第90話 異変
兄を見つけられた、喜び……
それよりも、不気味な恐ろしさが胸に広がった。
兄であって、兄ではない。
その仕草、言葉遣い、雰囲気。
同じなのは、顔だけだ。
どういう事だ?
パキッ
「…………っ」
足元の小枝を踏んだ……
四季の顔は青ざめた。
「誰だ?!」
寒舟が、振り返る。
鋭い蛇のような眼。
四季は、息を飲んだ。
いつもの先生ではない。
殺意の籠もった眼差しだ。
恐怖が、四季の体を支配した。
呼吸が、浅くなる。
音が漏れないように、自分で自分の口をふさいだ。
柱の陰で息を殺す。
確実に見つかる。
もう、だめだ。
思わず、ギュッと目を閉じた。
カツ
カツ
足音が、近づいてくる。
四季の近くで、止まった。
瞼の向こうが、ふっと暗くなった。
誰かの影が、四季を覆っている。
「…………」
息ができない。
長い沈黙のあと、影が離れた。
「鬼医、誰かいたか?」
「……ネズミでしょう。」
「さようか。」
四季は、息を吐いた。
見つからなかった?
やがて、寒舟が、積まれた藁の中に手を入れた。
ガコン
ジャラジャラ
鎖が巻き上げられる音と共に、地面から四角い扉が現れる。
寒舟が、扉を開ける。
「鬼蠱師様。お先にお入り下さい。」
秋生は、戸惑う事なく扉の奥に消えていく。
続いて、寒舟が扉に入った。
しばらくして、ジャラジャラと鎖が巻き上がる。
四季は、息を殺して見ていた。
扉が閉まりきると、彼は青ざめた顔でその場を後にした……




