第84話 風邪薬
翌朝。
謝家は大騒ぎになった。
当主である謝文徳、そして長老の一人が亡くなったのだ。
呼ばれた医者は、文徳の遺体を調べた。
外傷もなく、前夜は元気だったという。
細部まで調べると、舌の裏に紫の斑点を見つけた。
医者は、文徳の妻に訊ねた。
「何か、心当たりはありませんか?夕食に珍しいものを食べたとか、慢性的な不調があったとかは、ありませんでしたか?」
「特には、でもここ最近、風邪が流行っていまして、夫も風邪をひいていました。」
「風邪ですか。」
「はい。私も、かかりましたが、治っております。」
「………念のため、診察しても宜しいですか?」
「かまいません。」
医者は、文徳の妻を診察した。
一通り確認し、最後に舌の裏を見た。
………紫の斑点。
文徳のものより、薄い。
治りかけに見える。
風邪の症状ではない。
医者は、一つの毒草を思い出した。
ほんの一舐めで呼吸を麻痺させ、死に至らしめる劇毒。
その毒を口にした者には、舌の裏に紫色の斑点が現れる。
だが、文徳の症状は本来の毒効とは違う。
何者かが調合を加え、風邪に似た症状を経て、ゆっくりと毒が回るよう調節したのだろう。
ならば、なぜ妻は死ななかったのか。
医者は、再び妻に聞いた。
「風邪をひいた際、薬は飲みましたか?」
「はい。風邪薬を飲みました。」
「見せて頂いても。」
妻は、薬箱から一瓶の薬を持ってきた。
医者は、中の丸薬を取り出し、割ってみる。
臭いを嗅ぎ、一舐め。
…………なるほど。
毒草の解毒剤となる薬草がある。
一般的な風邪薬にも使われる薬草だ。
そして、この薬には、たまたまその薬草が多く使われている。
偶然、毒の症状が風邪に似ていた。
そして、風邪だと思って薬を飲んだ者は助かった。
「偶然。それにしては、都合が良すぎる気もするが。」
「何か、分かったんですか?」
「……いえ、まだ何とも。ここ最近風邪の症状が出た者を全員、診察致しましょう。結論は、その後出します。」
「分かりました。」
その後、患者を集めると、
医者は、一人一人を丁寧に観察した。
やはり、舌の裏に紫の斑点がある。
「やはり、毒だな。」
「毒ですか?」
思わず、ポツリと呟いた医者に、診察中の少年が聞き返した。
「あ、いや。つい声に出てしまった。今の所、その可能性が高い。まだ、あまり広めないでくれ。」
「…………先生。俺、見たかもしれないです。」
「何を見たんだ?」
「この間の夜。塀の上で道化の格好をした人が、踊ってた。その後、熱が出たから、夢だと思ってたんだけど。」
「道化?」
「うん。でも、顔の半分が引きつってて。袖が翻ると、何かキラキラしたものが舞ってた。」
医師は、考えた。
顔の半分が引きつり、毒に精通した男が一人いる。
噂によると、化粧をして、道化のふりをする事もあるらしい。
たまに、正気に返り、書を読み薬の研究をしているかと思えば、翌朝には道化の化粧をして踊っている。
堕ちた天才。
蘇順。




