第88話 忘れられた高要
魔教から、玄夜のお供としてやって来た高要は、
忘れられていた。
君上は、朝になると寒舟の家に行き、夜遅く帰ってくる。
先日、寒舟が居なくなった事で、久しぶりに呼び出され、探すよう命を受けた。
その後は、また忘れられた。
暇だった。
高要は毎日、君上が寒舟と遊んでいるのを眺めるだけの日々を過ごしていた。
そもそも、君上と寒舟がどんな関係なのか、高要は知らない。
あまり、君上の事を調べるべきではないと思ったが、暇すぎた。
簡単に知れる事くらいなら、調べても不忠ではないだろう。
まず手始めに、寒舟の事を調べてみた。
寒舟は、一見すると何かを企んでいるような、不穏な顔つきをしている。
しかし、そんな見た目と相反して、世間での評判はそこそこ良かった。
薬師としては、腕もあり何よりもあの沈清月を討伐した人物として知られている。
しかし、ここ数年は、あまり表に出ず屋敷に留まっていたようだ。
……君上は、あの沈清月の弟子だ。
寒舟は、君上の師兄らしい。
二人とも沈清月に師事していた。
沈清月……
彼は、毒王として知られている。
前盟主、孤重仁を毒殺した人物だ。
過去には、毒を使って村一つを全滅させた。
百年前、人の命を霊力に変える邪法を編み出した悪人、厲天衡に並ぶ存在として知られている。
沈清月は、罪が発覚する前、何食わぬ顔で人格者として武林盟の要職についていた。
薬仙として慕われ、人望もあった。
………君上は、そんな二面性のある人物に教えを受けていたのか。
高要は、調べた事を纏めた紙を見ながら考えた。
寒舟は、清月が武林盟に捕らわれる前夜、自分の師を殺した。
君上は、その後魔教に戻り、教主となられた。
しかし、なぜ君上は寒舟を追いかけ回しているんだ?
寒舟が魔教に潜入していた間者、沈七であった事は分かっている。
奴は、わざわざ自分が殺した沈清月を名乗り、君上を信じ込ませ、間者としての任務を果たしたようだ。
君上は、それに怒り狂っていた。
必ずや殺してやる。
そんな意気込みだった。
………それが、どうした事だ。
高要は、寒舟の屋敷から少し離れた、高い木の上にいた。
遠見用の器具を使い、君上と寒舟の様子を窺う。
今日も、寒舟にちょっかいを掛けては、鬱陶しがられ、家族と共に食事を食べ、夜は寒舟の部屋で茶を飲む。
あれほど、深刻だった心魔もほとんど現れていないようだ。
………分からない。
高要には、何も分からなかった。




