14話 魔法使いに助けられて
……何が起きた?レオリックスさんの剣が一瞬視界から消えたと思ったら気づけば僕は壁を背に、もたれ掛かっていた。
「いっ……てぇ……」
立とうと思うと腹部に激痛を感じ、その場で膝を突く。見ると血こそ出ていなかったが、アバラが何本か折れているのか破れた服の隙間から見える肌の一部が紫がかっていた。
「おっと!すまんリバル君!ちと本気出しちまった!」
レオリックスさんが駆けつけてくるが、それを僕は手で制止し剣を杖代わりにして立ち上がった。
「だ、大丈夫です……痛いですが……これも僕に力がなかったから、です」
「いやいや、なかなかの根性論言ってるけど多分内臓にもダメージいってると思うぞ。とにかく、誰か治療魔法が使えるやつを呼べ!」
レオリックスさんが叫ぶと、どこからともなく現れた魔法使いの出で立ちをした人がこちらへと向かって来るのが見えた。とんがり帽子に黒いローブ、明らかに剣士の洋装ではない。
「なかなか派手にやられましたね。それでは失礼して」
魔女のような出で立ちの女性が僕に手のひらを向ける。
「この者を癒したまえ。ヒールライト」
柔らかい光が僕の身体を包み込む。
ほんのりと暖かく優しい光だ。
しばらくすると光は消え、痛みもなくなっていた。
「凄い……これが魔法……」
「そう。一応私、宮廷魔導師ですので他の人はこれほど綺麗には治せないですよ」
どうやら魔法にも上手い下手があるらしい。
剣技で言うところの練度みたいなものか。
「ありがとうございました」
「いえいえ。ガーベラ殿に頼まれていましたので」
「ガーベラ?」
「ここの学園長ですよ。こうなる事を見越していたようです」
魔法使いの視線を辿るとそこには妙齢の女性がいた。
多分その人が学園長なのだろう。
それにしてもこうなる事を見越していた、か。六聖と戦えばこうなる事が当たり前だと思っていたのかもしれないな。
「では私はこれで」
「あ、はい。ありがとうございました」
魔法使いの女性は僕の怪我を治すとそそくさとその場を立ち去っていった。
「いやぁ悪い悪い。お前さんがなかなか優秀だったから本気出しちまったんだよ」
「さっきの技は別の流派を組み合わせたものですか?」
「ああそうだ。アストラ帝国流と水神流を合わせてる。模倣剣術てのはこういう事もできるんだぜっていうデモンストレーションも兼ねていたがな」
模倣などただの真似でしかないとか言われたこともあったが、レオリックスさんのように極めれば強力な武器になる事がわかった。
まあ気づかぬうちに壁まで吹き飛ばされるとは思わなかったけど。訓練場の中央から壁まで何メートルあると思ってるんだ。
そんな事を考えていると観客席から女の子の声が聞こえてきた。
「リバル!!大丈夫なの!?」
「ん?ああミーシャか。大丈夫だよ、レオリックスさんも手加減してくれていたから」
ミーシャの顔は真剣そのもので本気で心配してくれたようだ。その隣りにいるアルカは澄ました顔をしている。嫌いな僕が痛い目に合ってちょっと嬉しいんだろうな。
「やり過ぎだよレオリックス。アンタならもう少しうまくやれただろう?」
観客席から降りてきたのは学園長だった。先の決着は下手すりゃ死んでもおかしくなかったから、まあ難色を示すのも無理はない。
学園の入学試験で死者を出すところだったと若干怒りを含んだ声色だ。
「いやぁ悪い悪い。まさか本物の模倣剣術を見れるとは思ってなかったからな。どうせちっとばかし腕の立つ目の良い少年だとばかり思ってたわ」
「何度も伝えていただろう。今回は本物だって」
「流石にその言葉を鵜呑みにするほど馬鹿じゃねぇよ俺は。模倣剣術使いを自称するやつなんてゴロゴロいるんだからな」
どうやら学園長とレオリックスさんの間では僕の事が事前に伝えられていたらしい。
「おっと、自己紹介が遅れたね。あたしはガーベラ・サテライトさ。一応この学園の長をやってるよ」
「どうも、初めまして。リバルです」
「君のことはサリアから聞いていてねぇ。なんとなく昔を思い出しちまったからこうして見に来てしまったよ」
「昔、ですか?」
ガーベラさんと僕は今の今まで面識がなかった。なのにも関わらず昔を思い出すってのはどういう意味だろうか。
「アンタ、ハインツのひとり息子じゃないかい?」
「父を知っているんですか?」
「知ってるも何も昔は一緒にパーティーを組んでた事もあったからねぇ」
父の昔話はあまり聞いたことがない。だから父の口から目の前にいるガーベラさんの話など一度も出たことがなかった。
「アイツは器用だったからねぇ。その血を継いでいるんだろうとはすぐに分かったよ。何しろその目だ」
「そうそう、この少年目が良すぎるんだよなぁ。ガーベラ殿は何か知っているようじゃないか」
レオリックスさんも同調したようにウンウンと頷く。
視力、の事じゃないな。多分、僕の目が良すぎることについて言っているんだろう。
「リバル君、その目の良さは普通じゃないんだぜ?まず縮地で移動した俺の攻撃を簡単にさばいていたろ?あんなの普通はできねぇな」
「そうなんですか?確かに異常な速さでしたが……」
「それに俺の攻撃が来るのを予測して弾いたろ?あんな芸当普通は無理だ」
剣を置く、レオリックスさんはそう表現していたアレのことか。あれはあくまで剣閃の流れを読んで先んじて剣をその位置に持っていっただけだ。置く、って表現はなかなか独特だな。
「その目が親父さん譲りってわけか。ガーベラ殿と同じパーティーってことは……あれか!昔剣聖候補だったやつか!!」
「そうだよ。ハインツは元六聖候補だった男さ」
父がそんなに凄い剣士だったなんて信じられない。僕が怪訝な表情を浮かべたのに気づいたのかガーベラさんは話を続けた。
「ハインツは元々剣聖候補と呼ばれるほど才ある剣士だった。でも子供ができると同時にどうしてか、冴えていた剣技は錆びついていったよ。あの時は何が起きていたのか分からなかったけどアンタをみりゃ分かったよ。リバル、アンタは父親の才能を全て奪って生まれてきた子供だよ」
「おいおい、奪うなんて言葉を選べよ。賜ったとか受け継いだとか他にもあっただろ」
ガーベラさんの物言いにレオリックスさんは呆れた表情で、ため息をつく。
「いいや、本当さ。現にあの男は子供ができたと同時に弱くなったんだよ。類まれなる剣の才能、そして何よりも目さ。どれほど素早い攻撃も躱してしまう動体視力は圧巻だったんだからねぇ」
ガーベラさんによると僕の父親はそれはもう圧倒的な強さがあったらしい。どんな技も見切ってカウンターをいれるなど朝飯前で、見て盗んだ技を独自に改良する始末。そう、僕が今やっている事だ。
それが全て父さん譲りの能力だったと知り驚愕した。
いや、それよりも一番理解が追いつかないのはどうして父さんの全てを受け継いで僕が生まれたのか、だ。
優秀な血筋というのはよく聞くが、全てを奪うようにして生まれてくるなど聞いたこともない。それも僕が生まれると同時に力を失っただなんて流石に信じられない。
「まあその辺また詳しく調べるとして……とにかく、アンタの父ハインツは優秀な男だった。その力を全て身につけて生まれたんだからアンタが父親の夢を叶えてやるといい」
「夢、ですか?」
「あの男は昔からこう言っていたよ。英雄伝説に語られるような剣士になりたいってね」
「英雄伝説……僕も昔目指していました。まあ、今も目指していないのかと言われると怪しいですが」
「リバル、アンタは学園で何を学びたいんだい?そして何を目指す。目標がなかったら学園では生き残れないよ」
「目標……」
僕は元々英雄になりたかった。でも個の力がどれだけ優れていても救いたい者を全て救うなんて無理だと知った。だから僕は途中で剣を握らなくなった。
でもこれだけ沢山の剣士に囲まれて、僕はもう一度剣を手に取った。個の力、といったがあれは間違いだと気付かされた。
レオリックスさんのように圧倒的な力があれば誰も死なせることはないかもしれない。だから僕は……。
「僕は英雄伝説に語られる騎士になりたいです」
「よく言ったじゃないか。そうさ、スティーニア学園の生徒はみな英雄を目指す。でもみんながなれるわけじゃないよ。たった一握りだけ……何百人の頂点に立って初めて英雄の領域に一歩近づけるのさ。その覚悟がアンタにはあるんだね?」
「あります。僕は誰よりも強くなる。もう二度とあんな悲劇は起こさせません」
そう、あの時、村を襲った魔物の群れ。あんな事がまた、いつ起きるか分からないんだ。だから僕は強くなる。なってみせる。
そう僕が強く決心したタイミングでレオリックスさんがソロリと手を挙げた。
「あ〜盛り上がってるとこ申し訳ないが、リバルの合否は不可だぞ」
レオリックスさんの言葉に訓練場は水を打ったように静まり返った。
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