第80話 武林盟大会は準備中
武林盟大会。
強者が集い、その中の最強を決める四年に一回の催し。
基本的に、参加者の正邪は問わない。
この世界でも、かなりの大規模なものと言っていいだろう。
そんな大会が、今年開かれる。
寒舟は、大会の準備に追われていた。
宗主の一人として、主催者側で参加するのだ。
………青蘭谷は、比較的新しい門派。
正直言って、こき使われていた。
怪我人が出た場合の薬を準備して、招待する客人の調整。
出す料理の手配。
仕事だけは、きちんとこなす寒舟は、淡々と準備を進めていく。
玄夜に、構っている暇などない!
目まぐるしい日々の中、たまに玄夜が殺そうとしてきたり(なぜかいつも寸止め)するが、慣れてしまった。
寒舟は、こき使われすぎて、寝不足の目を擦った。
グツグツ
薄暗い実験室。
所狭しと薬草が並んでいる、
蝋燭の光が時折揺れる。
鬼医は、鍋をかき混ぜていた。
中には、紫色の液体。
高度な配合で作られた毒。
完成したそれを、陶器の瓶に詰めていく。
鬼医は、その毒を箱に詰め、毒使いの蘇順の元へ運んでいく。
蘇順は、40代半ばの男だ。
整った、凛々しい顔は、とても万象楼のような、薄暗い組織の一員とは思えない。
………しかし、それは右半分だけ。
左側は、ひきつり、常にピクピクと痙攣している。
蘇順は、薬瓶を受け取ると口を開いた。
「謝家の間者に飲ませてみよう。」
「………」
二人は、牢に捕らわれている男の元に向かった。
蘇順は、激しい拷問で血だらけの男に瓶の毒薬を飲ませる。
「どうゆう効果が出る?」
「始めは、咳やわ頭痛といった風邪に似た症状が出ます。しかし、数日で呼吸器に麻痺が出て、呼吸困難で死に至ります。」
「なるほど。毒効が確かなら、この毒を使う。」
「かしこまりました。」
深夜
玄夜は、再び寒舟の家に来ていた。
寝込みを襲えば、殺せるかもしれない。
師尊を殺したのは、寒舟だ。
この目で見たから間違いない。
今でも、憎い。
なのに、なぜ敵さえ討てないのか。
慣れた手順で、塀を乗り越え、結界を越える。
いつものように、寒舟の部屋に音もなく入り込む。
寝台で寝ているであろう寒舟に近づく。
布団が膨らんでいる。
薄布で顔は見えない。
黒雨を抜いた。
刀身に月光が反射する。
柄を握り直し、そのまま…………
突き刺した。
寝ている寒舟の胸につき立った黒雨。
「?!」
玄夜は、一瞬何が起きたのか分からなかった。
「………っ、あ」
震える手を、もう片方の手で押さえる。
宿願が叶ったはずなのに、何を恐れる?
黒雨をおもいっきり引き抜いた。
赤い血が滴る。
「はぁ、はぁ」
呼吸が乱れる。
自分でも、分からない。
息が、苦しい…………
思わず、膝をつきそうになった時。
カタッ
小さな物音。
玄夜は、はっとした。
急いで気配を完全に消す。
「よっこいしょ。………はぁ、疲れた。お腹すいた。」
床の一部がずれて、寒舟が現れる。
そのまま、寝台に歩いていき、布団をバッと捲った。
「えっ!!」
布団の中には、適当に脱ぎ散らかされた服と破れた油紙。
そこから、い汁が漏れ出し、服も布団も赤く染まっている。
寒舟は、思わず座り込んだ。
「楽しみにしてた、山楂子の甘露煮が………」
じわっと、目に涙が浮かんだ。
「これだけを楽しみにしてたのに。しかも、お気に入りの衣がぁ……布団も駄目になった。今夜、床で寝るのか?」
玄夜は、天井の梁に隠れていた。
完全に気配を消している。
どうしてか、ほっとした。
寒舟は、はっと何かに気付いた。
「………まさか、あいつがいるのか?玄夜ぁ!!!」
ビクッ
玄夜は、思わず震えた。
ギロッ
「………ミツケタ」
「…………っ」
次の日、玄夜は、山楂子の甘露煮、有名店の月餅を買わされた。
さらに、山楂糕(サンザシ糕)を手作りさせられた。
大変だった……




