗なのは間違いないけど。

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