第89話 兄を見つけた
その日は、いつも通り玄夜と町を歩いていた。
好きな菓子を買って食べたり、何気ない話をしたり。
あまりにも、普通の日常。
町は、活気に溢れ多くの人々が行き交う。
トンッ
後ろから来た青年がぶつかってきた。
「痛っ」
「すみません」
彼が通り過ぎたあと手の中を覗く。
折りたたまれた小さな紙片
玄夜に気づかれないよう、そっと懐にしまった。
◇◇◇
慕容四季は、兄を探していた。
兄である慕容秋生は、未だに見つかっていない。
もう、亡くなっているのではないか、誰もがそう言っていた。
手掛かりも全て途切れ、四季は町中を
ただ歩きながら兄を探していた。
人々の間に紛れ込んで、「四季、ようやく見つけたか。まだまだ修行が必要だな」と昔のように、頭をなでてくれるのではないか。
そんな、ありえない妄想をしながら、
トボトボ道を行く。
やがて、日が沈む。
今日も、兄は見つからなかった。
四季にとって、兄はいつでも助けてくれる、頼れる存在だった。
兄を目標として、修行も頑張ったし、褒めて貰えると嬉しかった。
もう、見つからないのだろうか。
足元を見つめる。
仲間達も、父も探している。
………それでも見つからない。
ふと、顔を上げた。
柳寒舟。
かつて、四季を救ってくれた薬師が横切った。
四季は、何となく目で追った。
寒舟の表情は強張っていた。
以前の優しい表情とは違う。
そんな顔をしていると、途端に悪そうに見えた。
笑うと弧を描く、切れ長の目が鋭い。
四季は、何事だろうと思った。
褒められる行いではないのは、分かっていたが、寒舟の後を追いかけた。
狭い路地の奥。
古い小屋があった。
寒舟はそこに入っていく。
四季は、そっと隠れながら様子を窺った。
「鬼医、やっと来たか。」
若い男の声。
ドクンッ
その声を聞いた瞬間、心臓が強く鳴った。
冷や汗が吹き出す。
ま、まさか………
「鬼蠱師様。自らこのような場所にいらっしゃるとは………人を遣わして下さい。」
「この身体になってから、力が漲っていてな。誠に素晴らしい身体だ。」
「しかし、何処で誰が見ているか分かりません。そのお身体は、知れ渡っております。」
「くくくっ、バレはせぬ。それよりも、尊主から命が下った。」
「拝聴致します。」
「天望書院の秘庫を開けさせよ。内にある『祁門陣典』の内容を秘密裏に持ち出せ。」
「………かしこまりました。」
四季は、膝まずいている寒舟の奥。
暗がりの中の男を見た。
顔がよく見えない。
その時、月を覆っていた雲が流れた。
月光が、小屋の中を照らし出す。
四季は、息を飲んだ。
慕容秋生。
四季の兄が、そこにいた。




