第79話 玄夜の日常
玄夜の朝は早い。
日の出前に床を出て、顔を洗う。
今日着る衣を選び、髪を高い位置で一つに結ぶ。
全身を鏡で映し、確認する。
青い衣にしたが、何かが違う。
緑の衣に着替える。
もう一度、鏡をみる。
うん、と一つ頷いた。
チクッと視線を感じ、振り返る。
高要が、呆れた顔で黒い衣に袖を通している。
「何だ、その顔は?」
「いえ、別に。」
玄夜は、首を傾げながら、宿を出る。
やっと、日が昇ってきた。
朝の柔らかい日差しを浴びながら、青蘭谷に向かう。
到着すると、ひょいっと塀の上に登る。
結界の穴から侵入する。
高要は、門の外で待機している。
玄夜の視線の先には、すやすや眠る寒舟。
口をもごもご動かしている。
夢の中でも、何か食べているようだ。
時刻を確認する。
もうそろそろ、辰の刻になる頃だ。
強く頬をつまむ。
ギュウッ
「いたっ!な、なんだ!!」
涎が手に付いた。
寒舟の布団で拭う。
「玄夜。また、入ってきたのか!!」
「ふんっ」
ぷりぷり文句ばかり言う、寒舟を無視して、自分の為に熱い茶を入れる。
「それ、高い茶葉!」
無視。
ごく。
うん、旨い。
寒舟が、着替えるのを眺めながら、茶を飲む。
箪笥から、青い衣を出すのをみて一言。
「それは、似合わん。」
イラッとしたのか、睨まれる。
でも、気にしない。
「その隣の緑にしろ。」
「なぜ、指図する?というか、見るな。」
そう言いながらも、緑の衣を羽織る寒舟。
玄夜は、満足そうに鼻を鳴らした。
寒舟は、朝食を食べる為に食堂に向かう。
玄夜も当然付いていく。
席に着くと、麗華と子供達が先に座っていた。
「すまん、遅れた。」
「大丈夫ですよ。玄夜さんもおはようございます。」
「麗華さん、おはよう。」
玄夜も席に着く。
今日の朝食も美味しそうだ。
「そうだ、麗華さん。これ……」
玄夜は、懐から美しい簪をとりだした。
「あら、これは?」
「いつも、ご馳走になっているから。」
「ふふ、ありがとう。玄夜さん、子供と遊んでくれているし、助かってるのはむしろこっちよ。」
「そんな事ないよ。」
「寒舟なんて、子供と遊ばせると、何時も池に落ちたり、転んだり。なぜか、彼が傷だらけになるのよ。」
「はははっ。」
「ふふふっ。」
玄夜は、寒舟の方を向いた。
寒舟は、玄夜を睨み付ける。
麗華は、そんな二人をみて、微笑んだ。
食後。
寒舟は、薬房で薬を調合する。
玄夜は、暇だった。
寒舟のうつむく首筋を眺める。
今なら、いける気がする。
カチャ
黒雨を抜く。
音もなく、その首筋に刀を走らせる。
………ピタッ
止まった。
どうやっても刀が動かない。
寒舟は、首をくいっと反らしてよけると、
薬材を取りに席を立った。
「また、だめか。強力な結界かなにかか?」
家に張られている結界を見るに、寒舟はそこまでの腕前ではない。
それなのに、俺を阻むほどの結界が張れるのか?
なぜなんだ、玄夜は本気で悩んでいた。
寒舟は、薬材を抱えながら、茶と茶菓子を用意して、玄夜を座らせた。
はぁ………
とため息をつき作業にもどっていった。
もぐ
「まぁ、まぁだな。」




