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第78話 妖しい影

血のような赤黒い衣。


黄金の龍仮面の男。


万象楼(ばんしょうろう)の尊主は、跪く黒衣の男に問う。


「薬は出来たのか?」


「はい。完成いたしました。」


「鬼医。ここに、薬を持ってこい。」


細身で、長身。


漆黒の頭巾の付いた外衣。


鬼医。


頭巾に隠れ、その顔は窺えない。


「尊主、此方です。」


ガラス瓶に入った、数本の琥珀色の液体。


尊主は、傍らに控える青年に、瓶を1本渡した。


「ふむ。鬼蠱師(きこし)毒味をしろ。」


「かしこまりました。」


青年は、迷わず飲み干す。


「霊力が、漲るようです。異常はありません。」


「鬼医。これで、症状を和らげるのか?」


「はい。暫くは持つでしょう。しかし、徐々に薬の耐性がつき、二年後には効かなくなります。」


「お前は、引き続き霊薬の研究をするように。」


「かしこまりました。」


鬼医は、闇に溶けるように姿を消した。






「はぁ、はぁ」


濃い血の匂いが漂う。


地下牢。


不気味な染みが広がる、石造りの牢獄に、

一人の男が吊るされていた。


男が、身動ぎする度に、天井から垂れる鎖に繋がれた手首から血が滴る。


全身が、激痛に苛まれ、呼吸も浅い。


……男は、普通の武人だった。


たまたま、尊主と名乗る男を目撃してしまった。


ただ、それだけ。


気付いた時には、気絶させられ吊るされていた。


そこからは、拷問の日々。


身体は幾度も切り刻まれ、内臓の一部を取り除かれた。


数多くの、妖しい薬を投与され、激痛に悶える日々。


コツ 


コツ 


石牢に足音が響く。


男は、霞んだ意識で考えた。


今日もまた拷問されるのだろうか。


ガチャ


鍵の開く音に、顔を上げる。


黒衣を纏った医者。


鬼医だ。


男は、この牢で行われる数多くの実験を見てきた。


鬼医は、いつも表情がない。


不気味で、恐ろしかった。


コツ


コツ


コッ………


鬼医は、男の目の前で止まった。


「お前は、数刻で死ぬだろう。言い残す事は?」


「はぁ、はぁ………む、娘に……すまないと。」


鬼医は、男の拘束を外し床に横たえた。


懐から陶器の瓶を取り出す。


「……し、死ぬ間際まで、実験台にされるのか。」


男に無理やり薬を飲ませる。


激痛で、抵抗する力もない男はゴクリと薬を飲み込んでしまった。


更なる苦痛、悲惨な死様を覚悟していた。


しかし、徐々に痛みが引いていく。


「強い痛み止めだ。少しでも、苦痛が和らぐだろう。」


久しぶりに痛みがない。


やっと、ゆっくり眠れそうだ。


男は静かに目を閉じた。


鬼医は、男の脈を取る。


規則正しく打っていた脈は、やがてゆっくりとなり、最期には止まった。


手をそっと離す。






男の胸元に、供えられた一輪の白菊。


その向こうで、黒衣の背中が遠ざかっていく。



コツ……


コツ………



やがて、足音さえも、闇の中に消えていった。




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